「狭いところですが」
「いや、全然広いんだが」
うんうんと頷く皆。
まあ幸いにして、全員が入ってもまだスペースは余っている。
異界から帰還した翌日の、攻略会議。
前回に引き続き、マイルームでの話し合い。月曜日の朝ではあったが、全員が集まれた。
「高幡先輩にはどこまで話しましたっけ?」
「……一通りは聞いた気がするが、整理したい。一から頼めるか?」
「はい、勿論」
自分たちの知識・認識の確認にもなるし、何も悪いことではない。
それに今回は、舵取りや訂正をしてくれる柊が黙ったままなのだ。自分たちで気付き、自分たちで直し、自分たちで結論を出さなければならない。
そういう意味で、今回の話は渡りに船といったところか。
「ああ、敬語はナシで構わねえ。説明がくどくなる。ばっさり普段通りで話してくれ」
「……わかった。まず、前回入った場所は、“異界”と呼ばれる場所。人の心……特に、“諦めていたもの”が実現化した世界、とでも言うべきか?」
「まあ諦めっていうと分かりづらいかもしれないけどさ、抑圧された感情や欲望って言いかえれば話が通じやすいでしょ。例えるなら、ダイエットしてる人は『たらふく食べたい』って感情を抑え込んでるわけじゃん? いくら我慢しようと空腹が収まることはなく、欲求が高まっていく。すると肥大化した欲求はどこに消えるのか。答えは単純ってね。消えるのでもとどまるのでもなく、暴走するってワケ」
「その暴走によって生み出されるのが異界、それと“シャドウ”。シャドウというのは異界を形成する核であり、自己の欲望の現身……押し込めていた欲求を前面に出した自分です」
「ちょっと待て。どうして感情が暴走すると異界が生まれるってんだ?」
「暴れられる場所を異界と呼ぶ、と思ってください」
どこまで上手い説明ができているかは分からない。自分たちは“体験した立場”であって、“知っている立場”ではないのだから。
知っている側が思う“これで分かるだろう”と、実際の理解しやすさには天と地ほどの差がある。そこに注意しなければいけない。
「四宮君……ああ、そこの眼鏡のカレね。彼の挙げた例であたしに当てはめるなら、『お腹は空いているけど痩せたいから食べない状態』のあたしと『お腹が空いたからもう好き勝手に食べたい状態』のあたしは相反する考えを持ってるでしょ。前者は普段のあたしで、後者をシャドウ──抑圧された感情とする。けれど普段、知っての通りシャドウはあたし達の中に居て、外に出てくることはない。出られるはずもない。あくまで感情だしね。けれど“異界”という場所は“欲求によって形成される場所”。そこに実在する本人を引きずり込むことで、シャドウは本人が持つ本音と“入れ替わる機会”を得るの」
「入れ替わる……?」
「異界の中には、実体として存在するもう1人の自分が居るんです。諦めを促し、楽になろうと唆す、そんな存在が」
「現実でただの欲求を叶える為には、理性が邪魔でしょ。だからその理性をぼろぼろに壊そうとするのさ。そして、理性を壊して空いた隙間に本音が入り込む。すると現実の久我山センパイは傍若無人に暴食のかぎりを尽くす豚に成り下がるってワケ」
「そこの後輩クーン、言い方、言い方!」
「やだなぁ例え話だって久我山センパイ」
「例え話でも女性を豚扱いしないで!? これでもアイドルだからね、あたし!」
「はいはいスゴイデスネー」
「2人とも」
「「……ごめんなさい」」
『なんでボクが怒られるのさ。理不尽すぎるでしょ』。『いや自業自得じゃないカナー』。なんてやり取りがコソコソと行われているのを尻目に、話を進めることにした。
「祐騎の例え話では欲求って言っていたけれど、実際は最初にも伝えた通り、人の諦めとそれに付随する強い感情が異界の源になる」
「迷惑を掛けたくないって想い。出来る訳がないって思い込み。仕方がないって考え。そういうのを……まあ言いたくはないが、“踏ん切りのつかない本人の代わりにその想いを叶えよう”とするのがシャドウってわけだ。強制的だけどな」
