PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月17日──【マイルーム】志緒さんの恩返し 1

 

 

 月曜日。今週は第3週目にあたるので、敬老の日で学校は休みだ。

 予定が入っていない為、丸1日空くことになってしまった。どうしようか。

 取り敢えず、誰かと遊びつつ、町の様子が見たい。

 問題は、誰を誘うか、なのだけれども。

 ……そうだな、祐騎を誘ってみようか。

 

「という訳で、暇か?」

『いや、そんな外とか見て回りたくないんだけど』

「まあまあ」

『ヤだってば。……あ、そうだ。なら情報の整理とか手伝ってよ。それならハクノセンパイも文句ないでしょ?』

「ああ」

 

 元より何を言われても文句はないのだけれど、せっかくやる気になってくれているのならば、付き合おう。

 呼ばれるがままに、祐騎の部屋に向かった。

 

 

────>【祐樹の部屋】。

 

 

 いつも通りのヘッドフォンを頭に付けた祐騎に出迎えられ、彼の部屋へと入る。

  綺麗に整列された本などが目に入った。どうやら葵さんが来たばかりらしい。

 彼女は今でも定期的に部屋の片づけに来てくれているのだと言う。大半は祐騎が自分でやっているようだし、それでも十分に部屋が綺麗にはなるのだけれど、やはり生活力のある大人は一味違う。

 彼女が片付けた後は、一層部屋が整って見えるのだ。

 流石だな、と感心しつつ、祐騎へと視線を戻す。

 

 

「それで自分は、何をすればいいんだ?」

「ちょっと待って」

 

 パソコン用デスクの前に戻った祐騎は、椅子に座りキーボードへ手を置いた。

 そのままカタカタと何かを打ち、2・3分が経った辺りで、強くエンターキーを押す。

 

「今、センパイのサイフォンにデータを送ったから、そっちを確認してくれる?」

「確認って?」

「あー……取り敢えず、見やすいように整理してくれない? あとその上で不足している情報があったら探すとか、まっそこら辺はそっちに任せるから」

 

 と言われてもな。とは思いつつ貰ったデータを開き、目を通してみた。

 確かに少々情報が乱雑なように見える。ざっと見た感じでも、不必要そうなデータなどに必要そうな情報が埋もれていた。

 まずは見やすいようにデータを纏めるか。

 

 ……纏めていくうちに分かったことだけれど、祐騎が自分に任せた分は多分、信憑性が低いものの集合体みたいだ。後回しにしようと、適当に押し込んでおき、暇になった時にでも解読しようというものばかり。だからこそ自分でも出来ることが多い。

 まずは言われた通り、色々と詰め込まれた情報たちの整理整頓。同じようなものがあれば重要度の高いものとして設定し、一部だけを抜粋する形で縮小化して纏めていく。ないものはグループ分けをして……うん、こんなものか。

 後は不足している情報だけれど、出向いて話を聞きに行くのは難しいし……仕方ない。コミュニケーションツールとかで探していくしかないか。

 そうして暫くの時間が経ったが、経過は芳しくない。

 パソコンに向かい合ったままの祐騎の方は、どうだろうか。

 

 

「……祐騎」

「なに?」

「何かいい情報は見つかったか?」

「見つかってたら共有してるよ」

「まあ、そうだよな」

「……良い情報が見つからないってことは、進展が何もないってことかもしれないからね」

 

 例えば家族の行方不明をネット上で報告した人が居たとして、その人は行方不明者が帰ってくれば、発見の報告をするだろう、とのこと。

 それがまったくないということは、帰って来ていない可能性の方が、高い。

 

「まあまだ解決して1日だし、ボクらが知らないだけで、戻ってくるのに時間差があるのかもしれない。そこら辺は本当に分かんないけどね。一応集団昏睡事件みたいな記事とかも探したけどなかったし、何よりまだ全然調べ終わってないかな」

「なるほど」

 

