PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月18日──【教室】フウカと夢

 

 

『まずこれからの方針として、霧が出る前と今とで異なっている所を探して頂戴』

『異なっている所?』

『急に流行り出した物とか、噂話とかかしら。そこに何かしらのヒントがあるわ』

『ネット上の流行でも良いならボクが追っておくけど、それでも良いの?』

『ええ。ただしネットで探すなら、“杜宮周辺でのみ”人気になっているものを探して頂戴』

『さらっと面倒なこと要求してくるね?』

『あら、四宮君ならできるでしょう?』

『まあね』

『それじゃあ、皆もお願いするわ』

 

 柊が後で連絡すると言っていた、やってほしいということ。

 それは市場調査のようなものらしかった。

 それで何が分かるのかは分からないけれど、とにかく必要なことなのだろう。

 取り敢えず、放課後の教室を眺めてみる。いつもの光景とそう大差はなさそうだ。

 教室のあちこちで、雑談をしているクラスメイトたち。サイフォンを開き、弄っている生徒たち。

 ……雑談に聞き耳を立ててみるも、該当しそうなことはなかった。まあそんなに簡単に見つかることでもないだろう。

 普通に過ごしていく中で、何か違和感があれば見付けていこうか。

 

 さて、今日は何をしよう。

 ……せっかくだし、色々回ってみようか。

 

 

────>杜宮高校【保健室】。

 

 

 2階、3階、その後1階と廻り、辿り着いた保健室。

 未だ情報は得られていない。

 仮に流行しているものがあったとしても、表面化していないのか。それともまだ流行り始めで拡散する人がいないのか。

 やはり、一朝一夕で見つかるようなものではないらしい。

 

「失礼します……って、あれ?」

「……あら、岸波君?」

「フウカ先輩」

 

 夏休み期間、1度だけ会うことができた先輩に出会った。

 彼女は驚きで目を丸くしたけれども、すぐに立ち直り、先生なら出ているよ、と教えてくれる。

 まあ、先生にも何か流行りとかを教えてくれた生徒とかいないですか? と聞こうとしただけだったし、急を要する案件でもない。

 少し残念なのは、確かだけれども。

 

「先輩はお1人ですか?」

「うん。でも今日はマイちゃんが来てくれると思うから」

「寺田先輩が」

 

 ということは、空手部は休みか。……ああいや、引退しているのか? そこら辺はよく知らないな。

 ともあれ、寺田先輩もここに来るということは、以前より伺っていた他の人を交えた話し合いのチャンスなのかもしれない。

 

「先輩、今日少しお時間ありますか? あとで寺田先輩にも聞く予定ですけれど」

「? 今日は大丈夫だよ。病院にも行かないから」

「そうですか。それは、良かった」

 

 後は寺田先輩次第か。

 ……じゃあ、寺田先輩が来るまで話をしよう。

 

 

──Select──

 >3年生との話。

  2年生との話。

  1年生との話。

──────

 

 志緒さんや美月とのことを話した。

 話した、といっても異界関係のことは勿論除いて、普段どんな会話をしているとか、どういう人だったかを伝えていく。

 

「そっか。高幡君も、北都さんも、そういう人だったんだね。全然知らなかったな」

 

 ある程度話し終えた所で、彼女はやや悲しそうな面持ちで、そう呟いた。

 

「3年間も同じ高校に通っていて、全然知らなかった」

「ちなみに感想には個人差がある。あくまで自分の印象だ」

「……ふふ、でも、慕っているのは伝わってきたわ」

「それは、まあ」

 

 その通りだろう。

 慕っているし、信頼している。日常生活内でも、非日常的事象内でも。

 

「マイちゃんも、後輩たちにとっても慕われているし、みんな凄いなあ」

「……慕われたい、んですか?」

「……どうだろう。よく分からないけど、そうなのかも、しれないね」

 

 ツインテールにした髪を触るように手を動かす。

 一撫でして、やや垂れ目ぎみの目を閉じた。

 

「寺田先輩に、どうやったら人に慕われるか、聞いてみましょう」

「普通にしているだけ、って言われちゃいそう」

「案外、何か言ってくれるかもしれませんし。聞くだけなら無料ですから」

「……そうだね」

 

 返答から約10秒ほど、静寂の時が流れた。

 それを割いたのは、廊下を歩く足音。

 

「あ、マイちゃんかな……」

「分かるのか?」

「こっちに来る人、そんなに居ないからね」

 

 もしかして足音で判別したのかと思ったけれど、状況的にそうだと考えたらしい。

 確かに放課後になると、人通りは少ない。それも下駄箱に向かう側と逆側から来たというのなら、少数派だろう。

 なら、想像できても可笑しくはない。自分の危惧したようなことにはならないだろう。

 

 ……病院で聴こえてくる足音、というのは、患者──特に身体的理由で入院している者に対し、若干の希望を与える。御見舞い客は勿論のこと、看護師であれ医者であれ、話をしてくれる人が来てくれた、という喜び。これは案外大きいものだ。

 同じ病室に誰かが居るなら話は別だけれど、そうでないなら特に、会話なんてほとんど得られない経験だ。故に足音が聞こえた後、扉のノックを待つまでの時間が長く感じられたりするのだけれど……まあそれはそれとして。

 足音を覚えた、という話でないのなら、彼女の孤独については、あまり心配しなくても良いのかもしれない。……いや、そんなことはないか。慣れている、などということであれば、もっと最悪だ。

 

「失礼します」

 

