PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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4月16日──【????】契約とチカラ

 

 

『アンタに分かるの、あたしの絶望が! 勝手なことばっかり言って! そんな、平和そうな顔をしたアンタに!!』

「顔は関係ないだろう」

 

 というかさっきからもの凄い回数顔を貶されているんだが。

 玖我山、面食いなのか?

 

「正直、他人である自分に、玖我山の悩みなんて理解できない」

『だったら!』

「でも、自分だって悩んだことがある」

 

 自分にだって、生を諦めかけたことがある。

 

「目が覚めたら、知らない場所だった」

 

 知らない間に、時間に取り残されていた。

 

「記憶がなく、身体も動かず、ただ明日を想っていた」

 

 何をすれば良いか。何をしたいかも分からず、ただきっかけを欲していた。

 

「そんな自分にでも、訪れた奇跡があった」

 

 それが来なかったら、自分はきっと、失意のまま……ああ、だから。

 

「だからこそ、無責任でも自分は言う。試せることがあるなら、試してから諦めるべきだ。玖我山には、まだ頼れる人が居る。頼れる場所がある」

 

 押し付けだと分かっていても、諦めさせることなんて、できない。

 諦めていたらと思うと、恐怖がこの身を包む。それを味わってほしくないから。

 

『……ホ、ホントうざい! もういい、消えて……消えてってば!』

 

 

 

 

 ──吹き飛ばされたと気づくのに、そう時間は要らなかった。

 気づくと光景が遠ざかり始めており、すぐに止まる。

 同時、背中に激痛が走った。

 

「かはッ!!」

「岸波クンッ!?」

 

 泣き出しそうな、悲鳴のような声で名を呼ばれる。

 ──痛い。

 激痛が走り、身体が動かしづらい。

 リハビリしていた時の感覚に近い。いや、その時よりも辛いが。

 何故か、手が温かい。

 掛かっていたのは、赤黒い液体。

 それが自分の血であると悟るのは、そう難しいことではなかった。

 

 ──いったい、何が。

 身体は鉛のように重い。全身が危険を訴えている。それ以上動くな、と。

 揺らめく視界で、原因を探る。

 もう1人の玖我山から、黒くて大きなモノが生えていた。

 本来であれば、細い腕が続くはずの部分。

 肩から伸びた腕のようなものによって、自分は吹き飛ばされたのだ。

 

 玖我山が、彼女の本音が起こした事態に涙を溢す。

 ……泣いて、いるのか。

 その涙が、何によるものなのか分からない。

 自責か、心配なのか、或いは検討つかない何かなのか。それでも、自分が不甲斐ないばかりに、女の子を泣かせてしまった。

 

 

『アハハハハッ! 身の程を弁えないからそうなるのよ。不適格。不適合。分不相応。貴方ごときに私を変えることはできない! わたしを支えるなんて栄誉を受ける価値が、アンタにはない!』

 

 彼女ではない彼女の声が聞こえた。

 

 ……価値がない、か。

 

 ────

「貴方に価値を見出だしたのは我々ですが、それを見せたのは貴方ですよ、岸波君。もしかしたら見込み違いかもしれない。けれど、逆に貴方が努力を続ければ、こちらが期待した以上の価値を身に付けるかもしれません。今後の過ごし方次第ですね」

 

 

「誰かと関わり、理解し理解されること。何かを学び、何かに活かすこと。積極的に働きかけ、物事を動かすこと。色々な経験が糧となり、そのすべてが、その人間を構成する価値となる。いいだろうか──人は生きている限り、自分の価値を磨き続けられるのだ」

 

 ────

 

 ふと思い出したのは、生徒会長と北都グループ会長の言葉だった。

 

 価値がない。そうだ、今の自分には確かに、その程度の価値しかないかもしれない。

 ここで止まれば、ここで辞めれば、自分にはその程度の価値しかないことになる。

 

 それで、良いのだろうか?

