礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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第40話 礎vs爆豪

〈…爆豪が尖兵として真っ直ぐ階下へ向かった事。これは…八百万は独断って言いましたが、俺は彼が自分の個性と核爆弾っていうこの上ない危険物との相性を鑑みた結果だと思います……〉

 

マスクの中から機械越しの声で、自分の行動について喋る。表情の読めない相手に爆豪は歯噛みするしかなかった。

 

「…氷の奴と弾く奴の戦いを見て、敵わなねぇんじゃねぇかって考えちまった!

クソ!!!クソッ、クソがッ!!!」

 

片や建物を瞬く間に凍てつかせ、ビル全体を氷の膜で覆い尽くし。もう片方は己が個性で防ぎ切ると事も無げに反撃を行った。

 

「なぁ!!てめぇもだ……デク!!!」

 

「こっからだっっ!!俺は…!こっから…!!いいか!?俺はここで……っ!

一番になってやるっ!!」

 

……………

………

 

 

「ふー…ただいまイレイザー」

 

「……………」

 

「ん……?どうした?」

 

手洗いから帰ったプレゼント・マイクが手元を眺める相澤に声をかける。

 

「いや…何でもない……」

 

「…?そうか……おっと…そろそろ時間だァ…!」

 

どうやら彼は何かを書いていたようだったが、紙をポケットに入れて素っ気なく呼び掛けに応えた。

 

相澤の行動を気にせず、実況席に座って仕事を始める。

 

………

 

ステージ四隅から炎が勢い良く立ち昇りそれを皮切りに観客が声を上げる。

 

『雄英体育祭もいよいよラストバトル!1年の頂点がこの一戦で決まる!!』

 

巨大スクリーンに両者が映し出され、遂に始まりの時を迎える。

 

『所謂、決 勝 戦!!

ヒーロー科!礎 遷形!!!』

 

体育祭当初から着けていたゴーグルには傷が付き、ここまでの競技の激しさを物語るも礎は相手をはっきりと見る。

 

『…vs(バーサス)!!

ヒーロー科!爆豪 勝己!!!』

 

爆豪の目は既に血走り、射殺すような視線で相手を睨みつける。

 

READY(レディ)……』

 

 

「「…………………ッッ」」

 

プレゼント・マイクの合図とともに両者は腕を前に出す。

 

歓声を搔き消す心臓の鼓動は、試合開始の合図を宛らカウントダウンのように正確に時を教える。

 

 

『...START(スタート)!!』

 

 

_BOM!_BOM!_BOM!!

 

爆豪の構えた腕の周りから小規模の爆発が合図と同時に数回。

 

それと対を成すように礎の服と髪が逆巻くように揺れた。

 

「──っ死ねぇッッ!!!」

 

_KRA-KBOOOOOM!!!!

 

叫びと共に巨大な爆破を放ち、周囲を赧く染める。麗日の流星群を跡形も無く消し去った爆豪 最大規模の爆発だ。

 

悪魔的威力のそれの防波堤となったのは全く同じ瞬間に礎が放った颶風だ。

それは当人の背丈を軽く超え、大規模な辻風となって爆炎と衝突する。

 

距離があった為に礎の暴風は爆豪の攻撃を空中で断ち切る。

 

横で観戦する者達は球状に拡がる爆炎が果物のように切り取られる様を。

 

礎の後ろで観戦する者達は不可視の壁に遮られる爆炎を。

 

観戦する各人がそれぞれに、文字通り目に焼き付けられた。

 

 

『開始早々!両者共々、全力でブチかましたァ!!拮抗する互いの実力!まさに決勝戦に相応しいスタートォ!!』

 

爆破が収まり、ステージ全域に黒煙が立つとプレゼント・マイクが口を開いた。

 

『礎は爆豪の攻撃を上手く相殺したァ!試合観てねぇのに良くやったなぁ!!』

 

『……いや、礎とっちゃ良くねぇな』

 

『え…ぁん……?』

 

『……今の初撃で仕留め切れなかったのは最悪と言っていい』

 

「………マジかよ…なんで?」

 

「観てれば分かる」

 

意味深に呟く相澤に言われるままに、試合に意識を戻した。

 

 

「(……上限ギリギリまで溜めておくべきだったか…アレを相殺されるとは…)fuck……!」

 

無難に蓄積するエネルギーを、いつもと同じようにした事を後悔する礎。

 

煙が晴れ、相手が見えた。

 

特大火力の爆破を行い、腕に火傷を負った爆豪が腕を抑えるも彼は──…

 

「…その腕で……笑うかよ………」

 

腕を抑えながらも、なお笑う爆豪も目にして礎は苦々しい表情を浮かべて頬を引攣らせる。

 

_BOM!!

