オールマイトが脳無を彼方へと吹き飛ばし、事態は一気に収束へと向かった。
飯田が疾走し呼びに行った雄英教師のプロヒーローが次々と駆けつけ、瞬く間に有象無象の
さすがに敵も不利を悟ったのかリーダーの死柄木は、プロヒーロー"スナイプ"による銃創を負うが黒霧の個性で逃走を果たした。
戦闘不能になり倒れた敵達は残らず警察に逮捕され、飛ばされた脳無も拘束された。
負傷した教師、オールマイト、13号、イレイザーヘッド 。
加えて、重症を負った緑谷出久、礎遷形はそれぞれ保健室に運ばれ、リカバリーガールの治療を受けることとなった。
匂いを感じた。
清潔すぎる場所で鼻腔を満たす独特の無機質な香りを。それからシーツや布を擦る音を聞こえ、目覚めた。
ほんのりと赤くオレンジに近い色の、暗い天井が目に入った。だが、ずれたピントが合った。それは窓から入った西日がカーテン越しに照らした、白い天井だと気付く。
自分の周りを僅かに空いた隙間以外を、四角に白い布が囲み、銀色の留め具が鈍く光る。
「(…保健室……学校か………)ッ!!…オールマイ_ッヅッッッ?!」
色のある世界で異質なそれは、礎を現実に引き戻す要因になった。だが体を動かそうとして痛みが走る。
自分が何をやったかを明瞭に、示す痛みは記憶を明確にする役目を果たした。
腕にギブス、右手に包帯。それに、四肢に重りを強いられていると感じる程に体が怠い。
「…ぞうがおれ゛ッ?ッゲホ!ゲホ!」
喉が乾く。此処には水を入れるピッチャーどころか物を置く机も無い。咳のせいでまた傷が痛む。
(…これじゃイモムシ以下だ…マジ最悪……)
体が重いのは脳無の個性を吸収したからだろう、個性を吸収したのは初めてじゃない。それに吸収できるのはほんの僅かだった。だが___......
(複数持ちの奴のはこうなるのか…オールマイト対策に怪力、超再生、衝撃の吸収…とあのイカレた顔か。吸収できんのは発動型だけだから、顔の方は関係ない。でも__....)
違和感がある。
何か余計なものまで取り込んだように感じていた。
俺は吸収した"個性"は変換出来ずに、吸収したその分だけその"個性"として使える。が、その個性の持ち主に触れればまだマシだが消耗が最も激しい。
危険過ぎる上にデメリットのが多いので、実戦で使ったのは初めてだ。と思い気づいた、コスチュームを着ていない。これは…病衣だ。
(治療するのに邪魔だったか。それにしてもよく脱がせれたな。...あぁそうか男衆は皆見てるか)
湧いた疑問を一人で解くほど余裕ができた。
(それよりも皆は無事だろうか…相澤先生、13号、オールマイトにクラスの皆。緑谷はまたあの滅茶苦茶な個性使って…大丈夫だろうか。俺を後ろに引っ張ってくれたのは……梅雨ちゃんか。ちゃんとお礼を言わないと)
(hurm…とりあえず、水が欲しい…どうしたもんk_「おや、起きたのかい?」
その時、特有の音と共に引き戸が開き、そこから見慣れた背格好の老女が入ってきた。
「治与ばぁちyッ!…すいません。リカバリーガール……」
リカバリーガールこと
「………元気でなによりさね」
ベットに横になったままで行儀悪い事この上ないが、挨拶をした。
(俺にとっては"治与ばぁちゃん"だが此処では、リカバリーガールで通さなければならない事は明白だ)
「……………………」
「……………………」
妙な沈黙が続く。
…答えを知りたくない事は聞かない、が聞くしかない状況が人生には多くある。
……まさしく今がそうだ。
「……みんな無事…ですよね……?」
眠っている間に十中八九、オールマイトは敵と戦ったのだろう。彼の勝利を信じているがクラスの皆、13号や相澤先生の安否を聞く。
「無事さ、みんな。誰一人死んじゃいない」
「ッはっ……あぁ〜…良かった〜〜……」
張り詰めていた胸を撫で下ろす。リカバリーガールはそう言いつつ、ベットの横にあるスイッチを押してボトムを上げた。
(…自分の傷より他人の傷ね…
機械音と共に俺の視界が下がり、丁度ベッドの上に座っている体制になった。
「ただねぇ…緑谷はオールマイトを助けようとして両脚を折っちまってねぇ。」
眼を見開き、緑谷の具合を聞こうと口を開ける。が、「さっき治癒してきたから大丈夫」
と心を読まれたかの如く答え、そのまま続けた。
