PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月8日──【駅前広場】後輩たちと登山 1

 

 

 天気は快晴。

 土曜日なので午前授業を終えた後の放課後、真昼間の時間帯よりは少し後ろにズレた頃のこと。

 駅前広場のバス乗り場で、人を待っていた。

 

 

「あ、せんぱ~い!」

 

 聞き覚えのある声に首を捻ると、待っていた少女たちの姿が。

 

「ごめんなさぁい、お待たせしちゃいましたぁ?」

 

 

──Select──

  今来たところ。

 >そんなには待ってない。

  お待ちしましたぁ。

──────

 

 

「あ、そういうの良いのでぇ、もっとしっかりゴロウ先生になりきってくれませんかぁ?」

「なら最初は先生って呼んだ方が良いんじゃ?」

「街中で私服姿なのに大声で先生って言ったら、迷惑かけるかもじゃないですかぁ」

 

 成る程、良い気遣いだな、と思った。だとしたらセンパイではなく名前で呼んだ方が良い気はするけれど。……いや、そうだとしても自分を名前で呼ぶ必要はないのか。なら確かに合っているな。

 

 出会って数十秒で悪態を吐いてきたのは、度々話をしている後輩2人組のうちの1人、マリエだった。ヒトミも勿論いる。少し申し訳なさそうにしているが、それより日差しが熱いことが気になっているのか、手でパタパタと風を送っていた。

 

 今日はデートの予行演習、ということで、実際に登山をしてみることになっている。

 マリエの想定は勿論佐伯先生相手。つまり自分は、佐伯先生の代役なのだ。

 話す内容や受け答えの等の解答もできるだけ佐伯先生に寄せて欲しい、との依頼を受けていたので、頑張ろうと活き込んではいたものの、まさか会った時には既に始まっているとは思わなかった。

 

 だが、マリエもマリエで気合が入っているのだろう。以前選んだ服装を基準に全身ビッシリ決まっていて、まさかこれから登山用に着替える想定はしていないだろうと思ってしまう程の気合の入れ方だった。……大丈夫だよな?

 

 

「う~ん、いくら可愛くても、家からあの格好はちょっとぉ」

「私も同意かな。周りの人たちから変な眼で見られるから」

「そうか?」

「そういうセンパイだって着て来てないじゃないですかぁ」

 

 自分がウェアを着てこなかったのは、事前に着替えをスケジュールに組んでいることは知っていたから。2人が着替える間、何もしないというのも流石に暇だろうし、待っている間に着替えるのが一番良いだろう。

 けれど、マリエがカジュアル系でコーデしてきたのに対し、ヒトミは何と言うか、落ち着いた感じの服装だ。全体的に何か趣向が凝らされているというわけでもなく、ただただ買い物に歩いてきた近所の女性、みたいな感じ。

 

「……ひょっとして、マリエがより目立つようなファッションを?」

 

 こっそりと聞いてみると、彼女はやや顔を赤くして。

 

「そういうのは気付いても別に言わなくて良いから」

 

 と小声で怒った。

 

 

 

────>【神山】。

 

 

 杜宮市の北東に位置し、犀玉まで続く山、神山。

 普段神山温泉に行く際は山麓までしか入らないので、傾斜などを意識したことはなかったが、登山用のコースとなるとやはり訳が違うみたいだ。思わず見上げてしまう。

 それは、隣の2人も同じだったようで。

 

「「……」」

「大丈夫か、2人とも」

「「!」」

 

 少し呆然としていたので声を掛けてみると、肩を跳ねらせた。

 ……無理そうなら、他の案を提案した方が良いだろうか。

 

 

──Select──

  行かないのか?

  止めておくか?

