PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月15日──【鳥篭の回廊】和解の後は

 

 

 

「祐騎!」

「遅いよセンパイたち!」

「すまない!」

 

 言葉上では攻めていた彼が一瞬、駆けてきたメンバーを見て表情をほっとさせたことを、自分はずっと忘れない。

 祐騎だって説得に加わりたかっただろう。こちらの状況も気になるだろうに、初めて指揮を任せられて、無事に耐えきった。

 本当の本当に、感謝の言葉しか出ない。

 

「本当にありがとう!」

「良いから早く交代! 1体はなんとか倒せたけど、郁島と高幡センパイがもう持たない!」

「ああ! ……空! 志緒さん! ありがとう下がってくれ!」

 

 

 ずっと前線を支え続けてくれた2人のことを呼ぶ。

 息切れをしている彼らは最後に一撃を加えてから、大きく後ろへ後退した。

 

「アス、カ先輩っ!」

「ええ、迷惑かけたわねソラちゃん。四宮くんも高幡先輩も、ありがとう」

「もうッ! 後で、ちゃんと、話し、て、ください、ねっ!」

 

 空も、文句は言いつつ嬉しそうだ。目尻に溜まった涙がそれを語っている。

 視線をかみ合わせた柊も若干目を潤わせたけれど、呑み込んで前を向いた。

 

「ええ、たくさん話しましょう。今はしっかり休んで」

「……あはは……それじゃあ、あとは、お願い、します」

 

 もう少し下がって膝に手を付く空。

 ここが戦場でなければ、地面に腰を付けていた絵が想像できるほどには、彼女の疲労は溜まり過ぎている。

 一方で少しだけど余裕のありそうな志緒さんは、汗を右手で拭いつつ、柊の顔と美月の顔を見比べた。

 

「もう大丈夫なのか?」

「ええ、心配をお掛けしました」

「本当にご迷惑を」

「……まあ、気にすんな。俺も最近まで忘れてたが、一度や二度くらい迷惑を掛けても挽回の機会をくれるのが、良い仲間ってやつみたいだぞ」

 

 というか。

 戌井さんと柊って、同じようなことを言われてなかったか?

 いや、戌井さんに言ったのは自分だけれど。

 戌井さんには、その悩みを打ち明けるべき相手がいたはずだ、と突き付けた記憶がある。柊も璃音に悩みを打ち明けてと説得していたし。

 ……付き合いは短かったが、志緒さんもかなり言いたいことがあったのだろうか。

 

 ……いや、みんな、言いたいことはたくさんあったはずなのだ。

 短い付き合いではあるが、浅い仲を良しとした記憶はない。

 空と璃音は柊と仲が良く、洸は最も付き合いが長い。祐樹は柊と若干似ているところがあるし、志緒さんは先程考えた通り。

 それでも、任せてくれたのだ。

 任せて、場を保つために全力を賭してくれた。

 その想いに、答えなければならない。

 

「よし、行くぞ!」

「「「ええ!/ウン!/はい!」」」

 

「“タマモ”! 【マハラクンダ】!」

「“ネイト”……【マハタルンダ】」

「“バステト”! 【スクカジャ】!!」

 

 敵シャドウ3体の攻撃力と防御力を下げる。

 美月はこういう補助系のスキルを持っておらず、璃音は自身の素早さを向上させた。そのまま敵の懐に突撃する彼女。その様子を見た柊が、再度ペルソナを召喚した。

 

「【ブフタイン】!」

 

 シャドウの胴体をソウルデヴァイスで切り裂いた璃音に、反撃しようとシャドウが牙を剥く。しかしその行動を璃音の氷結攻撃が妨害。

 その行動を遅らせたことで、璃音が反撃範囲から抜けた。

 その行動で柊はシャドウの敵意を引く。唸るシャドウに対し、こっちを忘れるなと横からソウルデヴァイスを叩き付けた。

 

『ガァアアア!』

 

 だが、それを無視してシャドウは柊へと距離を詰める。最初に闘い続けていた頃のことを覚えていて、そちらに注意が向きやすいということだろうか。

 なら、それを起点にして作戦を立てるべきだろう。

 

「柊! 防御はこちらでなんとかする! だから!」

「私とリオンさんで1体を倒す。で良いのよね?」

「もう1体はどうすんの!?」

「そっちもこっちでなんとかする! 美月、行けるか!?」

「ええ、短時間なら2人でもなんとか!」

「よし!」

 

 柊がペルソナを消し、ソウルデヴァイスを召喚。

 逆にこちらから距離を詰める。

 それに対応しようとするシャドウだったが、それを突撃してきた璃音に阻まれた。

 

「てぃやああ!」

「そこっ!」

 

 璃音が往復で2連撃、仰け反り、横を向いた瞬間に柊がソウルデヴァイス──エクセリオンハーツで一突き。

 逆上したシャドウが爪を立てて柊に迫るのを、自分のソウルデヴァイスで楯にさせて防ぐ。

 その隙を狙って、もう一体が追撃してくる、が、反応はできてもソウルデヴァイスを急に引き返すことはできない。それに今退かしてしまえば、柊に直進してしまうだろう。

 故に美月に任せるしかないのだけれど、彼女も間に入るには距離が離れている。どうするだろうか。

 

「祈りを。“ペルセポネ”!」

 

 美月がペルソナを召喚する。

 攻撃して無理矢理後退させるつもりか……?

