PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月16日──【マイルーム】SPiKAの少女の相談 1

 

 

 夢を見た。

 意味を求める夢だった。

 

 5回の死闘を経て、辿り着いた次の舞台。

 ついに切り札を見せた相方と共に挑むのは、同じくここまで勝ち残ってきた少女。それも話したことのないような他人でなく、決して交流の少なくない相手だった。

 そもそも勝ち残った面々は少なく、もうほとんどが顔見知り。顔を見合わせ、言葉を交わした回数が多くなればなるほど、やりづらさは増す。

 今まで誰と戦った際にも、夢の中の彼は深く感情移入していた。となれば、今回は一層の迷いなどがあるのでは……と心配したものの、どうやら杞憂とは言えずとも、精神状態は悪くない感じのようだ。

 相方としっかり絆を深められていることや手伝ってくれる友がいることが、良い感じに作用しているのかもしれない。

 

 協力者たちの力を借りながら、ひとつひとつと困難を越え、遂に決戦の日が訪れる。

 決戦の地へ向かう中で語り合う2人。互いの想いを吐き出し、後悔なく戦いへ挑む。

 やがて訪れる終着。決着の時が訪れ、立っていたのは──岸波白野とその相棒だった。

 彼は消えてゆく少女を見詰める。

 少女は笑顔を浮かべたまま、多くは語らず去って行った。

 

 戦いを終えた岸波白野は、色々な感情を抱えつつ、己の部屋へと帰る。

 その途中で、次の試合で戦うであろう少年と出会い──

 

 

────

 

 

 夜が明け、朝が来た。

 例の夢を見て、気持ちは晴れないものの、どうやら天気は晴れたままらしい。

 ……夢の中の彼は、あの戦った少女に対し、友情に近い何かを少なからずは感じていたはずだ。

 夢では、感情まで読み取ることはできない。果たして彼は、何を考えて戦ったのだろうか。

 自分が同じ状況に陥るとは思いたくもないけれど、果たしてそのようなことが起こった場合、自分は闘うことができるだろうか。

 戦わなければならない現実を、認めることができるだろうか。

 ……いや、そうなった場合は、きちんと話し合いをしよう。あの夢のように、闘わないという選択肢を封じられることはないはずなのだから。

 

「……バイトに行こう」

 

 どうしても嫌な想像をしてしまうので、忙しさで思考を鈍らせていこう。

 

 

──夜──

 

 

────>【バス】。

 

 

「……?」

 

 神山温泉でのバイトの帰り道。バスの振動とは別に、サイフォンが振動したことに気が付く。

 誰かから連絡が来ているらしい。誰だろうか、と確認してみると、予想外の名前の表示が。

 

「怜香?」

 

 この前連絡先を交換したアイドルから、連絡が入っていた。

 何かあったのだろうか。

 

『リオンのことで相談があるわ。時間取れるかしら?』

 

 相談か。

 断る理由はない。

 

『ああ、どこで会う?』

『そうね、記念公園なんてどうかしら。外で申し訳ないけれど』

『いや、そこなら自分も行きやすいから大丈夫だ』

『なら、よろしく頼むわ』

 

 時間の確認をして、サイフォンのチャットを終える。

 璃音に何かあったのだろうか。

 昨日……までは色々あったような気がしなくもないけれど。

 とにかく急ごう。

 

 

────>杜宮記念公園【杜のオープンカフェ】。

 

 

「ごめんなさい、待たせたかしら」

 

 椅子に腰かけて待ち人を待っていると、見覚えのない人から声を掛けられた。

 と思ったけれど、よくよく見れば呼び出したその人。

 変装した如月 怜香だった。

 ……一目で分からないくらいが、変装だよな。うん。

 

「怜香か。こんばんは」

「ええ、こんばんは。よく来てくれたわ」

「いいや、近所だから気にしないでくれ」

「あら、そうなの?」

「ああ、ここからも見えるあのマンションだ」

「……へえ、良いところに住んでいるのね」

「縁に恵まれてな」

「そう」

 