 >……(反応を待つ)。

──────

 

 

 取り敢えずもう少し待ってみて、話を聞こう。

 

「よしっ!」

 

 としたら、気合の入った声が聴こえた。

 思わず横を向くと、声を発したであろう張本人は首を傾げて、どうかしましたかぁ? と言う。

 

「ほらヒトミ、行くよ」

「え、あ……待ってマリエ。センパイ、それじゃあまた後で」

「あ、ああ」

 

 何はともあれ、やる気になったみたいだ。

 マリエも、マリエに引きずられていたヒトミも、決して登山をしたくないという雰囲気は出していない。

 なら、大丈夫だろう。

 

「自分も着替えるか」

 

 着替えの入った荷物を背負い、今度こそ準備へ取り掛かった。

 

 

────>神山【中腹】。

 

 

 流石に疲労の色が見えてきたな。

 一応、佐伯先生のように、無駄口を叩くことはしないけれども所々で気を配っていく先導の仕方をしていたからか、彼女たちの変化に気が付いた。

 特にマリエの方が疲れていそうだ。

 ただし、マリエの方が気迫に満ちていたが。

 

「そろそろ休憩ポイントだ。疲れてきたし、一回休憩しよう」

「……そうです、ね~……」

 

 ヒトミは言葉を返すことはなかったが、小さく頷いた。

 了承を取れたため、少し先行して視界に入ってきた開けた場所で荷物を下ろす。

 周囲にもそういう人が居ることを確認し、問題ないと判断してレジャーシートを敷いた。その上に荷物を置き直し、確保した場所で、彼女たちを待つ。

 頭から顔、身体と徐々に見えてきた2人は、少し重い足取りで自分の近くまで歩いてきた。

 その間に、飲み過ぎないよう小分けにした水分を2人分用意し、辿り着いた彼女たちに渡す準備をする。

 

「「はぁ……」」

 

 やってきた彼女らは、ひと仕事終えたような重い息を吐いてシートに座り込んだ。

 

「ほら、飲み物だ。水分補給はしっかりな」

「あ、ありがとうござい、ますぅ」

「ども」

 

 ……手渡してみてから、佐伯先生は自分の飲み物を分け与えたりするかな、と思った。

 よくよく考えてみて、まあするだろう。と結論付けた。優しいし。そういう所まで自身にやらせようとはしないはずだ。

 

「さて、佐伯先生の真似も一旦止めるとして」

「勝手に止めないでもらえますぅ?」

「いや、本来なら頂上でお弁当って設定だったけど、この辺りで食べることにしないか?」

 

 手作りの。

 そもそもこれはマリエが手料理を振る舞いたいと言ったからの企画であり、ちょうど良く疲れていて空腹感があるこのタイミングで仕掛けるのが妥当かなと思えた。

 最善は言った通り、頂上まで登り詰めた時点だろうが、今の自分たちではそこまで行けそうにない。

 

「ということは、今日はこれで引き上げ?」

 

 ヒトミが聞いて来る。

 それが一番良いとは思うけれど。

 

「その方が良いとは思う。2人も初めてで疲れただろう?」

「それは……そうだね」

「……」

 

 ヒトミの肯定を聞いたマリエは、全身から力を抜いた。

 

「あーしんど……もう無理つらい……」

「……マリエ、演技しなくて良いの?」

「そんなこと気にしてる余裕ないっての……センパイ、水もう一杯頂戴」

「……分かった」

 

 猫なで声を出すのを止めたマリエのお願いに応え、水を差しだす。

 彼女はそれを受け取り、ゆっくり口に含むようにして飲んでいった。

 

「で、ナニ? お弁当?」

「ああ。今日は持って来ていないかと思うけれど、本番はこういう、無理をしない範囲で引き返すタイミングとかにどうかと思って」

「ふーん……ま、良いか。てか、今日もちゃんと持って来てるし、弁当。失礼じゃない?」

 

 ……持って来てるのか。それは少し、驚いた。

 

「ちゃんと早起きして作ったっての……まったく。本番を想定してるんだから、お弁当もちゃんと持ってこないとダメに決まってんじゃん」

 

 少し怒ったように言うマリエ。

 自分はまだ、彼女の本気度を下に見ていたらしい。

 登山の際の根性と言い、登山前の気合の入れ方といい、彼女はいつだって、全力で向き合おうとしている。

 今日だけではない。お弁当を作るのも妥協はしなかった。服を選ぶのですら全力だった。

 

「すまない、マリエ」

「別に……準備、手伝って」

「ああ」

 

 食べる準備。おしぼりとかと、後は普通に渡されるお弁当箱……といっても軽食サイズではあるけれど、それをヒトミと自分に割り振る。

 自分からお弁当箱を受け取ったヒトミが、少し寄ってきた。

 耳元に手を当てて来て、小声で話し始める。

 

