礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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第36話 礎vs飯田

激戦を終え半壊し煙を上げるステージ。

 

 

〔緑谷はベスト8敗退か…〕

 

〔あいつ煽っといてやられちまったよ…〕

 

〔策があったわけでもなくただ挑発しただけ?〕

 

〔轟に勝ちたかったのか負けたかったのか…〕

 

〔何にせよ恐ろしいパワーだぜ、ありゃ…〕

 

〔でも攻撃するたび傷ついてたんじゃプロヒーローとしてやってけねぇだろ〕

 

〔それでも攻撃したんだ。気迫は買うね〕

 

〔騎馬戦までは面白いやつだと思ったんだがなぁ…〕

 

観客席のプロ達の評価は勝った轟よりも、負けてましった緑谷の方に偏っている。それは決していい事ではなかった。

 

 

 

 

 

(緑谷……あそこまでする必要があったのか?…下手すれば両腕を失っていたんだぞ……)

 

「…hurm……」

 

互いが全力を出したあの瞬間。

彼らの戦うさまに礎の心には熔けた鉛が流れるような熱い気持ちになっていた。しかし、緑谷の負った怪我の壮絶さを思うと眉を顰めざるを得なかった。

 

 

「デク君…!私、ちょっと行ってくる!」

 

「緑谷くんの所へか!俺も行こう!!」

 

「俺も!」

 

「ゲロッ…!」

 

緑谷の元へと行こうとする、麗日 飯田 峰田 蛙水。

 

 

 

(…………)

 

彼等と共に席を立とうとしたが、束の間に礎は逡巡し、答えを出した。

 

「……梅雨ちゃん」

「ゲロ?何、礎ちゃん?」

 

席に座ったまま後尾にいた蛙水を呼び止めた。

 

「緑谷に…"無茶し過ぎるな"って言っといてくれないか?……俺…今から……」

 

蛙水が礎の視線を見るとそこには彼が次に対戦する飯田がいた。

 

「……わかったわ、任して」

 

次に闘う自分としては"気不味い"という事を察した彼女は頷き、返事をする。

 

「ありがとう…」

 

「ケロっ」

 

そう言って蛙水は追いかけて行った。

 

………

 

「…………」

 

「"邪魔だ"とは言わんのか」

 

無言のままステージと控え室を繋ぐ通用口歩る轟。彼の前に仁王するエンデヴァーが道を塞いだ。

 

炎熱(ひだり)操作(コントロール)…ベタ踏みでまだまだ危なっかしいもんだが、子供じみた駄々を捨てようやくお前は完璧な俺の上位互換となった!」

 

轟の前に手を出し彼は続けた。

 

「卒業後は俺の元へ来い!俺が覇道を歩ませてやる」

 

「………捨てられるわけねえだろ」

 

「?」

 

反論の言葉にエンデヴァーの顔が曇る。それに対し轟も表情は曇っているが、何処か吹っ切れた様子を見せたがまだ悩みがあるように見える。

 

「そんな簡単に覆るわけねえよ…ただ、あの時あの一瞬は……お前を忘れた」

 

「…!」

 

その言葉に目を見開き、エンデヴァーの自信に溢れた笑みが消えた。その横を轟はとても静かに歩く。

 

「それが良いことなのか悪ィことなのか正しいことなのか…少し……考える」

 

試合前の人が変わったような顔で去って行った。

 

……………

………

 

「右手の粉砕骨折。もうコレ キレイに元通りとはいかないよ。」

 

「っ!」

 

緑谷は試合終えてすぐにリカバリーガールの元へ運ばれ、治療を受けている。当然緑谷の側には細く痩せたオールマイトが立ち苦しむ彼を見守っていた。

 

「破片が間接に残らないよう摘出しないと…治癒は その後だ」

 

包帯だらけの彼を見て、リカバリーガールは溜息をついた。

 

「…憧れがこうまで身を滅ぼす子を、発破かけて焚き付けて…嫌だよあたしゃあ…やりすぎだ、あんたもこの子も、あんた、コレを褒めちゃいけないよ」

 