 判断を下すには必要なピースが足りないらしい。

 そういうことなら、仕方ないな。

 

 ひとまず情報を纏め終えた。

 どうやら結果が出るのには今しばらくかかるとのことなので、後は祐騎の報告を待とう。

 ……そろそろ縁が深まりそうな気がする。

 

「本当に良いのか? 夜まで手伝わなくて」

「良いよ。元からこっちは1人でも出来ることだったし。まあ手伝ってもらったことには一応礼を言っておくけど」

「どういたしまして」

「……じゃ、また」

「ああ、また明日、学校でな」

「……明日学校だっけ」

 

 ドアの向こうに消えて行く際、何やら怖いことを呟いていたが、大丈夫だろうか。いや、認識した以上大丈夫なのだろう。謂わなかったときのことを考えると怖かったけれど。

 ……さて、帰るか。

 

 

──夜──

 

 

 家に帰ってゆっくりしながら、夕飯の献立を考えていると、サイフォンが鳴動した。

 志緒さんから電話が掛かってきている。

 出るか。

 

「もしもし」

『よう岸波、今晩時間あるか?』

「ああ。どうかした?」

『いや、少し料理の発想が浮かんでな。飯でも食いに来ねえかと思ったんだが』

「……そんな何回も良いのか?」

『おう。代わりと言ったらなんだが、意見を聞かせてくれ』

「分かった」

 

 ……さて、【玄】へと向かおう。

 

 

────>商店街【蕎麦屋≪玄≫】。

 

 

「お待ち。生姜焼き定食だ」

「ありがとう。いただきます」

 

 エプロン姿の志緒さんが、湯気の立つトレイを運んできた。

 メインとなる生姜焼きや、付け合わせのサラダ。ご飯に汁物。あとは漬物が乗っている。

 もう既に良い香りが漂ってきており、食欲が大いにそそられていた。

 一見すると特に普通の定食と変わりがないが……取り敢えず食べてみるか。

 

「……!」

 

 肉が柔らかく、口に入れた途端生姜の風味がよく届く。

 だけれど、同時に少し違和感があった。

 

「どうだ?」

 

 志緒さんがやや不安そうな面持ちで尋ねてきた。

 ……なんて伝えようか。

 

──Select──

  詳しく伝える。

 >違和感だけを伝える。

  ひとまず隠す。

──────

 

「味に違和感がある、かと」

「……そうか。ちなみにどんな感じだ? 濃いとか薄いとかか?」

「濃いは濃いんですけれど、それ以上に……うーん」

 

 感想を依頼されているので、最初はゆっくり味わって食べてみる。

 すると、段々と最初に得た違和感の正体がはっきりしてきた。

 

「なんか、味にまとまりがない……というか。噛んでいる途中に出てくる味が、なんだか過剰というか……」

「やっぱりか」

 

 自分の答えに険しい表情をした志緒さんは何かを納得したらしい。

 メモ帳のようなものを取り出して、何かを記入していた。

 

「やっぱりっていうことは、狙ったのか?」

「いや、確かに仕込み段階で2種類の味は用意していた。だが、それを適切なアクセントになる程度に目立たせないよう、濃いめのタレを使用したんだが……」

 

 確かに味は濃く、最初こそ違和感を覚える程度だった。いや、最初の時点で、アクセントと言っていられないほどの違和感がある程度には粒だっていたのは問題か。

 だから最初に、その違和感が濃い薄いという個人の好みの問題かどうかを聞かれたのかもしれない。

 実際は問題はそこだけでなく、味同士の乖離に行きついた当たり、彼にとっては失敗に当たるのだろう。

 

「自分で味わってみた時、どうも納得いかなくてな。最初から味が複数存在するのを知っているから意識しすぎているんじゃねえかと思って、他の奴にも試食を頼んでみることにした訳だ」

「なるほど」

「悪かったな」

 