「当のオールマイトは元が丈夫すぎる位だから
13号は軽度だけど上腕から背中にかけて裂傷。病院に行ったけど、まぁ命に別状はないよ」
「(13号先生はそんなことに…一体、何が…)…そうですか。良かった……」
「アンタは左腕の骨折、右手の貫通性切創、加えて個性の使用過多による体力の消耗、お陰でアタシでも治癒しきれなくてね。目が覚めてから続きをしようとおもってたところさ」
我ながら酷い怪我をしたと自覚する、この程度で済んだ事は偶々としか言いようがない。
「主犯の二人には逃げられたけど、あの脳無ってのは拘束されたみたいよ」
「逃げられたんですか?」
「ワープの“個性”なんて、逃げに回られたら厄介なものは無いからねぇ」
(……全くその通りだ…敵に回るとタチが悪い)
「あと相澤だけどね…」
言葉を詰まらせるリカバリーガール。まさか、そんなに重傷なのか。
「…ン〜〜……」
「ッ相澤先生がどうかしたんですか!?さっき誰m「病室では静かにしろ。礎……」
扉の方を見ると、右腕と額に包帯を巻いた相澤先生が立っていた。
「ッあっ!_"ギロッ…" 'ぃ澤先生お元気そうで〜…'
また大声を出そうとした礎を睨み、無理矢理 小声にさせた。
「同じ事を言わせるな…全く……」
「…すいません…先生お怪我の方は……?」
記憶が正しければ確か脳無に…
「右腕の骨折と肋骨に3ヶ所ヒビが入った。頭のは軽度の裂傷、奇襲で受け身を取り損ねてな…。そん時に脳震盪を起こして、情けない事に意識が飛んだってだけだ」
「相澤はアンタが起きる少し前に起きてね、さっきまで警察の調書に付き合ってたよ」
俺が思っていたよりも、ずっと軽傷だったので驚いた。しかしどうして……脳無の怪力は身に染みて分かっている。
「これくらいで済んだのは脳無って輩の腕が歪んでたからだね、骨が折れて肘の辺りを突き破ってたらしいから___腕を振っても先まで力が伝わらなかったんだろう」
リカバリーガールの分析はおそらく正しいのだろう、そのまま聞いた。
「超再生といっても元通りにするだけで、骨を動かすわけじゃないからねぇ。治すのに少し難儀したとみえるよ」
「…そう…でしたか」
それを聞いて安堵し、張り詰めていた胸を下ろすことができた。
「…相澤先生」
「ん?」
「あの…命令違反してすいませんでした。芦戸と麗日は俺が行くって言って、その…ついて来たんです」
「…………………………」
二人は、自ら行く。と言ったので"ついて来た"は少し語弊がある、無意識のうちに礎の口から出た言葉だろうか。
「もし…何かしら罰則があるなら二人のは軽くしてもらえませんか?」
「都合のいい話だな……」
(停学か謹慎、相澤先生だと最悪の場合は……除籍か……)
「……………」
「…フー……罰則も何も無い」
「えっ?でも…」
「命令違反したのは確かだが、USJは雄英の敷地内で
…そう言えばそうだった……敵に襲撃されてその辺りのことが頭から飛んでいた。
「それに
「アイツらも…」
「教師の指示無しに敵に突っ込んだならまだしも、守った生徒に罰などある訳がない」
(俺の考え過ぎだったか…良かった)
「(って顔だな…こいつの警戒心から来る思考はどうにもなぁ…)…お前も警察から話を聞かれるだろうから、早めに傷が治るようによく休めよ」
「っはい」
「ほら、アンタも用が済んだら家に帰りな。まだ完治してないんだ、安静にしときんさい」
いつのまにか、リカバリーガールが扉の前に立って相澤先生を促した。
「だそうだ…俺は行く。邪魔したな」
とりあえず罰が無かったことは良かった。まだ此処で生徒でいられる…_「ッあ、そうだ相澤先生ッ」
「ン?」
言い忘れていた、最も重要な事がある。
「助けていただいて…ありがとうございました…」
「…………それは俺もだ、礎。ありがとな」
ポンと包帯で覆われた自身の右腕を触れながらそう言って、相澤先生はリカバリーガールと共に保健室の外へ出て行った。
(………あと初見時モスラの幼虫みたいと思ってごめんなさい)
廊下を歩いて暫く。
「……あの子、
「
「…フーム……なら良いんだけどね…同僚の孫だから少々、心配し過ぎたかね」
「"いずれは使えるように"と任されましたからね。アイツは強くなります、焦る時期ではありませんよ。それに___......向こうの医者から、封はされてるんでしょう?」
