PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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8月17日──【マイルーム】祐騎の原点

 

 

 金曜日。異界攻略を明日に控え、残すは心の準備のみとなった。

 ……誰かに、会いに行こうか。

 きっと何をしても手に付かないだろう。それなら、誰かと話したりしている方が余程有意義なはずだ。

 

 

 

────>杜宮記念公園【祐騎の部屋】。

 

 

「それで、僕のところに来たの?」

「ああ」

「……ま、期限を決めてる以上何かを言うつもりもないけどさ」

 

 そう言い通つも祐樹は若干不満そうだ。その不満の向き先が、異界探索前にふらふらしていることなのか、それとも急な来訪に対してなのかは分からないが。

 インターホンを鳴らしたものの最初はまったく応答せず、仕方なくサイフォンに連絡してみると、普通に出迎えにやって来た。

 居留守だったのかと問うと、来客の予定はなかったからねと答えが来る。アポイントが必要だったとは思わなかったが、よくよく考えれば普通の事だろう。街中でばったり出会って遊ぶのとは訳が違う。次からは気を付けなければ。

 

 出迎えに出て来てくれた祐騎の姿に、少し違和感を覚える。

 少し注意深く見てみると、違和感の出所が分かった。ヘッドフォンだ。

 いつもは首から下げているだけのヘッドフォンを被っている。音楽を聴いていたのかもしれない。確かに来客音は聴こえなさそうだし、対応はできないだろう。サイフォンの連絡に気付いてくれて良かった。

 

 

──Select──

  何を聞いているんだ?

 >おしゃれじゃなかったのか。

  いつもと違うヘッドフォンだな。

──────

 

 

「え、何が……ああ、これ(ヘッドフォン)のことか」

「いつもカラフルなのをしているから、てっきりファッションの一部なのかと」

「自分で言うのも何だけど、僕が他人からの印象を気にすると思う? 誰に何を思われたいから何かを行動する人間だと?」

「……いや、祐樹は割と他人の為に行動している気がするが」

「……そ、そんなことないっての。節穴すぎるでしょ」

 

 若干照れたようにヘッドフォンを首から外す。

 

「まあヘッドフォンは普通に趣味だよ。高性能の機械で快適な生活をが僕のモットーだし」

「快適な生活?」

「できないことに対するストレスって死ぬほど嫌いなんだよね。ことヘッドフォンなら、良い音質を保てて、重低音が結構カバーできてて、かつ軽い、が理想かな。再現されない音があるっていうのも気持ち悪いし、かといって音質がどれだけ良くても、外で自由に使えなければイラっとくるから。重いと肩凝るし首疲れるし。持ち運びに便利、聞いてて嫌な感じがしない、っていい感じに折り合いついてる製品がこれってワケ」

 

 持ってみてよ。とオレンジ色のヘッドフォンを手渡される。

 ……見た目に反して確かに軽い。確かにずっと頭や首に掛けておくもの。重いものを選ぶわけにはいかないのか。

 ハイクオリティで軽量化。まさに先進技術。

 良いものが生活を豊かにし、豊かな生活は心にゆとりを齎し、ゆとりを持った心は他者に優しさを振る舞う。

 事実、高級品嗜好に見える祐騎は、良いものをそろえることで心にゆとりを齎しているらしい。

 祐騎の優しさの秘密が少しだけ分かった気がする。

 

 

「……うん、凄いな」

「でしょう? いやぁ、分かってくれる人が居てくれて嬉しいよ」

 

 きっと感心している内容はお互い違うのだろうが、恐らくそこは些細な問題だ。過程に感想を抱くか、結果に感想を抱くかの違いだし。

 

 リビングに着くと、相変わらずのモニター数に圧倒された。

 そういえば、彼の私生活について詳しく聞いたことはなかったな。半家出状態とはいえ、家賃とかどうしているのだろう。

 

「しかし、そういうのを買うお金はどうしてるんだ? 父親から?」

「唐突に嫌なこと言わないでくれる? 普通に稼いでるよ。そこら辺はバイトをしてるハクノセンパイやコウセンパイと同じだし、久我山センパイとも同じ」

「バイト?」

「ま、ネットを使ったビジネスってやつ。色々話があって面白いものさ」

 

