進路相談から卒業式までの数ヶ月間は、特に何が起きるわけでもなく授業と訓練、それと部屋の整理と引越しの準備に費やされた。
後者は祖母とシモンズ、両方が手伝ってくれたお陰で思っていたより早くに済んだ。
同い年のシモンズはともかく祖母はいつまでもパワフルなままで、彼以上に頼りになった。
特筆すべき事といえば、コスチュームだ。採寸と機能テスト等を休日に行った、それ自体に問題はない。
問題は作り手が恐ろしく忙しいという事だ。それぞれに表の顔があるなんて、重々承知だが逸る気持ちを抑えることができないでいた。
そんな事を思っている内に卒業式も終わり、俺はクイーンズから
シモンズから見送りはなかった、今時いつでも連絡は取れる。ただメールで「土産をトン単位で買ってきて!!」とだけ来た、、、だからいつ帰るかわからないっての!
そう思っていたら後ろから声をかけられた。
「Mr.イシズエ。」
後ろを振り向くと彼が立っていた。
「キャプテン・アッ…!!」
うっかり、コーチではなく誰もが知っている名前を叫ぼうとしたら口を抑えられた。
「shhh…」
「すいません…あなたに連絡はしましたけど何でここに?」
絶対に忙しいから来れるわけがないと踏んでいた。だが、彼は笑みを浮かべながら答えた。
「この近くで事件が起きてね、
「そうだったんですか。(事件なんて起きてたか?)ありがとうございます。」
「
なるほど、彼らしい。
「向こうで何かあったら連絡しますよ、授業の一環で免許を取ることになりますんで。」
「楽しみにしているよ。」
「じゃあ..その、そろそろ行かないと。」
入場ゲートを指して言った。
「あぁ、元気でな。」
と彼が手を出してくれた。
俺はその手を強く握り握手を交わした。
「はい!」
ほんの少しだけ名残惜しそうに手を離してゲートへと向かって数メートル歩いた。
「センケイ!!」
俺は振り向いた。
「Plus Ultra!!!」
空港中に、響くような声だった。
・
・
・
案の定、彼は空港中の人達に気づかれた。
JFK国際空港から半日以上を経て、日本の空港に着いた。
そこから新幹線、バス、徒歩を得て叔母のいる家へと着いた。
「叔母さん、ただいま。」
「おかえり、帰国子女。」
唇を少し尖らせ、小馬鹿にしたような顔で言った。
「フフッ」
久しぶりに合ったのに相も変わらずこれだ。そんで従姉妹は..この時間帯なら学校か。
「迎えに行けなくてごめんね。さっき帰ってきたばかりなの。」
「いいよ。これから世話になる身だし。」
「今日から2児の保護者ね〜ワクワクしちゃ〜う。」
年甲斐もなく両頬を抑えて言った。
「荷物は届いてるよね?先に整理するよ、部屋どこ?」
「2階よ。運ぶの面倒いから階段の隣の部屋に置いてるから。」
それを聞いて顔を顰めた。
「面倒いって…あなた"個性"使ったら直ぐでしょうよ。」
「聞こえなーい。」
アンタって人は…、思考するのも面倒になって部屋へと向かった。
「あ、そーだ終わったら言ってちょうだい。」
「え?なんで?」
「里帰り記念でしょうが。どうする?何か食べるんだったら外にでも食べに行きましょうよ。」
「あぁ、それってアヤちゃんが帰って着てからだろ?と言うより荷物の整理とかの前に__……。」
___…こんな忙しない日が日本での長い長い生活が始まった日だった。
次の日、買い物から帰りそのまま階段を上がり自分の部屋の扉を開けた。
..ん?見慣れないスーツケースがある。荷物が今頃になって着いたのか?
ケースの上には「合作」?とだけ書いた紙が貼ってあった。
「叔母さん?」
家にいる筈なんだが、寝てるのか?
取り敢えず、スーツケースを開けてみる。
待ってましたとばかりに、ホログラムが開いた。
「やぁ Mr.イシズエ。元気?2度3度あっただけの子供にコスチュームを作るのは我ながら可笑しな気分だったよ。ha!haha!!」
…直接会ったのは4回だ。この人だけはホントに…
「あぁ、僕だけが携わったら次の日に完成していた筈なんだがね、
妊娠期間が長くなったのはそのためだよ。下品過ぎかな?フフッ悪かった。」
……気が遠くなりそうだ。話半分にきいて、コスチュームを手に取ってみる。少し大きい気がする…
「さて、冗談はさておきそのコスチュームは我々の合作。つまりは傑作だ。
くれぐれも大事に着てくれよ。」
「かなり丈夫な造りにはなっているが、もし整備が必要ならウチのサポート会社にでも連絡してくれ。気休めぐらいの事はしてくれるだろう。」
相変わらずジョークに傲慢さがたっぷりだ。
「着る機会は大分先になるだろうが、それ着て気分転換に外にでも出たら犯罪者だからな。家の中だけにしておけ。いいな?」
わかってますよ。
「ま、これには色々録画されているから必要になった時に再生されるよ。お楽しみに。もう手に取ってわかっているだろうが、自動的に身体にフィットする仕組みになってるよ。細かい事はそっちに任せる。それじゃあお元気で。
えぇと、サヨナラ。」
録画の中の彼が手を振り画面が閉じた。
最後まで彼らしい、最早これは一つのスタイルだ。持っていたコスチュームを強く握った。
心の中で礼を言い、もう一度口にした。
「ありがとう、スタークさん。」
……取り敢えず着てみよう。
スーツとコートを先に、最後にマスクを被り鏡の前に立ってみた。よし、記念に写真をt〈パシャ〉「なぁにその格好w。」
…叔母がカメラ片手にニヤケながら立っていた。
〈パシャ パシャ〉
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