 結局、保健室を訪れたのは、寺田先輩だった。

 彼女は保険医不在を確認した後、こちらに目を向けて、自分の姿を視認。

 数秒黙って、自分とフウカ先輩の顔を見比べた。

 

「お邪魔でなかった?」

「いえ、寧ろ待っていたくらいです」

「待っていた? 私を?」

「ええ。少し話があったので」

 

 どうぞ、と席を譲ろうとしたら、断られた。

 代わりに普通の学習椅子をテーブル近くから拝借してきて、そこに腰を掛ける寺田先輩。

 彼女はどうぞ、と自分に切り出しを促した。

 

 

──Select──

 >直球で話す。

  回りくどく話す。

  比喩的に話す。

──────

 

 

「前にフウカ先輩と、“治ったら何がしたいのか”って話をした時、何もないって言ってたんです。先輩何かいい案ありますか?」

「はあ?」

 

 自分の問いが1回で理解できなかったのか、難しい顔をした彼女。

 そしてその後、自身の眉間を摘まむようにして抑えた。

 

「それ、なんで私に? というか、本人の前でして良い話なの?」

「はい。他ならぬ本人が言ってましたので」

「……そうなの、フウカ?」

「……うん。でも、よく覚えてたね、岸波君」

「忘れるわけがありません」

 

 そう。忘れるわけがない。

 彼女が気にかかる理由も、自分が彼女に望んでいるものも、覚えているのだから。

 

「寺田先輩が相手なのは、話しやすいからです」

「さっぱりとした理由ね。……まあでも、言いたいことは分かったわ。けれど、それって私たちが関与していいことなのかしら。夢って自分で見つけるものでしょう」

「見付けてって言われただけで見付けられるほど、それは簡単じゃないと思います」

「そもそも、フウカは見付けたいと思っているの?」

「ううん」

「……否定しているけど?」

「単に視野が開けていないのもそうですけれど、単純に夢を見る楽しさを忘れているから、じゃないですかね」

 

 そうでないとするなら、諦め癖が付いているか。

 ……いや、そうだとしても、身近に友人が付いている今ならば、在学中ならば、きっと何とかできるはず。

 その為の学び舎。その為の友。

 

「これは、経験談ですけど」

 

 思い出す。

 精一杯な環境を理由に、彼女と同じく、夢を見ることすらしていなかった自分を。

 彼女と同じく、夢を見て良いものだということを忘れていた自分を。

 彼女とは違い、そこから夢を探すようになった自分を。

 夢を見る誰かを。

 歩きだしている先達たちを。

 

「人と関わらずに、1人だけで夢を見つけるのは、とても難しいと思います」

「だからと言って押し付けると?」

「押し付けてるんじゃありませんよ。誰にも強制はしていません」

 

 ただ、良い案がないかを聞いただけ。決めるのはフウカ先輩本人だ。

 しかしそもそも1人では、夢という単語すら、頭に浮かばない。それは以前質問した時にも思ったし、自分の経験からしてもそうだ。目先のことで手一杯。将来やりたいことなんて、与えられたもの以外は考えたことすらない。

 これは他ならぬ自分のこと。だからこそ、勝手ながらも理解したつもりにはなれる。

 

 自分は、夢を見ることの大切さも、夢の輝きも教えてもらった。夢を持ちたいと思えた。

 それでも、自分が夢を見つけられなかったのは、狭い世界観のまま考えが進まなかったから。

 

「相談して、夢について考えることは、大事だと思います」

「夢を持つことは確かに大事かもね。それについて考えるのも。けど、夢を持たせるだけなら、無責任が過ぎるわよ、岸波君」

「無責任、とは?」

「共に考えて見付けた夢が、仮に叶わないと突き付けられた時、フウカはどうすれば良いの?」

「また相談して決めるしかないですね」

 

 何度だって話し合えば良い。誰かと話して、共にある未来を描く。

 今から1人で考えてしまえば、行き着く先も1人である可能性がある。けれども誰かと共に考えれば、誰かの笑顔はきっと付いてくるのだ。

 まあ、他人を巻き込むことで、勝手に妥協できなくなる、という打算的な意味合いもあった。

 そして、何より。

 

「だって、大好きな友達との約束なら、何があっても結局は楽しそうだと思えるじゃないですか」

 

 1人で何かするよりも、一緒に居て楽しい誰かと一緒に居る方が、楽しいに決まっている。

 そしてその楽しさは、明日を生きる希望へと直結するだろう。

 彼女が生きる理由を1つ増やせるのだ。

 だとしたら、それは素敵なことだと思う。

 

「……なら、こんど何か考えてみましょうか」

「マイちゃん?」

「後輩がここまで言うんだもの。卒業してお別れ、っていうのも寂しいと思ってたしね」

「……そうだね」

 

 そうか。

 先輩たちは3年生。春には別々の方向に進むことになるだろう。

 だとしたら、こうして予定が立てられるのも今ならではかもしれない。

 

「見付かったら、岸波君に報告するわ」

「え、自分は別に大丈夫ですよ」

「良いから良いから。それじゃあそろそろ帰りましょう、フウカ」

「あ……そうだね。もうこんな時間。岸波君、今日はこのくらいで良いかな?」

「……分かりました」

 

 まあ、何はともあれ、寺田先輩が協力してくれる気になってくれたのは大きい。

 この調子で、彼女に何かが見つかれば良いのだけれど。

 

 下校するという2人に校門先まで同行し、世間話を続けた後、彼女たちを見送りながらそう思った。

 

 




 

 コミュ・死神“保健室の少女”のレベルが5に上がった。


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