PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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8月14日──【マイルーム】カレンのお手伝い

 

 

 異界攻略の設定期限まで10日を切った。

 攻略は明日にも再開するとして、消耗品の補充などを済ませてしまいたい。

 それが終わったら、今日はどうしようか。

 

 ……まあ、買い物に行ってから決めるとしよう。

 

 

────>七星モール【1階】。

 

 

 買い物のついでに七星モールへと寄ってみた。

 もしかしたら誰かがいるかもしれないし。

 居なかったら居なかったで帰ってから連絡を取れば良い。その程度の気分で立ち寄ったのだが、入った直後に見慣れた少女の姿を見掛けた。

 

「ハァイ、ザビ! 元気?」

「人違いです」

 

 まだザビと呼ばれていたんだな。知っていたけど。いや知りたくも無かったんだけど。

 こちらへ走り寄ってきた少女、カレンの姿を正面に捉え、改めて彼女と会話を始めようとする。

 

「ンー?」

「なんでもない。カレンは手伝い中か?」

「ソウ! ママの手伝いをしてるトコ!」

「そうか」

 

 輸入雑貨屋【ウェンディ】の方を見る。カレンと同じ金髪の女性が、1人でお客の対応をしていた。

 ……キャサリンさん、忙しそうだな。

 

──Select──

 >手伝う。

  手伝わない。

──────

 

 手伝おう。あの調子で働いていたら倒れてしまうかもしれない。

 

「何か、自分にできることはないか?」

「ザビ……? っ。ありがとザビ! こっち!」

 

 思いのほか強い力で手を引っ張られ、キャサリンさんのもとへ連れて行ってもらう。

 

「ママー、ザビが手伝ってくれるって!」

「あら……ごめんなさい、助かるわ。それじゃあカレンと一緒に棚卸をお願いしても良いかしら?」

「勿論です」

 

 

───

 

 

 お昼時になって、少しだけ客足が遠のいた。

 

「ごめんなさい、確か、岸波君だったわよね」

「憶えていてくださったんですね。ありがとうございます」

「娘の友人ですもの」

 

 嬉しそうに言うキャサリンさんだが、その表情にはやはり疲れが滲み出てる。

 手伝いに来て正解だった。

 

「そういえば、カレン……さんは?」

「ああ、飲み物を買いに行ったわよ」

 

 いつの間に。と思ったが、そういえばお客様が減った時点でそわそわしていた気がする。機会を伺っていたのかもしれない。

 

「大変ですね。いつもこんな感じなんですか?」

「今日は特別にお客さんが多いわね。休みというのもあるんでしょうけど。カレンも休みの日は手伝ってくれているとはいえ、これが続くようだと少し厳しいかもしれないわね」

「……アルバイトとかは雇われないんですか?」

「少し考えたけれど、これは趣味で始めたことだから。お店を持っているとはいえ、他の人に付き合わせるのは少し申し訳なくて……」

 

 凄いな、趣味でここまでのお店を開けるなんて。

 いつか色々と話を聞いてみたい。

 

「ママー! ザビー! ドリンク買ってきたヨ!!」

 

 走り寄ってくる彼女の手にある飲み物は……ごくごく麦茶と胡椒博士NEO、それに、おしるこサイダー……!?

 

「ザビ、今日はアリガトーだヨ! 先に選んでネ!」

「あ、ああ……」

 

 ふ、普通に考えれば、ごくごく麦茶だ。ごくごく麦茶以外にない。

 まあ他の2種類は飲んだことがないが……どうする?

 

 

──Select──

  ごくごく麦茶。

  胡椒博士NEO。

 >おしるこサイダー。

──────

 

 

 ……それを選ぶには、度胸が足りないみたいだ。

 せめて“豪傑級”くらいはないと挑めないだろう。

 さて、どうする……?

  

  

──Select──

  ごくごく麦茶。

 >胡椒博士NEO。

  おしるこサイダー。

──────

 

「こ、胡椒博士NEOが欲しい」

「おおー! 通だネー!」

 

 通!? 何が!?

 

「岸波君、大丈夫?」

「……勿論です」

 

 心配してくれたキャサリンさんに、笑顔を返す。

 せっかくの善意……そう、善意なのだ。無碍にはできない。

 だからここは、度胸を振り絞って飲むしかない……!

 

 

「……──ッ!?」

 

 

 これは、なんだ。

 胡椒が、口の中で爆発した。

 風味が、強い……!

 胡椒の刺激だけならまだしも、炭酸が追い打ちをかけてくる!

 ……だが、自然と美味しいような錯覚を得始めた。

 それどころか、普通に美味しいんじゃないか?

 

 一口、もう一口と飲み続けた。

 不思議と癖になる美味しさがある……!