「マリエはこう言ってるけど、作ったのセンパイの為だから」

「え?」

「いつも付き合ってくれてるお礼、なんだって」

 

 そうだったのか。

 演習としてだけでなく、自分の為に作ってくれたというのは、なんだかとても嬉しい。

 ……しっかり食べて、感想を言わないと。

 

「……なに待ってんの? 先食べててくれない?」

「良いのか?」

「待たれてんの、居心地悪いし」

「分かった、じゃあお先に」

 

 ヒトミと2人、手を合わせて。

 

「「いただきます」」

「はいはいどーぞ」

 

 

 ……どれから食べようか。

 

 

──Select──

 >卵焼き。

  おむすび。

  プチトマト。

──────

 

 

 小さくてカラフルな串の刺さった卵焼きからにしよう。

 ……持ち上げてみたが、柔らかそうだ。

 一口に頬張る。

 噛んだ瞬間、出汁が効いているのが分かった。少し塩気があり、食べやすい。

 

「うん、美味しい。とても美味しい」

「そ」

「ありがとうマリエ。こんな美味しいものを作って来てくれて」

「……別に練習だし」

「うん、美味しいんじゃない? べちゃってしてないし」

「……良かった」

 

 美味しい美味しいと言って舌鼓を打っていたら、流石に五月蠅いと叱られたものの、マリエ自身も嫌がっている訳ではなさそうだった。

 

 

────>【神山】。

 

 

 食事を終えて、長めの休憩を挟み、下山する。

 すっかり陽は傾いていて、茜さす夕空の下、後輩たちと3人で帰りのバスを待っていた。

 それにしても、結構時間が掛かるものなんだな。仮に頂上まで登っていたら、引き返す際は夜道になったかもしれない。次はもっと早い時間から登るべきだろう。

 

「よし、決めた」

 

 不意に、マリエが声を出した。

 その横で、ヒトミが怪訝そうな表情をしている。

 

「何を?」

「特訓! 頂上まで登れるようにしないと」

「えー」

 

 えー。とは言うが、拒否の言葉は続かない。

 ヒトミ自身、やるなら付き合う、というスタンスなのだろう。

 

「ほら、山の頂上で、ゴロウ先生が待ってる!」

「待ってはいないと思うけど」

 

 恐らく、疲労で幻影でも見たのだろう。

 しっかり休んでもらわないとな。

 それにしても、やる気は充分そうで良かった。

 次回はきっともっと良い登山になるだろう。

 

「ってわけでセンパイも、頂上まで登れる感じにしておいて」

「自分は構わないけれど、体力的な問題にもなるだろうけれど、決行までは時間をあけるのか?」

「うーん、そこはおいおいって感じで、よろしくー」

 

 

 ……もうすっかり、気を許したような喋り方になったな。

 ヒトミと話す際の口調と大差ない。

 一度話して吹っ切れたということだろうか。

 まあ何にせよ、より仲良くなれた気がする。

 

 

──夜──

 

 

 明日は日曜日だし、神山温泉にアルバイトに行こう。

 だとしたら今晩はバイトを避けたいところだけれど……あ、そうだ。プライベートでもゲームセンターに行こうか。

 

 

────>ゲームセンター【オアシス】。

 

 

 来てみたは良いけれど、何をしたものか。

 目当てのゲームがある訳ではない。

 どれも面白そうだけれど……そうだな、入って2階の正面にある“ゲート・オブ・アヴァロン”や“ポムっと”は頭を使うゲームのようなので置いておくとして。

 残るは“爆釣遊戯”と“みっしいパニック with まじかるアリサ”、あとは“Y’s VS 閃の軌跡”

くらいか。“Y’s VS 閃の軌跡”は家庭ゲーム版をもう持っているので止めておく。

 そうだな、今日は、“みっしいパニック with まじかるアリサ”をやろう。

 

 

 




 

 コミュ・悪魔“今時の後輩たち”のレベルが5に上がった。
 
 
────
 

 魅力  +2。
 根気  +1。


────


 本当は登山は実体験をしてから書くつもりだった(悪魔コミュプロットには“実際に登山してみてから!”書いてある)んですけど、このご時世なので出来そうにないので、少年期の頃の経験を思い出して書いています。
 実際の登山と異なるところがあればご指摘頂けますと幸いです。
 

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