彼女は顔を険しげに変え、師であるオールマイトに説いた。それを聞いた彼は申し訳ない顔で目を伏せる。

 

その時、

 

「緑谷(デク)くん(ちゃん)!!!」

 

…麗日たちが現れた。

 

その際、扉は勢いよく開かれ音を立てた。それに驚いてオールマイトは思わず吐血してしまう。

 

「大丈夫!?」

 

「'……あぁ…びっくりした…'」

 

「??初め..まして…」

 

「や..やぁ…」

 

この姿がオールマイトであることは秘密のため、汗が垂れている。

 

 

「騒がしいねぇ…」

 

「みんな…次の試合は……?」

 

「ステージ大崩壊の為しばらく補修タイムだそうだ」

 

リカバリーガールの苦言もそこそこに、霞んだ声で緑谷から出た言葉に飯田が答える。

 

「さっきの試合怖かったぜ、緑谷ぁ…あれじゃプロも欲しがんねーよ」

 

「塩塗りこんでくスタイル感心しないわ」

 

「っでもそうじゃんか…!」

 

暗い顔で緑谷に話す峰田の頬を蛙吹の舌が突き、そのまま彼女は続けた。

 

「…礎ちゃんが"無茶し過ぎるな"って言ってたわ。緑谷ちゃん」

 

「………!」

 

言葉を呑む緑谷。

 

 

 

 

 

すると…

 

「心配してるところ悪いんだけどね、これから手術さね」

 

「「「「手術!!??」」」

 

突然のことに皆が揃って声を上げ、両目を見開いた。

 

「ホラ、行った行った!!」

 

杖で4人を払いのけるようにするリカバリーガール。

 

「でも…」

「手術って大事(おおごと)じゃんっ…!」

「怪我は完治するのですか!?」

 

「いいから、あたしに任せな!」

 

「ゲロ……」

 

心配する皆を僅かに苛立った声で追い出し、扉が勢いよく閉じ鍵を掛けた。

 

 

 

「……すいません…」

 

「ん?」

 

彼らが去ったことに一息つくオールマイトに、緑谷は謝る。

 

 

「……果たせなかった…」

 

 

<君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!!>

 

 

緑谷は弱々しい涙声で喋る。

大量の汗が全身を伝う、試合での怪我で熱る身体を冷まそうと機能が作用する。

 

「…っ黙っていれば……轟くんにあんなこと言っておいて、僕は………」

 

「……君は彼に何かもたらそうとしてた」

 

「…確かに…轟くん……悲しすぎて……余計なお世話を考えてしまった……でも違うんです…それ以上にあの時、僕はただ……悔しかった……

周りも先も…見えなくなってた…ごめんなさい……!」

 

悔恨が唇を閉じさせ表情が強張り、彼の涙声がより鮮明に保健所に響いた。そんな緑谷にオールマイトは口を開く。

 

「……確かに…残念な結果だ。馬鹿をしたと言われても仕方のない結果だ…」

 

緑谷の目から涙が溢れる。が彼は構わず続けた。

 

「でもな。

…余計なお世話ってのは…ヒーローの本質でもある」

 

「──……っっ!!」

 

オールマイトの言葉が胸に刺さる。師の言葉は深く響き、痛みからではない涙が頬を濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

_Prrrr…Prrrr…Prrrr……

 

控え室から呼び出し音がする。

 

セメントスがステージを直す頃合いを見て、飯田はこの部屋に来ていた。

 

「……っもしもし兄さん?天哉だけど_『只今 任務遂行中の為、電話に出ることが出来ません』

 

音が切れ、兄が電話に出たと思ったが兄の録音した留守電のメッセージが再生されただけだった。

 

珍しくはない。

兄はヒーローで事件が起きればそこに向かう。だからこそ尊敬し憧れているのだから。

 

(…兄さん…頑張ってッ…!)

