PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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インターバル 5
9月1日──【夢】路上ミュージシャンとの邂逅


 

 夢を見た。

 欠方の夢だった。

 

 ダンジョンのような所にて、多くのエネミーとの戦いを続ける主従。

 そしてそこから帰ると、以前救出した少女に会いに行く。

 とある日には対戦予定の相手に遭遇し、急な試合を仕掛けられることも。

 そんな中で、彼方の岸波白野は変わらず狐耳の女性との仲を深めていった。

 対戦相手は狂気に飲まれているかのような、言葉は交わせても意思の疎通が出来ていないようにも見えた。

 その敵と比べ、彼は彼の相棒との間にある絆が勝っていると信じ、前進を続ける。

 

 そして、ついに訪れる決戦の時。

 激闘の末、妖狐の術は敵の身体を打ち抜いた。

 それもすべては自身の相棒や、助けた少女からの後押しのお陰だろう。

 岸波白野はこの戦い、この一週間を通して、彼らの有難みを深く知った。

 例え夢や目標が無くても、支えてくれる人が居続る限り、前へ進み続けることができる。

 

 彼は淡い光を瞳に灯して、次の対戦者の名前を読み上げた。

 

 

──── 

 

 久し振りに会うクラスメイト達に挨拶をし、始業式を終え、宿題等を提出し終えた日の午後。

 今日は午前授業の為これにて帰宅となるのだけれど、午後が丸々空いてしまうというのはもったいない。

 しかし今日は部活がなく、1回目以降お願いできていない九重先生の個人授業も、彼女が忙しそうで頼めない。

 ……そうだな、校内を適当に歩いて、会った人が暇だったら誘ってみよう。

 

 

────>レンガ小路【ノマド】

 

 

 偶然校内で出くわした後輩たちに捕まるようにして、レンガ小路のブティックへと足を運んだ。どうやら彼女たちは空いた午後を買い物に費やすつもりらしい。

 自分は荷物持ち兼相談役、なのだとか。

 色々と意見を求められながら、荷物を持って行ったり来たりを繰り返す。

 その後はレンガ小路のみでは終わらず、駅前広場のショッピングモールへと足を運んで買い物の続き。終わった頃には日が半分ほど沈んでいた。

 それでも、今日はありがとうと言ってくれた2人が楽しそうだったので、その点は良かったと思う。

 

 

──夜──

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

 駅前広場を歩いていると、どこからか音楽が聴こえてきた。

 ノリのいい声の出所を探れば、駅の出口付近で、ギターを片手に歌っている人を発見する。

 その人は、何と言うか、弾けた髪形をしていた。

 歌っている最中の男性が、向けられている視線に気づいたのか、自分の顔を見て捉える。

 数秒目が合うと、彼はニカッと笑った。

 ……何で笑われたのだろうか。

 

 

 曲が終わる。いや、今の彼の語りを曲として表現してしまって良いものかは、正直悩む所だけれど。歌った内容は歌詞というよりは、日記? 思ったことや伝えたいことを捻ることなくぶつけてくるものだ。

 だけれど、それゆえについ聞き入ってしまった。

 歌詞は意味がわからないというよりは、意味が分かりやすすぎるほどにストレート。悪く言えば安直。だがそれだけに、想いは伝わりやすいのだろう。

 聴いている人は……いないな。熱い曲だと思うけれど、人気がないのだろうか。

 だけれど彼は、道行く人や近くで立つ人などへ、おおきに、おおきにと頭を下げる。それを数回繰り返しながらまっすぐ前進し、やがて自分の前へとやってきた。

 

「キミ、杜宮の人間か?」

「え、はい」

「そうかそうか! オレはオサムちゅうんや。キミは?」

「岸波 白野です」

「ハクノか。えらい真剣に聴いてくれてありがとうな」

「いいえ。良い歌をありがとうございました」

 

 なんて言うか、元気の出る歌だったと思う。

 璃音たちのようなアイドルや歌手がテレビで歌う歌が、心に語り掛けてくる音だとすると、オサムさんの歌は心に殴りかかってくるような。世間一般で耳にするような曲とはまた違う色だった。

 シンプルゆえ、強烈で力強い感情が伝わってくる。

 それに、普通に声は良く、ギターは上手い。歌は上手い。何が足りていないかは分からないけれど、あと少し噛み合えばとても評判がよくなりそうだ。

 

「おおきに! 東京の洗礼はキツいと思ったけど、そう言ってくれると素直に嬉しいなぁ。これからも暫く杜宮でお世話になるつもりなんや。どうぞご贔屓に頼みますわ」

「今日はもう終わりですか?」

「せやなぁ……今日はもうなおすところやったけど、特別出血大サービスや。もうちょいやってくわ!」

「! ありがとうございます」

「こちらこそ。ほな、行くで……!」

 

 再びギターをかき鳴らし、想いを吐き出していく。

 それを最前列で、ただ1人聞き続けた。

 

 

 その曲が終わると、また彼は笑顔を作りながら、おおきに。と頭を下げる。

 

「どうやった!?」

 

 若干目を輝かせながら、自分のもとへ話しかけてきた。

 

「良かったです」

「くぅ~!」

 

 震えるように喜びを露わにするオサムさん。

 自分の言葉でそうして喜んでもらえると、嬉しい。

 ……自分の歌を良かったと言われた彼も、こうして嬉しい気持ちになったのだろうか。

 

 その後も少しだけ話したけれど、やがて、夜もとろいからぼちぼち帰りなとオサムさんは自分を帰らせようとした。

 彼の言う通り、良い時間帯だ。明日に備えて今日はもう帰るべきだろう。

 そうして歩き出し、十秒ほど。背後から大きな声が聴こえてきた。

 

「……やっと、ようやっとオレの歌を理解してくれる人が来よった! この調子でガンガン行くで!」

 

 気合を入れるような大声。

 自分との会話が、彼にとってやる気に繋がったのなら、それは良かった。

 帰れと言われた以上、留まることはしないが、彼にもう一度だけ礼をする。

 彼も大きく手を振りながら、笑顔を浮かべて。

 

「また聴いてくれ! ほなな!」

 

 と挨拶してくれた。

 

  

 路上ライブを通して、新たな縁の息吹を感じる。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“節制” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

────

 

 

 ……再び響いて来る音楽を背に、家へと帰ることにした。

 

 

 

 




 

 コミュ・節制“路上ミュージシャン”のレベルが1に上がった。
 節制のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


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