 

 ──Select──

  良い。

 >良くない。

 ──────

 

 良くはない。

 自分には、期待が掛けられている。北都グループから、北都会長から、美月から。

 それに応えず倒れるようなことはしたくない。

 

 だが、あの日偶然にも目覚めることがなければ、もともと朽ちていたはずの身体、死んでいたはずの意思だ。

 起きた奇跡が、起きなかった必然に帰るだけ。

 

 なら、このまま目を閉じた所で変わらない。

 本来辿ったはずの運命へと帰着するのだろう。

 

 やれることは疾うに失せた。

 もう、終わるべきなのかもしれない。

 

 

 ──Select──

  終わらせる。

 >あきらめない。

 ──────

 

 

 ──まだ、諦めたくない。

 そう思って、起き上がろうとした。

 

 しかし、激痛が邪魔をする。

 意思に反して、身体は限界を訴えていた。

 

 それならば……いや、それでも。

 

 

 

 ──Select──

  もう、終わらせる。

 >まだ、あきらめない。

 ──────

 

 

 

 終わりたくない。

 終わらせられない。

 このまま終わるのは許されない。

 

 目の前で泣いている子がいる。

 自分に期待してくれる人達がいる。

 

 彼女を助けられるかは分からない。

 いつか彼らに見捨てられるかもしれない。

 

 だが、例えそうだとしても、今、ここで自分から膝を折るのは間違っている。

 ……間違っている、気がするのだ。

 

 

 

 

 それでも、現実は変わらない。動かないものは動かないのだ。

 痛みは限度を超えている。

 痛み以外を感じられないが故、最早それを喪失するのが怖い。

 それを失えば、自分は死に体。

 目を覚まさなかった自分と同じだ。

 ……怖い。怖いとも。

 

 

 

 ──だが、ここで無意味に消える方が、もっと怖い。

 

 

 

 ここで止まるのなら、自分の覚醒はなんのために。

 ここで止まるのなら、彼らの投資はなんのために。

 

 

『ふーん……?』

 

 

 

 ──立て。

 

 

 

「うそ、やめて……」

 

 

 

 

 怖いままでいい。

 

 

 

 

『ふぅん、まだ立てたんだ、スゴいスゴい。』

 

 

 

 

 痛いままでいい。

 

 

 

 

「だめ……立たないで! 死んじゃう、死んじゃうからぁ……っ!」

 

 

 

 

 その上で、もう1度、考えないと。

 

 

 

 

『あははっ、良いじゃない。それじゃあ素直に、死んで。バイバイっ』

 

 

 

 だって、退く意味は1つもない。

 生き長らえた意味も、目覚めた意味すら見つけていない。

 

 まだ、足は前へと踏み出せる。

 意思(じぶん)はまだ、途絶えて(諦めて)などいないのだから──!

 

 

 

 

 

 ──“その願い、聞き届けた”。

 

 

 

 瞬間、世界が停止して。

 何かが割れる、音がした。

 

 

 ────

 

 

『力を欲するか』

 

 声が、聴こえた。

 何が語りかけてくるのかは分からない。

 直接脳内に影響し、身体と思考に圧力をかけてくる。

 

 ──死。

 応えても応えずとも、自分がそこに至ることを直感する。

 だが──

 

『人間一匹が足掻いた所で何も変わらぬ』

 

 そうかもしれない。

 

『諦めた方が楽であろう』

 

 そうかもしれない。

 

『ならば、なぜ足掻く』

 

 決まっている。

 諦めたくないからだ。

 たったそれだけのことなら、足を止める理由にならない。

 自分は未だ何もしていない。試していない。挑んでいない。

 岸波白野は、たったの1度も、自分の意志で闘ってすらいないのだから──!

 

『ク、クハハハッ、傑作、傑作よな。滑稽を通り越して愛惜しさすら覚える。──宜い、その蛮勇に免じ、妾の寵愛をくれてやろう』

 

 言葉の半分も理解できない。

 しかし、死の気配が、微かに揺らいだ。

 とはいえ本当に微かな揺らぎ。

 未だに重圧が身体を蝕んでいる。

 

『無論、ただで受けられると思ってはおるまい。対価はもらおう──“契約”じゃ』

 

 そうでなけば面白くない。と嗤う声。

 悪意に、蔑意に満ちたその声を聴きながら、頭に留まるワードを掘り返した。

 

 “契約”。最近、どこかで聞いたような気がするが。

 

 ────

『契約がどのような形のものであるかは、私には分かりかねます。ですが……フフ、貴方も変わった定めをお持ちのご様子。近く、今後を左右されるような重大な選択が待ち受けているのやもしれませんな』

 ────

 

 そうして、あの夢を思い出す。

 長鼻の男──イゴール。

 潜水艦──ベルベットルーム。

 契約。重大な選択とは、これを指していたのだろうか。

 

『この契約を交わせば、貴様は人としての──』

 

 ──Select──

 

 >構わない、結んでくれ。

 

 ──────

 