 

回線を切り ヒーローとして働く兄を思い部屋の天井を見上げた。

 

 

 

…………………

……………

………

 

 

 

 

同時刻、保須市。

緊急事態を報せるサイレンが鳴り、人々の不安を煽る中、白いアーマーを着たヒーローが街を駆ける。

 

彼の名は"インゲニウム"。

そのコスチュームを纏うのは飯田天哉の兄、飯田天晴だ。

 

『A班は北側、B班は西側の捜索を頼むッ!』

 

『A班 了解!』『B班 了解!』

 

彼の相棒(サイドキック)に無線で指示を出し、自らも捜索を続ける。

 

その時、

 

(あれは…!)

 

並ぶ建物の隙間に人影。その格好は脳に焼き付けた姿と酷似している。

 

彼は確信を持って個性を使い、ビルを飛び越えた。

 

(……間違い無いッッ……!)

 

先程、通り過ぎた裏路地に着地する。其処に()が、居た。

 

「ッ見つけたぞ!…"ヒーロー殺し"!!」

 

 

 

…………………

……………

………

 

 

 

 

『ステージ補修も終わったことだし、三回戦第2試合!おっぱじめんぞっお前らッ!』

 

「"ワアアァァーーーーー!!!!"」

 

ステージから水気が消え完全に乾きると舞台は元通りの形を取り戻し、四隅の火炎放射器も直され炎の柱を立てた。

 

そして、礎と飯田が対峙する。

 

「飯田…俺はお前と遊びのような闘いはしないぞ」

 

「ッ!!俺もそのつもりだ…!!全力を持って──…俺は君を倒す!!」

 

相対する二人に緊張が走る。

 

 

『ッ2回戦がアレな感じで終わっちまったけど実力は折り紙つき!ヒーロー家 出身のエリート!!

ヒーロー科

 

飯田天哉!__...』

 

 

(礎くんの個性と俺の個性は相性が悪過ぎる……!彼の間合い約40センチの間に入れば動きを止められ、その時点で負ける……っ)

 

苦戦を強いられる事を予期するも、飯田は冷や汗すら流さず相手を見る。

 

 

 

『__...(バーサス)

 

怪力、スピード、強風って攻撃手段が百 面 相!お次は何を見せてくれるのか!?

同じくヒーロー科

 

礎 遷形!』

 

礎は飯田のスピードに対応する為、ゴーグルを掛けていた。

 

 

 

(…警戒すべきは超加速での攻撃。緑谷は真正面から来られても反応出来なかったらしいが……)

 

麗日が話していた言葉を思い出す、相性差を考慮しても彼は警戒を怠らない。

 

 

 

READY(レディー)……』

 

 

 

(礎くんの個性__...)

 

 

飯田はマスコミがゲートを越え、食堂がパニックを起こした時の事を思い出す。

4人で昼食を食べていて、麗日は味噌汁を食べていた。それに……

 

 

(…あの時、零した味噌汁に対して"熱い"と言っていた。つまり刺激に対して自動で働く類の個性ではないっ…!ならば……!)

 

飯田は逡巡し、彼への対応に頭を働かせる。しかし礎は構えを取らず食い入るように飯田を見ているだけだ。

 

 

 

『…START(スタート)!!』

 

 

 

_DRRRRR!!

 

「……ッ!」

 

合図と共に飯田は斜め前に走り出し、礎を中心に円を描くように走る。

 

(礎くんの性格ならレシプロを警戒して速攻はしない…!常に吸収を発動しているならば強力な攻撃は出来ない筈…!!)

 

 

 

『おぉーと!!開幕早々、飯田が礎の周りを旋回ッ!』

 

『…おそらく礎に捉えらえる事を避けたな。飯田は走る距離で出せるスピードが変わってくる、それに騎馬戦の超高速を見られてない以上──駆け引きが出来る』

 

相澤の解説は当たっていた。

 

 

 

 

「(このままスピード上げ続けられるのは危険っ……が、件の超スピード……どの程度の速度か判らん以上 迂闊な攻撃はヤバい…)…hurm……!」

 

ステージ中心辺りに立つ相手を見ながら飯田の速度は確実に速くなっていた。

 

(レシプロを警戒して攻撃するまで迷ってくれれば良い!その間にも俺のスピードは──上がり続けるっ!)_DRRR!!