「信用してない訳じゃないけど医者と呼んで良いもんかね……」
そこで彼女は立ち止まった。
「……少なくとも彼は偉大なヒーローですよ。じゃあ俺はこれで」
後ろを向いて答えた相澤は、そのまま歩いて行った。
「あぁ。お大事に」
そう言ってリカバリーガールは相澤の背中を見送った。
扉が開いてリカバリーガールが戻ってきた。
「さて、とっとと治療始めようかね…」
「えっ?リカバリーガール?あの、貴女の治癒と俺の個性って相性悪いんで、もうちょい時間空けて…」
この時まで礎は失念していた。
「なにいってんだい?アンタ脳無って輩の超再生持ってんだろう?それ引っ張り出しな」
「(しまった……)…どっちにしろ体力 ゴリゴリに削られるじゃ無いですか?!だったら貴女が…!」
「治療やれるんだったら自分でやんな!どうせ吐き出すんだ、遅いも早いも無いよ!」
「〜〜ッ!!それ職務放k_「ほら、早く!警察の聴取も待ってんだ、自分の足で歩けるぐらいにはしな!!」
この人がこと治療に関しては厳しい人だということを忘れていた………恨むぞ、脳無……。
……………
………
…
「礎が怪我するなんてなぁ…アイツは鉄壁の守りだと思ってわ」
「瀬呂 マジそれなッ防御だけだったらA組トップじゃね?!」
「「……………………」」
警察の聴取を早めに終え、廊下を歩いていた瀬呂、上鳴、芦戸、麗日は保健室へ向かう途中に相澤と会った。
そこで礎が起きたことを知り、先にそちらへ向かう事にしたのだが__....女子二人は落ち込んでいるのか、俯き加減だった。
「……ねぇ、やっぱり私たち行かない方がいいと思うんだけど…」
「私もそう思う…」
聞いたところ二人は礎と共に行動し、ヴィランに一矢報いたそうだ。礎は二人を先に逃がし"絶対俺の元へは戻らない"、そう約束させた。二人はそれを守り、一度も振り返らずに13号の所へと向かった。
「ンン゛〜〜二人とも気にしすぎだって。オレも八百万と耳郎の足引っ張っちまったけど、許してくれたぜ?」
「上鳴、それフォローになってねぇぞ…二人もアイツとの約束守っただけなんだから気にすんなって」
結果。礎は重症、相澤先生も怪我を負った。相澤先生の無事は確認できた。が、最後まで一緒に戦えなかった事を悔いていた二人は彼に謝った。
先生は然程気にしてはいなかったが、礎が起きたことを教えて保健室へ向かうよう促した。
「とにかくよ、起きたんだったら声くらい掛けて行こうぜ。な?」
「そうそう。キャプテン・アメリカの弟子はそんな心が狭い奴じゃねえって」
二人としては会うのは忍びない事この上ないだろう。気持ちを察し、慰める瀬呂と上鳴。
「うん…」
「そうやn_「ッンンンンヌオォッ!アッッ!!!」
「「「「「礎(くん)の声…!」」」」」
「お、おいもしかしてアイツ、怪我が…」
「そんなわけねーって!相澤先生も大丈夫って言ってたろ?!」
「ねぇ!早く行こ!」
「うん!」
コンコッ「「「失礼します!!」」」
廊下を勇み足で歩き、ノックもそこそこに保健室へと押し入った。
そこには「ンンッマァァアアッッ!!」
なんなんだこれは…と四人は唖然とした。
包帯だらけ…の礎が……両膝をついて腕を胸に抱いて奇声を上げている。
「腹に力を入れて!底から引っ張り出すんだよ!!」
「アァァイ!!(
体勢を変え片膝をつき、右手を地面に着けた。所謂……スーパーヒーロー着地だ。
「ほら、もっと自分の体を治すと思って!!」
「ッア゛ィア゛ァァアアッ!!!(実際そうだろう?!)」
「ァァアアッ!ッシャ!治ったぁぁッ!!ハッ…ハッ…ハッ…あぇっ…………?」
超再生をうまく引き出せたが、息切れが波のように訪れる。それと同時に礎は四人の存在に気づいた。
「…………………」口を開け、口で息をしつつも呆然とする礎。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「………………………'ッブフッ!'」
堪えきれなかったのか瀬呂が笑い始め、釣られた三人も笑い始めた。
お読みいただきありがとうございました。
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