 それだけ言って、特に追及はしてこない。

 自分も何て説明して良いか分からなかったから、はっきりとした答えにできなかった。深く追及された場合、わざわざ北都グループとの関わりから話してしまえば長話になる。

 彼女も忙しい身だろうし、自分の境遇などに時間を割きたくはないだろう。なら、これで良かったのかもしれない。

 

「今晩来てもらったのは他でもなく、リオンのことで少し聞きたいことがあるのよ」

「ああ、相談があるんだろう?」

「ええ。リオンは今、学校でどういう扱いになっているか、聞いても良いかしら? 休業を発表してからもアイドルとして振る舞ってる?」

 

 璃音の普段の振る舞い? そうだな。

 

 

──Select──

 >前と変わらない。

  より振る舞いに気を使っている。

  よく分からない。

──────

 

 

 これは、推測の話だ。

 自分が転校してきて、その次の週あたりには、彼女は休業を発表していたのだから。

 ただ、周囲の話で、感じが悪くなったとか、良くなったとかそういう話は聞かず、彼女は休み時間もクラスに居るアイドルとして振る舞っているように見える。

 

「……そう、変わらないのね」

「何か気になることでも?」

「いえ。……ああ、そうだ。なら放課後はどうしているのかしら。今は部活とかに所属しているの?」

「ああ、それなら自分と同じ同好会に所属している」

「同じ同好会? へえ、詳しく聞かせてくれる?」

「ああ」

 

 正直どうしてそんなことを聞きたがるのか分からないけれど、問われたことに1つ1つ答えていく。

 どんなことをする同好会か? という質問に対しては、身近な人の悩みを聞くのが主で、たまに流行している噂話、衆人の興味関心の種などを調べる活動をしている、と。

 メンバーは2人か? と聞かれたので、自分と璃音を含めて8人ほどだ、と解答。

 楽しそうにしているか? という問いには、仲の良い友人もいるし、嫌がっているような素振りは見せてないな。と答えておく。

 

「でも、あの子らしいような気もするわね。人の悩みを聞く活動、だなんて」

 

 そう言う怜香の顔はとても柔らかく、どことなく空気が緩くなったような気がする。

 ということは、先程までは少し気を張られていたのだろうか。

 自分が警戒されているのか、もしくは尋ねたい内容が彼女にとって重かったのか。はたまた別の理由もあり得るだろう。知る由もないことだけれど。

 

「まあ、人の笑顔を大切にしている璃音には向いているかもしれないな」

「あら、そんなところまで知っているなんて、本当に仲が良いのね」

「かれこれ半年くらい、友人でいさせてもらっているからな」

「いさせてもらっている、だなんて下手で話すことはないわよ? それは、貴方を友人と思っているあの子に失礼だわ」

「……すまない、ありがとう」

「いいえ」

 

 叱りつけるような厳しい目をこちらに向けていた。

 何かが勘に触ったのかもしれない。

 言葉の通り、璃音に対して失礼なことを言ってしまったからだろうか。

 たしかに、先程の言い方だと璃音が惰性やお情けで友人を続けているようにも聞こえてしまうか。気を付けなければ。

 

「でも、そう。貴方も同じ活動をしているのね」

「似合わないか?」

「外見での印象で良いなら、似合っていると思うわよ。中身については流石にまだノーコメント」

「それはそうだ」

 

 まだ邂逅も2回目。

 それも1回目はろくに話していない。会ったのも1対1ではなかったし、仕方のないことだけれど。

 そんな状態で、人の性格を判断し、向き不向きを語ることはできないか。

 怜香の真面目さを垣間見た気がする。

 

 

──Select──

 >悩みがあれば手伝うぞ。

  璃音とこういう話はしないのか?

  外見的に似合うってどういうことだ?