 知っていると気になる、というのはあるのだろう。つい味を探してしまうというか、気にし過ぎて敏感になってしまうのはよく分かる。何も食べ物の話じゃなくて、日常生活でもよくある話だ。掃除とか、ものづくりとか。特定の場所の問題を知っていて、それを誤魔化そうとした場合、どうしてもそこが目立って見えるのだ。

 だからこそ第三者に依頼し、何も伝えず味見を頼むというのも、理解の及ぶ範囲の話。

 そんな、眉をㇵの字にして謝られるようなことでは、ない。

 

「いや、別に大丈夫だ。試食に付き合うと言ったのはこちらだし、食べられない訳ではない」

「……そうか、助かる」

 

 

──Select──

 >客に何か言われたのか?

  メニューの改良か?

  生姜焼きに何かダメなところが?

──────

 

「? 別に何も言われてねえが」

「そうか。てっきりクレームでも来たのかと思った」

「……ああ、すまねえ。心配かけたか。そういうのじゃねえんだ。ただ、な……」

 

 自分がまだ食べているからか、腰を掛けずに立ったまま話を続ける志緒さん。

 彼は腕を組んで、難しい表情を隠さずに、話を続ける。

 

「技術を教えてもらうだけじゃ、決して越えることはできねえからな」

「……ああ、じゃあこれは、恩返しの一環ってことか」

「そうなるな」

 

 住み込みで働かせてもらって、料理まで教えてもらっている恩を返したい、という活動の一環だったのだろう。

 新しいものを考案し、認めてもらえれば、店の利益にもなるし成長も報告できる。確かに単純明快。これ以上ない案だろう。

 しかし、簡単にいかないことも、彼には分かっているはずだ。

 

「まだまだ壁は高いか」

「だな。付け焼刃の技術じゃ、やっぱりどうにもならねえ。……また何か考えるか」

「結構、こうしたものを考えているのか?」

「ああ。つっても多くて月に2、3個。それも今までは試すだけ試して終わりだったんだが、BLAZEの奴らとの交流も復活して、お前らみたいな後輩とも関わり合いを持った。なら、こういうのもアリかと思ってな」

 

 ずっと続けてきた努力。恩返しに向けての研鑽を、彼は怠っていない。元々真面目なのは分かっていたけれど、思ったより活発的と言うか、積極的だった。まだそういう経験はないけれど、仮に自分が切羽詰まった状況でなく、同じ環境に置かれた場合、まずすべてを習得し終えてから、そういった挑戦に取り掛かるだろう。

 そこら辺は、スタンスの違いというか、個人差なのだろう。

 今日は来てよかった。また1つ、彼を知ることができたのだから。

 ……縁が深まったような気がする。

 

 それにしても、こういう所で頼ってもらえるのは嬉しいな。

 

「また何かあったら是非呼んでくれ。力になれることがあったら協力する」

「……そう言ってもらえると助かる。声は多い方が良いからな。岸波も、何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「ああ、その時は頼らせてもらう」

 

 とはいえ、結構頼らせて貰っている気がするけれど。

 まあそれは置いておこう。

 志緒さんが頑張っているところを見ると、自分も頑張って恩返ししなくてはと思えてくる。

 同じく返し甲斐のある大恩を背負う身。彼の恩返しの行く末は、自分としても気になるところだ。

 

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした。……遅い時間だし、送っていくぞ」

「いや、腹ごなしも兼ねて、歩いて帰るから大丈夫だ」

「そうか……今日は助かった。また明日な」

「ああ、また明日」

 

 ……帰るか。

 




 

 コミュ・皇帝“高幡 志緒”のレベルが2に上がった。


────

選択肢回収
145-2-2
──Select──
  客に何か言われたのか?
 >メニューの改良か?
  生姜焼きに何かダメなところが?
──────


「改良ってほどのことじゃねえが、まあ少しここを変えたらどうなるのか気になってな」
「へえ、色々考えているんだな。そういうアイディアってどこから来るんだ?」
「主にネットや本だな。特集されている味付けの方法とかがあると、試したくなる」

