上条はラルトスを傷薬で傷を治している最中、インデックスに解析をしてもらう。
「解析完了。ラルトスです。テレパシーにより、人間と意思疎通できます」
「普通のポケモン図鑑より高性能ですたい。それよりも、俺たちに何の用だ?」
<はい。実は私の友達のピカチュウたちが大変なんです!>
「どう大変なんだ?」
上条以外の一般人が聞く。
<それは……き、来ました!>
そういうと、そこには黄色くない群れが木々の隙間から飛び上がる。
群れ全てが電気を身にまとい、攻撃態勢に入っていることがわかる。
「ビリリダマ、マグネットボム!」
「ビリ!」
土御門のビリリダマが一円玉を放り投げ、それを圧縮させて爆破させる。この爆発によりラルトスの友達が、地面に向かって頭から落下。あまりの事に上条は耐ショック防御をしただけだった。
「こいつらは……ピカチュウ!?しかも、こんなにたくさんの……」
「上やん。こいつらは、常盤の森のピカチュウたちですたい。特徴はあのゴーグルのようなものをつけているんだ」
「ゴーグル等装飾品、電撃レベルにより常盤の森のピカチュウに該当します」
冷静な分析に「すげぇ」と感心する上条は、バトルフィールド以外で聞こえてくる電撃音と悲鳴に気をとられる。目視できるレベルで電撃が周囲を襲い、人やポケモンを傷つけている。
この現状に上条はいたたまれなくなり、遂には走り出してしまう。
「ピカッ!?」
突発的行動にワンテンポ遅れるピカチュウたち。
「ラルトス!ピカチュウたちが住んでいる常盤の森はどっちだ!」
<こっちです!>
上条は考える。常盤の森のピカチュウというのならば、そこにもともと住んでいるということ。ならばその常盤の森に原因があるんじゃないか、と思案に至った。それが嘘か真かの是非は関係ない。今この瞬間に、同型同種のピカチュウがこのトキワシティを襲っている。この平地から見える常盤の森の一部からでも、電撃が溢れているのが見て取れる。それにそこから外部に向かって、異常に強い電撃が放たれている時点で、犯人が常盤の森にいるまたはあることを指し示している。
「上やん!でたらめに行っても駄目ですたい!」
「駄目でも行動しねぇと、関係ない人が今この瞬間に命さえ奪われているかもしれねぇんだ!今目の前に落ちているヒントを拾って手繰りよせねぇと、一生この事件の真相は闇の中になっちまう!」
「だが、常盤の森に何かあるなんて、確信があるのか!?」
「それはわからん!!けど、とにかく行動だ!ラルトス、常盤の森の頂上まで連れてってくれ!」
<はい!>
全力疾走しだした二人は、ラルトスに先行して貰ってついていく。また先行しているとピカチュウが邪魔してくるので、それをビリリダマとピカチュウで追い払った。
息が切れるほどの全力疾走でたどり着く常盤の森。そこから奥へ走っていく。
しかしその快進撃は止まってしまう。それは目の前にピカチュウではないポケモンが、姿を現せたからだ。その姿はだいだい色で長いしっぽを持ち、ピカチュウよりも暗い色でそろえられているポケモン……ではない。ピカチュウと同じような姿をしているが、ゴーグルをつけていない。ビリビリと同じように見えるが、立ち振る舞いや表情が全く違う。
違うところを探してみる。相違しているのは、瞳くらいか。真っ赤な瞳をしており、何やら様子がおかしい。
「すまない!ここを通してくれ!」
「駄目だ上やん。相当のお怒りのご様子ですたい」
「ッ……!ライッチュウウウウウゥゥゥウウウ!!!」
歯を食いしばり相当な逆鱗の様相を見せるポケモンは、全身から膨大な電力を放ち周囲へ拡散する。さらにそこから指向性を変更し、上条達の方へ向かってくる。
「まずいっ!ビリリダマっ」
しかし間に合わない。
「ピカッ!」
二人と一匹の目の前に、ピカチュウがでしゃばって両腕を開き仁王立ち。長時間電撃が直撃するが、どこにも怪我がないようで至って元気だ。
「ピカッ!ピカピッチュウッビカアッ!!」
「えーと、なんて?」
<おいアンタ、トウマに手を出すんじゃないわよ、との事です>
さらに目の前のピカチュウ似の何かは、別の鳴き声で警戒色を強める。そんな時、インデックスが上条の隣に立つ。
「あれはピカチュウの進化系。ライチュウです。総合能力は相手の方が上ですが、素早さならばややピカチュウの方が有利です」
そんな説明が入るが、目の前のライチュウは全くひかない。そんなときピカチュウが、後ろを見て聲を上げる。その内容は、ここは任せて先に行きなさいとの事だ。しかしピカチュウの事を放っていけないという上条は、インデックスから謎の電界が周囲に展開されていると聞いてこの場はピカチュウに任せる選択をした。
「っ!ライッ!」
「ピカッ!」
ライチュウが抜けていく上条達の方へ向かおうとすると、ピカチュウの電撃がライチュウの行動を阻止する。ライチュウが行動を阻害されているうちに、常盤の森がある山の頂上へ向かった。
常盤の森というのは、常盤學区にある森林地帯の総称である。そのためこの常盤の森には、比較的広大な森林地帯に山、湿原などが存在している。その中でインデックスが電界感じ取り、ラルトスがその発生源へ道案内する場所はこの広大な森林地帯のさらに奥。
そこは原生林が一部残っている山々の頂上だった。
途中山中にいるピカチュウたちが、上条達に襲い掛かってくる。それを彼らは強行突破する。電撃を受ける前に、土御門のビリリダマがソニックブームで吹き飛ばしてくれた。おかげで比較的余力を保ちながら、最奥部に来ることができた。
最奥部にあるのは古めかしい外見でありながら、その作りは比較的新しい人工物だった。
その人工物はただの建物でなく、低く広い建造物だ。
上条達は建造物の周囲を散策して、入口を探し当てる。土御門が「上やん」と上条達を呼び寄せ、建造物の入り口が地面にあることを告げる。
上条は土御門とビリリダマと共に、地下へつながる入口の鉄板をどける。そこには地下へ続く階段があった。若干土と錆で汚れてしまったが、こんなことは些細なことである。
「……いくぞ」
「ああ」
彼らは地下へ行き、薄く証明で照らされる構内を歩いていく。
そのまま緊張感をもって周囲を警戒しながら向かった先にあるのは大きな広間。ここで確実に敵と邂逅するだろうという予測をもって、警戒を厳にして歩みを進める。しかしその足音はプロではないので、確実に消すことは叶わないのである。
「散開してください、マスタートウマ!」
「「っ!」」
インデックスが聲を発したその直後、念動力が飛んできた。それは目視できるほど強力なもので、空気がゆがむことにより確認できる。上条は直感的な察知により、敵の攻撃がインデックスと分かったためインデックスを射線上から押し出す。
その代わり上条が攻撃を受けてしまう。
「上やん!くそっ、誰だ!」
土御門は吼える。後方を見据えた先にいるのは……。
<お姉さま……>
「何ッ!?」
ラルトスが愕然とし絶望する中で、土御門は驚愕と共に歯噛みする。
これは非常にまずいと思わせるには、十分な存在だった。
<嗚呼、この先に反応があるのに……>