PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。
 インターバル5、最終話です。


9月10日──【教室】佐伯先生と相談

 

 

「さて、連絡事項だが──」

 

 

 ショートホームルーム。

 一日の終わりに翌日以降の予定の確認や諸注意などを伝える時間。

 その時間を担当するのは、各クラスの担任。だとすればやはり、自分たちの担任教諭である佐伯先生が教壇に立つのは当然だ。

 いつも通りの進行をする佐伯先生の姿を見る。というか、つい注視してしまう。

 何でだろうか。なんとなく、いつもより佐伯先生の挙動が気になる。

 恋、ではない。はず。

 断言はできないので、取り敢えず他の候補を探してみよう。

 思い当たる節があるかどうか、ここ数日の流れを振り返ってみる。特に佐伯先生と関わった気はしないけれど……そういえばこの前、佐伯先生の真似をしたことがあったな。後輩たちとの登山で。

 その影響かもしれない。きっとそうだ。

 もう真似する機会もさほど多くはないだろうけれど、精度を高めていて損はないだろう。もしかしたらまた後輩たちに頼まれるかもしれないし。

 だとしたら、観察を欠かすわけにはいかない。気取られないよう注意しながら話を聞きながらその姿を見詰めていて、一挙一動を確認する。

 確認していく中で、ふと思い至ったことがあった。

 

 ……そういえば、佐伯先生のプライベートな部分は何も知らないな。

 

 彼の行動の理由が分からない。その優しさや厳しさが、どの経験に基づくことなのかを、少しどころかまったく知らなかった。

 こんな状態では行われた彼の真似は、相当に薄っぺらいものだったことだろう。鏡を見て確認でもすべきだったか。

 ……少し、心の距離を詰めてみたいな。

 何かを知っていれば、後輩たちの役に立つかもしれない。

 それに、大人との話は少なくとも自分の糧と出来るはず。

 そうと決まれば、まずは押しかけてみよう。断られたら断られたで構わない。

 

「──以上でホームルームも終わりだ。皆、寄り道はなるべくしないで帰るんだぞ」

 

 話し終えると同時に、チャイムが鳴る。

 クラス委員の人が、号令をかけた。

 

 正式にホームルームが終わる。

 下校の準備は行わず、職員室に戻る支度の真っ最中である先生のもとへ歩む。

 自身の手は動かしたままで、帰りの挨拶をしてきた生徒に対し、笑顔でまた明日なと答える彼の目が、自分の姿を捉えた。

 

「どうした岸波。授業で分からない所でもあったか?」

「いいえ、そういう訳ではなくて。少し相談があるんですけれど、今日はお時間大丈夫ですか?」

「大丈夫だが、珍しいな。何についてだ?」

「人生です」

「…………場所を変えるか」

「はい」

 

 人生の相談、というのは少し大げさだったかな。と思いつつ、先を歩く先生の後を追った。

 

 

────>杜宮高校【進路指導室】。

 

 

「成程な。話は分かった。岸波の境遇から言って、確かに様々な人間との交流は必須だろう」

 

 一通り、今回の相談の趣旨を伝える。

 勿論後輩たちの件については話さずに。

 

「……」

 

 話を聞いた後、佐伯先生は理解を示したものの、少し考え込んだ。

 険しい顔をしている訳ではないけれど、少し雰囲気が悪い。

 提案を喜んで受け入れてくれる、という訳ではなさそうだ。

 それもそうだろう。何せ勝手に時間を使われる訳だし、佐伯先生にとってのメリットは無しに等しい。

 

「……放課後は無理だが、夜なら空いている。だが生徒を、それも担当しているクラスの一員を夜に連れ回すなんて、下手したら懲戒免職ものだ。岸波のことだから、それを理解していての行動だと思うが」

「そう、ですね」

 

 世間一般的に言えば、教師と生徒がプライベートで関りを持つのは良くない。

 本人たちにまったくその気がなかったとしても、内申点に色が付いていないかなどの邪推はされてしまうようになる。

 極端に言えば、信用問題となってくるということ。

 それを押し通してまで自分の願望を押し付けることは、できない。

 彼が無理といえば、引き下がる他ないのだ。佐伯先生の人生を棒に振ってまで、果たしたい願いでもない。

 