 ああ、自分の店の料理に応用できる何かがないを確かめている、ということか。
 勉強熱心なんだな。

「今回もそれか」
「ああ、ついこの前も、生姜焼きの肉を柔らかくするために包丁で下処理を施してたんだが、その時にふと思い至ってな」
「味を2種類にすることを?」
「いや、結果的にそうはなったが、そもそもは下処理に使う材料を変えてみようと思っただけだ」

 なるほど。
 つまり色々と下処理をしていく中で、2種類下処理した肉を纏め上げれば美味しくなるのでは? と思い至ったわけか。
 ……迷走していないか?

「どちらも一応単体ではなかなかに上手かったんだが、オリジナルを越えてねえ」
「だから足し合わせたと?」
「……ああ。なんだかすまねえな」
「でも、美味しくなるビジョンはあったんだよな?」
「勿論だ。一番掛け合わせて違和感ないはずの味を選び抜き、纏め上げるタレの濃さも調節した。が、これじゃあダメだな。付き合わせて悪かった」
「限界まで挑んでの失敗なら、仕方がないだろう」

 そこで謝られるのは、気分が良くない。
 だってそこまで頑張ったのなら、その努力は他ならぬ自身が認めていないとダメなこと。必要以上にアイディアを貶すのは、今後にも繋がらなくなってしまう。

「それでも、他の人に意見を聞いてみたらどうだ?」
「いや、だが……」
「自分は何もアドバイスできないが、他の誰かなら良いアイディアが浮かぶかもしれない。その為の仲間だと思うけれど」
「……!」

 指摘すると、志緒さんははっとしたような表情を浮かべた。
 言いたいことは、伝わったらしい。

「……少し気は引けるが、批評からも助言からも逃げてたら、成長しねえよな」

 黙って頷きを返す。
 それに対して、志緒さんも頷いてくれた。

「危うく間違えるところだった。有り難うな、岸波」
「いや、今後とも何か力になれることがあったら言ってくれ。協力は惜しまない」
「……そう言ってもらえると助かる。岸波も、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「ああ、その時は頼らせてもらう」

 →以下合流。何で志緒さんがそんなトチ狂ったようなアイディアを持ってきたのかというお話。


────
145-2-3
──Select──
  客に何か言われたのか?
  メニューの改良か?
 >生姜焼きに何かダメなところが?
──────

「いや、そういう訳じゃ、ねえんだがな……」
「?」

 突然、言葉に詰まった志緒さん。
 何かあったのだろうか。

「なあ岸波」
「はい?」
「自分が作ったものを、陰でこそこそ弄っていたら、普通は不快に思うよな」
「……そこに愛や情熱があれば、問題ないかと」

 ただいたずらで変えるなら、それは制作者に対する冒涜にも等しい。
 けれども何か理由があっての行為なら、そうはならないんじゃないかと思う。

「今岸波に聞かれて初めて、自分の行為が今の味を否定していると思われるんじゃないかと気づいてな」
「ああ、それで……でも、その意図はないんだろう?」
「ない。俺も今の味は好きだしな」
「なら大丈夫だろう。しっかりとそれを伝えれば」
「……そう、だな。それに、例え伝わらないとしても、これは俺のやりたいこと、俺の恩返しだからな。止める訳には、いかねえ」

 ……なるほど、恩返しの為に。
 確かに自身の成長を分かってもらうことにも繋がり、かつお店の利益にもなり得る。万々歳と言って良い。上手くいけば、だけれど。

「どれか1品が上手くいってからでも良いから、しっかり話した方が良いと思うぞ」
「……ああ、助かった」
「いや、恩返しっていうなら他人事じゃないしな。これからも続けるんだろう? 何かあったら気軽に頼ってくれ」
「……そう言ってもらえると助かる。岸波も、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「ああ、その時は頼らせてもらう」

 →以下合流。♪の出ない選択肢ですね。


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