異界攻略の設定期限まで10日を切った。
攻略は明日にも再開するとして、消耗品の補充などを済ませてしまいたい。
それが終わったら、今日はどうしようか。
……まあ、買い物に行ってから決めるとしよう。
────>七星モール【1階】。
買い物のついでに七星モールへと寄ってみた。
もしかしたら誰かがいるかもしれないし。
居なかったら居なかったで帰ってから連絡を取れば良い。その程度の気分で立ち寄ったのだが、入った直後に見慣れた少女の姿を見掛けた。
「ハァイ、ザビ! 元気?」
「人違いです」
まだザビと呼ばれていたんだな。知っていたけど。いや知りたくも無かったんだけど。
こちらへ走り寄ってきた少女、カレンの姿を正面に捉え、改めて彼女と会話を始めようとする。
「ンー?」
「なんでもない。カレンは手伝い中か?」
「ソウ! ママの手伝いをしてるトコ!」
「そうか」
輸入雑貨屋【ウェンディ】の方を見る。カレンと同じ金髪の女性が、1人でお客の対応をしていた。
……キャサリンさん、忙しそうだな。
──Select──
>手伝う。
手伝わない。
──────
手伝おう。あの調子で働いていたら倒れてしまうかもしれない。
「何か、自分にできることはないか?」
「ザビ……? っ。ありがとザビ! こっち!」
思いのほか強い力で手を引っ張られ、キャサリンさんのもとへ連れて行ってもらう。
「ママー、ザビが手伝ってくれるって!」
「あら……ごめんなさい、助かるわ。それじゃあカレンと一緒に棚卸をお願いしても良いかしら?」
「勿論です」
───
お昼時になって、少しだけ客足が遠のいた。
「ごめんなさい、確か、岸波君だったわよね」
「憶えていてくださったんですね。ありがとうございます」
「娘の友人ですもの」
嬉しそうに言うキャサリンさんだが、その表情にはやはり疲れが滲み出てる。
手伝いに来て正解だった。
「そういえば、カレン……さんは?」
「ああ、飲み物を買いに行ったわよ」
いつの間に。と思ったが、そういえばお客様が減った時点でそわそわしていた気がする。機会を伺っていたのかもしれない。
「大変ですね。いつもこんな感じなんですか?」
「今日は特別にお客さんが多いわね。休みというのもあるんでしょうけど。カレンも休みの日は手伝ってくれているとはいえ、これが続くようだと少し厳しいかもしれないわね」
「……アルバイトとかは雇われないんですか?」
「少し考えたけれど、これは趣味で始めたことだから。お店を持っているとはいえ、他の人に付き合わせるのは少し申し訳なくて……」
凄いな、趣味でここまでのお店を開けるなんて。
いつか色々と話を聞いてみたい。
「ママー! ザビー! ドリンク買ってきたヨ!!」
走り寄ってくる彼女の手にある飲み物は……ごくごく麦茶と胡椒博士NEO、それに、おしるこサイダー……!?
「ザビ、今日はアリガトーだヨ! 先に選んでネ!」
「あ、ああ……」
ふ、普通に考えれば、ごくごく麦茶だ。ごくごく麦茶以外にない。
まあ他の2種類は飲んだことがないが……どうする?
──Select──
ごくごく麦茶。
胡椒博士NEO。
>おしるこサイダー。
──────
……それを選ぶには、度胸が足りないみたいだ。
せめて“豪傑級”くらいはないと挑めないだろう。
さて、どうする……?
──Select──
ごくごく麦茶。
>胡椒博士NEO。
おしるこサイダー。
──────
「こ、胡椒博士NEOが欲しい」
「おおー! 通だネー!」
通!? 何が!?
「岸波君、大丈夫?」
「……勿論です」
心配してくれたキャサリンさんに、笑顔を返す。
せっかくの善意……そう、善意なのだ。無碍にはできない。
だからここは、度胸を振り絞って飲むしかない……!
「……──ッ!?」
これは、なんだ。
胡椒が、口の中で爆発した。
風味が、強い……!
胡椒の刺激だけならまだしも、炭酸が追い打ちをかけてくる!
……だが、自然と美味しいような錯覚を得始めた。
それどころか、普通に美味しいんじゃないか?
一口、もう一口と飲み続けた。
不思議と癖になる美味しさがある……!