 聞くまでもなかった。

 元より、覚悟は決まっている。

 未来が怖くて、前を向けるか。

 

『……フンッ、では精々愚かに足掻くが良い。退屈がてら、覗いてやるとするかの』

 

 ────

 

 

「足掻け──」

『!?』

「“フォティチュード・ミラー”!」

 

 胸元で光るエネルギーを、顕現する。

 

 停止していた世界が動き出す。

 何だか意識がはっきりしていた。

 

『なに!?』

 

 迫っていた黒い腕を、鏡のようなもので受け止める。

 これが何かは分からない。けれど、使い方は分かる。

 もう1人の玖我山をはね除け、鏡を自分の周りに舞わせた。

 自分の周囲を周遊する、鏡。これが、自分の手に入れた力の1つ。

 

 だが、これでは足りない。

 けれども、それを補う方法まで、頭の中にあった。

 

 胸の奥底でナニかが昂る。

 

 右手にサイフォンを持つ。それは見慣れない画面を映していた。

 

 ──SOUL DEVICE──

 

 ソウルデヴァイス。ああ、単語だけでも分かる。この武器(かがみ)のことだ。

 分かっている。これともう1つの力の使い方、それらの使い分け方も。

 

 左手を右手に引き寄せるのと同時に、鏡を左側からサイフォンへ。

 2つがぶつかる直前、それはデータのように分解されて、サイフォンに収束していった。まるで収納されていくかの如く。

 そう、なんだよな? そこら辺、知識はあれど確証はない。まあ、今はいいか。

 それより、やるべきことがある。

 

 SOUL DEVICEと表示されたサイフォンの、“下に示された文字列”に指を添えた。

 

 

──ペ

 

 

 それに抗う力の名を、呟き始めた。

 

 

──ル

 

 

 込めるべき想いを、知っているような気がした。

 

 

──ソ

 

 

 これが、これこそが、現状を打破する鍵。

 今の価値の自分に、“できること”だ!

 

 

 

──ナッ!

 

 

 

 

 自分の身体から、ナニかが溢れ出す。

 そうして出来上がる影。浮かび上がったのはもう1人の自分だ。

 その力、名をペルソナ。

 使い方──否、共闘の仕方は頭にある。

 

『ナ──ッ!?』

「え……っ?」

 

 玖我山ともう1人の彼女が驚いている中、自分はペルソナに目を向けた。

 

 そこに浮かんでいたのは、超常と呼んでいい存在。

 

 露出度の高い着物のようなものを身に纏う、桃色の髪の女性。何より特筆すべきは、透けて見えることや浮かんでいることを除けば、彼女の頭の上にある狐耳と、ぶらさがる尻尾だろう。

 

 そんな彼女と、目があう。

 

『我は汝、汝は我──なーんてやってられますかっての。貴方様のその頑張り、その慟哭、その決意を耳に入れ、やって参りました良妻狐。みこっと頑張りますので、何なりとご命令くださいな。どうか末永くお側に置いてくださいまし、ご主人様』

 

 実際に発せられた言葉ではない。けれども、そんな挨拶をしてくれた気がした。

 お願いするのはこちらである。

 

「これからよろしく、“タマモ”」

 

 気のせいかもしれないが、嬉しそうに頷くペルソナ──“タマモノマエ”。

 自分が、契約の結果手に入れた、“もう1人の自分”。

 この力を持って、何が出来るようになるのかはわからない。

 ただ、何もせずに諦めるという選択は、しなくて済みそうだった。

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの!?」

 

 玖我山が駆け寄ってくる。

 その瞳は少し潤んでいて、強く擦った跡が残っていた。

 

「一応は。ごめん、心配かけた」

 

 言葉では恐怖を拭えないだろう。ひとまず、頭を撫でて落ち着かせる。

 ぁ……っと吐息を溢しつつも、自分が冷静でないことに気付いてくれたのか、目を瞑って大きく深呼吸をした。

 

「別にキミが謝ることじゃ……ううん、ありがと、少し落ち着いた」

「良かった。……さて、後は彼女をどうするか、だね」

「うん……って、そんなワケないでしょ! その……ソレ! ってかさっきの鏡! あれなに!?」

「それは後で」

 

 自分の目線の先では、警戒を露にした玖我山の本心がこちらを睨み付けている。

 玖我山の頭部から手を離し、彼女を隠すようにして立つ。

 