 

エンジンの回転数が上がる。それにより速度に磨きがかかる。

 

 

 

 

「飯田のスピードが上がった!」

 

「ギア上げたんだろ。つーかこのペースで速くなられたら、当たる攻撃も当たんねーぞ。どうすんだ?礎は…」

 

驚く上鳴に瀬呂が答えるが、彼もこの先の展開に疑問を抱いていた。

 

 

 

 

同じ時、またも飯田の速度が増した。そして丁度 相手の正面を通過する。

 

しかしその時、飯田は確かに両眼で捉えた。

 

 

礎が僅かに爪先を浮かすのを。

 

 

[運動エネルギー]放出_ッッドォンッッ!!

 

落とされた爪先を中心に地面がめくれ上がり、亀裂が稲妻のように走る。その裂け目を追うようにステージから割れたセメントが突き出した。

 

(少し考えれば単純な話だ。相手がスピードを出して走るなら足場を崩せばそれだけで速度を阻害出来る…!)

 

「……くっっ!!」

 

目を見開きバランスを崩す飯田─…!

 

 

 

 

『マジかよ!!?礎、ステージをド派手に叩き壊したァァ!!』

 

『あの攻撃は自分の機動力も削がれる。が、飯田相手にこの攻撃は最も効果的だ』

 

彼のテンションの高いリアクションはサングラスを超えて会場全体に響く。しかし一方の相澤の解説は冷静なままだ。

 

 

 

 

飯田は間一髪、礎の攻撃するのを見た事が幸いしていた。視線を下に移し、不安定な足場を避け、相手に向かって跳んだ。

 

だが礎も同じく跳び こちらへ。

 

いや既に──

 

(しまっ…!)

 

礎は刹那の油断を見逃さず、己が間合いに飯田を入れた。

 

彼は腕を伸ばし、飯田の胸骨辺りに触れる。

 

_ッッドッ!!

 

「っが…!」

 

渇いた音だけ残し、叫びの主は歪な地面を平行に飛んだ。

 

 

 

 

『礎、地面を叩き割り飯田を吹っ飛ばしたぁ!!これは決まったかァー!!?』

 

 

 

 

「〜〜ッッ!」

 

攻撃を受けて間も無く、飯田の体躯が活かされ足が地面に触れ砂利を掻く音を立てる。

 

(〜ッ止まれない…!)

 

だが相手の攻撃は鋭く、勢いを殺しきれないと反射的にわかってしまった。このまま行けば場外ラインを超えてしまう。

 

 

 

(………これで…)

 

礎はその場から動かずに空を切る飯田を見つめている。

 

 

「(ッッまだ…)ッッエンッジンッ…ブーストッッ!!」

 

「っな………!?」

 

マフラーから勢いよく煙が噴出され、それを見て彼は目を見開いた。

 

それから数秒も経たずに土煙りと砂埃が混じり、ゴムが燃やされた臭いが鼻を掠め、飯田は地面に前のめりになって片膝と両手をつくも場外送りを阻止した。

 

「…ッ!(マスコミの暴動の時のか…ッ忘れていたっ…!!)」

 

_ッダンッッ!!

 

地面を蹴り上げ飯田へと跳んだ。

 

 

 

 

『礎が休む事なく追撃!!飯田に向かって一直線ンンー!!』

 

『……?』

 

息つく間も無い展開にプレゼント・マイクの実況にも力が入る。その傍で相澤は僅かに片眉を曲げた。

 

 

 

 

(場外ラインまで約2m…このまま──…!終わらせる…!)

 

ステージを形作っていたコンクリートは捲れ、その間を駆け抜け腕を一杯に伸ばし伏せる相手へ再度 攻撃を試みた。

 

 

 

その時。

 

 

 

'レシ…'

 

礎は耳に届いた言葉に疑問符すら思い浮かべずに聞き流していた。

 

'プロ……'

 

(…クラウ……チング__.....)