「……うん、美味しい」
「おおーよかったヨ!」
自分も良かったと思う。
「ワタシはコレ! おしるこサイダーネ!」
「それは……」
「おしるこ、日本の伝統ドリンクだヨ! ワタシも大好き!」
……そうか、カレンの好物なのか。
それは飲まなくて正解だったな。うん。
その後、途切れていた波が勢いを取り戻し、またも店内は慌ただしい雰囲気に戻った。
とはいえ、人手は3人も居る。乗り切ること自体は容易ではなかったが、不可能という程でもない。
そのまま手伝いは夕方まで続いた。
「今日はホントにアリガト!」
「いや、力になれて良かった」
帰り道。七星モールの外まで見送りに来てくれたカレンと、少しだけ言葉を交わす。
「こういうの、ニホンでは、ゴエンドウシューって言うんだよネ!」
「ごえん……?」
──Select──
そうだ
>違う。
──────
多分、呉越同舟と言いたいのだろう。
それにしたって、少し意味が違う。
「ええー? 何が違うヨ?」
「それは……」
──Select──
舟に乗ってないから。
乗り越えていないから。
>仲良しだから。
──────
「呉越同舟というのは、仲が悪いひとたちが協力して何かを達成することなんだ。だから、自分とカレンの間柄では呉越同舟とは言わない」
「……! ザビとカレンは友達だからネ!」
友達だったのか。
……でも、うん、そうだな。友達か。
良いな。
「ザビは物知りだネー。やっぱりニホン語ベリー難しいヨ。また教えてネ?」
「ああ、勿論」
おなじみのメモを開いて書き足す彼女。いつだってその中身は黒い文字でいっぱいだ。
いつだって彼女は頑張っている。日本語を自由に使いこなせているわけではないが、それでも敵が少ないのは、ひたむきさと持ち前のこの明るさだろう。
そんな彼女を支えることができるなら、それはきっととても良いことなのだ。
「じゃあまたねー、さらだばー」
「……? さらば?」
「オウ! えへへ、さらばダー」
笑って手を振り、七星モールへと戻る彼女を見送る。
……帰ろう。
──夜──
明日は異界攻略だし、バイトとかはしないで休んでいたほうが良さそうだ。
家の中でできることがしたい。何かあるだろうか。
本とゲームくらいか。
“手芸中級編”を読もう。今回はキットを使った実践だ。未熟ゆえに誰かにあげることはできないだろうが、上手くできれば何かしら役に立つかもしれない。
「…………」
教本を片手に、今まで得た知識のすべてを裁縫に込めていく。
今日は取り敢えず大掛かりなものでなく、本当に簡単な、少しの時間で終わる物を作る予定だ。
「……うん、なかなかの出来だな」
“平凡な巾着袋”を作った! ……何に使うかは分からない。
まあ、何かに役立つかもだし、持っていようか。
さて、そろそろ寝よう。
コミュ・太陽“同い年の外国人”のレベルが2に上がった。
────
度胸 +2。
優しさ +2。
魅力 +1。
根気 +1。
────
8月に入って早13日。
ここまででコミュ上げたの5人……進行として良いのだろうか。
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109-1-1
──Select──
>ごくごく麦茶。
胡椒博士NEO。
おしるこサイダー。
──────
本当に良いのだろうか。そんな普通の飲んでしまって。
だって残りの2つ、明らかに地雷だぞ……!?
「良いのよ岸波君、好きなのを選んで」
「キャサリンさん……」
「カレンはともかく、私なら大丈夫だから……」
「キャサリンさん……!」
……心苦しいが、お言葉に甘えよう。
すまない、キャサリンさん……!
→♪なし。そりゃそうです。
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109-1-3
──Select──
ごくごく麦茶。
胡椒博士NEO。
>おしるこサイダー。
──────
「オウ! ザビもそれがスキなのネ!」
「あ、ああ」
「ワタシもそれスキヨ! 一緒だネ!」
「あ、ああ!」
どうしよう、後に引けなくなった。
元より引くつもりはなかったが、そうまでしてキラキラした瞳を向けられると、絶対に飲み終えて笑顔を向けなければいけない気がして来る。
……いけるか?
行くしかない!
「……っ、……っ! ……ッ!?」
────…………そう、だ。笑顔。笑顔を、作るんだ。
「お、いしいな!」
「だよネ!」
「あア!」
……………………
覚えていることと言えば、キャサリンさんが涙ぐんでいたことくらい。
その後のことは、記憶に残っていない。
→言うまでもなく♪3。犠牲は大きかった。ちなみに度胸も3、優しさも3上がる。上げさせて。
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