 

  

「……うん、美味しい」

「おおーよかったヨ!」

 

 自分も良かったと思う。

 

「ワタシはコレ! おしるこサイダーネ!」

「それは……」

「おしるこ、日本の伝統ドリンクだヨ! ワタシも大好き!」

 

 ……そうか、カレンの好物なのか。

 それは飲まなくて正解だったな。うん。

 

 その後、途切れていた波が勢いを取り戻し、またも店内は慌ただしい雰囲気に戻った。

 とはいえ、人手は3人も居る。乗り切ること自体は容易ではなかったが、不可能という程でもない。

 そのまま手伝いは夕方まで続いた。

 

 

「今日はホントにアリガト!」

「いや、力になれて良かった」

 

 帰り道。七星モールの外まで見送りに来てくれたカレンと、少しだけ言葉を交わす。

 

「こういうの、ニホンでは、ゴエンドウシューって言うんだよネ!」

「ごえん……?」

 

──Select──

  そうだ

 >違う。

──────

 

 多分、呉越同舟と言いたいのだろう。

 それにしたって、少し意味が違う。

 

 

「ええー? 何が違うヨ?」

「それは……」

 

 

──Select──

  舟に乗ってないから。

  乗り越えていないから。

 >仲良しだから。

──────

 

 

「呉越同舟というのは、仲が悪いひとたちが協力して何かを達成することなんだ。だから、自分とカレンの間柄では呉越同舟とは言わない」

「……! ザビとカレンは友達だからネ!」

 

 友達だったのか。

 ……でも、うん、そうだな。友達か。

 良いな。

 

 

「ザビは物知りだネー。やっぱりニホン語ベリー難しいヨ。また教えてネ?」

「ああ、勿論」

 

 おなじみのメモを開いて書き足す彼女。いつだってその中身は黒い文字でいっぱいだ。

 いつだって彼女は頑張っている。日本語を自由に使いこなせているわけではないが、それでも敵が少ないのは、ひたむきさと持ち前のこの明るさだろう。

 そんな彼女を支えることができるなら、それはきっととても良いことなのだ。

 

「じゃあまたねー、さらだばー」

「……? さらば?」

「オウ! えへへ、さらばダー」

 

 

 笑って手を振り、七星モールへと戻る彼女を見送る。

 ……帰ろう。

 

 

──夜──

 

 

 明日は異界攻略だし、バイトとかはしないで休んでいたほうが良さそうだ。

 家の中でできることがしたい。何かあるだろうか。

 本とゲームくらいか。

 

 “手芸中級編”を読もう。今回はキットを使った実践だ。未熟ゆえに誰かにあげることはできないだろうが、上手くできれば何かしら役に立つかもしれない。

 

「…………」

 

 教本を片手に、今まで得た知識のすべてを裁縫に込めていく。

 今日は取り敢えず大掛かりなものでなく、本当に簡単な、少しの時間で終わる物を作る予定だ。

 

「……うん、なかなかの出来だな」

 

 “平凡な巾着袋”を作った! ……何に使うかは分からない。

 まあ、何かに役立つかもだし、持っていようか。

 

 さて、そろそろ寝よう。

 

 




 

 コミュ・太陽“同い年の外国人”のレベルが2に上がった。
 
 
────


 度胸  +2。
 優しさ +2。
 魅力  +1。
 根気  +1。
 
 
────

 
8月に入って早13日。
ここまででコミュ上げたの5人……進行として良いのだろうか。


────────
109-1-1

──Select──
 >ごくごく麦茶。
  胡椒博士NEO。
  おしるこサイダー。
──────

 本当に良いのだろうか。そんな普通の飲んでしまって。
 だって残りの2つ、明らかに地雷だぞ……!?
 
「良いのよ岸波君、好きなのを選んで」
「キャサリンさん……」
「カレンはともかく、私なら大丈夫だから……」
「キャサリンさん……!」

 ……心苦しいが、お言葉に甘えよう。
 すまない、キャサリンさん……!
 

 →♪なし。そりゃそうです。

────
109-1-3
──Select──
  ごくごく麦茶。
  胡椒博士NEO。
 >おしるこサイダー。
──────

「オウ! ザビもそれがスキなのネ!」
「あ、ああ」
「ワタシもそれスキヨ! 一緒だネ!」
「あ、ああ!」

 どうしよう、後に引けなくなった。
 元より引くつもりはなかったが、そうまでしてキラキラした瞳を向けられると、絶対に飲み終えて笑顔を向けなければいけない気がして来る。
 ……いけるか?
 行くしかない!

「……っ、……っ! ……ッ!?」


 ────…………そう、だ。笑顔。笑顔を、作るんだ。


「お、いしいな!」
「だよネ!」
「あア!」


 ……………………
 
 
 覚えていることと言えば、キャサリンさんが涙ぐんでいたことくらい。
 その後のことは、記憶に残っていない。
 
 
 →言うまでもなく♪3。犠牲は大きかった。ちなみに度胸も3、優しさも3上がる。上げさせて。
 
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