PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 本日で2周年です。おわりがみえません。


8月8~9日──【マイルーム】祐騎の今やりたいこと

 

 

『え、今日? 僕は別に良いんだけどさ、攻略とかしなくて良いワケ?』

 

 久し振りに祐騎とゲームでもと思い連絡してみると、現状を心配する旨の返信が届けられた。

 

『ああ、ちょっとした息抜きだ』

『そりゃ大事だとは思うけどさ、流石に悠長すぎるでしょ』

『……じゃあ辞めておくか』

『……いや、今日くらいは良いんじゃない?』

 

 どっちなんだ。

 

 何はともあれ、遊びに来てくれるらしい。お茶菓子でも準備して待っているとしよう。

 

 

 

────

 

 

「ふぅ、やっぱり大画面でやるゲームは良いね」

 

 数勝負を終え、コントローラーを置いた祐騎が、飲み物に手を伸ばしながら言う。

 画面の違いか、気にしたことはないが……というより、自分の家とゲームセンター以外でゲームしたことないしな。

 

「祐騎の部屋もテレビは大きいって聞いているけれど」

 

 洸から。

 いつ行ったのかとか、どうして行ったのかとかは知らないが、世間話の一環で、『そういやこの前ユウキの部屋に行ったんだがな』という話になったことを覚えている。

 聞くところによるとパソコンの周りには複数のモニターが展開されていて、色々な画面が忙しなく稼働し続けていたらしい。それぞれがどういう役割を持っているかは分からなかったらしいが。

 そんな話の中に、ゲーム機とテレビの話もあった。テレビはそこそこ大画面で、ゲーム機も複数台あるとかないとか。

 

「ま、普段はあまりテレビゲームとかしないしね」

「そうなのか?」

「基本はPCとかサイフォンとかかな。余程評判の良いゲームやアタリが確定してるゲームなんかは普通のハードでやるけどさ」

 

 よくわからないが、そういうことらしい。

 こだわり、みたいなものなのだろうか。

 しかしだとすると、こうしてゲームをするのは彼の信念に反するのでは?

 

 

──Select──

 >暇なのか?

  無理に付き合わせてるか?

  もう1戦やろう。

──────

 

 

「……ハァ!? ちょ、あり得なさすぎるんですけどこのセンパイ!」

「いや、基本的に時間つぶしでゲームをやっているのかなと」

「まあ片手間でちょうどいいゲームはあるけど、それはそれ! そうでないゲームもあるし! ……ああもう!」

 

 

 ガシガシと頭を掻く祐騎。どうやら少し怒らせてしまったらしい。それに彼も、自分が彼の言っていることを理解しきれていない事すら理解してくれているみたいだった。どうにかして自身のイライラを伝えようかと四苦八苦している。

 彼はひとしきり髪を弄った後、サイフォンを懐から取り出し、こちらへ向けてきた。

 

「ほら、こういう落ちゲーとかリズムゲー、カード系なんかは適当にやるゲームだから片手間でも良いのさ。でも今やってるやつみたいに対戦相手が居たり、ストーリーがあったりするゲームとかはちゃんとやってるっての」

「……ゲームにも色々な種類があるんだな」

「そりゃそうだよ。取り敢えず、今やってるのが終わったら次お勧めのいくつか教えてあげるから」

「ああ、ありがとう」

 

 

 確かに今はまだ未熟も良いところ。教えてもらったゲームを十全にできるようになったわけでもないし、少なくとも彼が欲しているレベルまで到達できていない時点で、他のジャンルへ手を出すことは避けた方が良いだろう。

 1つずつ、しっかりとだ。

 

 ……しかし、祐騎のゲームにかける情熱は本物みたいだな。どうしてそんなにゲームが好きなのだろうか。

 

 

──Select──

 >聞く。

  聞かない。

──────

 

 

「祐騎は、何でゲームをするようになったんだ?」

「なに、藪から棒に」

「ゲーム、本当に好きなんだなって思って」

 

 答えると、彼は沈黙してしまった。

 どこかに黙るような要素があっただろうか。

 そんなことを考えているうちに、彼は口を開き始める。

 

 

「別に、ゲームが好きってワケじゃないよ」

「? そうなのか?」

「まあ僕も自分の感情がすべて理解できてるワケじゃないけどさ。差し当たっての理由としては、“単純に自分の力を証明できるから”やってるかな」

 

 自分の力を証明できるから?

 

「……まあ、センパイたち相手なら今更隠すことじゃないけどさ、僕ってついこの間まで、かなり焦ってたんだよね。認めさせてやろう、見返してやろうって気持ちが強くて、自分の力を手っ取り早く証明できる手段を探してたんだ」

「それが、ゲームだった?」

「まあそういうコト。今ではそれだけじゃないけどね」

 

 祐騎と、祐騎の才能や可能性を断固として認めていなかった彼の父親とのことを思い出す。

 祐騎は実の父親に自分の力を否定されても、諦めなかった。考えることを辞めず、闘うことを選び、1人暮らしを始めた。その後もどうにかして認めさせようと足掻き続け、“今”を勝ち取っている。

 それは、彼が昔から続けてきた努力に裏付けされた結果だ。

 仮に祐騎が自分の才に胡坐をかき、できるからいいやと怠惰な生活を送っていれば、後ろめたさが邪魔をして彼の父親の心を揺るがすような戦いは出来なかっただろう。

 それはつまり、一欠片にすぎないゲーム1本ですら、彼にとっては覚悟を立証する為の大事な場と認識されていたということ。常に上昇志向を持ち続け、ゲームと向き合っていたということなのだろう。

 多分。

 

「まあ、だからかな。相手に歯ごたえがないなら僕も納得いかないし、未開拓の分野があるなら挑戦したいって思うようになったのも」

 

 

 相手に歯ごたえがないと納得いかないというのは、理解できなくもない。自分はそんな優位に立ったことがないので完璧に理解することは出来ないが、自分が真剣に向き合っていることに対して、相手がそこまで全力でないと知った時、浮かんでくる感情が落胆であることくらいは想像がつく。

 だが、後者はどういうことだ?