 

両腕を後方に回し、爆破を起こして前方に加速する。

 

(はやッッ……)_BOOM!!

 

瞬く間に爆豪の射程圏に入れたれた事に驚き、礎の身体が一瞬硬直してしまう。

 

爆豪の攻撃が彼に直撃し、炸裂した爆炎は黒い煙と共に拡張する。

 

………

 

「…………そっこっっだァッッ!!」

(な…ッ!)

 

_BOOM!

 

拡張し、消えつつある炎。

その微妙な変化を目の端で捉え、そこに爆破を放った。

 

爆豪の予想は的中し、熱を吸収していた礎が爆風で吹き飛ばされ、ステージ上を転がった。

 

「〜〜ッッ痛っつ…!」

 

直ぐに立ち上がるも礎の衣服と肌には煤が付き、確かなダメージを表していた。

 

 

『っっウッソォ!!?

ここまで絶対的な防御力を披露していた礎がブッ飛ばされたァ!!』

 

今まで目にしていた事象がひっくり返され、プレゼント・マイクは驚愕する。

 

「礎がマトモに攻撃を食らった!!?」

 

「なんで……」

 

同じく、瀬呂と上鳴も驚くがステージから発する爆音に意識を戻された。

 

 

_BOOM!!

 

息つく間もなく爆豪は相手に接近し爆破を放つ。それはステージを抉り、避ける礎の耳を劈いた。

 

(〜〜〜ッッ!耳がっ…!こんなモンを麗日は何発も受けてたのか…!)

 

五月蝿い耳鳴りが頭の中に発生し、その上、相手の攻撃に押され礎は距離を取り続ける。

 

一方で相手の一連の反応を体感し、爆豪は笑みを浮かべる。

 

「…はっ!!思った通りだ!

テメェの一番の弱点はッ!受けるエネルギーの()()だろ!?」

 

(コイツ…ッ!気づいt_BOOM!「ッぐっっ!?」

 

攻撃を警戒し、紙一重で避ける相手に向かって吐くように爆豪は叫んだ。

 

「お前が物理無効野郎なら──…()()()()なんて有り得ねぇからなぁ!!」

 

(……個性複数持ちの脳無のせいで怪我の汚名を食ったか…最悪ッ………!)

 

防戦一方の礎は相手との距離を取る。

 

しかし

 

「ッ逃げてんっじゃねェよボケェ!!」

 

BOOOM!!

 

掬い上げるように放った爆破は地面を抉り取り、砕けた大小様々な破片が爆煙と共に礎に向かって飛んで行く。

 

「……っ!」

 

爆風に乗ったそれは瞬く間に相手にまで届く。だが単純な攻撃は両手で受けるように構えた礎によって防がれた。

 

大きな岩も、砂のように微細なものも静止して一面の壁となった。(さなが)ら──…

 

(……っ目隠し…!)

 

相手の意図を察した礎は個性を解き、歪な岩の壁が音を立てて崩れて薄い白煙が礎の前に現れる。

 

その時、

 

_BO!BO!BO!BOM!!

 

煙を押し退け、相手に手の甲を見せ爆破で速度を上げられた拳が礎に迫る。

 

(──ッ!爆破を食らったらヤb_ッッドッ!!「〜〜っイ゛ィッッ!??」

 

爆豪の裏拳が咄嗟に構えた礎の腕に直撃し、痛みが彼の表情が大きく歪ませる。

 

「っっ死ねェ!!!」_BOOM!!!

 

裏打ちした爆豪の手が爆ぜ加速する。勢いを生んだそれは軽く相手を吹き飛ばした。

 

硬いステージの上で数回跳ね、礎は呻き声を上げた。

 

 

『っ爆豪の爆裂拳ンン!!礎を思いっきりブッ飛ばしたァ!!!』

 

プレゼント・マイクが興奮し、大声で叫ぶ。

 

『…つーか礎は攻撃を食いまくりだな…あれ、どうなってんの?イレイザー…』

 

『…礎は吸収するエネルギーの比率操作が不得手なんだ。それを誤れば(あぶ)れた分がダメージになる』

 

『はぁー…だから轟の攻撃は避けてたのか』

 

相澤の解説に納得する。

決勝戦のこの場で発言したのは、それ以外だと礎に不利になると考えての事だろう。

 

『今見たく、爆破を警戒してそっちに集中すると打撃の方をまともに食らっちまう。その逆も然りだが…』

 

呟く彼の視線が爆豪に移され、彼はまた口を開いた。

 

『…礎にとって……爆豪や轟。同時に違うエネルギーを打てる奴は、間違い無く天敵だよ…』

 

 

「ッッ終わりだっ!!ネズミ野郎!!!テメェをブッ倒して──俺がッ……!」

 

