礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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更新遅れました…すいません。









第35話 轟焦凍:オリジン

 

 

 

〈……でもヒーローにはなりたいんでしょう?〉

 

〈…ぇ……?〉

 

膝の上で啜り泣く自分を温かい優しく抱きしめ、物柔らかな言葉が泣き声を透り抜けて耳へと届いた。

 

〈いいのよ…お前は………〉

 

 

 

 

 

 

(…この先をいつの間にか忘れてしまった……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ワアアァァーーーーー!!!!"」

 

会場全体が盛り上がる中、A組は皆が神妙な面持ちだ。その他にも教師陣や……轟の実父 エンデヴァーも。

 

巨大スクリーンに対戦する2人が映りまた一層の熱気が上がる。

 

『三回戦第1試合!!今回の体育祭 両者トップクラスの成績!!

 

緑谷!!』

 

 

 

(まず氷結が来る……ッッ)

 

彼の耳は大音量の歓声を遮り、既に聞き入れるのは必要な情報のみだ。それにより冷静に予測を付けていた。

 

 

 

『__...(バーサス)

 

轟!!』

 

 

 

(あの"(パワー)"を好きに撃たせるのは危ねぇ)

 

一方で轟はいつも通り。冷静に相手を分析し、その脅威を正しく認識し対処法を既に持っていた。

 

 

 

『まさしく両雄並び立ち!!

 

今!!!___......』

 

 

 

 

 

 

((開始瞬間に──…))

 

開始まで秒読みに入った。その時、両者が共に構えた。

 

一方は手首を押さえ、右手を。

 

一方は右脚を。

 

それぞれが前に出し、臨戦態勢へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

『.....STAAAART(スタート)!!』

 

 

 

((…ぶつけろ!!))

 

開始と同時。

轟の足元から突き出す氷が緑谷に迫り、目前まで辿り着いた時には既に彼の背丈の3倍はある氷塊になっていた。

 

「ッSMASH!!」

 

避ける選択肢を殺す速度で襲い掛かる氷結を指を弾いて真正面からの迎撃。

 

途端に衝撃波で氷が砕け、吹き荒れる暴風が客席に飛ぶ。

 

 

 

〔風だけでこんな寒いのかよっ!〕

 

 

 

ステージをゆうに飛び越え冷え切った風が会場に流れた。

 

 

 

 

 

 

 

(……やっぱそうくるか…ッ___....)

 

轟は巨大な氷を破壊する衝撃波が起こした風を正面から受けた。背面に作った身の丈ほどの氷の壁で踏ん張ってはいるものの、その強風は予想通り脅威的だ。

 

そして、これも。

 

(...自損覚悟の打ち消し……!)

 

「〜〜〜〜っっ!!」

 

風が止んだ先、冷気が白い靄を作り周りを包む中。緑谷の指は血が滲み出し腫れ上がり、右手首を抑えている。

 

 

 

『おオオォ!!緑谷!轟の攻撃を破ったあアアッ!!』

 

 

 

(轟少年がどの程度の規模で攻撃してくるか分からん故に、制約できる範囲を捨てて100%のぶっぱ!!

…確かに氷結の攻略にはそれしかないが……しかし…ッッ!)

 

冷や汗をかくオールマイト。

どうにか氷を相殺したが、相手にダメージは無し。その上、緑谷は個性を使えばその分自身も損傷を伴う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟が攻撃を繰り出す。

 

が、

 

「ッSMAAAAASH!!」

 

緑谷は自身が氷結される前に破壊する。

 

 

 

『まぁたッ!破ったぁ!!!』

 

 

 

(〜〜ッッ)

 

「ちっ...」

 

これを緑谷が防ぎ、風が反対側の観客の肌を刺す。彼の人指し指が嫌な音を立て血に染まる。

 

「〜〜ッッ!(…礎くんから大凡、聞いてたけどっ……まだッ…まだ情報が少ない…!情報を……この戦いのなかで隙を見つけなくちゃ……!!)」

 

苦悶の表情を作る緑谷。だが相手を分析し打開策を頭で考え、次の攻撃に備えて残る指で相手を牽制する。

 

(背面に張った氷は恐らく吹っ飛ばされない為に対策した結果だ……とすれば()で正解だった!腕犠牲100%スマッシュでも対応される可能性が高い…!