 聞くところによれば、ネット界の便利屋のようなものをしているらしい。

 それが主、というだけで株の売買など色々なことに手を出しているとのことだが、自分でお金を稼げるというのは尊敬に値する。

 きっと自分のバイトをする感覚とは違うのだろう。

 ただ、便利屋という一側面を意識すると、自分と祐騎、それから洸は不思議な関係に見えてくる。自分は極稀にではあるものの、3人とも普段色々な依頼を請け負う立場に居るということだから。筆頭は恐らく洸だけど。

 

「便利屋、かぁ」

「どうしたのさ」

「……いいや」

 

 いっそのことみんなで便利屋を出来たら、もっと大きな事ができるだろうし、面白いだろうなって。

 ただ、それをこの場で言うと、祐騎はすごく嫌そうな表情をするだろう。……結局は賛成してくれそうな気もするが。

 それでも、提案するからには快く受け入れてもらいたい。もっと具体的な案を詰めていくべきだろう。そのうち洸や璃音、柊、空にも相談してみたい。

 個人個人で得意な場面が違うし、何よりみんな良い人だ。きっと上手くいくと思う。

 ……この際だ。祐樹の“得意”を突き詰めてみるか。

 

「祐樹はいつからネットとかそういうのが得意なんだ?」

「生まれた時から」

「そ、そうか」

「冗談だよ。意識したことはなかったけど、多分……小2とか3とかの時かな」

「大分前なんだな。きっかけとかあったのか?」

「まあね。……なんだと思う?」

 

 何だろうか。

 もしかしたらずっと前に聞いているかもしれないが。

 

 

──Select──

  調べるのが面白かった。

 >知らないことが苦痛だった。

  思春期。

──────

 

 

「せいかーい。まあ、苦痛っていうと大げさかもだけど」

 

 まあそこら辺に座りなよ。とソファを指差す祐騎。

 どうやら、詳しく教えてくれるらしい。

 

「さっきも言ったよね。“できないことに対するストレス”が嫌だって。やりたいことがあるのにやりかたが分かんなくて、何もできないのが堪らなく嫌だった。他人が知っていることを、自分が知らないのが恥ずかしかった。始めはそんな、プライドから始まったんだと思う」

 

 四宮 祐騎の原点。

 苦痛とまではいかないが、彼は幼少期から無力感に苛まれてきたようだ。

 きっとそこには親の教育も関係してくるのだろうが……まあ、あまり蒸し返すべき話題でもない。それに一応その問題は解決しているのだ。やはり口を出すのは止めておこう。

 

「まあでも、始まりこそは負の感情だったけどね。やってみると楽しいものだったよ。新しいことを知ることができる。好きなだけ調べることができる。やがて新しいものを生み出したり、或いは誰かの先に行ったりして、きっと普通に学校でだらだら過ごしてたんじゃあり得ない充実感を得た」

 

 昔から目標意識があって、勉学にも挑戦にも意欲的だったのなら、確かにそう思ってしまっても仕方ないかもしれない。

 学校が挑戦をサポートするにも、限度があるだろう。それにネットというと、世間一般には便利だけど危険なものという意見が蔓延している。

 そういう意味で、独学でそれを続け、才能を開花し、活かし続けてきた祐騎は正しい。

 だが、正しいだけではないだろう。

 

 

──Select──

  得られるはずだったものは?

  それで満足しているのか?

 >……(踏み込まない)。

──────

 

 

「……分かってるよ。その代わりに、僕にはコウセンパイのような横の繋がりはないし、郁島みたいに縦の繋がりはない。久我山センパイは一般人枠じゃないから比べる必要がないとして、柊センパイやハクノセンパイは……まあ似たようなものか。まあとにかく、犠牲にしたものは確かにあったんだ」

 

 しっかり、自分でも気付けていたらしい。

 足りないものと向き合うことから逃げない強さ。それを持っている祐樹はこれからも成長を続け、より凄い人になるだろう。

 

「ま、そこら辺はミンナのお陰かな」

「え?」

「なんでもないよ! それよりほら、せっかく来たんだ。ゲームでもしていかない?」

 

 自分たちの、お陰?