 

飯田の体勢は前屈みで視線は下のままに此方の脚だけを見ていた。だからこそ気づくのが遅れた。

 

(...やb_「ッバーストッッ!!」

 

完全に相手の動体視力を軽く凌駕する圧倒的な初速の差。彼は礎の間合いを通り抜け、視界から消えた。

 

(ッ!?…攻撃が来なi_ッダンッッッ!!

 

「っフンッ!!!」

 

相手を摺り抜け背後を取った。歪に割れて立ち上がった岩盤を足場に、飯田 渾身の回し蹴りが振り向く礎の顔面へ向かって放たれた。

 

(礎くんの個性が発動する前に──終わらせる!!)

 

元々、無いに等しい距離が詰まる。最高速度の蹴りにより相手の間合いを突き抜け それは更に瞬時にまで縮まった。

 

神経が研ぎ澄まされ、こちらを向く相手の首の動きすら緩慢に感じる。

 

 

 

 

そして───触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッぶねぇ……!」

「……ッッ!!!」

 

蹴りつけた膝の辺りが顔に触れ、彼の左頬の形を変えたがそれまで。

 

礎の瞼は藁のように細く、そこから覗く灰掛かった瞳が飯田を睨んだ。その動きは急停止した身体に喪失感と共に、飯田の背筋を微かに震わせた。

 

礎が相手から目を離さずに頬に当たる足首を掴む。

 

飯田が蹴りつけた足は固まり身動きが取れない。そして残った左足を自分の脚で こちら側に弾き相手を虚空へ放つ。

 

(──脚………!!)

 

殆どの体重を支えていた軸足を蹴られた感覚と突如、変わる景色に驚く。

 

 

そして

 

それは

 

来た。_ッガクン…!

 

 

己が肉と血液が大地に引き寄せられる体感が襲い、風を切る音を耳が微かに捉え地面に叩きつけられた。

 

「ッッがッ!!?」

 

頭の痛みに加え、脳を震わす気持ち悪さ。それ以上に肺の中の空気が潰されるような感覚が勝る。

 

「(っ礎くんの重力か!?なんという威力…!)〜〜ッッグ……!」

 

(……………)

 

既に掴まれた脚は離されていた。礎は歯を食いしばり仰向けに倒れる飯田に足を進めようとする。が、

 

 

『飯田くん行動不能!!礎くん準決勝進出!!』

 

「〜〜がっ……フッ…フッ…ハッハッ…ハッ…ハァ…………」

 

足を踏み出す前に主審ミッドナイトが鞭を鳴らし、勝敗を付けた。その直ぐ後に身を搾られるような重さが消え、飯田は荒い息を吐いた。

 

「………………速いな…」

 

礎は残る感触を確かめるように頬に触れると、呟いた。

 

「くっ…兄さん……」

 

飯田は倒れたままに天を仰いで歯を食いしばっていた。

 

 

 

…………………

……………

………

 

 

 

 

……変わらず鳴るサイレンは暗く細い路地裏にまで届いていた。警告音は危険から知らせ聞いた者を遠ざける為にあるものだ。

 

危険を取り除く物でもない、殆どの場合 聞いた者に危害が及ぶ。

 

 

 

 

ヒーローですら。

 

 

 

 

『こちら保須警察署!至急応援頼む!!』

 

夥しい血痕の数が壮絶さを物語る。その暗く赤い地に伏す白いアーマーは、霊園の仏花のように目を惹いた。

 

 

「名声…金…どいつもこいつもヒーローを名乗りやがって……」

 

 

光るスマートフォンに実弟の名が映るが持ち主の目に触れることは無く、その画面は戦いの勝者によって踏み砕かれた。

 

 

「てめぇらはヒーローなんかじゃねぇ…彼だけだ……」

 

刃毀れした刀を携え、通りの光が彼の顔を照らす。皺だらけのマスクから覗く目は血走り、忿怒の念を世界に送る。

 

 

「俺を殺っていいのはオールマイトだけだ……ッ」

 

 

 

『"ヒーロー殺し"が現れた!!』

 

 

 

 

 

 

 

 




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