 

見極めろ…!!

 

考えろ……!

 

見つけるんだ……!!

 

あと…

 

6回のなかで!)

 

生皮を剥ぐような痛みを噛み締め、折れぬ目で相手を睨みつける。

 

「…お前は……」

 

轟が白い息を吐く。

 

その時、

 

緑谷目掛け地面が氷に覆われ、氷の劔が迫る。

 

「〜〜〜ッッグッ!」

 

しかし彼の個性がまたもや炸裂。

 

観客側から見れば同じ繰り返しの出来事だが、緑谷の内心は…

 

 

(〜〜ッッ!あと5回っ!)

 

…とても深刻だ。

 

 

 

1ーA応援席では…

 

「げっ!始まってんじゃん!」

 

「お!切島!!三回戦進出やったな!」

 

鉄哲との勝負を終えた切島がやって来て、上鳴は軽く手を振る。

 

「おうよ次 おめーとだ爆豪!よろしく!」

「ぶっ殺す」

「ハッハッハッやってみな!__...」

 

見向きもしない爆豪は言葉を吐き捨てると、切島は陽気な笑みを浮かべてる。

 

「...とか言っておめーも轟も強烈な範囲攻撃ポンポン出して来るからなー…バ──つって」

 

「しかもタイムラグ無しでなー…」

 

「ポンポンじゃねえよ舐めんな」

「ん?」

 

と、ここで真剣な顔立ちで舞台を観ている爆豪は口を開く。

 

「筋肉酷使すりゃあ筋繊維が切れるし、走り続けりゃ息切れる」

 

彼ははそう言って自分の腕を見つめる。

 

(俺だって出せる威力には限度がある…だからコスチュームで許容超過の爆破をノーリスクで撃てるように考えた訳だしな…)

 

礎は前を見たまま切島達の話を聞いていた。

 

(…爆豪の言う通り、個性もヒトの持つ器官の一つだ。必ず限界がある……屋外で闘ってるからか…規模も威力も よく見える。…緑谷の狙いも おそらく……)

 

以前、闘った轟の攻撃を注視し不明だった部分を解明していく。そんな中切島が口を開いた。

 

「じゃあ緑谷は瞬殺マンの轟に…」

 

 

 

 

 

 

 

「耐久戦か。すぐに終わらせてやるよ」

 

再度、氷の波が緑谷へ疾る。

 

「っ!ッッSMAAASH!!!!」

 

またもや これを緑谷が反撃する。

 

しかし……

 

(もう右手…全滅……!!)

 

右手の指 全てに裂傷が刻まれる。残るは左手のみだ。

 

 

 

『轟 緑谷のパワーに怯むことなく近接!!』

 

 

 

言葉そのままに半壊した相手に氷で路を生み出し、駆け上がる。

 

「っくしょっ…!」

 

なんとか相手の意図を視線で捉えた緑谷は、少ないダメージを残す左の指で氷の道を破壊する。

 

が、既に先端まで来ていた轟は氷の破片を足場に頭上から緑谷に目掛けて着地。

 

接地すると同時に氷を打ち立てる。それでも間一髪、空に逃げた相手を追撃せんと巨人の手の如き氷塊が放たれる。

 

(ダメだ近っ…)

 

回避も虚しく、右の爪先から氷に覆われていく。衣類越しに迫り、這い寄り、自身を包んでゆく冷気に並の人間なら恐慌し この瞬間勝負は決まっていた。だが彼の脳は……正常に機能した。

 

「(〜〜〜ッッ!)っぐ……っ!」

 

指に集中させた力を左腕全体に移した一撃。

先程までとは比べ物にならない衝撃波。それは氷を粉々に砕き、強烈な冷気を内包する烈風が客席に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さっきより…っ...ずいぶん高威力だな…」

「──ッ!」

 