 

「……未開拓の分野って?」

「所謂、協力プレイってやつ。足を引っ張らないで、かつ意思疎通のできる味方と一緒に、全国のランカーたちに喧嘩を挑んでみたいってワケ」

 

 ……いや、それで白羽の矢が立ったのが、自分だと?

 もっとやりやすい相手だっていただろうに。

 

「正直、1から仕込んだ方が早いし、いちいち突っかかってこないなら僕の抱えるストレスは大きくなくて済むから」

「自分に掛かるプレッシャーの方が大きいだろうな」

「聞かなくても良いことにズカズカ踏み込んでくるからだよ。センパイたちの悪い癖だね」

 

 そういう所に助けられることもあるケド。と独り言のように呟かれる。

 ……なんだか、嬉しいな。

 自然と口がニヤけてしまったのか、祐騎がジト目を向けてきた。

 

 

「……まあ、頑張ってよね、ハクノセンパイ。それなりに期待してるからさ」

 

 

 ……少し、祐騎のことを知れたような気がする。

 

 

 日も暮れてきた頃に解散することになり、玄関から、扉を閉めて帰っていく祐騎を見送った。

 

 

 

──夜──

 

 

 今日はゲームしすぎて目が疲れたので、少し早いが眠ることにした。

 

 

 …………空と一緒にランニングをする夢を見た。

 暫くは共に走っていたが、段々と距離の離れていく夢だ。彼女に追い付くことは至難のことだと、心が理解しているのだろう。

 だが、いつか追い付いてみたいものだ。

 現実で、一緒に走る機会があるかは分からないが。

 

 

──8月9日(木) 時間帯──

 

 

『せんぱぁい、今日おヒマですかぁ?』

 

 ……絵文字が大量に使われているメッセージが飛んできた。

 色がいっぱいで目が痛い。

 

『今日なら大丈夫だ』

 

 今日以外も予定はすかすかなのだが、それは黙っておく。

 

『良かったぁ。アタシとヒトミも今日ヒマなんです。良ければ付き合ってくださいよぉ』

 

 ……まだ彼女たちとの縁は深まら無さそうだが、どうしようか。

 

 

──Select──

 >行く。

  行かない。

──────

 

 

『ああ、行くよ』

『ホントに!? じゃぁ、ヒトミにも伝えておきますから、11時に駅前広場に集合でっ!』

 

 元気の良いメッセージを受け取り、サイフォンをしまう。

 さて、少し時間があるけれど、どうするか。

 ここは取り敢えず、本でも読んで──

 

「……うん?」

 

 ポケットの中で、サイフォンが振動した。

 マリエから何か追記の連絡だろうか。それともほかの誰かから?

 想像を膨らませながらサイフォンを開いてみると、メッセージの差出人は、ヒトミと出ていた。

 

『マリエが無理言ったみたいでゴメンね、センパイ。それと、断らないでくれてありがとう』

 

 最後に猫の絵文字を付けただけの、シンプルなメッセージだ。ヒトミらしい。

 どういたしまして。楽しみにしている。と返信文を打ち、送信。

 ……さて、集合時間までゆっくりするか。

 

 

──昼──

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

「あ、センパぁイ」

「……ども」

「どうも」

 

 金髪と黒髪で周囲の注目を少なからず集めていた2人のもとへ辿り着く。

 今日は何をするのだろう。

 

「ん? ウインドウショッピングですよぉ。荷物持ちよろしくお願いしまぁす」

「よろしく」

 

 ああ、だから男の自分が呼び出されたわけか。

 ……まあ、たまには後輩に付き合うのも良い。

 

「じゃあ、さっそく行くのか?」

「ですねぇ。行きましょう!」

 

 こくりと頷くヒトミが、先導するマリエの横を歩きはじめる。

 その1歩後ろの位置に付き、彼女たちの1日に付き合い始めた。

 

 途中完食などを含みつつも、周りたいところは周り終えたらしい。どことなく2人は満足そうだ。

 

 ……そろそろ縁が強固なものになりそうだな。

 

 ここまでで大丈夫です、という場所まで荷物を持って行った自分は、彼女たちが荷物を振り分けていくのを見届け、家に帰ることにした。

 

 

──夜──

 

 

 さて、今日はゲームをしよう。

 祐騎お勧めのタイトル『イースvs.閃の軌跡 CU』。ゲームセンターにも置いてあった大人気ゲームのコンシューマー版。家庭でも同じようなゲームができるようになったお手軽版とのことだ。値段を考えるとお手軽でも何でもないが。

 祐騎曰く、お祭りゲー。異なる2作品から複数キャラを出し、戦わせたり、協力させたりするアクションゲーム。

 まずはキャラをすべて出す所なのだが、これがなかなか難しい。クリアする条件が難しく、かつ多岐に渡るのだ。

 だがその作業を面倒だと思わせないのが、このゲームのシナリオ。実際読んでいて面白い。戦いの話だが、感動系小説を読んでいるような、温かい気持ちになれるのだ。

 

 流石に一日ですべてを終わらせることはできないらしい。

 また今度頑張ろう。

 

 

 




 

 コミュ・運命“四宮 祐騎”のレベルが3に上がった。


────


 優しさ +2。
 根気  +1。


────


 ちなみにCUはCOLLATERAL UNITEDの略。
 ふっつー。


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