片手のみの加速に切り替え、半身だけを起こして此方を見る相手に向かい右腕を振りかぶった。

 

「…──っ俺がトップだ!!!」

 

迫る相手が白く燻んだプラスチック越しに目に入る。

 

ぼやけて見えたそれからは何がしかを喰むように笑う、白い歯だけがはっきりと、礎の瞳に映った。

 

 

 

耳鳴りの中、心臓の音だけがはっきりと聞こえる。

 

刹那、礎の脳裏に悪しき記憶が蘇った。

 

路地裏、ゴミ袋、散乱したガラス片が反射する光を明滅させる。

 

管の詰まった排気筒が震えて音を立て、それに合わせたように笑う肥満体の少年。彼を囲む取り巻き達。

 

笑う少年達が徐々にドロドロ溶け、緑の一つの塊に変化する。やがて何処からか紫が加わり変形していく。

 

記憶は頭の中で変異し、悪夢のような光景として礎に認識させた。

 

塊はやがて人型に落ち着く。だがそれは決して人じゃない。

 

紫色の服から気味の悪い緑の肌が覗く。大きな目が弧を描き、黄ばんだ歯列の奥からゲラゲラ笑い声が聞こえる。

 

一瞬の内に凶夢を辿る礎に脳が最後に見せた記憶は一匹──いや、

 

一人のゴブリン(悪鬼)だった。

 

 

 

相手に着弾するまでコンマ数秒に迫る。

 

 

その時、

 

 

「ッッッ!!!!?」

 

 

衝撃で逆立つ彼の髪が一気に前へ傾く。

 

「〜〜ッッがっァッッ!!?」

 

突如、爆豪の右眼に青と白の柱が立ち塞がり前進していた体が一遍に後ろに弾かれた。

 

 

〔…!〕

 

 

(っなっっンだッ!??今のは!?)

 

バランスを崩してステージを転がる爆豪は想を巡らせる。

 

青白模様の柱が出現したか?違う。

自身が飛ばされる瞬間、確かに見た。

あれは─…

 

「〜っン のッッ野郎……!!」

 

砂利を轢いて倒れた体の上半身だけ起こし、右頬を押さえて相手を見る。そこには礎が背中を見せて立ち上がっている。

 

"いつの間に"

 

と考えた時、あれの正体に気がつく。あれは見慣れている。あれは──自分も着ている体操服だ。

 

(ッあンの野郎…!あの体勢から蹴りを打って来やがったッッ…!)

 

 

『………どっ…!』

 

目の前で起きた事に視力が追いつかず、実況すべき現象の言葉を分かっていながらも口を詰まらせた。

 

だが彼は口を大きく開き、叫んだ。

 

『…ッ胴回し回転蹴りィィ!!!猛スピードで迫る爆豪に叩き込んだァァ!!!』

 

やや遅れた実況者の声に我を取り戻した観客が沸き立ち、プロヒーロー達は目を丸くする。

 

「__...って………なぁイレイザー……今の見えたか?」

 

彼自身が見えた所を補遺するためにマイクを一度切って隣の相澤に聞く。

 

『いや…俺も見えたのは爆豪が蹴られてからだ。おそらく、礎は…個性で自分の稼働速度を上げたんだ。そうやって近づいてくる爆豪の間合いの内側に自ら転がって、攻撃。って所か……速いな…』

 

だが相澤もプレゼント・マイクと同じく、辛うじて目で追えたのは範囲は変わらなかったようで驚いていた。

 

(というかあの技…やっとかよ……)

 

 

自分の手で視界を半分にしながらも爆豪は血走った目でゆっくりと、振り返る礎を見た。

 

「…ッ!!」

 

礎の目を見た瞬間、充血した目が微かに萎縮した。

 

破損したゴーグル片手に此方を覗く、細められた目蓋の中で鈍く光る灰色の瞳。

………

「…………………」_ッカシャン……

 

「っ!」

 

醸し出された静寂は、礎がゴーグルを遠くに投げ捨てたことで破られた。

 

「……ンだよッ…!!その動きは…!」

 

顔から手を離し、立ち上がる爆豪の問いに礎が答える。

 

「…知っているだろ……お前がヒーローになる為に色々やってる時──…」

 

鮮明な記憶を辿る。

そこに在るのは、礎よりも大きな体躯を誇る蒼眼の師と──…

 

…偶然が重なり合って教えを受けることが叶った黑い肌の師だ。

 

「──…俺は俺で色々やってんのさ」

 

その答えに爆豪は笑みを深くし、口を開いた。

 

「はっ…!そりゃあ……良い…ッ!全力のお前を叩きつぶすッッ!」

 

構えを新たに此方を睨む爆豪。それに応えるように礎は地面を蹴り、僅かに遅れて爆豪も両手を爆ぜた。

 

 

が、

 

 

(……な…!??)