轟は背後に作った氷と砕かれた氷に挟まれるも、ステージ内に止まっていた。そしてそれは、緑谷にとっては最悪の結果と相違無かった。

 

「…近づくなってか…」

 

「〜〜ッうう゛う゛…!!(……個性っ…!だけじゃない…!!判断力、応用力、機動力…全ての能力が…強い!)」

 

片腕を犠牲に放った一撃。轟は攻撃と同時に背後に氷を作り、()()()攻撃に備えていた。腕を犠牲に放てば対応仕切れないと踏み、撃った。

 

しかし結果は望ましいものではなかった。

轟は突風と衝撃波で吹き飛ばされるも個性で氷を作り続け、自身を制止させていた。

 

結果。

左腕は血で塗られ、腫れ上がり肩から物のように ぶら下がっている。想像する事すら悍ましい激痛に緑谷の目から涙が浮かぶ。

 

 

 

 

 

〔もうそこらのプロ以上だよ…アレ…〕

〔流石はNo.2の息子って感じだ〕

 

見守るプロ達は相手を圧倒する轟に驚きを隠せない。

 

 

 

 

 

「守って逃げてるだけでボロボロじゃねえか」

「…………!」

 

白い息を吐き、無情な言葉を送る相手を緑谷は見た。

 

(──!?震え……!?)

 

轟自身が微かに震えてるのだ。

 

 

 

(…………ッそういうことか…!?………ちくしょうッ……)

 

両腕の傷による痛みにより息を荒げる、そんな相手から視線を逸らし轟は観客席の方を見た。

 

「悪かったな…ありがとう緑谷。おかげで___...」

 

エンデヴァー。彼の顔を覗いていた。

 

「...奴の顔が曇った」

 

(───………!)

 

 

 

 

 

〈クソ親父の個性なんざなくたって……

 

いいやっ……

 

左を使わず"一番になる""ことでっ奴を完全否定する……ッッ〉

 

苦痛の海で溺れる緑谷の頭の中で轟の言葉がよぎる。

 

 

 

 

 

 

「その両手じゃもう戦いにならねえだろ…終わりにしよう」

 

視線を地面に移し俯く緑谷に言い放ち、攻撃を繰り出した。

 

 

 

『っ圧倒的に攻め続けた轟!!とどめの氷結を___...!!』

 

 

 

荒い鱗のように重ねられる氷で両者共に相手が見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ見てるんだ!!!」

「!」

 

強烈な一撃が炸裂。

 

最後と断じたプレゼント・マイクの実況を遮ると同時に氷は砕かれ、自身の予想を覆す攻撃による動揺が轟の防御を遅らせた。

 

突然の暴風に飛ばされないよう轟は、後方へ薄い氷を重ねて壁を作り続けた。

 

「ぐっ……!」

 

しかし、それでは間に合わないと判断し場外ライン間際で急制止のダメージを受けながらも阻止した。

 

 

 

 

「………てめェ……ッッ!」

 

腫れた指は血を滲ませ更に酷くなり、生爪は剥がされていた。一瞥するだけでその苦痛が伝わる。

 

「壊れた…指で…!何でそこまで…ッ」

 

「……………震えてるよ轟くん……」

「っっ!」

 

轟の問いかけに緑谷は痛みで微かに震えながら応えた。

 

「………"個性"だって身体機能の一つだッ…君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?

で...それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか…?」

 

左──憎む父親の力を突かれたことに轟の目が忌々しいものへ変わり、緑谷を睨みつける。

 

「………っ皆……!!

 

本気でやってる………!!勝って……目標に近づくために……っ

 

一番になる為に!

 

()()の力で勝つ?!

 

まだ僕はッッ

 

君に傷一つつけられちゃいないぞ!!」

 

関節部が歪んでずれた指を無理に動かし、熱い言葉に力が入る。それはステージを飛び越え会場中に響き渡った。

 

 

 

()()でかかって来い!!」

 

緑谷の激昂。

皮膚がズダズダに傷付き、骨が歪もうとも拳を強く、強く、握り締め、轟へ向けて闘いを求めた。

 

 

 

(緑谷少年……!)