「……なるほどな。つまりお前らは逆にその異界ってトコに行って、シャドウによる成り代わりを防いでるってことか」
「ああ。自分たちがやることはある意味単純だ。異界に行って、シャドウを説得し、異界を鎮める。その3つくらい」
「シャドウの欲求を消せれば、シャドウを核としている異界が消滅します!」
「けれど異界内には侵入を拒むためのシャドウがウヨウヨといるから戦わないといけない。核となっている大型シャドウだって、話が通じなければ大人しくさせるためにも戦うこともある」
「……ちょっと待て。シャドウって言うのは、諦めた心が具現化したものじゃねえのか?」
「あー。シャドウってのは元々、異界に顕れる怪物の総称なんだよ。その大本が、“異界形成者のシャドウ”。その下にも、大物やら小物やらのシャドウがうようよ居る」
ここまでは大丈夫ですか? と高幡先輩に問う。
だいぶ間を開けて、やや掠れた声ながらも肯定の返事をしてくれた。
少し厳しそうだが、あと少しだ。
「自分たちがシャドウたちと戦う力は、2つ」
「“ソウルデヴァイス”と“ペルソナ”。どっちも先輩には見せたことねえか」
「ああ。そういう力があるってのは聞いてるが」
「そういえば私、漠然としかこの2つについて知らないですね」
「僕もあんまり。なんとなくは分かるんだけど」
「“ソウルデヴァイス”は覚悟の力。現状に甘んじず、困難を取り除き、壁を乗り越えるための輝きだ。対して“ペルソナ”は想いの力。変わらなければと軋む心を、変わりたいと願う心を受け入れることで発生する自己、かな」
「ペルソナってのは、揺れ動くことのない確固とした己、ってのだと思うぜ。向き合い、受け入れ、取り込んで、得た結論の具現化って感じだ」
「あ、それ分かるかも。あたしもそんな感じだし」
「僕も」「わたしもです」
どうやら助けられた側は、そういう感覚らしい。
自分にはその感覚、いまいち分からないが。
確固とした己……自分にもあるのだろうか。
「あ、でもあれ好きだな、ホラ」
璃音がこちらを見て、何かを伝えようとしてくる。
何となくだが、分かった。
「「足掻こうとする意志の力」」
一番最初、美月に説明された内容だ。
存外、気に入っている。足掻く、という単語は何より自分たちに相応しいものに思えたから。
「なんだかよく分からねえが、つまり専用の力でシャドウと戦って、どうするんだ?」
「シャドウはいわば心に土足で入ってきた自分たちを排除しようとする防衛機能だと自分は考えている。それらを倒して大本のもとに辿り着いたら、そこからは全員で」
「シャドウを説き伏せる」
「……?」
「説得して、時には元となった人と一緒に向き合せて、時には巻き込んでしまった人をも更に巻き込んで折り合いを付けてもらう。当然戦いになることもあるけれど、すべてはシャドウとその人に、折り合いをつけてもらう為だ」
結局は戦いになることもあるというよりは、結局は戦いになっているのだが、とにかくそうすることでシャドウのストレスを吐き出させ、ガードを緩くしてもらう。言い方を悪くするなら、心の隙につけ込みやすくするのが、自分たちの力の使い方だ。
「……ふぅぅ」
大きなため息を、高幡先輩は吐いた。
無理もない、多すぎる情報だった。
これでいてまだ基礎も基礎だと言うのだから、計り知れない。
それでも最低限、覚えておくとしたらこのラインまでだろう。
「さて。ここからが自分たちにとっての本題だ。今回の異界について、分かっていることを再確認したい。洸、璃音、頼めるか」
「まっかせて」「おう」
心強い返事だ。
自分はメモと図解の用意をしよう。
「異界の核となったのは、蓬莱町を中心に活動する“BLAZE”の現リーダー、“戌井 彰浩”さん。17歳。それから周辺のメンバーが6人がこの異界に巻き込まれてるね」
「異界の発生規模としても、かなり異常だって話だったのは、みんなも覚えてると思う」
「そうなのか?」
高幡先輩が訝し気に尋ねる。確かに、あれが異界化との初遭遇だというなら、あれを基準に考えてしまうのも無理はない。