──────

 

 

「私、同じ学校の生徒じゃないわよ?」

「生徒の友人だろう。それに、自分たちは高校の同好会だけれど、活動範囲は杜宮全域だ。市内の人も市外の人も、杜宮で聞けて杜宮で解決できるなら相談可能らしい」

「……いや、らしいって何よ」

「詳しく決めたことなかったからな」

 

 まあ洸が個人でやっているし、良いだろう。

 地域貢献的活動というものだ。多分。

 ……一応今度、みんなと口裏合わせをしよう。

 

「……そうね、その機会が来たら、お願いしようかしら」

「ああ。その時は是非」

 

 そう言って、微笑む彼女。

 気のせいか、まだ何かありそうな気はするのだけれど……流石にまだ踏み込めないな。

 

「じゃあ、聞きたいことは聞けたし、帰るわね」

「もう良いのか?」

「ええ、今回はこれで十分。それじゃあまた」

 

 別れを告げ、アイドルである彼女は颯爽と歩き出す。

 ……すっかり暗くなっているけれど、帰り道は1人で大丈夫なのだろうか。

 

「あの、送ろうか?」

 

 声を掛けると、彼女は驚いたような顔をしながら振り返った。

 しかし、彼女は首を横に振る。

 

「大丈夫よ、公園出たところにいるタクシー呼ぶから。……心配してくれたことには感謝するわ」

「あ、ああ……」

 

 そうしてまたくるりと進行方向へ顔を向けて、右手で鞄からサイフォンを取り出し、耳元へ持っていく。タクシーを呼ぶのだろう。

 逆の手をひらひらと振っているのは、恐らくこちらへの挨拶。

 それもすぐに終わり、彼女はサイフォン越しでの会話に集中し始めた。

 

 何を考えているかは分からなかったけれど、縁が深まったような気がする。

 ……家に帰ろう。

 

 

 




 

 コミュ・星“アイドルの少女”のレベルが2に上がった。


────



 選択肢回収
 144-2-2。
──Select──
  悩みがあれば手伝うぞ。
 >璃音とこういう話はしないのか?
  外見的に似合うってどういうことだ?
──────


「ええ、前まではよくしていたけれど、最近は……いいえ、何でもないわ」

 何でもないような口ぶりではなかったけれど。
 何かあるのだろうか。
 いや、そこを話すつもりはないのだろう。だからこそ、彼女は遠回りで璃音のことを聞き出そうとしていた、のかもしれない。推測だけれど。
 ともすれば今回は、何かあった時に相談できる相手がいると意識付けられただけで良かったとしよう。

「じゃあ、聞きたいことは聞けたし、帰るわね」
「もう良いのか?」
「ええ、今回はこれで十分。それじゃあまた」

 今回は、ということは、次もあるということ。
 また次の機会にでも一歩大きく踏み込んでみればいい。

 別れを告げ、アイドルである彼女は颯爽と歩き出す。

 →以下合流。


────
 144-2-3。
──Select──
  悩みがあれば手伝うぞ。
  璃音とこういう話はしないのか?
 >外見的に似合うってどういうことだ?
──────

 いや分かっているのだ。言わんとしていることは想像がつく。つかない訳がない。それでも、諦める訳にはいかない。
 希望を見ることは、決して間違いではない。一縷の望みに縋る行為は、愚かであっても罪ではない……!

「言ってもいいの?」
「ああ、ぜひ」
「人畜無害な外見というか、威圧感がないこともあって、相談とかをされるには向いているんじゃないかしら」
「……」

 ……なんて言うか、いっそ地味と切り捨てられた方が、素直に落ち込めたな。
 いや、言っていること自体は、平凡な顔つきと言っているのと大差ないけれど。
 
「はあ……」
「露骨に落ち込んだわね」
「いや、別に良いんだ。相談しやすいっていうのは、良いところだしな。ありがとう」
「いいえ、思ったことを言っただけよ。あくまで外見上での話だしね」
「ああ。……それで、伶香は何かないのか?」
「?」
「悩み。自分は相談しやすそうな顔なんだろう? あるなら聞くけれど」

 ただ聞いただけなのに、彼女は少し驚いた顔をしていた。
 何故だろうか。

「……そうね、今は間に合っているから大丈夫。その機会が来たら、お願いしようかしら」
「ああ。その時は是非」


 →以下合流。



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