PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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8月5日──【異界:蒼醒めた廃墟】分からないことだらけでも

 

 異界に入ると、おどろおどろしい雰囲気に呑まれかけた。

 何て呼ぶのだろうか。……瘴気? 何処となく毒々しいというか、とにかく、今までの中でもかなり危険な雰囲気の異界のように思う。

 とはいえ今日はただの様子見。少しは潜るものの、がっつりとした攻略は行わない。高幡先輩にも雰囲気と危険性はしっかりと知ってもらいたいし。

 取り敢えず、長時間潜っていても危険がない異界であれば良いのだが。

 

 

 少し歩いてみて感じ取ったのは、この異界が少し攻撃的だということ。

 顕著なのは、植物だろうか。どの植物にも大きく鋭い棘が生えていて、一部では何やら怪しげな液体まで垂らしているものもあった。

 それはまるで、シャドウとは別に何か、他人を拒絶している心の顕れのようで。

 ……アキヒロさんの人柄についても、後で高幡先輩に聞いておく必要がありそうだ。

 

 各々が最新の注意を払いながら分析し、間に小さな戦闘などを挟みながらも先に進むこと、約1時間ほど。

 不意に洸が口を開いた。

 

「そういや、“異界ドラッグ”についての情報はまだ共有してなかったな」

「異界ドラッグ?」

「ああ」

 

 

 聞きなれない単語だが、あまり聞こえのいいものではない。同じ単語でも、駅前広場にある【さくらドラッグ】のような健全さは感じ取れなかった。

 話している洸の雰囲気がそう思わせているのかもしれないけれど。

 

「まあ、最初はただの噂だと思ったんだがな。『BLAZEが危ないクスリをやってる』って聞いたから、昨日直接乗り込んで調べたんだ」

 

 直接乗り込んだって……バーにか?

 行き違いだったのだろうか。

 

「……あったのか?」

「ああ。バーの引き出しの中に、ヤバめな錠剤がな。連中は“HEAT”って呼んでるらしい」

 

 HEAT。熱。BLAZEといいそれといい、炎関係のワードが多いな。どうしてなのだろう。

 

「それで、異界ドラッグって言うのは?」

「異界に生えている植物……って言って良いのかは分からねえが、とにかく、異界原産の何かを原材料として摂取できるドラッグの総称、だったか」

「……それは、柊が?」

「ああ。出来ればその入手先も突き止めてえ。BLAZEの連中が異界のことを知っていたとも思えねえし、何より、加工自体は専門家でもねえと厳しいらしいからな」

 

 つまり、そこを突き止めて供給を断たねば、今回の異界化を解決したとしても、第2第3のBLAZEが生まれてしまうということか。

 ならば、頭に留めて置かなければ。

 何にせよ、詳しい話はまた後日だな。

 

「……クスリ、だと?」

「高幡先輩?」

「……何でもねえ」

「そうですか、気が付いたことがあったら、何でも報告してください。どんな些細なことでもです。情報があるのとないのでは、救助の成功率に大きな差が出るので」

「ああ、分かった」

 

 明日にでも攻略会議を開いて、主だった流れなどをもう一度高幡先輩に伝えておこう。あとは情報の整理と共有。状況の再確認。たった今舞い込んできた情報を含めて精査も必要だろうし、やるべきことは多い。

 ……そういえば、もう1つ知っておきたいことがあった。

 

「サクラ、異界の脅威度は分かるか?」

『はい先輩。階層が深い訳でも、規模が大きい訳でもないので、それほど高くないとは思われます。敵性シャドウの強さも、今の皆さんでも十分に対処可能な脅威度かと』

「そうか」

 

 異界の脅威度は生身の人間に対する危険度。これが高い場合、タイムリミットの設定を速めに押し倒していく必要がある……のだが、今回はそう短く設定する必要はないのか?

 

「は? いやいやちょっと待ってよ」

「どうした、祐騎」

「どうしたじゃないよ。じゃあ何? リアルで例えるなら、間取りはまったく同じなのに、玄関の大きさが3倍近く違う家があるってことだよ? ……いやまああるかもだけどさ。それでもその住宅を作ったことには意図があるはずだし。今回の件だって同じ、わざわざ入口が大きく開いたなら、そこには必ず相応の理由があるはずでしょ。流石に無視するには大きすぎる違和感だと思うけど?」

 

 ……ああ、そうか。巻き込まれた人数が多い理由か。

 異界の規模や脅威度がそれほどでもないなら、いよいよ以て何が引き金となったのかは分からない。

 

「サクラ、何か分かんないわけ?」

『す、すみません。私には何も……』

「はぁぁ。異界探索補助アプリのくせに使えなさすぎるでしょ。……ここら辺は要改善か」

「改善?」

「何でもない、こっちの話」

 

 ……それだけ言うと、すたすたと歩いていってしまった。

 その後ろを空が追う。単独行動は危ないよ。と諭す彼女と、それをはいはいとあしらう祐騎。この2人は、極めていつも通りだ。

 

 ……いつも通りといかないのは、やっぱり2年生組。自分たちか。

 

「……皆、まだ調べたいことはあるか? 無ければ一度引き返すが」

「オレは取り敢えず、大丈夫だな」

「……」

「あたしも大丈夫!」

「わたしもです!」

「僕ももう良いかな」

 

 全員が……正確に言えば、柊と高幡先輩を除いた全員が肯定の返事をしてくれる。

 

「……なんだ、何か分かったのか?」

 

 高幡先輩が隣に並び、鋭い眼光をこちらに向けてくる。

 隠すなよ、とでも言うかのように。

 隠すような情報でもないので、普通に明かすが。

 

「いいえ。一度、これより深く潜る為の準備をしに戻ります」

「戻る? 時間の余裕はあんのか?」

「はい。あまり悠長にとはいきませんが、1週間程度ならまず大丈夫でしょう」

 

 その明確な基準も、話し合って決めなければならない。

 今まで的確な助言をくれていた柊の一言は、今回望めないのだから。

 

 さあ、取り敢えずはまた明日。攻略会議へ臨むとしよう。

 

 

 


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