「高幡先輩は知らなかったでしょうけど、基本異界で巻き込まれるのは多くても3人ほどって話なんです」
「ああ。ま、今回のが“異常”だって認識しててくれ、高幡先輩。……それでだ。異界をそれほどまでに大きく発生させるには、膨大なエネルギーを消費する。だからそのエネルギー源の調査をしたんだ」
「そのエネルギーは“異界適正”って言うの。本来の使い方では、異界にどれくらい無事で留まれるかっていう生まれつきの資質を測るものらしいんだけど、ついでにそれを測ると、だいたいその人がどんな規模の異界を発生させられるかも分かるんだって」
「でも今回の場合、それが分かっていたから尚更、不明な点が多かった。でも、大まかな当たりは付いたんだよね? コウセンパイ」
「ああ」
なんとか図解を書き終えるとともに、こちらの様子を伺っていた洸と目が合う。
簡単に纏めた内容を高幡先輩に渡し、自分も姿勢を正す。
ここから先は、自分の為にこそメモを取らなければ。
「異界ドラッグについては、昨日少し話したよな」
「異界で取れる素材を原料とした薬のこと、だよな?」
「ああ。それで、どうにもソイツには、”異界適正を強引に引き上げる作用”があるらしい」
「「「!?」」」
異界適正を引き上げる。そんなことが可能だとすれば、どんな規模の異界でも生み出される可能性がある、ということに他ならない。
「あ、あり得るんですかそんなこと!」
「オレも最初は耳を疑ったものだが、考えてもみてくれ。“異界に適応するための力”を異界適正と呼ぶなら、血中とかに異界成分を滲ませているやつの適性が、高くならないわけねえだろ?」
「そ、それは……」
「ま、確かに言ってることは分かるよ? 毒殺を防ぎたいなら毎日微量の毒を口にしていく、なんて話が昔からあるくらいだしね」
相変わらず、祐騎の理解は早い。知識の引き出しの多さが為せる技なのだろうか。
「でもさ、そのクスリの効能はなんなの? まさか異界成分を摂取したいだけー。なんてモノ好きはいないでしょ」
当の本人は机に肘を付きながら、如何にも納得できないという表情で洸へ問いかけた。
「ああ。まあ聞いた話ではあるが、運動能力が格段に上がるらしい。後、なんだか冴えてくるとかなんとか言ってたな」
「ふぅん。ま、よくある与太話と同レベルか。じゃあそのクスリ自体には大した脅威度はないね。少し異界攻略に支障があるくらいか」
「ユウ君、どういうこと?」
口を開こうとした祐騎が、一瞬口の動きを止める。
「郁島がその呼び方を辞めてくれたら話してあげるよ」
「ユウ君、そんな意地悪なこと言わないで。何か気付いたことがあるならみんなと共有しよ?」
「えぇ……?」
なんだコイツ話が通じてないぞ。と慄く祐騎。
縋るように向けられた視線から目を逸らして、彼の説明を待つことにした。
「はぁ……ほら、確かに異界適正は上がったのかもしれないけどさ、上がった所であの程度の異界だったワケでしょ? そこは警戒するに値しない。この場合の最悪は、“情緒不安定や記憶の欠如が見られること”だったんだ。心に影響がある以上、異界がどんな変化をするかは分からないし、そもそもそんな相手に説得なんて無理ゲーすぎるからね」
「今の所、そういった話は聞いてないぜ」
「だから大した脅威度ではないって言ったの。ま、異界化の被害拡大の理由は案外、周囲にいた人全員が異界適正を強引に引き上げた状態だったから。なんて可能性もある」
「……そうか。戌井さんの異界とはいえ、核が1つではない可能性はあるのか。単独ではなく、複数人で形成した異界」
「それはおかしいんじゃねえか? 異界ってのが心の生んだ世界なら、他人と共有できねえだろ」
「……確かに。ありがとうございます、高幡先輩」
説明しておいて良かった。本当に。
「あ! 本来巻き込むはずだった戌井さんの周囲に展開したけど、周りの人たちの異界適正が高すぎて、異界が取り込みたくなって連鎖的に広がっちゃったってのはどう!?」
