PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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8月16日──【マイルーム】小日向たちと買い物

 

 

 次回の異界攻略は、2日後となった。

 準備と、休息に1日ずつ取ろうという話になり、今日がその休暇の1日目。

 晴れているし、スケボーでもやりに行こうかとも思ったが、そんな過ごし方では休息と言えないだろう。

 ……取り敢えず、買い物にでも行こうか。

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

「小日向? それに、伊吹も」

 

 駅前広場を歩いていると、同級生たちの姿を発見した。

 友人の友人、という立場の彼らだが、どうやら自分のことを覚えていてくれたらしい。

 

「おっ、岸波じゃねえか」

「岸波君、久し振りだね」

 

 最後に会ったのは、夏休みに入る前だっただろうか。

 伊吹に関してはもっと前だろう。どんな話をしたかも記憶にない。

 

 だが、不思議とほとんど久し振りという感じもしなかった。

 洸に倉敷さん、空からもたまに、彼らの話を聞くことがあったからだろうか。

 

「2人は何を?」

「暇つぶし」

「そうか」

 

 ……会話が終わってしまった。

 まあ良いか、買い物の続きにでも行こうか。

 

「あ、そうだ、岸波、この後空いてるか?」

「「えっ?」」

「メンツは多い方が助かるしな」

 

 ……どうやら何かをしに行くらしい。

 どうしようか。買い物は後回しでも良いが。

 

 

──Select──

 >行く。

  行かない。

──────

 

 

 せっかく誘ってもらったのだ。行くに決まっている。

 

 

「よし、じゃあ駅に行くぞ」

「遠出するのか?」

「いや、駅中に用事があるんだよ」

「?」

 

 まあとにかく、着いていくとしよう。

 

 

 

────>杜宮駅構内【特販ショップ】。

 

 

「最初は少し驚いたけど、よくよく考えてみれば、案外そんな驚くべきことでもなかったかな」

 

 目的地に向かっている途中、小日向が話しかけてきた。

 

「何がだ?」

「岸波君を誘ったことが、だよ」

「……ああ、なるほど」

 

 なるほど。

 確かに。

 

「あの時、仲直りしたんだもんね」

「ああ、伊吹が本気で謝りに来てくれた時だな」

「ハハハ……まあ、2回目がどんな感じだったのかは分からなかったけど、最初のはリョウタの一方的な言いがかりだったしね」

 

 最初の接触時を思い出して、小日向と2人、苦笑いを浮かべる。

 だがその後、伊吹が頭を下げに来てくれたこともあり、遺恨も残らずに終わったのだ。

 

「あんな真っすぐに人に謝れるなんて、リョウタは本当にすごい」

 

 眩しいものを見るかのように、伊吹の背中を見詰める小日向。

 その目は、何を意味しているのだろうか。

 

 

──Select──

 >謝りたい人が居る?

  リョウタみたいになりたい?

  ……(首を突っ込まない)。

──────

 

 

「えっ」

 

 少し目を丸くしてこちらを見てくる小日向。

 そんなに驚かれるようなことを言っただろうか。

 

「ああ、うん……ごめん。そうだね……生きていれば、誰だって誰かに謝りたくなるものでしょ」

「そうか?」

「そうだよ。僕は君にだって謝りたいことが幾つかあるんだ」

「それは?」

「それは、例えば……」

 

 貼り付けた苦笑のまま、自分から目線を外し、前方遠くを見て、彼は口を開く。

 

「リョウタの、こんな用事に付き合わせて、ゴメンってこととか、かな」

「え?」

 

「うおおおおおっ!」

 

 どういう意味か聞き返そうとした時、自分たちの会話を遮る咆哮があがった。

 

 特別販売ショップ、というらしい。

 駅構内で、まるで展示するかのように絵を並べていたり、お土産屋のように多種多様な製品を1つの棚に陳列している、そんな臨時販売店。

 目に入る場所に掲げられた幟を見ると、どうやら今日が開店初日らしかった。

 どうやら伊吹はここに来たかったらしい。

 

 その幟に書いてある店名は、“SPiKAグッズ特販会”。

 