 

彼の言葉はオールマイトに届く。

 

 

 

 

〈轟くんも貴方じゃない!!〉

 

(あの小僧…)

 

エンデヴァーも脳裏に彼の言葉を浮かべる 。

 

 

 

 

 

「……緑谷…何の…つもりだ…ッ全力…?クソ親父に金でも握らされたか…?」

 

血走った眼で此方を睨む相手の言葉に憤懣し、緑谷の言葉が何処から出て来たのかを問う。

 

「イラつくな………!」

 

その答えに意味は無いと悟り、近接へと持ち込むため走り掛けた。が、

 

(っ!?動きが……!)

 

 

 

 

 

(…!?轟の動きが遅い…あの霜は─………そうか、自分も冷えて……!!)

 

緑谷と礎の考察が被り、正当に差し掛かる。

 

 

 

(近距離ならお前は対応できない…!)

 

だが それを読んでいた緑谷が懐へ飛び込む。相手の右足が浮き、発動できない僅かな隙を突いた。

 

(右足上がった瞬間に……こいつ!)

 

突如、間合いを詰められた事に驚いたが何とか右手を伸ばす轟の耳にくぐもった声が届いた。

 

「'イメージ…電子レンジの………爆発…しない……!'

'爆発…!'

'しない…!'

'しない……!!'

ッッしない!!」

 

低い姿勢のままに拳に握り締めると宛ら雑巾を絞るように血が滴り落ちる。そのまま一線に轟の腹に突き刺し殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

『モロだぁ!生々しいの入ったあァ!!』

 

 

 

 

 

 

轟はなんとか緑谷の左腕を氷で覆ったが二度、三度地面に叩かれ、転がる。

 

「ぐぅうぅ゛う゛っっ!!」

 

壊れた拳で攻撃は彼の手を更に赤く染め、光沢を帯びた。

 

「はっ……くっ……!!」

 

痛み、震える身体を起こし何とか体制を取り戻した。轟は咳をし腹に手を当てて立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

〔轟に…一発入れやがった!!〕

 

〔どう見ても緑谷の方がボロボロなのに…!〕

 

〔ここで攻勢に出るなんて……!〕

 

観客の声も上がっている。しかし、

 

 

 

 

 

(なんでッッッ)

 

轟は攻撃を放つ……が さっきまでとは違い、出来の悪い氷が鈍く相手に迫る。

 

(氷の勢いも…弱ってる!)

 

氷結攻撃を見極め、破壊するのではなく避けた。しかし再度、迫る轟に反応し即座に攻撃に移った。

 

「……っぐっっ!」

 

氷結を放つも、吹き飛ばされて自身の氷壁に ぶつかる。

 

「ゔぅぅ……!」

 

攻撃する度に唯でさえ激しい痛みに苛まれている緑谷に、更に傷が増やされるも彼は構えを解かない。

 

 

 

 

 

 

 

「…止めますか?ミッドナイト___....」

 

副審のセメントスが口を開いた。

彼は無表情のままに心配している胸の内をミッドナイトに明かし、中止するかどうか相談した。

 

「...緑谷くんアレ"どうせリカバリーガール治してもらえる"からか…無茶苦茶してる…

今はアドレナリン ドバドバで痛みも思ったほどじゃないでしょう。

…っしかしあの負傷……一度の回復(リカバリー)で全回は……たとえ彼が勝っても次の試合は無理かもしれませんよ!?」

 

「……………」

 

セメントスの言葉にミッドナイトは返事しなかった。見届けるべきか、それとも止めるか…悩んでいる。

 

 

 

(〈個性の制御。いつまでも"出来ないから仕方ない"通させねぇぞ〉……威力は落ちるが出来始めてる…無茶苦茶やってるんじゃない。

勝つ為には現時点での奴の最善……)

 

プレゼント・マイクの実況が白熱する中 相澤は自身の言葉を思い出し、血を滴り落としながら拳を振る緑谷を見る。

 

 

 

一方、観客席の礎は──……

 

「…………─ッ!」

 

……押し黙るしか無かった…。轟の話を聞きいて尚、緑谷はそれに応えようとしているのだろう。

 

ただ──彼は右手と左腕の肘から先を押さえていた。

 

(自分から激痛(いたみ)に飛び込んで攻撃するなんて……正直、俺はもうゴメンだ……お前は…何で…………)

 

目前の試合からは目を逸らさずに瞼に力を入れた。

 

 

 

 

 

 

(オールマイト…

彼のようになりたい。その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。

君に比べたら、ささいな動機かもしれない……!)