「あー、そういう可能性もあるかな、ってカンジ。例を挙げるなら、砂鉄。対象の砂だけを磁石で釣ろうとしたら、周囲にも砂鉄があって、止む終えず入口を大きく開いて全部回収したってとこかな。推測だけどね。まあ確かなことなんて、そこでだんまりを決め込んでるセンパイくらいにしか分からないんだし」
「……」
祐騎が柊を見るものの、彼女は彼を見ない。それどころか、薄く瞼を開いてテーブルを見詰めるのみだ。
先に根負けしたのは、やはり祐騎。彼はため息を吐きながら、会話の輪へと戻ってくる。
「とにかく推測でしかないけどさ、あんなに大勢巻き込まれた理由は、“存在が異界に寄っているものが引き入れられた結果”っていう見方が良いと思うよ」
存在が異界に寄っている。つまりは異界適正が高い者。
体内を巡っていたであろう異界成分が、異界化による2次災害を招き入れてしまったということか。
筋が通っているかは分からない。が、推測の状況で、これ以上の結論に辿り着くことは難しそうだ。
次の議題に行こう。
「これで巻き込み被害の拡大原因は一応の見解を得たということで。あとは高幡先輩」
「あん?」
「話してもらう、貴方のことを」
「……いいぜ、だが語るのは得意じゃねえ。好きに聞けや」
どっかりと腕を組んで座る高幡先輩。
年上の先輩としての威厳なのか、その威風堂々した態度からひしひしと感じられたナニかが、自分たちに刺さる。あまり長問答するような空気でもない。
聞くなら効率的に。必要なことを的確に。だ。
「貴方とBLAZEの関係性は?」
「創設者の1人。前リーダーの、まあ、ダチだな」
「戌井さんとの関係は?」
「昔の弟分だ。BLAZEを辞めてからはほとんど会ってねえ」
「BLAZEが“変わった”理由について、なにか知ってる?」
「知らねえ。風の噂で聞いてからは止めようと動いちゃいたが、こんな有様だしな」
高幡先輩が直接関与していたわけではない、のか。
前リーダーが亡くなってからBLAZEは変わった。とメンバーの青年が言っていた。同時期に脱退した高幡先輩が関係ないなんてあり得るのだろうかと思ったが、本人に心当たりがないならどうしようもない。
「戌井さん個人が変わってしまった理由について、何か心当たりは?」
「それもねえな。アキは昔から俺やカズマ──前リーダーに着いて回ってくれていたヤツだ。今回のことでも、何かしら力になってくれるかとうっすら期待しちゃいたんだが……」
逆に、元凶と言っても過言ではない立ち位置だった、と。
「ねえ、どうしてBLAZEを辞めたワケ?」
「……カズマのヤツが死んで、その前に話したことで少し、な」
「辞めた理由を知っている人は?」
「俺だけだ」
「……ふうん」
祐騎が、頭の後ろで手を組んだ。
その隣で、ソラも腕を組んで難しい顔をし始めた。
何かに気付いたのだろうか。
「正直、高幡センパイが原因って線はあるね」
「……言い辛いですけど、わたしもそう思います」
「どういうこと?」
困ったように空は高幡先輩の顔色を伺った。
思いついたことを素直に吐き出して良いものか悩んだのだろう。
その視線に高幡先輩は、なんでも言えと言わんばかりに力強い頷きを返す。
無言の返事を受け取り、空は再度の逡巡を経て、ゆっくりと己の意見を離し始めた。
「憧れていた人が、大好きだった人が急にいなくなると、不安になると思うんです、誰だって。特にその戌井さんは高幡先輩とカズマ先輩の背中を追ってきた方なんですよね? 急に追いかけていた背中がなくなったら、どこに進めばいいのか、分からなくなると思います」
「それでいて残されたものは、自分に付いて来る人ばかり。その戌井って人がどんな人だったか僕は知らないケドさ、まっとうな人間なら、弱みを見せずに頑張ろうとするんじゃない? それこそ、消えてしまった背中を追い続けるように。ないと分かっていても想像の中の後姿を真似るしかないとしても」
「……」
祐騎が言う意見としては予想外だったが、空としては納得の、“背中を追う者”としての理論。
そしてそれは、自分も最近痛感した感覚に似ていた。