 

瞬きし、相手を視界から逸らした事が災いした。礎は地面を離れ、既に相手の頭に踵を向けていた。

 

_ッガ!

_ッッガッ!!

_ッッッガンッ!!

 

「〜〜〜ッッッ!!???」

 

吹き飛ばされる爆豪。

咄嗟に腕でガードするも、それを上塗りする連打に表情を歪ませる。

 

 

『…さっ三連回転蹴r_BOOM!!「ッンのっ…クソがァアッッ!!」

 

空いた間合いを馳け詰める礎に向け、放たれた爆破は実況の声を遮断する。

 

「ッッッbッねっ…!!」

 

爆豪の真正面に撃ち込んだ爆炎は礎が跼まって右に跳び前転した事で躱される。

しかし爆豪は持前の反射神経でそれを追い、追撃を加える。

 

_BOOM!_BOOM!

 

両手から更に2撃の爆破、指向性を加えたそれは炎の柱に似る。

だが高速で不規則かつ左右に避けて接近する相手に翻弄されて当てられない。

 

都合三度の爆破は全て避けられ、最後の爆炎が消える。そのまま相手の目前で礎は跳躍する。

 

礎の身体が反転し、両脚が天に向けられる。

 

「ッッッンン!!!」

 

爆豪の頭上を取った瞬間に彼の肩を掴んで勢いそのままに背後に倒れる相手の後頭部と両肩を打ちつけた。

 

「〜〜〜がッッ………!」

 

だが相手の動きをこの僅かな間に、予測し切った爆豪が礎に手を向けていた。

 

_BOM…!「っい゛っっづ…!!」

 

粗雑な威力にも関わらず、計らずも着地の瞬間を突いた爆破は礎の腕に直撃して体操服を破いた。

 

吸収が間に合わず、まともに食らった攻撃は追い討ちを掛けようと画策していた礎を下がらせた。

 

 

『…………スッッゲェ!!!礎のアクロバティックな格闘術!!実況しようにも口が!!追いつかねぇ!!ヤベェ!!』

 

『……おいマイク…』

 

『イレイザー……今、良いとk_『いいからコレ読め…』

 

『…え!?あっ…!!』_カチッ…「…おい…コレ…言っていいのか?」

 

マイクのスイッチを切って渡されたメモに書いてある事を相澤に確認する。

 

 

「「「「「………………………」」」」」

 

実況者と同じく熱狂する観客らとは反対に、A組の皆は開いた口が塞がらなかった。

 

「……に…」

 

「人間の動きじゃねぇ……!つーか教えを受けたってそういう事かよ…!!」

 

「つーか爆豪が翻弄された上に攻撃が当たられた…!!スゲェ………」

 

その言葉は全ての攻撃が直撃しなかった事実を体感した切島によって、より意味の重いものとなる。

 

「尾白くん…」

 

「……あっ……悪い。どうした?緑谷」

 

試合に夢中になっていた尾白が、遅れて緑谷に返事をする。

 

「礎くんの動き……戦闘訓練の時に観てたんだよね…?あんなに速かったの?」

 

「個性を使ってるんだと思うけど…だとしても…あの時の比じゃない。正直、速過ぎて目で追うのがやっとだ…」

 

「そう……」

 

「…?」

 

珍しく歯切れの悪い緑谷の反応に尾白は疑問を持った。

 

 

一方、此方はプロヒーローの閲覧席──

 

「…なぁ……あの動きって…」

 

「いや……そんな馬鹿な…確かに似てるけど…真似出来るものじゃないし、仮に出来たとしても……あの歳であそこまで似るなんて、あり…得るのか……?」

 

プロ達も目にした礎の動き。それに重ねられたのはこの道を選んでいれば誰もが知る、ヒーローの動きだった。

 

喧騒するのは観客達も同じだ。国は違えどキャプテンのファンは多い、故に彼の動きと礎の動作に見覚えがあった者が動揺していた。

 

そして──…

 

「……ねぇA組の人…アイツ…礎って何者?」

 

「えっ…!?と…」

 

B組、物間が席を分ける壁から顔を出して隣のA組に問い掛けた。しかし本人の是非無しに教えて良いものかと、顔を見合わせる。

 

 

「……承認は()()()()闘ってるアイツらにとってもプラスになる」

 

「…OK!!」_カチッ!『試合を観戦するリスナー諸君!!ここで朗報ッ!!今 正にそこで闘っている礎!!彼の動きと技に見覚えのあるヤツもいるんじゃねぇの!?』

 

その言葉にプロと観客が騒めき立つ。

 

『それもその筈っっ!!なんてったって礎 遷形は──…!』

 

 

「ックソがァァ!!」_BOM!!!

