閲覧ありがとうございます。
気付けばページ数が2桁いってました。
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地の文過多かもです。どうぞ。
──潰されるかと思った。
いや、未だに押し潰されそうである。
自己紹介を終えた後の、授業を挟んで訪れた休み時間。
漸く一休憩かと思った矢先に、周囲から思いっきり詰め寄られた。
理由はもちろん、
編入してきた人物がアイドルと知り合いなんて、興味の的にされて当然だ。ほとんどクラス全員に囲まれるとは思わなかったが。
チラリ、ともう片方の当事者へ視線を向けると、困ったように笑ってからウインクされた。いや、そうじゃない助けてくれ。
まあ、有名税を利用した罰である、というなら致し方ないような気もする。
折角だし、文句ついでにCDの感想を伝えたい所だが……この勢いでは無理だ。
昼頃になれば大方の釈明も終わり、自由な時間が取れるはず。
せいぜいそれまでの辛抱だろう。
────
時は進んで放課後。
そう、放課後である。
自分に安息の時間なんてなかった。
確かに昼頃、クラスメイト達の勢いは収まった……気がする。
しかし、次に待ち構えるは同学年の生徒。その後ろには他学年生。
もの凄い人混みがクラスに殺到しており、他クラスのファンや新聞部を名乗る女生徒などは特にしつこかった。濃いファンなんて、周囲の連れに窘められるか、うちのクラスの生徒に摘まみ出されるかしていたし。
とにかく、大変だった。
多くの人と話すのは良い経験だったが、話した内容も釈明で終わったし、彼女本人には結局一言も掛けられていない。
玖我山 璃音。
彼女についての噂・実態は、図らずとも釈明の途中で多く手に入れることとなった。
曰く、飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子アイドル。
曰く、飾らない性格の親しみ易い子。
曰く、忙しすぎて最近滅多に登校していない。
そして、耳に入るのは良い噂だけではなかった。
誹謗中傷、根も葉もない悪評は周囲の信者に揉み消されていたが、その中で認められた自分への質問は数少ない。
お付き合いの予定は? などという軽いインタビューを除けば、印象に残っているのは2つだけ。
1つ、リオンちゃんが1日学校に居るのは珍しいけれど、それは貴方のお陰ですか?
1つ、
ただの質問だ。しかしこれらが印象に残っている理由は案外分かりやすい。
玖我山 璃音本人が、その話を出された時にアクションを取ったからだ。
前者は空笑いしながら否定するために割り込んできて、後者はもうすぐ授業だよ、と野次馬を払い除けていた。
たぶん自分の周囲に居た数人しか気付いていないだろう。正真正銘の愛想笑い。ほんの少しだけ垣間見得た苛立ちの表情。
数秒とせずにもとの表情へと戻ってしまった為、追求もできなかった。
彼女にとって無視できない噂だったのだろう。
だが、否定した噂の内容は、自分としても軽視しづらいものだ。
まず1つめ。学校に1日居る理由。
まさか自分と話したい、なんてことはないだろう。
押し付けたCDを返して欲しい、とかなら十分あり得そうだが。
しかし、絶対に否定できるものでもない。
その噂単体ならそう考えることはなかった。実際その時は少し気になったくらいで、そんな考えを巡らすほどのこともなかったのである。
だが、もう1の噂がそれを看過させない。
偶然なら別に構わない。
だが、そう見過ごせないのは、あの日感じた嫌悪感が頭を過るからだ。
正直少し話を聞いてみたかったが、それは叶わなかった。
当の本人はホームルームが終わり次第、颯爽と帰っていったから。
こちらを、一瞥だけして。
故にこうして頭を悩ませている。
解決なんてしそうになく、ただ思考を巡らせるだけだの時間だが、それでも次会った時の会話の種に困らないくらいの準備にはできそうだった。