『今、何をしたのよアンタ……立ち上がったのはスゴい、誉めてあげる。ケド、リオン(あたし)の隣には、分不相応なんだって。消えなさいって、言ってるでしょ!』

「自分程度……ああ、そうかもしれない。けれど、自分にできることは自分が決める。お前が決めることじゃない!」

 

 自分にできることなんて、そう多くないだろう。

 強いて言うならそう……諦めないことだけだ。

 

「玖我山。玖我山は、玖我山の本心と向き合わないといけない」

「向き合う……うん、分かってる、つもり」

「なら、それまでの時間稼ぎと場の整理、自分に任せてくれないか?」

「……大丈夫なの? それに、その怪我も」

「わからない。けど、諦めたくない」

「……わかった。何が何だかわからないけど、信じる。私は……私にも、諦めたくないことがあるから!」

 

 落ち着いた彼女の瞳には、強い炎が燃えている。

 それは恐らく、未来を映す輝きだろう。

 

 ──ああ、初めて会ったときに感じた、あの明るさ(チカラ)だ。

 アイドルという職業に夢を抱き、何かを変えんとするその輝き。

 自分が無意識に、かっこいいと思ったもの。

 

『フ、フフ……諦めたくないですって? 私の夢が自分を傷付けるのに?』

 

 不意に、もう1人のリオンの存在が大きくなる。

 恐怖感、圧力が増し、それがそのまま──外型の変化に繋がった。

 

 人型を模していたその姿は2倍、3倍へと膨れ上がり、その原型を無くす。

 ──それは、天使のような姿を持ちながら、相応しくない禍々しさを持った堕天使としてこの地に降り立った、敵。

 太くて黒い両腕に、不吉な黒い翼。胴体は灰色で、身体の隅にむけて黒さを増す。

 狂ったように笑い、平然と見下してきた。

 辛うじて読み取ったその瞳の暗さは、はたして何なのだろうか。

 

『歩みを止めてもいいじゃない。止めるべきなのよ。良いわ、あたしは影。真なる影。踏ん切りのつかない貴女(あたし)に代わって、諦める理由を作ってあげる!』

 

 

 間合いを詰められ、肥大化した拳を振るってくる。

 

「ッ、タマモ!」

 

 ペルソナを呼ぶ。しかしタマモでは受け止めきれず、少し後ろに飛ばされた。

 

『軽い軽い……人1人、どうしてこんなに軽いのかしら』

「それは、お前が人に期待していないからだ」

 

 自分の悩みは自分にしか解決できない、と思い込んでいるからだ。

 

 身体に走る痛みを無視して立ち上がる。

 どうやら、まともに攻撃を受け止める程の力は自分にないらしい。

 なら、遠距離でどうにかするしかない。

 そういった技は……ああ、その使い方も、いつの間にか“知っていた”。

 

「【エイハ】!」

『ぐっ……フフ、その程度?』

 

 精神力を代償に、呪術を飛ばす。

 攻撃自体は届いたものの、大きなダメージになっていないようだった。

 

『フフッ、【諦念の圧】(防げるかしら)

 

 お返しに、と言わんばかりに向けられたのは強烈な圧。念の固まり。

 それを全力で横に跳び、回避する。

 さあ、反撃だ──

 

「【アギ】!」

『きゃ!?』

 

 炎属性の技、【アギ】。

 たかが人間の攻撃と慢心していた為か、避けずに喰らい──相性が悪かったのか、体勢を崩す。

 ここだっ!

 

「畳み掛けるぞ、タマモ!」

 

 相手の弱点が把握できたのなら、そこをどう上手く突くかという1点に対策は帰着する。

 こちらの弱点が暴かれていない優位性をどう保つかが、この勝負の別れ所だ。

 

 

 怒濤の連撃を加えた後は、警戒されている【アギ】を使わずに【エイハ】で立ち回った。

 お互い、着実にダメージは溜まっていく。耐久戦。

 だが、弱点を握っている自分が少し有利。火力にも防御力にも劣る自分が優位を握り続けて続ける、“諦めない”という得意分野。

 

 そして、敵は突っ込んできた。遠距離戦では埒が明かないと考えたのだろう。

 

『なによ……何なのよ、アンタはァ!』

 

 絞り出された問い。

 残念ながら、上手い答えは思い付かない。

 それでも自分が何者なのか、今答えるとするならば。

 

「岸波 白野──ペルソナ使いだ」

 

 きっとこれしか、言えないだろう。

 

