PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月7日──【廊下】璃音の葛藤

 

 

 終業のチャイムを聞き終える。

 さて、今日はどうしよう。

 

 

 と、悩んでいた所、ポケットの中のサイフォンが振動した。

 

『ゴメン、今日時間あるかな?』

 

 送信者の璃音が、こちらを横目で見ている。

 拒否する理由はない。気掛かりがあるとすれば、ここ数回の外出で感じた視線、くらいか。

 ……忘れないようにはしよう。璃音に何か悪影響がなければ良いけど。

 

 

『ああ。外で待ち合わせしよう』

『オッケー、アリガト!』

 

 サイフォンを仕舞う。

 さて、出るか。

 

 

────>杜宮高校【校門前】。

 

 

 校門前で、自然と璃音と合流しようとする。

 が、校舎から出てきた彼女はどうやら電話中らしかった。サイフォンを耳元に当てて、難しい表情だ。

 

 

「う~ん、分かった。ちょっと考えてみるね」

 

 難しい、というか、困ったような顔。

 とはいえ、雰囲気はそれほど険しくない。

 

「うん、うん……ゴメン、迷惑かけて」

 

 謝罪の言葉を吐いたかと思えば、その後若干頬を緩ませた。

 

「……相変わらずだね。アリガト。……ふーん、あ、今休憩中なの? ……うん、うん…………えっ!? いや、今日はチョット……ね? いや……いやいや……うっ、そういうんじゃないケド……」

 

 こちらをチラリと見た璃音。

 何だろうか。

 

「よ、夜ね! 夜なら空いてるから! じゃっ!」

 

 勢いよく通話を切る。

 なかば自棄になって切断したようで、少し呼吸を荒くしていた。

 息を整えるように、大きな深呼吸を挟み、よしっと気合を入れて、こちらに近づく。

 

「ゴメン、お待たせ!」

「いいや。大丈夫なのか? 今の電話」

「えっ、大丈夫ダイジョウブ! 行こっ」

 

 大丈夫そうには見えなかったのだけど、まあ本人がそういうなら関与しない方が良いだろう。

 何か深刻な問題、という訳ではなさそうだし。

 

「それで、何処へ行くんだ?」

「うーん、アスカの働いてる喫茶店、かな。少し、相談したいことがあって」

「【壱七珈琲店】か。分かった」

 

 行き先と目的を打ち明けてもらい、校門から出て数歩だけ進んだ時、不意に彼女が立ち止まった。

 

「おっと、変装しないと」

 

 そう言って鞄から、帽子と眼鏡を取り出す。

 プライベートだけでなく、いつも持っているのか?

 

 

──Select──

  眼鏡だ。

  あとはマスクだな。

 >そんなに変わっていない。

──────

 

 

「そんなコトないですー……はっ、まさかまた男装の方が良いとか言うんじゃないよね!?」

「まあバレないことを前提にするならそっちの方が良いとは思うけれど、下校途中に友達と寄り道するだけでそこまで対策が必要なのか?」

「それはほら、アイドルだし。いくら休止中とはいえ、迷惑はかけられないからね」

「迷惑?」

「グループに何の貢献も出来ていないのに、いくら捏造のスキャンダルでも流されてイメージダウンさせられたら、本当にただのお荷物だから。出来ることはやらなきゃ、でしょ」

 

 何処までも、真剣な表情だった。

 それはそうか。今だって無数の視線を抱えている。その中に悪意のあるものが混じっていても、不思議はない。

 璃音個人の評判ならまだしも、仲間まで傷付けてしまう可能性があるのだとしたら、確かに彼女の取れる範囲で万全は期すべきだろう。普段から迷惑を掛けているなら、余計にそうだ。

 ……それなのにこんな中途半端な変装で良いのだろうか。立派な決意だというのに、少し勿体ない気がする。

 

「やっぱりここは男装を」

「しないって」

「眼鏡は付けたままで良いから」

「何の譲歩にもなってない!? 眼鏡をはずしたくないから断ってるとでも思ってる!?」

 