彼女に会ったら話したいことを頭の片隅に纏め、頭を入れ換えて歩き出す。
今日は少し遠出をしてみよう。
その為にもマイルームに戻って、私服に着替えなければ。
────
──>蓬莱町
学校から見て、マイルームとは反対側。少し薄暗さがある地域──蓬莱町へと足を運んでいた。
7時頃に到着し、2時間半ほどをゲームセンターで費やす。
結構長居してしまったが、かなり面白かった。
『根気』が培えそうな、爆釣遊戯。
『魅力』が磨かれそうな、みっしいパニック with まじかるアリサ。
『度胸』が試されそうな、ゲート・オブ・アヴァロン。
『知識』と『度胸』が鍛えられそうな、ぽむっと。
『それらすべて』を要しそうな、Y's VS 閃の軌跡。
など、やりこめばどこかで自分の力となりそうだ。
時間があれば今後もやっていこう。
そんなことを考えつつ、夕食のため、カフェバー【N】に入る。
「いらっしゃい……って、お前……」
カウンターに立つ青年は、こちらを見て何か気づいたようだった。
自分も何となく、彼に見覚えがある。
確か……生徒の1人だった気がする。
特に濃い玖我山ファンの1人を嗜めてくれた男子生徒だ。
「確か何とかってアイドルグループの……玖我、山? とかいうやつと噂になってた……」
「……ははっ」
「は?」
「いや、すまない。これを本人が聞いたらどう思うかと考えてな」
想像に難くない。
自分の存在にすらショックを受けていた玖我山だ。同校、同学年の異性に覚えられていないと知ったときの落胆は半端ないだろう。
……いや、どうだろうか。
「……そう、だな。仮にもアイドルに直接言ったら落ちこんじまうか」
「だと良いけどな」
「は?」
「いや、何でもない」
もっと焚き付けられそうだ、とは言わないことにした。その方が面白そうだし。
「まあ良いか。2ーBの時坂だ。そっちは……岸波、だったか?」
「ああ、2ーDの岸波 白野だ。よろしく」
「おう」
そうして、彼は仕事に戻る。
「はぁぁぁ……」
カウンターの席に腰を落ち着けたら、大きなため息が出た。
何だかんだ言って疲れていたらしい。
ずっとゲームもしてたしな、と内心で苦笑しつつ、せめてゆっくりしようとメニューを眺めていると、声が掛けられた。
「ほらよ」
時坂が差し出してきたのは、一杯の珈琲。
「まだ頼んでないぞ」
「いや、今日の騒動は知ってたし、なんつうか、ダチも迷惑をかけちまったみてえだからな」
「気にしなくていい、あれはきちんとその場で弁解しなかった自分にも非があるから」
「……だとしたら、ほら、あれだ。編入祝い。杜宮にようこそってな」
そこまで言うなら、受け取っておこう。
「ありがとう」
「おう、ごゆっくり」
時坂は少しぶっきらぼうな見た目で、特に目付きが怖いが、話してみると優しい男子だった。
その後も他愛ない話をして、その店を出ようとする。
「そうだ、オレがこの時間までバイトしてたこと、トワね──教師とかに告げ口しないでくれねえか」
「構わない」
「助かるぜ」
またな、という彼と別れて、店を出た。
すっかり暗くなった帰路に着こうとする──そんな時だ。
カラオケ店から逃げるように走る、少女の姿を見たのは。
その少女の顔を、名を、自分は知っている。
今日接し方に頭をさんざん悩ませてくれた、学校で多くの人と関わるきっかけをくれた、その少女──玖我山 璃音が。
涙目を拭いもせず。
衆目も気にせず。
脇目も振らず。
一目散に走り去る姿。
それをこの目で捉えた自分は、一二を考えることもなく、夜を駆け出した。
今話もお付き合いいただきありがとうございました。
サブタイの2人は、コウと白野です。
加えてご報告。
原作をプレイ済みの方々はお気づきかもしれませんが──気付いてなければ自分の表現力不足──時系列が変わっています。いつの間にかタグに付けた『時系列変更』が早速活かされる……!
なお、タグは定期的に追加されますが、ストーリー進行で追加されてくことをご容赦ください。