「すげええ!」

 

 確かに凄い。

 すごい人だかりだ。

 平日のお昼だというのに、老若男女多くの人々が集まっていた。

 最も多いのは自分たちと同じ高校生、もしくは大学生くらいの年齢か。どちらかと言えば女子の方が多い気もする。

 

「うぉおおおお! 待ってろよお宝!」

 

 伊吹は、その人混みに今にも突撃しそうだった。

 

「ちょっと待ってリョウタ! 僕らは何をすればいいの!?」

「数量限定品とポスターを手分けして、それぞれ“1万円になるように”買ってくれ! あ、岸波は自分の分買うなら袋は別で頼むぜ!」

「ああ……」

「じゃ、任せたぜ!」

「えっ、それだけ!?」

 

 小日向が止めようと手を伸ばすも、彼の背中は徐々に人々の中へと埋もれていく。

 何も掴めなかった手を下ろした彼は、仕方ないなぁと苦笑いし、こちらへ振り返る。

 

「それじゃあ、僕たちも行こうか」

「ああ」

 

 まあ、何か良いものがあったら買ってみよう。

 

 

──Select──

  デザイン腕時計。

  サイン入りブロマイド詰め合わせ。

 >曲入りオルゴール。

──────

 

 ……自分用にもこれを1つ買って行こうかな。

 

 

────

 

 

「あれ、お帰り」

「小日向。早かったんだな」

「まあね。何を選ぶべきか少し悩んだけど、リョウタの好きそうな物は幸い分かりやすかったし」

 

 ……よくよく考えたら、3人でお互いが買うものを知らない状態で、被らないように買い物するというのは、ものすごく高難易度なのではないだろうか。

 

「ちなみに、岸波君は何を買ったの?」

「自分はこれだな」

 

 先程購入したオルゴールを出す。

 実際に鳴らしてみると、結構綺麗な音で彼女らの代表曲が流れてきた。

 それも恐らく、オルゴールに会うよう調整されているのだろう。聞き覚えのある曲だが、知っている顔とはまた別の一面を見せてくれる。

 

「へえ、良い音色だね」

「ああ、買ってよかった。小日向は何を買ったんだ?」

「僕は、これ」

 

 小日向が取り出したのは、何かタブレットのようなもの。

 

「デジタルフォトフレーム。今までのライブの写真とかが流れるんだって」

「流れる?」

「うん。単純に言うと、普通の写真立てに入っている写真が画像として映っていて、一定時間ごとにそれが切り替わる感じかな」

 

 写真立てのデジタル版。それも、1つの絵だけでなく複数の絵を同時ではないにしろ飾れるということか。

 ハイテクだな。

 

「リョウタ、昔から結構ライブとか行ってたし、こういうのがあれば思い出が蘇って良いんじゃないかなって」

「良いと思う」

「そう? ありがとう」

 

 写真か……そういえばあまり撮ったことがないな。

 だが、当時の写真を見れば、フラッシュバックすることは確かにあるのだろう。それがたくさんの写真だとすれば馳せられる時間も長くなる。

 特に楽しかった思い出なら、回想に耽って悪いことなんてないだろう。

 

「おーい、2人ともーっ!」

 

 伊吹が声を上げて歩いて来る。

 振れないほど両手いっぱいに荷物を持ったまま。

 

「お、おお荷物だね、リョウタ」

「おう! なんたって期間限定だからな!」

 

 確かに、限定メニューなどと表示されていれば無性に買いたくなることはある。分からない気持ちではない。

 だからって買いすぎだとは思うが……まあ、個人のお金だ。使い道は稼いだ者の自由だろう。

 

「リョウタ、よくそんなにお金あったね」

「伊達に夏休み家の手伝いやってないからな! 少しは前借りしてるけど、まだ数週間休みはあるし」

「あれ、家のお手伝いって、お金貰えるんだ」

「夏休みとかで一日やってれば少しくらいはな!」

 

 まあ、それだけやってもらっておいて何もなしでは、流石に続かないだろう。ご両親もそれは分かっているだろうし、何よりも理由があったとしても息子が手伝ってくれるのは嬉しいのではないだろうか。

 

「小日向はバイトとかしてないのか?」

「不定期だけどやってるよ。そんなにガッツリやってるわけじゃないけど」

「まあジュンの場合1人暮らしだし、掛かる金も俺らとは段違いなんだろうけど」

「それを言ったら岸波君もじゃない?」

「あれ、岸波って1人暮らしなのか?」

 

 伊吹の問いに頷きを返す。

 ……あれ?