 確かにその間にペルソナを仕舞い直して、ソウルデヴァイスを再召喚すれば防御に入れるだろう。

 と、考えたが、美月に動く様子はない。ノックバックを狙うならもう走り始めても良いというか、早く動かないといけないと思うけれど……?

 

「【テトラカーン】!」

 

 ……美月が唱えた後、柊の周囲が一瞬光る。

 直後シャドウが柊へ噛みつこうと飛び掛かったが、不可視の何かに弾かれていった。

 なんだそれ。

 柊は今の術の効果を知っていたらしく、驚いた様子はない。

 ……結界を張る。みたいなものか? 

 何にしても凄い効果だ。

 

「奏でて“バステト”! 【サイオ】」

 

 璃音が少し離れた位置からペルソナのスキルで攻撃を放つ。

 自分のソウルデヴァイスで受け止めていたシャドウに当たり、敵が怯んだ。

 その隙を見て、柊がソウルデヴァイスを握り直し、サイフォンの近くへ添える。

 一瞬だけ、こちらを流し見た。

 ……ああ。

 

「美月!」

「はい!」

 

 今の視線は、こっちに集中させてという意味だろう。

 だから自分は美月と協力して、もう1体を足止めに専念し、彼女たちの戦いを、連携を見守ることにした。

 

「アスカ!」

「ええ、リオンさん! ……ネイト、【ブフタイン】!」

 

 柊が氷結攻撃を放ち、敵の脚部を凍らせる。

 それはシャドウの一蹴りで粉砕される妨害だけれども、その一瞬を見逃す彼女ではない。

 璃音の翼が、敵の首元を一閃。

 浅いが、敵は痛みからか大きく仰け反る。

 そのまま璃音は鋭く旋回。敵の尻部目指して翻す。その一方で柊はエクセリオンハーツを握り、刺突の体勢を取った。

 

「「はぁああああ!」」

 

 一閃と、一突。

 綺麗に決まった同時攻撃により、シャドウは苦しみの声を上げて消滅していく。

 これで一気に形勢が傾いた。

 

「美月!」

「ええ、“ペルセポネ”、【コウガオン】!」

「タマモ! 【エイガ】!」

 

 光と闇の連撃を放つ。

 正直に言えば大して効いていない。属性的な相性はよくないらしい。

 ここでペルソナを付け替えて、別の属性が効くか確かめるのは有用だろうか。

 いや、そうとは思えない。空に志緒さん、洸、祐騎が立ち回った後なのだ。誰かしらが弱点を付けるようであれば、もっと善戦していたはずだ。

 だとしたら、属性相性などは考えずに戦った方が良い。となると一番長く苦難を共にしているタマモが一番この場に適しているだろう。

 

「【エイガ】! 【エイガ】!」

 

 攻撃を避け、闇属性攻撃を放ち、カウンターを読み切り、再カウンターを振るう。

 人型ではないからだろうか。

 慣れてしまえば、ひどく読みやすい攻撃だ。

 とはいえ油断は出来ない。シャドウは残り1体。敵もここで気を抜けば即座にやられることを理解しているだろう。

 

 

「美月、援護を!」

「はい!」

 

 互いに警戒し合っていれば、スタミナ勝負になる。となれば人数差のあるこちらが優位なようにも思えるが、相手は柊と長時間戦い続け、疲労した様子のないシャドウ。そもそも人間を元にしていないシャドウに疲労があるのかは分からないけれど、勝利が不確定な以上、取るべき手段でもない。

 向こうが動かないなら、こちらから動く。誰かに任せるのではなく、今の所相手を読み切っている自分が動くべきだ。フォローは美月たちが行ってくれるはず。

 

 

「【スクカジャ】! ガンバって!」

 

 

 璃音の支援が施される。身体が軽くなったような気がした。

 ペルソナを戻し、ソウルデヴァイスを召喚。近接戦を仕掛けるなら、ふわふわ浮かせておくべきでもない。ソウルデヴァイスを左手で掴み、まずは出来る限り近づいてから手首だけで投げ付ける。

 不意な投擲に虚を突かれたシャドウは、それを比較的大きな動きで避ける。そして今自身が晒した隙に気付いたのか、こちらを威嚇するように睨んだ。

 その脳天に、引き返させた”フォティチュード・ミラー”を叩き付けようとしたが、若干、敵の方が早い!

 

させませんっ(【テトラカーン】)!」

『■■■──!』

 

 美月の結界が間に合い、シャドウが衝撃に弾かれた。

 

「“ネイト”ッ! 【ブフタイン】!」

 

 即座に柊のペルソナが氷結属性の追撃を叩き付ける。やや仰け反っただけの体勢だったシャドウは追い打ちによりさらに身体を仰け反らせた。

 そうして大きく上がった脳天へ、自分のソウルデヴァイスが到着する。

 鈍い音が鳴った。

 

「はぁああ!」

 

 そのまま返ってきたソウルデヴァイスを掴み、反動で倒れ込んでくるシャドウの顎を思いっきり打ち上げる。

 

「今だ! 璃音ッ!!」

「せぃやああああ!」

 

 横から全速で飛んできた璃音が、シャドウの胴体を轢き飛ばした。

 ……絵面は酷いが、シャドウは確かに倒れ込んだ。

 千載一遇の機会に、美月が声を上げる。

 

「総攻撃のチャンスです!」

「行こう!」

「ええ、終わらせましょう!」

 

 4人で取り囲み、起き上がれないシャドウへひたすら攻撃を仕掛けた。

 シャドウが完全に沈黙し、消滅したのを確認。

 

 自分たちは、拳を握り天へと突きあげた。

 

 

 

 


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