「っっ!!」

 

全速で相手に向かう爆豪。攻撃を受けた事に感情的になり、単調になった相手の動きを礎は捉えた。

 

身体を半回転させ彼は跳び、迫る爆豪の真上を取ると礎は相手の背を地面に打ち付けるように蹴りを放つ。

 

「ッグァ゛ァッッ!???」

「っっ!?…」

 

勢いをそのままに地面を叩きつけられ、そのまま転がる爆豪。

 

一方で着地を失敗した礎は片足を捻ってしまったようで、一瞬苦い顔を浮かべた。

………

爆豪が頭を押さえながら立ち上がると、痛みで僅かに顔を歪ませた相手を睨みつけ、口を開いた。

 

「どうしたぁ…!まだ戦えるよなぁ?」

 

その問いに礎が吐くように応える。

 

「……なんだ眠いのか?」

「〜〜〜ッッブッ殺す!!!」

 

火に油を浴びせるような返事を皮切りに再び両者がお互いに向かって全力で地を蹴り、衝突する。

 

 

『──…グレイテストヒーロー!!

あのキャプテン・アメリカを師事する男だからなァ!!!』

 

プレゼント・マイクが公言すると体育祭会場に設置されている全ての巨大スクリーンの画面が暗転する。次に映し出されたのは、かのキャプテン・アメリカと…肩を組む礎の姿だった。

 

「っ嘘だろ!!?」

「マジで!?」

「でも雄英だったら……っ!」

「大ニュースだっ…!おい!急いで裏取れ!」

 

突然のカミングアウトに観客とプロのほぼ全員が騒つき、目顔で知らせた。また、報道陣は各々が部下に連絡を入れて事の確認を行わせる。

 

 

それに一番驚いたのはA組だ。

 

「……言っちゃったよ………」

 

皆が唖然とした表情を浮かべる中、緑谷は試合から目を離さなかった。

そして──…

 

「……キャプテン・アメリカ……()()()()()()()………」

 

倒れ込むように席へ戻った物間が冷や汗を垂らして呟いた。

 

 

_BOOM!!

 

攻め立てる礎に爆発が放たれるも、彼は直撃を回避しつつ、腕を伸ばして爆炎を吸収する。

 

「──…ッッ!」_ッッドッ!_BOOM!

 

だが回避方向の先、そこに向けられつつある爆豪の手を察知し相手の腕を蹴って攻撃の軌道を逸らした。

 

(……動きを止めても爆破が来るか…!…ならっ…!)

 

回避し、着地する迄の間に次の戦略を立て正面から相手へ向かう。

 

「ナメてんじゃ……ッ!」

 

腕を弾かれたが直ぐに態勢を立て直してこちらに向かう礎に腕を振り、照準を定める。

 

 

_BOOM!「ッッがッ!?」「ッッ!」

 

礎は掌が此方に向いた瞬間に爆豪の手を掴んで裏返した。爆破の反動で掴んだ手を弾かれ礎の手に熱と衝撃による痛みが走る。

 

自爆し、膝を突いた爆豪が頭を下げる。

 

その隙を礎は見逃さなかった。

 

地面を蹴り、空中に倒立した礎が爆豪の両腕を掴んで地面に叩きつける。手を使わない、脚力だけのロンダートだ。

 

爆豪は地面に倒されたが、両の前腕部を掴まれていた為に手首を相手に向け爆破を放とうとするが──…

 

(…っ!?でねぇ!??ッコイツっっ!俺の個性を吸収─…!!)

 

重ねた腕の隙間から睨み合う両者。

 

 

『礎、爆豪を地面に捉えて押さえつけたァア!!』

 

 

力と力。

上を取った礎に負けじと爆豪も腕を押し返し、一度傾いた天秤が僅差に迫る。

 

(………〜〜ッッ!)

 

攻勢に出られるのを予想した礎が押さえ込んでいた腕を一気(ひといき)に離し、倒れる爆豪に重力を仕掛ける。

 

しかし、

 

離れた隙を突いて真横に伸ばした左手を爆破し、相手から離れることで爆豪はそれを回避する。

 

礎が踏み締めた場所を中心に亀裂が走って割れ、破壊された岩が聳立する。

 

………

 

(…今ので分かった…!コイツも限界が近ぇ…!だから個性と俺の腕の動きを奪えなかった…ッ!)