 

「小日向に1人暮らししてるって言ったか?」

「ううん、僕はほら、岸波君の近くに住んでるし、まあコウ達から聞いた情報を断片的に繋げた結果、そう考えたんだけど……間違ってたかな?」

「いいや。その通りだ」

 

 洸が何を話したのかは分からないが、まあ日常生活で話題に上がることもあるのだろう。

 ……どんな話題であれ、友人の口から自分のことが語られているのは、少し嬉しい気がする。

 

「……それで伊吹、どうして1万円だったんだ?」

「ん? ……おお、忘れてたぜ! 2人とも、レシート出してくれ」

 

 伊吹に言われて、それぞれ財布からレシートを取り出して渡す。

 何かを確認するように眺めると、満足そうに笑顔で頷きだした。

 

「いやー。1人1日1万円以上のお買い上げで引換券が貰えるって話だったからな。3人いれば3枚ってことで、協力してもらったってワケだ!」

「そういうことか」

「じゃ、俺はこれでクジ回してくるから! それじゃっ!」

 

 元気に走っていく伊吹。

 荷物は目の前に置いていったみたいだ。

 ……取り敢えず通路端に避けておこう。

 

「ね。大した用事じゃなかったでしょ」

「いや、役に立てたなら何よりだ」

「……優しいんだね、岸波君は」

「小日向だって、付き合ってるだろ」

「ボクはほら、友達だし、時間が余っていたから」

「なら自分は、友達になりに来たし、時間が余っていたから、ということにでもしておこう」

「……変なの」

 

 くすり、と小さく笑った小日向。

 だが決して、呆れているような笑みではない。

 彼が浮かべる呆れを含んだ笑みは、こう……例えば、両肩を落として返ってきた伊吹に今向けているようなものだ。

 仕方ないなぁ、と口で言いつつも、楽しんでいて、けれどもどこか薄暗い笑み。

 小日向はたまにそんな笑みを浮かべることがある、気がする。

 

「……? どうしたの岸波君」

「なんでもない」

 

 まあ、思い違いかもしれないし、今は気にしないでおこう。

 

 重い荷物を全員で分配し、商店街へ。

 伊吹の家に置いた後、そのまま彼らと別れるように解散した。

 

 

──夜──

 

 

 さて、今日はゲームをしよう。

 『イースvs.閃の軌跡 CU』の、続き。前回に引き続き、今回もキャラをすべて解放することを目標に頑張ろう。

 

「……」

 

 条件付きバトルに挑む。

 クリアできれば新キャラが解放できそうなシナリオだが、相手は作中で明言されている強キャラ。

 さて、どう挑もうか。

 

 

──Select──

 >いつも通りこつこつ削る。

  大胆に攻めてみる。

  コンティニュー前提で弱点を探してみる。

──────

 

 

 まあ、何かを変える必要はない。

 出来ることを確実にやっていけば、勝ちは掴めるはずだ。

 

「…………っ。……? ……!! ッ! ……ふぅ」

 

 ……なんとかクリアできた。

 やり直し前提の難易度という程ではなく、どちらかと言えば正直大胆に攻めた方が楽だったかもしれないくらいの、持久戦。

 だが、おかげで根気が身に付いた気がする。

 

 それにしても良いシナリオだ。人の繋がり、というものを感じさせてくれる。早く続きが読みたくて仕方がない。

 キャラ未開放の欄数を見る限り、まだまだ先は長そうだ。

 また今度も頑張ろう。

 

 

 

 




 

 コミュ・正義“小日向 純”のレベルが3に上がった。


────


 優しさ +2。
 根気  +2。

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