「……」

 

 言うまでもなく、問題にならない可能性もある。

 遊びに行ったりするならまだしも、外で会って話をするくらいならば、騒ぎにならないだろう。

 たまたま行きつけのお店が被っているだけ。ということに、難癖を付けてくる相手もいない……はず。

 

「自分の英語の成績を、厳しめに付けてもらっても構いません」

「それはそれで特別扱いになるんだがな。……一応、成績はデータによって厳密に決めているから、誰に文句を言われても言い返せる程度の準備はしているが」

「……」

「……はぁ。一応担任として、3か月ほど岸波を見てきたんだ。ここで退くような人間でもないのは分かっている。遅くなりすぎないという条件付きでなら、付き合えるだろう」

「……あ、ありがとうございます」

 

 受け入れてもらっておきながら、良いのかと驚いてしまった。

 先程も考えた通り、彼にとってメリットなんてないはず。

 それでも自分のお願いを聞いてくれた理由は、何なのだろう。

 ……それも、これから先で知っていければ良いか。

 

「基本的に、火曜日と木曜日は蓬莱町の【カフェバー・≪N≫】に居る。何か話があれば尋ねて来るといい」

「火曜と木曜。……休日とかは忙しいんですか?」

「休日はあまり良くないな。岸波に登山の趣味などがあれば、“偶然”会うこともあるかもしれないが」

「最近しましたよ、登山。軽くですけれど」

「ほお。……なら、その話はいつかの夜にでも聞こう」

 

 とはいうものの、基本として土日は難しいと考えて良いだろう。

 教職は激務であると聞く。土日休みを保証されている職種でもないらしい。

 噂は確かで、事実として部活動の顧問の先生などは、祝日だって活動があれば出勤せざるを得ないのだろう。その他にも色々と事務作業だってあるはず。

 だとしたら、目の前にいる佐伯先生だって、そんな毎週空いていることもないはずなのだ。

 

「取り敢えず、火曜日と木曜日ですね」

「ああ」

「よろしくお願いします。あと、ありがとうございます」

「何のことか分からないな。俺はただ、お勧めの飲食店と、よく行く曜日の話をしただけだぞ」

「……そうですね」

 

 そういう体らしい。

 何にせよ、これで彼と関りを持つ機会が得られた。

 新たな縁の芽生えを感じる。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“刑死者” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

「さて、他に用事がないなら、俺は仕事に戻るが」

「ああ、はい。大丈夫です」

「そうか。気を付けて帰るんだぞ」

「はい」

 

 

 そう言えば下校準備もまだだった。

 教室に荷物を取りに行かなくては。

 

 

──夜──

 

 

 今日は読書をしようか。

 読み途中だった、『水泳・入門編』を手に取る。

 

 前回は泳ぎ方の一覧や、それを行うのに必要な筋力の部位の説明図などが乗っていたが、中盤の内容は家でも出来る泳ぎ方の訓練の方法と、筋力トレーニングの正しい行い方だった。

 

 正直、ハヤトにも教えてもらってはいたが、腕の動かし方などはとても重要だ。持って行き方ひとつで掛かる負担に雲泥の差があるし、一掻きで進める距離も変わってくる。

 だから理想のフォームをいつでも再現できることが目標になってくるのだが……練習はしてみても、上手くなっているのかの確認ができない分、少しイメージが掴みづらいな。

 取り敢えず今はこの教本を信じて練習してみるか。

 

 




 

 コミュ・刑死者“佐伯 吾郎”のレベルが上がった。
 刑死者のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


────
 

 根気  +2。


────


 ご連絡。

 次回から第6話。
 奇跡的にインターバル5は中4日以内間隔での更新を守りきりました(奇跡とか言ってしまった)(嬉しい)。
 ですが、6話開始前、もしくは異界攻略開始前後で、多分多めに日数を取りますことだけ前もってお伝えしておきます。
 私的に良い流れで来てるので守りたいところですが、こればかりはちょっと……ってことなので、お許しください。多分どのタイミングで休んでも2週間は開きません。多分。

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