 正直なところ、輪郭を誤魔化せるのであれば眼鏡はあっても良いだろう。いや寧ろいる。必須アイテムと言って良い。

 しかし、帽子を被るくらいなら、髪形を変えられた方が良いのではないか。

 あとはメイクとか、そういった元々のパーツを残す部分を減らした方が良いとは思う。

 ということでどんな変装をするにしても、眼鏡は残したままにしておいて欲しい。

 

 

「まったく……ほら、移動しよっ」

「ああ」

 

 

────>カフェ【壱七珈琲店】。

 

 

 頼んでいた珈琲を一口飲む。

 冷たいものを飲んで、外の暑さと中和させた。

 対面の席には、同じく珈琲を飲む璃音がいる。

 彼女はふうと一息吐いて、コップを両手で挟み込んだ。

 

「相談っていうのはね、SPiKAのことなんだ」

 

 SPiKA。璃音の所属している5人組のアイドルグループ。

 璃音が休止中の間は4人で小規模なライブなどをこなしているらしいけれど、そんな彼女たちがどうしたというのだろうか。

 

「実はSPiKAって今年、結成3周年なんだけどさ。あたしがこんなことになる前、3周年記念公演をやろうって話になってたの」

「記念公演?」

「そ。とはいえ10周年みたいな区切りの良いものじゃないし、普通の周年イベントとしてのライブかな。だから大規模なものじゃなくて、中規模くらいのイベントだったんだけど……」

「けど?」

 

 彼女は、沈んだ面持ちで、言葉を紡ぐ。

 

「ゲストとしてで良いから、出てくれないかって」

「!」

「歌うのがきついなら、トークゲストとしてだけでもどうかって、言ってくれたの」

「それで、迷っていると?」

「うん。出ても良いと、思う?」

 

 璃音の瞳が、揺れている。

 珍しい。彼女がここまで自信なさそうなのは。

 それだけ深刻で、真剣ということだろう。

 彼女の必死さに対して言える、自分の答えは。

 

 

──Select──

  出るべきだ。

  出ないべきだ。

 >璃音が決めろ。

──────

 

 

「……ヒドいなぁ」

「別に自分も、いじわるで言っている訳じゃない。璃音が決めるべきことであり、自分も、洸たちも、SPiKAの方々だって、強制はできないんだ」

 

 ここで出るべきだと言ったとして、何か不測の事態が起きた場合、彼女は自分の指示のせいだと思わせないように気を遣うようになってしまうかもしれない。

 ここで出ないべきだと言ったとして、出なかったことを後悔する日が来たとして、自分に責を擦り付けないよう、必要以上に璃音自身を責めたててしまうかもしれない。

 

 どちらにしても、自分が安易な考察を彼女に伝えたところで、決して助言の責任を果たしてもらおうと彼女はしないだろう。それが自分にとっては、嫌だった。

 誰だって自分が原因で起きた事柄に対して、責任を終えないのは嫌なはずだ。

 さらに言うのであれば、その彼女が2人分の責を負おうだけで、自分の責がなくなるわけではない。

 

「璃音は、何に迷ってるんだ?」

「そんなの、休業しているあたしがどんな顔をして出るんだっていうのもあるし、そもそもまだ完治すらしてないのに出て良いのかも分からないし……その他にも、色々あるから」

「……そうだよな」

 

 ならやはり、自分が口出ししていい内容ではない。

 自分の意見としては一貫して、それは璃音が解決すべき問題だというくらい。

 考える為の手助けはしよう。一緒に悩むこともできる。

 けれども、進む先を選ぶのは、進む本人でなければならない。

 それが彼女にとって大切な“夢”に関係することなら、余計にだ。

 ただ流されるだけを良しとするなら、与えられるままで何もしないなら、岸波白野(じぶん)はここに居なかっただろう。

 ならばこそ、自分は自分の中にある結論を伝えない。

 ここで璃音に助言を行ってしまうのは、違う気がする。

 

「今の璃音にとって、何が大切なものってなんだ?」

「え?」

「璃音が何を大切にするかによって、出る出ないを決めた方がいいと思うけれど」

「大切なもの……」

「もしくは、璃音がどういう自分でありたいか、かな」

「……」

「友達を、仲間を心配する久我山璃音なら、出るべきか否か。SPiKAのメンバーとしての久我山璃音なら、出るべきか否か。アイドルを目指すとしての久我山璃音なら、出るべきか否か」