皆は自分の後ろを付いて来ている訳ではないが、少なくとも柊の後ろを全員で歩いてきたようなものだ。自分たちの歩んだ道は、彼女の努力で舗装されていた。それが急になくなってしまって、リーダーとして無意識に柊の真似をしようとしていたことは、記憶に新しい。
よく分かる。自分は気付けたからまだ立ち直れたが、気付かなければずるずると惨いことになっていたかもしれない。みんなが明るく話し合える機会だって失われていただろう。
自分の辿らなかった道を進んだ先に居たのが戌井さんだと言うのなら、どうにかして助けになりたいと思った。
「……アキは、そんなに弱いヤツじゃ……」
「強い弱いを決めるのはアンタじゃねえよ、高幡先輩。曲がりなりにも先を歩いていた人が、それを求めちゃいけねえんだ」
それは、重荷にしかならない。
洸は知っている。春も終わりかけていた頃、それを痛感したから。
洸と空の視線が噛み合った。先を行く者と追いかける者。彼らは互いに互いを追いあっている節はあるものの、6月ごろにあったすれ違いはほとんど消えている。
だから今のような話題の後でも、目を逸らすことなく微笑み合えるのだろう。
「当然、今話したことは推測でしかない。けれど、高幡先輩も頭に留めておいて欲しい。本音でぶつかりあう為に。乾さんたちの主張をすべて受け止める為にも」
「……ああ。そうだな」
噛み締めるように呟いた高幡先輩を見て、これなら目を逸らすこともしなさそうだと安心する。今は話した限りではやはり、彼を連れていくのが最善策に近いだろう。
向き合うことから逃げているようなら、間違いなく逆効果になりかねないから置いていくことだって考えてはいたのだが、無用な心配で良かった。
取り敢えず、立てておきたかった推測は立った。次は方針についてだ。
「サクラが計測したリミットは3週間。救出期限は、22日としよう」
「各自準備は忘れずにね。夏休みだしやりたいことは多いだろうけど、出来るだけ気を抜かないこと。とはいえ焦る必要もないから、夏休みは満喫すること」
「気を抜くのか抜かないのかどっちなんだよ」
「どっちもだよ、時坂クン。メリハリは大事だからね。遊べる時には遊ばないと。ね?」
とウインクしてくる璃音。
……そんなに遊びたいのだろうか。
「あと、小さな異界を見つけたら即連絡。これだけは絶対」
「そうですね! 戌井さんの異界攻略前の訓練にもなりますし、それ以外でも積極的にトレーニングはしていきましょう!」
「郁島、暑すぎ……夏なんだからもう少し抑えなよ」
「夏に暑くならないでどうするの!」
「涼しいくらいがちょうどいいに決まってるでしょ……なんで暑い時期に熱血なのさ。熱中症になるよ?」
「? あ! 皆さん、ユウ君は『無理せず休憩はしっかりと』って言ってるみたいです」
「ソラちゃん、四宮君検定でも取ったの?」
「そんなのあるわけないじゃん! バカっぽ過ぎるでしょこのやり取り!」
わいわいと、活気が戻る。真面目ムードは終わりみたいだ。
騒ぎ始めた彼らから離れ、高幡先輩に話しかける。
「……どうですか、高幡先輩。覚悟のほどは」
「どうだかな。まあ、腹は括った。それに」
「それに?」
高幡先輩は、ここにいる全員を順番に眺める。
「良いチームだな、お前ら。役割が明確で、それぞれが己の意志をしっかりと持っている。お前らが手伝ってくれるなら、きっとその、向き合う時間ってのは確実にやってくるだろうって信じられる」
「……ええ、必ず、高幡先輩を戌井さんのもとへ連れていきます」
「はっ。頼むぜ岸波」
「こちらこそ頼みます、高幡先輩」
がっちりと拳を突き合わせる。
さて、そろそろ締めるか。
自分が立ち上がると、全員が口を閉ざし、自分の方へ顔を向けてくれた。
洸、璃音、空、祐騎、そして柊と、高幡先輩。
順に視線を交わらせ、瞳に宿る熱を感じ取った。柊ですら、何かを訴えかけてくるような視線を向けてきた。
全員の前向きな姿勢を確認し、今回もまた、自分はリーダーとしてみんなに声を掛ける。
「それじゃあ皆、今回もよろしく頼む」
「「「「応!」」」」