 【エイハ】で2度牽制し、【アギ】を唱えた。

 

『う、うあああああああ!』

 

 近付いてくる敵影が燃え、自分の所まで届かず、振るわれかけた腕は地に落ちる。

 ようやく訪れた平穏に、留めていた重い息が口を突いた。

 

「……終わったの?」

 

 後ろで控えていた玖我山が、恐る恐るという形で訊いてくる。

 

「自分の戦いは」

 

 あとは玖我山の番だ。と背中を押す。

 その先には、数刻前と同じ、もう1人の彼女が立っていた。

 

『ただの人間如きに……』

「……違うよ、諦めないからこそできることがあるんだって、私は彼から教えてもらった。ただの、なんて言っちゃダメ、人は強い。この世界にはまだ、頼れる人がいっぱい居るんだよ」

 

 2人の玖我山がこちらを向く。

 少し気恥ずかしいので、目を逸らした。

 

「選択肢をくれてありがとう、でももう大丈夫。絶対に失わないし、傷つけないよ。諦めなければ人は色んなことが出来るって、今日また知れたからね。私はそれをテレビで証明して、色んな人にその希望を届けないと……ううん、届けたい。目指せ、スーパーアイドル!」

 

 それが、彼女の夢。

 それこそが、彼女の原点。

 彼女の、歩み続ける理由。

 

「その為に、貴女も力を貸してくれる?」

『……』

「今は無理でも、いつか。一緒にユメを、あの“伝説のアイドル”を目指そう!」

 

 もう1人の彼女は頷く。満足そうに、嬉しそうに、淡い光へと姿を変えながら。

 そうしてその光は、リオンへと取り込まれた。

 彼女に、何かしらの力が宿ったことを感じる。

 

「すごい、力が溢れてくる。それに、使い方も」

 

「ああ……」

 

 感嘆する程きれいな光景が、目の前に広がっている。

 淡い、紫の光が彼女の周囲を舞いつつ、体内へと還元されていた。

 発言から察するに、彼女も自分と同じ感覚を体験しているようだ。

 

 ──それにしても、疲れた。

 思わず地面にへたり込む。

 そういえば、ここはどこなのだろう?

 

 漸くと言うべきか、一段落して状況が整理できる程の余裕を得た。

 

 整理できるほど情報が揃っていないことが、一番痛手だが。

 

 そう考えていると、複数の足音が聴こえてくる。

 

「そこの方々、ご無事で──久我山さん!? それに、岸波くッ──」

 

 目を向けると、美月と、黒服の方たちが一緒に居た。

 

 声を出すのも億劫なので手を挙げようとして、挙がらないことに気づく。

 視界が歪み始めた。

 近くに誰かが寄ってくる。

 

「怪我が酷い……すぐに処置します! 玖我山さん、彼に声をかけ続けてください! キョウカさん、病院の手配を──」

「そんな……岸波くん! 岸波クンッ! お願い目を開けて──!!」

 

 

 ────

 





 7000文字。自分的には長い。でも戦闘は短い。チュートリアル戦だから仕方ないネ。

 選択肢は、1つ間違えるとバッドエンドです。
 Fate/Extra風。世界は違えど、抱く覚悟は同じ。

 そういえば原作OPで、サイフォンをスライドするとソウルデヴァイスが出てくるシーンがありましたね。ということで演出はそれで。本作品ではすべてサイフォンによる出し入れを基本とします。

 サイフォンにソウルデヴァイスを当てる(ぶつける)。
→ソウルデヴァイスが消える。
→サイフォン表示画面のPersonaという文字列をスライド。
→「ペルソナッ!」

 ソウルデヴァイス。形としては鏡。玉藻静石みたいなヤタノカガミみたいなアレ。
 名前はまんま、不屈・鏡を横文字に。生の理由など、自分を見つめ直して諦めの悪さを発揮すること多かった気がするので。
 さすがの白野さん、モノローグ長い。原作かっこよすぎて何処変えるか悩んだ。

 で、ペルソナは玉藻。出した理由は作品紹介から分かるでしょう。趣味です。ここに関しての批判は一切受け付けません。
 とはいえ今作ではただの1ペルソナ。今後喋りませんのでご了承を。
 物理的に語りかけてくるぅー的なことはあるかもしれませんが。

 ちなみに時坂くんと柊さんは原作プロローグを遂行中。
 だから柊さんは現れません。日にちを確認してもらえば同日のはず。そこらへんは原作を意識。

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