 

両腕をぶら下げ前へと、轟の近くへ走る緑谷に次は避けきれない速度で氷が迫る。

 

「ぐっ(握れない……!!)」

 

右手に力を入れても握る事すら出来なくなってしまった......しかし親指を口に咥える。

 

「ッッッSMAAASH!!」

 

無理矢理 弾いて撃つ。至近距離で衝撃波に轟は吹き飛ばされるも背後に氷を作り、無理に止まる。

 

 

 

 

 

「……何で…!そこまで……」

 

「期待に応えたいんだ……!__...」

 

「………!」

 

相手の言葉に、威迫に、轟は言葉を失い怯んだ。

 

「...笑ってっ

応えられるような…!

カッコいい(ヒーロー)に……!

 

ッッなりたいんだ!!」

 

さっきの口元で弾いたせいか、頬まで血が流れている。

 

 

 

 

 

 

〈焦凍…〉

 

幼い自分が耳にした言葉だ。

 

 

 

 

 

「だから!!

 

全力でやってんだ!!皆っ!」

 

「っ!!」

 

緑谷は満身創痍の身体を引きずりながらも、渾身の頭突き打つ。それを食らった轟は更に後ろに飛ばされ、よろめく。

 

流石に頭突きでのダメージがあったためか、ふらつきながらも体制を整える。

 

「君の境遇も()()も…!僕には計り知れるもんじゃない……!!

……ッでもっ!!」

 

顔を僅かに氷が覆われた轟を見て言葉を放った。

 

「全力も出さないで一番になって完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」

 

その言葉に轟は忘れてた記憶が少しずつ頭の中に蘇るように浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

〈……ッゲホ!ゴホ……!〉

 

口から溢した吐瀉物を見る自分を更に上から見下ろす父親。

 

〈……立てっっこんなもので倒れていてはオールマイトは愚か、雑魚(ヴィラン)にすら…〉

 

〈やめて下さい!まだ五つですよ…!〉

 

自分を労る母が前に出て父と自分の間に入る。しかし…

 

〈もう五つだ!!邪魔をするな!!〉

 

〈…!っお母さん………!?〉

 

母を殴った父親。轟は瞳に涙を溜めながらその光景を見てるしかなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせえッッ………」

 

繊細に蘇った記憶を無理やり消すように個性を発動する……が使い過ぎた故に、半身が氷に蝕られ軋む服と同じく痛みが走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…嫌だよお母さん……僕…お父さんみたいになりたくない……お母さんをいじめる人になんてなりたくないっ!〉

 

母の膝の上で抱きつき、幼い自分が絞り出した余りに寂しい言葉。

 

〈……でもヒーローにはなりたいんでしょ?いいのよ。

おまえは──…

強く想う、将来があるなら───……〉

 

頭に手を置く母は優しく撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

拳を握り、走る緑谷を見る轟は動きたくとも動けれない。過去が彼の足を抑え、動けない。

 

「っだからッッ!

 

僕が勝つ!!