 

距離を取り、立ち上がった爆豪は相手の状況を予測する。そしてその推測は当たっていた。

 

「'…フッ…フッ…フッ……'!」

 

相手に呼吸を悟られぬように鼻で呼吸をしているが、よく見れば収縮する胸の動きが分かる。

 

 

「……緑谷…あの闘い方、どう思う?俺には礎の息が上がってるように見える…」

 

「……多分、あの闘い方は……必殺技とかそういうモノじゃないと思う…」

 

「…!」

 

緑谷の言葉に尾白は目を丸くする。

 

「礎くんのあの闘い方は…自分の身体を個性で無理に動かして闘ってるようにも見える。攻撃一辺倒じゃ、接近戦に強いかっちゃん相手じゃ分が悪いよ……」

 

「確かに…所々で炎を吸収してるけど礎自身があんなに動いてちゃ直ぐにバテるよな……」

 

観察力に優れた緑谷と、礎の闘いを間近で見た尾白が彼について考えていた。

 

 

同時刻、実況席。

 

(思えば……体育祭当初からアイツの闘い方は妙な所があった。ロボットを殪す時に車輪を吹き飛ばさなくても、妨害する方法ならいくらでもあったろうに…)

 

相澤は障害物競走時の彼の所業を思い出す。彼はわざわざロボの車輪を飛ばし、隣に走る生徒に警告していた。

 

やや眉間に皺を寄せ、相澤は思う。

 

(…ヒーロー飽和社会に於ける競争……それじゃ駄目だと言ってやるべきだったが…。礎、何がお前を変えた…!)

 

爆発音の中に肉を打擲する鈍い音が混ざり合う。両者共に一歩も譲らぬ闘いは体育祭当初の礎の様子とはまるで人が変わったようだ。

 

 

2人の闘いは激しさを増し、それに合わせるように観客らは歓声を上げる。

 

「いい加減にッッ!っくたばれ!!このクソがァァ!!」_BOOOM!!!

 

一際大きな爆破が礎を覆い隠した。

爆炎のみを吸収していた様子の相手にとって、規模の大きな爆破を直撃させれば爆風で吹き飛ばせると考えての事だ。

 

が、

 

「──ッッ」

 

胸倉に触れられる感触。

目前を囲む煙の中から煤けた腕が伸びていた。驚く爆豪は反撃を行うが──相手の方が速い。

 

胸先を打たられる衝撃音と炸裂音が再び混ざり合う。

礎の放った運動エネルギーは相手の背後の煙を球形に押し退け、

爆豪が撃ち込んだ攻撃は相手を再び炎と煙で覆った。

 

両者が互いを勢いよく吹き飛ばした。

 

 

『両者ダウゥンンッッ!!すっっさまじい攻防の末に両方とも倒れたァア!』

 

 

抉られ、無作為に転がる磧礫が2人の体で押し飛ばされ、ステージと場外を隔てるライン際まで黒板の文字が消されるように2本の道ができた。

 

破壊され飛散した砂利が体と地面の間に挟まり、研磨されるような痛みが背中全面に疾る。

 

 

「………ぁっ…!」

 

間近で行われた激闘に目を奪われていたミッドナイトが、両者の安否を確認の為に動こうとする。

 

だが、

 

_っジャリッ………

 

「……っ!」

 

彼女は足を止めた。

 

視界に写った礎と爆豪は殆ど同時に立ち上がろうと、地面に手をついて肘を立てたからだ。

 

やがて空足を踏むかの如く、肩で息をする両者が立った。

 

 

「ハァッ…ハッ…ハァッッ……!」

 

礎は煤だらけの全身から大量の汗が吹き出しながらも、構えを取る。しかし(はた)から見ても余力が無いのは明らかだ。

 

「…ゼェ……ゼェ…ゼェ…ゼェ……!」

 

火傷の痕を手から腕に掛けて負った爆豪は痛みで震える拳を握り締め、荒く息を吐き、耐えている。

 

両者共に気息奄々──…限界が近い事をありありと見せつけていた。

 

 

「爆豪も礎も もう限界だぜアレ…!」

 

「両方ともダメージが深刻だ。礎のそれは軽減しているとは言え、あの規模の爆発は相当に効いている筈っ……!」

 

傷を負いながらも尚、ステージに立つ両者を心配する切島と常闇。

 

 

(…耳鳴りが喧しくてもう何も聴こえねぇや…それとも鼓膜がイッたかな…)

 

染みるような耳鳴りが眼の奥を苛む。

度重なる攻防に礎は項垂れ、瞼に重みを受け取っていた。

 

(散々…食らわせたってのに立って来やがって爆豪の野郎っ………!)

 

結果、彼が感じたのはうんざりする程の倦怠感だ。

 

 

 

だが───……

 

 

 

ふと、辺りを見回すと大口を開けて何かを叫ぶ観客らが視界に入る。彼らは席を立ち腕を使って応援している。

 

「……………………'ha……!'」

 

彼は蚊の鳴くような声で、笑みを浮かべて嗄声を出した。

 

「(応援…されてるのか……俺も…爆豪も…そうか…こういう……)爆豪っ!」

 

「……あぁっ!?」

 

「…お互いに……体力の削り合いは性に合わないな」

 

「ぁ…?」

 

礎の問いに対して爆豪は訳が分からなかった。

 

だが、その答えは直ぐに相手によって示された。

 

_ッバゴッンッッ!!

