PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月2日──【神山温泉】路上ミュージシャンの旅

 

 

 今日は日曜日なので、神山温泉へとアルバイトをしに来た。

 前回の連勤からそう日を開けずにやって来たため、利用客の多さを少し警戒していたけれど、なんてことはない。普通の日曜日……よりも若干多いくらいだった。

 どうやら自分たちより少し年上──つまりは大学生たちが多いらしい。義務教育の子どもたちより一か月休みが長いと噂の彼らは、高校生以下の人たちの夏休みが終わる9月以降に旅行に来ることも多いのだと、女将さんから聞いた。

 ともあれ、前回の七日間で鍛えられた体力や根気は、少し忙しい程度の仕事に負けはしない。

 特に何事もなく、仕事を終えた。

 途中の休憩で、ほぼ同期の先輩に“歴史で紐解くTOKYO郊外”なる本を頂いたことくらいだろうか。暇なときに読んでみよう。

 

 

──夜──

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

 帰り道。

 昨日のことが気になって、つい寄り道で駅前広場に来てしまった。

 そこではやはり、おちゃらけた服装の男性が、今日もギターをかき鳴らして歌っている。

 

 ……そうだ、何か差し入れでも買って行こう。

 何にしようかな。

 

 

──Select──

  お、しるこ!

  後光の紅茶

 >モンタ

──────

 

 

「なんや、また来てくれたんか」

「こんばんは。これ、差し入れです」

「おお、おおきに!」

 

 先程自販機で購入したモンタを差し出すと、彼はすぐさま開けて目の前で飲み干していった。

 

「かぁ~っ! これめっちゃ好きやねん! ありがとうな!」

「いえ、喜んでもらえて良かったです」

 

 何となく、元気な歌詞を歌い上げる彼にはこれが一番合っている気がしたのだけれど、間違っていなかったみたいだ。

 

「えっと、確かハクノって言うたよな、キミ」

「はい。岸波 白野です」

「固い固い! もっとフレンドリーにしたれや」

「?」

「敬語はいれへんって言うとんねん」

 

 いれへん。要らないということだろうか。

 見るからに年上だけれど……まあ、オサムさんが直接言うのだから、その通りにしよう。

 

 

「それで、キミは今日何をしとったんや」

「温泉旅館でアルバイト」

「バイトか。それも温泉で! ええな!」

「ちなみにバイト後は一浴び無料だ」

「最高やないか!」

 

 聞いてみると、オサムさんは温泉が好きらしい。

 なんでも全国を回る際に、行きたい温泉だけはしっかりと決めて計画立ててるのだとか。

 

「そもそも何で全国を回っているんだ?」

「それはな、最高の曲を書こな思ったからや!」

「最高の曲?」

「ああ。いろんな出会いをネタにしながら、全国を回って、最後にはそれを1つの曲にする。どうや!?」

「それは……とても良いと思う」

「やろう!?」

 

 

──Select──

 >東亰ではどんな出会いが?

  自分との出会いも曲に?

  各地で出会う女性との歌か。

──────

 

 

「まだ来て日は浅いが、今のところ一番は、キミとの出会いやな」

「自分?」

「ああ。正面から応援してくれる高校生はなかなかおらへんからな」

「……そういうものか」

「ああ。出会いに感謝や! また1つええ歌になったで!」

 

 自分との出会いに限らず、旅で得た物を纏める。エピソードを凝縮して、1つの形にする。

 それが素晴らしいことでないわけがない。

 全国を長い時間かけて回っていれば、良いことだけでなく、悪いこともあるはずだ。

 でもその出来事が、曲をより良いものに変えると思えば、曲の価値を上げる為だと思えば、また次の旅も楽しくなる。きっとそういうものだと思う。

 

「良いですね。本当に」

「ん? 何がや?」

「旅、とか、そういうのかな」

「そか。旅はええで! キミも大きくなったらやってみるとええ!」

「そうですね」

 

 いつかは、そういう自由が認められるのであれば、色々なところを見て回るのもいいかもしれない。

 いや、北都グループ的にはそういうのを認めてくれるかもしれないな。現会長の発言を思うに。

 

『誰かと関わり、理解し理解されること。何かを学び、何かに活かすこと。積極的に働きかけ、物事を動かすこと。色々な経験が糧となり、そのすべてが、その人間を構成する価値となる』

 

 すべては自分の価値を高める為。オサムさんにとっての、歌を良いものにするためと同じようなものだ。

 高校を卒業する前には、一度相談してみてもいいかもしれない。

 

「ええ顔しとるな」

「はい?」

「希望を見据える明るい顔や! 何かええことあったんやろ?」

「良いこと……そう、だな。あった。ありがとうございます」

「そか。なら良かった!」

 

 一日一善やな。と笑って、彼は数回ギターの弦を弾いた。

 

「ほな、ぼちぼち再開するとしようか。今日も聞いていってくれるか?」

「勿論」

「おおきに。それじゃあ、行くぞ!」

 

 

 ギターの音に身を揺らし、彼の言葉を耳に入れていく。

 リサイタルは数分と続いた。しかしオサムさんがふと何かに気付いて、区切りを作って音を止める。

 こちらの方を向いたかと思えば、もうどんくさい時間や、ぼちぼち帰りな。とライブを中断して言ってくれた。

 明日も学校がある。というか、明日からさっそく授業も本格化する。確かに早く帰った方がいいだろう。まだ聞きたい気持ちもあるけれど、今日は大人しく退散することに。

 でも、また聴きに来よう。

 心から、そう思えた。

 

 




 
 
 コミュ・節制“路上ミュージシャン”のレベルが2に上がった。
 
 
───


 優しさ +3。
 >優しさが“普通に優しい”から“生粋の善人”にランクアップした。


────


 アップデートファイル、1.1.2のご連絡です。
 平素より当作品をご閲覧いただき、誠にありがとうございます。
 今回のアップデートにより、人格パラメータのランクアップに必要な経験値が減少致しました。
 既にランクアップ経験値へ到達している場合、次回経験値取得時にランクアップとなります。
 今後ともよろしくお願いいたします。


 つまりは初期設定ミスで、このままいくと12月までに4にすら行かないパラメータも出てくるので、修正させてくださいということです。多分誰もデータとか取らないでしょうけど、黙って修正するのも気分がよくなかったので報告させてください。完全にただの自己満足です。

 
 
 

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