 

君を越えて!!!」

 

叫びと共に渾身の一撃が腹を突いた。

後ろに殴り飛ばされた轟の頭に記憶が蘇ってきた。

 

日本家屋。2階の廊下から二人の兄と一人の姉が遊んでいるのが見える。

 

が、

 

〈焦凍 見るな。

兄さん(アレ)らはお前とは違う世界の人間だ…〉

 

半ば強制的に腕を掴んで引っ張る父が吐き捨てるよう言った。

 

 

 

〈お母さん…私…ヘンなの……もうダメ…子供たちが日に日にあの人に似てくる…焦凍の…あの子の左側が……時折とても醜く思えてしまうの〉

 

夜。

 

偶々起きて、手洗い場へと向かう廊下で母親が電話で誰かと話している。

 

それを聞いた轟は思わず扉から僅かに覗く母を見た。

 

〈私…もう育てられない……育てちゃダメなの……!〉

 

 

〈………お…母さん……?〉

 

母の異様な姿に目を見開いたが、震える声を絞り出した。

 

〈……………ッッッ!〉

 

母さんが振り向くとそこには、悲しげで心配している焦凍の顔……

 

 

 

………そして悲劇を産んだ。

 

 

 

 

 

 

(俺は─……)

 

 

 

 

 

 

〈…全く……大事な時だというのに…〉

 

〈……お母さんは……?〉

 

俯き、無表情で、何処か悲しげな顔で父親に尋ねた。

 

〈……?……あぁ……お前に危害を加えたので病院に入れた〉

 

〈…………っっ…!〉

 

轟は目を見開き、体を震わせ 怒りを露わにした顔で父親の背中を見つめていた。

 

〈………おまえのせいだ……〉

〈………ぁ……?〉

 

〈っお前が…お母さんを……!〉

 

血走る右目から涙を流し、憎む父親を見た。

 

(俺はこいつを……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ親父の……力を…ッッ」

 

痛みと寒さで震える膝を抑えて立ち上がる。その時、

 

「っ君のッッ!"力"じゃないか!!!」「─!?」

 

彼の言葉に忘れていた記憶が脳裏から泉のように湧き出でくる。これは…

 

 

 

 

 

 

〈『…えぇ。"個性"というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし…本当に大事なのはその繋がりではなく、自分の血肉…自分である!と認識すること…そういう意味もあって私はこう言うのさ…!』〉

 

母と共にテレビを見ていた。

 

〈『私が来た!ってね!』〉

 

平和の象徴…オールマイト。轟の目は輝き、屈託の無い笑顔だ。

 

 

 

 

 

〈...でもヒーローにはなりたいんでしょう?いいのよ。お前は__...〉

 

 

 

 

 

(いつの間にか忘れてしまった…)

 

 

 

 

 

〈...血に囚われることなんかない。なりたい自分に……なっていいんだよ〉

 

 

 

 

 

 

 

母の言葉。

 

久しく聞いていない暖かい声を耳が、心が思い出し彼の目が潤む。

 

 

そして、

 

 

刹那の合間に赫灼たる炎が観客全員の顔を緋く染めた。

 

 

 

 

『ッッこっ!これは──…!!?』

 

 

 

 

 

〈戦闘に於いて、(ひだり)は絶対 使わねえ…〉

 

「………使った……っ」

 

「ネツキタ……!」

 

騎馬戦時の宣言を撤回し炎を纏う轟に飯田は驚きを隠せず、麗日は熱風に眼を凋ませた。

 

 

 

その時、

 

「……たまんねぇ…」

 

「ん?」

 

横に座る常闇が其方に向くと、俯き歯を覗かせる礎が再び口を開いた。

 

「……これで…総力戦だ……!」

 

 

 

(左側を使わせた…緑谷少年……君はまさか轟少年を救おうと…!)

 

緑谷の意図を理解したオールマイトは目の色が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちてえくせに畜生…………

 

敵に塩送るなんて…………

 

どっちがフザけてるって話だ……!」

 

半身を覆う氷が熱により蒸気を上げ、炎の(とばり)から顔を覗かせる。

 

「俺だって…ヒーローに……!」

 

その顔は涙で眼が潤む、しかし彼は笑みを見せていた。自分がなぜヒーローになる事を望んだか、その意味を思い出した。

 

そして緑谷も……此処にいる誰よりも赤く照らされている顔で笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「焦凍オオォォ!!」

 

瞬間。エンデヴァーは席に立ち上がる。

 

「やっと己を受け入れたか!!

 

そうだ!良いぞ!!