 

 きっとそうして考えた方が、分かりやすいかなとは思う。

 自分も、リーダーとしてならどうするべきか、友人としてだったらどうするべきか、ただの岸波白野個人としてならどうするべきかを考えたりして、その場その場で一番どの立場で動くべきかを決めている。

 それでも決められない時は多いけれど、大切なのは、どこに自分の気持ちの比重を置いているかということ。

 どうして自分が悩んでいるかを、特定しないと始まらないし。

 

「……」

「1つ1つ、自分で気持ちを整理していく。そうして、璃音がどの立場の璃音として行動したいかを考えるんだ。……っていう、個人論だけど」

「……ううん、参考になったよ」

 

 そういう彼女の表情は曇ったままだ。

 だけれど、悩み抜いて欲しい。

 きっとそこに使った時間は、無駄にならないだろうから。

 

「すまない、力になれなくて」

「ううん、そもそも、解決しようとしてもらったのが間違いだったんだと思う」

 

 肘を付き、手を額の前で組む彼女。

 

「あたしの夢だもんね。……あたしが決めないと、ダメだった」

「……」

「気付かせてくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

「もう少し、考えてみるね」

「ああ。それがいいと思う」

 

 その後は、普通に珈琲を飲み、普通に話して解散にすることに。

 後は、彼女が頑張るしかないだろう。

 

 

────>レンガ小路【壱七珈琲店前】。

 

 

「今日は本当にアリガトね」

「いや……」

「? どうかした?」

「…………」

 

 

 店を出てからというもの、なにか居心地が悪い。

 ……冷静に考えてみると、例の視線が向けられているのだと気付いた。

 ……さて、覚悟を決めよう。

 

「璃音、逃げる準備はしておいてくれ」

「えっ」

「そこの君たち、いい加減出てきたらどうだ?」

 

 物陰に隠れる人たちに声を掛ける。

 状況的に璃音を巻き込んでしまうが、その方が確実に捕まえられる。

 何より自分がいない状況で襲われるよりはマシだろう。

 璃音には逃走の準備をしてもらい、自分は自分でいつでも警察に通報できるよう身構える。

 

 そうして建物の死角から出てきたのは、何処かで見覚えのある少女2人組だった。

 

「げっ」

 

 璃音がその姿を見て、凄い声を上げた。

 

「君たちは……「あ、あの!」」

 

 言葉を遮り、距離を詰めてきたのは自分よりもかなり小柄な少女。

 栗色の短い髪の少女は、若干目を輝かせて、上目遣いで覗き込んでくる。

 

「お兄さんは、リオン先輩の恋人さんですか!?」

「はあ?」

「──」

 

 思わず素っ頓狂な声が出た。

 その後ろをゆっくり歩いてきた黒髪の少女が、口を開く。

 

「詳しい話を、聞かせてもらう」

「いや、ちょっ……」

 

 細腕に似合わずがっしりと腕を掴まれ、逆側は小柄な少女に捉えられた。

 あれ、もしかして追われていたのは、璃音ではなく自分だった……?

 

「なに、してるの……」

 

 璃音が呆然とした表情で、現れた2人を交互に見る。

 

「なにしてるのよー! ワカバ! アキラ!」

 

 名前を聞いて思い出した。

 この人たち、SPiKAのメンバーだ。

 

 

──夜──

 

 

 あの後、璃音が力任せに自分の腕を解放し、逃がすように追い払った。

 事態が想定していた最悪の斜め上で、言われるがままに3人を残して帰って来てしまったのだけ気掛かりだけれど……まあ、大丈夫だろう。何かあればまた連絡来るはず。

 

 一旦すべて忘れて、何か……そうだな、小物でも作るか。

 

 

 

 

 

 “小さいお守り”を作った。

 ……何か、中に入れるものでもあれば、誰かにプレゼントしてもよさそうだ。

 取り敢えず、小銭でも入れておこう。

 

 




 

 コミュ・恋愛“久我山 璃音”のレベルが6に上がった。
 
 
────
 

 魅力  +2。
 >魅力が“好青年”から“カリスマ青年”にランクアップした。



────

 璃音でシリアスを書こうとするとまったく手が進まないんです。誰か助けてください。


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