 

数歩、進んだ礎が立ち止まると右脚で地面を叩いた。すると、彼の背後に捲れ上がった岩盤が隆起し身の丈以上の壁を作った。

 

…まるで轟が見せた氷壁のように。

 

……

 

「………………ハッ………!!」_BOM!

 

それを目にした爆豪は全てを悟ったように、笑った。

 

「ハハッ………!!」_BOM!_BOM!

 

垂れ下がった口角を上げて何時ものように歯を剥き出しに、笑った。

 

「…─上ッ等だっ()()ッッ!!」

 

爆豪は真っ直ぐ相手に向かって馳け、叫ぶ。彼の吊り目は戦意で血走り、礎を捉えて離さない。

 

 

『爆豪ッ!

再び礎に向かって突っ込んだァァ!!つーかっどんだけ体力あんだよっ!?』

 

『…逆だ……爆豪はこいつで決めるつもりだ……おそらく礎も…』

 

痣だらけの体を提げ、走る爆豪と迎え討たんと構える礎を目にして相澤は目を細めて呟いた。

 

 

「……Haa…!」

 

数度、掌を爆発させ笑みを浮かべて相手は此方へ走る。それを見ると礎は左右に大きく脚を開き、頬を上げて笑った。

 

片膝を突き広げた掌をステージに降ろすと辺りに散らばった石片が揺れ、仄かに浮かび上がる。

 

「……征くぞ。爆豪」

 

_ッゴッッゥッ!!

 

礎が逆袈裟に腕を振る。

巻き起こされた風に乗り、砕石は上へと彼を中心に旋回しながら昇ってゆく。

 

辺りに散開していた石も旋風に吸い込まれ、彼の頭上へと運ばれる。

 

 

「…っ!ウチの……!」

 

礎が最後の戦法に選んだのは奇しくも麗日戦を連想させ、彼女を驚かせた。

 

 

「…!ハッ…!次は麗日のかッッ!!」

 

_BOOM!!

 

破壊され、ステージの上は砂利だらけだった為にそれは明瞭に見えた。

 

夥しい数の石を浮遊させる竜巻を目にすると爆豪は更に笑みを深め、掌を下にして爆発で跳躍した。

 

_BOM!

_BOM!_BOM!

_BOM!_BOM!_BOM!

_BOM!_BOM!_BOM!_BOM!

 

爆豪の体が重力によって引き寄せられる瞬間、彼は身体の周りで極小規模の爆破を連続させ高速で自転する。

 

振り幅の大きな回転軸は徐々に安定し、爆煙で包まれた弾丸のように礎に向かって突進した。

 

「……フー…フー…フー…!!……」

 

吐いた息が鼻を抜ける音が自分を包む天籟と混ざり耳へと届き、肺の動きと連動する感覚がしていた。

 

曲げた膝を戻し礎は風を弱め、己が正面に落下するであろう石塊を待つ。

 

もう、病むような耳鳴りは消えた。

 

髪が揺れ砂埃が舞う中で礎は大きく眼を見開き、必ず仕留めんと決意を込めて相手に狙いを定める。

 

「─…榴弾(ハウザー)……ッ!!」

 

須臾も経たない僅かな合間に爆豪の声を聴き、腕の動きを見た。

 

それに反射し虚空を掻くように両腕を振るう。落下し加速を終えた飛礫は熾烈な突風に導かれ、爆豪へと放たれる。

 

回転する視界。迫り来る砂礫の混ざった飛礫の塊を爆豪は気にも留めずに左手を降り落とす。

 

「...着弾(インパクト)!!!」

「──…RooARRRッッッ!!!」

 

 

 

 

 

地響きを伴う噪音が鳴動する。

全ての音を呑み込む雷鳴の如き衝撃音。

 

風とは言い難い空気の壁。

それに射出された投石は火薬を持たない大砲と相違無く。爆豪最大規模の爆炎と混淆しステージを崩壊させながら辺りを覆った。

 

その凄まじい威力の爆発は観客と審判にも届き、個別ブースにる相澤達も含めた全員の(はらわた)を抉るように震わせ、スタジアムに造られた天蓋が振動するような錯覚を与えた。

 

〔〜ッッ!?っ耳がァっ!!!?〕

 

〔っっいッテェッッ!?〕

 

強烈な音と突風にプロヒーローを含めた観客らは目を思い切り閉じて、耳を塞いで衝撃に耐える。

………

気流の変動はやがて収まり、土煙が立ち昇る。

 

 

「……何が起きた…?ワケワカンネェ…イレイザー?」

 

あまりの威力にひっくり返ったプレゼント・マイクは隣の相澤に解説を求めた。

 

『2人の攻撃がぶつかって周辺の気圧が不規則に変動したんだ。…衝撃波を生んだって話だよ、早い話が』

 

「なんつー威力だよ…ハァ…よし……」

 

彼はある程度、息を整えると実況用マイクのスイッチを入れる。

 

『_..破壊したステージの破片を利用した礎の大砲並のショットガンとッ!!

麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えた爆豪の人間榴弾!!

果たして!勝負の!!行方は!!!?』

 

 

実況の声もそこそこに塵の混ざった爆煙は晴れ、そこかしこに枝模様を刻んだコンクリート製ステージが見えてくる。

 

最初に観客の目に触れたのは場外ライン間際まで吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れる爆豪の姿だ。

 

煙が風に乗り徐々に全体が露わになってゆくと、もう一人の姿が見えてきた。

 

先に見えたのは足元だ。

 

礎は自分で捲り上げた岩壁にぐったりと背を掛けて尚、立っている。壁は所々が砕けて大半は瓦礫と化し、元の半分の大きさも無くなっていた。

 

両者の痛々しい様相に、目を丸くする観客達。彼らは皆、同じ事を思った。

 

"早く勝敗を"と。

 

審判台ごと吹き飛ばされたミッドナイトが頭を摩って、ずれた眼鏡を戻すと判決を下そうと鞭を持ち上げた。

 

その時、

 

「………'うそ……'」

 

彼女は再度、動きを止め目を見開いた。

 

爆豪が、倒れていた筈の爆豪が、震えながらも、手をつけ、膝を立てた。

 

〔〔〔…………………………………〕〕〕

 

開いた目に加えて、口が開いた者。

冷や汗をかき、両手で口を抑える者。

見た者全てが固唾を飲んで見守る事を選んだ。

 

彼を動かしたのは"1位"への執念か。

 

相手を倒す、勝利への譲れない思いか。

 

それは本人にしかわからない。

ただ、客席に座っている少なくない数の人々は"もう立つな"と、口を滑らせてしまいそうだった。

 

だが、緩慢さを覚える時間の中で、遂に爆豪は立ち上がり天を仰いで息を吐くと、壁に凭れ掛かる礎の方へと向いた。

………

僅かな間を開け、息を整えると有ろう事か爆豪は脚を前に進めようと動いた。

 

正しく、亀の歩み。ほんの数分前までの速度は消え失せた、震え、倒れそうな脚を引き摺るように前へと進めた。

 

「…なんで動ける……」

 

それを目にした、ミッドナイト含め副審のセメントスもこれには驚きを隠せなかった。

 

身体中に多くの打撃を受けている筈。

衝撃波をまともに食らった筈。

 

それでも爆豪は──…_ッドシャ………

 

 

 

土埃が舞う音。張り詰めた空気の中、静寂を破ったその音で爆豪へと注がれていた視線は一斉にそちらに向いた。

 

音の出所には礎が立って──…居ない。

 

頭を垂れて腕は力無く垂れ落ち、膝を折って目元に影を作っていた。

 

………

 

〔…きっ……気絶…して……いる…〕

 

誰かが言った。

それに皆が納得した。

 

いつ彼は気を失った?

2人の攻撃がぶつかった時だろうか、

煙が晴れてからだろうか、

わからない。

 

でも彼は──…礎は倒れ、爆豪はまだ立っていた。

 

その事実が、勝敗を分けた。

 

礎に駆け寄ったミッドナイトが確認すると彼女は目を閉じ、手を挙げた。

 

「礎くん…行動不能!!よって───…爆豪くんの勝ち!!!」

 

………

 

「"わ……!"」

 

「"ワアアァァーーーーー!!!!"」

 

やや間を置いて観客達は叫んだ。2人の健闘を称えるのように。やがてそれは総立ちの拍手と混ざり合って、惜しみのない賞賛となり会場を包んだ。

 

『以上で全ての競技が終了!!

今年度雄英体育祭1年優勝は───………A組 爆豪勝己!!!!』

 

当分は鳴り止みそうにない喝采の中、爆豪もまた、前のめりに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー。鑑賞しました。MCU10周年に相応しい作品で有り、これからのMCUにとって必要な作品でした。
作者は取り敢えず公開された同タイトルの映画の種類(IMAX、4DX等)全てで観た後、応援絶叫上映なるものが有ったので先日行って参りました。同映画を観た方々、もし宜しければ感想など頂けたら幸いです。

お読み頂きありがとうございました。
感想・評価心よりお待ち申し上げております。

P.S.
それではこの後20時の「デッドプール2」を観に行きたいと思います。

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