 

此処からがお前の始まり!!俺の血をもって俺を超えていき……

 

俺の野望をお前が果たせ!!!」

 

エンデヴァーは背の炎を大きく揺らして、息子に檄を飛ばす。

 

 

轟は首も眼も動かさずに只々、正面にいる緑谷を見つめる。

 

 

 

『…エンデヴァーさん急に"激励"……か?親バカなのね?』

 

『……』

 

 

 

 

 

 

凍てつく地面の氷が溶けて熱い空気に変わる。焼かれそうな熱気が皮膚を湿気を奪う。

 

「凄…」「何 笑ってんだよ」

 

熱による発汗と冷や汗が混じりながらも頬が緩ます緑谷に轟は疑問を呈す。

 

「その怪我で..この状況でお前……イカれてるよ...──どうなっても知らねえぞ…」

 

 

「「ッッッ!!」」

 

冷える身体を左側の熱が暖め右足から氷の石英が生まれ、轟の足元から冷気が渦巻く。

 

左脚にワンフォーオールの力を送る、遠い間合いを詰め切る為の全身全霊。

緑谷は先程までの小槌を捨て、藁の腕で破城槌を振りかぶる。

 

 

 

 

「ミッドナイト!さすがにこれ以上はもう──!」

「彼の身が持たない─…!」

 

許容外の危険性に両審判は同時に察した。椅子を降りてセメントスは舞台を操作するため個性でコンクリートを伸ばす。

 

ミッドナイトは薄手のタイツを腕の部分だけ破り、退紅色の煙を出す。

 

 

 

 

冷気を押し退け、氷の岩礁から鉄柱の如き氷柱の津波が放たれる。それは瞬く間に間合いを潰し、相手を襲う。

 

しかし緑谷は脚を犠牲に前へと飛び掛った。

 

(なるべく近くで…ありったけをッッ!)

 

氷の波浪を背に残る全ての力を右腕に送られ、服が弾ける。

 

 

 

〈全力でかかって来い!!〉

 

「………………___....」

 

轟の周りに出来た氷が刹那の合間に気化し姿を消した。空気中の分子が速度を増し、冷気を薙ぎ払う。

 

 

 

「...緑谷………………ありがとな」

 

 

 

拮抗する二人の力が衝突。

 

その姿は遮る壁により対称の形を辿り、桁違いの衝撃と暴風を生み出した。

 

『っちょっと!!』

 

審判台が脆くも吹き飛ばされ、ミッドナイト自身も宙を舞った。

 

「なにコレェ!?」

「マジかよっおいっっ!?」

「っどうなってますの?!」

 

峰田は体重の軽さ故に吹き飛ばされそうになるが、障子が足を掴みなんとか吹き飛ばされるのは免れた。

 

「……………!!!」

 

礎は眼球を少しも動かさず静止したまま舞台に釘付けだった。最も彼の頭髪も服も吹き荒れる暴風は届かず硬い置物のようだったが。

 

 

 

 

 

 

 

「威力が大きけりゃ良いってもんじゃないけど……すごいな………」

 

冷や汗を流し、煙で隠されたステージを見渡して呟いた。

 

 

 

『何 今の……?お前のクラス何なの?』

 

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』

 

『それでこの爆風…どんだけ高温だよ!たくっ何も見えねー!!

オイこれ勝負はどうなったぁ?!!』

 

 

「………」

 

白煙はやがて消えていき、崩壊したステージが徐々に顔を出す。その光景から僅かに離れた場所に人影が一つ。靴が見えた。

 

(………………)

 

壁にもたれかかった緑谷出久の姿。間を置いて彼は倒れる、限界を超え気を失ったのだろう。

 

 

「ハッ……ハッ………!」

 

半壊した舞台に立つ轟。彼の体には所々に焦げた跡があり凄まじいまでの熱量を思わせた。

 

 

 

『……み…!緑谷くん…場外…轟くん!!四回戦進出!!!』

 

痛む頭をさすりながら鞭が空を切り、勝敗が決した。

 

轟焦凍、勝利。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









最後までお読み頂きありがとうございます。今回、初めて効果音無しで書いてみました。
ご感想を頂ければ幸いです。






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