 そうなのだろうか。いまいちピンと来ないが。

 

 まあ何にせよ、彼が自発的に話すターンは終わったらしい。

 小型モニターをひとつ抱えて持ってきた彼は、そそくさとゲームの準備を始めている。

 これ以上は詮索しない方が良さそうだ。

 

 ゲームか。まあ自分も日々成長しているはずだ。少なくとも経験は溜まって行っているはず。

 ……今日こそ祐騎に着いていってみせる。

 

 

 

 

「ダメダメ! 何やってんのさ! ほら下がって! あーもう!!」

 

 

 全然だめだった。

 

 

 

──夜──

 

 

「さて」

 

 

 明日は異界探索だ。

 きっと決戦になるだろう。

 何か、やり忘れたことはなかったか?

 

 

 ……特に無さそうだし、また装飾品でも作るか。

 

 「……うん」

 

 “平凡な巾着袋”を作った! しかしやはり、何に使うかは分からない。

 いや、でも基本を確実にこなしていくのは悪くないはずだ。

 この調子で頑張って行くとしよう。

 

 さて、そろそろ寝ようか。

 

 




 

 コミュ・運命“四宮 祐騎”のレベルが4に上がった。


────


 優しさ +1。
 魅力  +1。
 根気  +1。
 
 
────



113-1-1
──Select──
 >何を聞いているんだ?
  おしゃれじゃなかったのか。
  いつもと違うヘッドフォンだな。
──────

「作業用BGM」
「作業用……?」
「集中したいときに流す音楽だよ。メドレーになってるから曲切り替えなくて済むし、1セットが長いから1時間くらいは操作が必要なくてね。長期戦にオススメ」
「へえ、今度聞かせてもらっても良いか?」
「いいよ。なんなら部屋で流しておく」

 →♪1。

──────
113-1-3。
──Select──
  何を聞いているんだ?
  おしゃれじゃなかったのか。
 >いつもと違うヘッドフォンだな。
──────

「え、いつもと同じだけど」
「……」

 しまった。新鮮に見えるだけで同じだったか。

「すまない」
「別に、他人の見る目なんか気にしてないし、ちゃんと見られてなかったとしても気にするほどのことじゃない」

 そういう彼の表情は寂しそうで、自分はひどい間違えをしてしまったんだと痛感した。

 →♪なし。流石にコミュリバースまでとはいきませんが、祐騎君に傷を付けるだけなのでおやめください。

──────
113-2-1。
──Select──
 >調べるのが面白かった。
  知らないことが苦痛だった。
  思春期。
──────

「まあそれもなくはないかな。新しいものを得るって新鮮だし、やみつきになるのは間違いないけど」

 その気持ちはすごく分かる。
 発見というのは楽しいものだ。だから人は学び、考えていくのだろう。

「けど、始まりは違うよ。そうだね、ただストレスを許容できなかっただけ、ってとこかな」

 →本文と同じ流れに。

──────
113-2-3。
──Select──
  調べるのが面白かった。
  知らないことが苦痛だった。
 >思春期。
──────

「は、ハァ!? ちょっと何言ってんの!?」
「いや、男の原動力といえば……」
「頭湧きすぎでしょ! 小学校低学年の頃の話だって言ってんじゃん! だいたい思春期に無縁そうなハクノセンパイが男の原動力とか似合わなすぎる」
「失礼な」

 覚えてないだけで、思春期はあったはずなのだ。
 普通はあるものらしいし、きっと。決して無縁ではなかったはず。

「というか、何をもって無縁だと?」
「人畜無害そうな顔」
「失礼な」


 →軽度な中二病は患っているかもしれない。ちなみに反抗期はなかった。

──────

 最後の選択肢はどれを選んでも変わりないので省略。
 それではまた次回。





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