礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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16話です。





第16話 加勢

礎は女(ヴィラン)の下へ歩きながら考えていた。

 

(……黒い幽霊の奴はオールマイトがいない事を指して「変更」と言っていた、つまり此方の情報を得たのは昨日かそれよりも前って事になる)

 

(代わりにイレイザーヘッドがいた事は予定外だったが想定外ではなく、最初から対応可能な布陣で攻めて来た。

ならアイツらの予定していた布陣は、なんだろうか?)

 

(こんなゴロツキ連中じゃ100人いてもオールマイトは殺せない。なら ゴロツキは13号と散らし漏らした生徒を相手にさせると考えるのが自然だ)

 

(……考えたくもないがオールマイトを殺せる人物がいる…!手だらけの奴か?アイツはリーダーっぽい、実力はあるだろうが…)

 

(黒い幽霊は移動と俺たちを分散させるためだろう。個性が不明瞭だからなんとも言えない。が、仮に弱点があるとして逃亡の事を考えても真っ向から相手するとは考えにくい)

 

(となると口がデカい大脳が剥き出しの奴か。あの顔と肉体は初見で印象が最悪だった、それだけに確率は高い。それでもまだ情報が足らな過ぎる……____時間は掛けれない、最恐を演じて手早く済まそう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はっはっはぁ…はっ…」

 

自分を倒した子供から距離を取らんがため、女は腕を使って体を這わせていた。体が軋むようで、特にやられた肩が痛む。

 

男共の方へ追い込み、一網打尽にしようとしたが失敗した。それはいい、所詮は子供だ。普通に戦っても倒せる相手なのだから。

 

だがこのザマはなんだ?挑発してきたあのガキ!

 

その顔の無いマスクを外して怯えた面を晒してやろうと思っていた。のに、なんだあの個性は?男衆を一撃で吹き飛ばしたと思えばこっちに手を向け、自分を引っ張り気がついたらこのザマだ。

 

悔しさと怒りが頭を攪拌させるが今は逃げないと、個性も碌に使えない。あのガキは強い、自分よりも。いや、此処にいた全員で掛かっても勝てる気がしない。

 

あの女子2人がいなければ、此方を挑発せずに向かって来ただろう。あんな訳の分からない個性、風や気圧に関するのか?アイツは何かそんな事いっていたようn__「気圧に類する個性かと聞かれたら答えは"NO"だ」

「ひぃッ!!」

 

アイツが来た…!

 

「さっき言ったが、教えてほしい事がある。時間を掛けずにいこうか、オールマイトを殺すために、アンタらが用意した"策"ってなんだ?」

 

「あ、あんた一体…何もnグゥッッ!」__ッギッシッッ!

[重力]放出

周りの雪が潰れ、腹部と脚を絞るような痛みが走る。

 

「アンタが車椅子の世話になるのは50年後かそこらだろうけど__そんな調子なら明日になりそうだ」

 

肩を震えさせ、怯えている女の人を相手にしていることで心苦しさはある。が、今はこれ以外に方法が無い。

 

「しゃべる!じゃべるからぁっごれっ!どげでッ!」

 

「いいね。正直で」

 

そう言って放出を解き、先を促した。

 

「ゲホッ!ゲホッ!ッハァッハッ……の、脳みそ剥き出しの不気味な奴が、オールマイトに対抗する"モノ"だって、あの手をいっぱいくっ付けた男ッ、しっ死柄木(シガラキ)さんが言ってたわ!確か"脳無(のうむ)"って呼んでた!」

 

大方予想通り、リーダーはシガラキで脳みそはノウムか。

 

「中央広場にいた奴か。生徒(おれたち)の所には、その脳無って奴はいるのか?」

 

そんな危険な存在が複数いる可能性を憂い、尋ねる。が、女は千切れんばかりに首を振るだけだった。

 

「なら最後だ。そいつらの個性を教えろ」

 

「ッ!ッしっ知らない..知らないッ!」

 

「……hurm…」__ギシッ

[重力]放出

 

「ッグッ!ほっホントに知らない!教えて貰えなかった!ウゾじゃない!!」

 

弱めに調整したせいだろう、言葉は()()明瞭だ。

 

「……脊椎は4つの領域に分けられていて、それぞれにアルファベットと数字で分類されてる。___.....どれも損傷するだけで一生モンの傷になるらしい」__ギッシッ!

 

「ッひっヒィイィィイ!ホントに知らな゛い゛ぃ!!!」

「3……」__ギッシッッ

「じらな゛い!じら゛ない!!」

「2…」__ミシッッ

「あ゛ぁあ゛あ゛ぁぁあ゛!!」

「1」

「いッ…………………」

 

言い終わる前に気絶した様で、それ以降声がしなかった。

 

(コイツら自体も連携は薄い上に、信頼関係もクソも無い。急造で作った仮初団体って所か。それより脳無。オールマイトを殺せるってのは本当なら…相澤先生が危ない…!)

 

女の骨は何処も折れてはいない。恐怖で意識が飛んだだけだ、このまま放置しても問題ない。駆け足で二人の所に戻った。

 

「二人共!」

 

「礎!そっち大丈夫だった?!あの人めっちゃ叫んでたけど」

 

「…情報を仕入れるためにちょっと手荒になった。それより急いで此処を出るぞ。また頼む麗日」

 

「OK!」

 

二人を抱えて、出口に向かい跳んだ。どうやら出口が2つに分かれているようで、到着した所の近くにUSJの全体地図があった。

 

「中央広場は……階段登ってすぐか。よし、二人共」

 

「「なに?」」

 

「二人はそっちから出てUSJの出口を目指せ。…俺は中央広場に向かって相澤先生の加勢に行く」

 

「えっ?!いや、それはヤバいって!相澤先生に任せようよ!それより礎が助けを呼びに行った方が速いし、絶対いいって!」

 

芦戸の言っていることは正論だ。

 

(この三人の中なら否が応でも俺が一番速い)でも、

 

「此処にいたのがあんなザコだったんだ、俺が行くのはただの保険だ。大丈夫」

「待って礎くん」

 

黙っていた麗日が意を決したように口を開いた。

 

「あの女の人から何聞いたの?」

(ッ!)

 

「麗日?どうしたの?」

 

「……さっきから礎くんはずっと焦ってる。何か聞いたんでしょ?広場に行かなきゃ行けない理由」

 

マスク越しに彼女の鋭い視線が礎に刺さる。

 

「……広場に一体、オールマイトを殺せる奴がいる」

 

「「ッ!!」」

「じゃ!じゃあ尚更__...「オールマイトを殺せる奴だ。相澤先生も危ない、俺が周りのチンピラ共を倒して、吸収でそいつを抑えて時間を稼ぐ。だから__」

 

来るな、そう言うつもりだった。戦闘力以前に女子を逃げさせ、盾になるのが役目だと思っていたから。しかし、二人は

 

「尚更、行かせて!」

「私も行く!」

 

「何言っt__....「ッ作戦!!考えてあるんでしょ!?」

芦戸が叫ぶ。

 

「礎くんやったら考えてる。そうやろ?!」

麗日も。思わずマスクを開けて目を合わせて叫んだ。

 

「〜ッッ!…ッ麗日頼りの戦略だ。危険過ぎるから言わなかった!オールマイト並の腕力なら最悪、全員死ぬ!こっからは勇気云々じゃ_「()()()()()!ヒーローを目指してんの!!!」

 

「ッ………………!」

 

芦戸が目に涙をうっすらと浮かべて遮った。

 

「礎くんやったら全員が死なん作戦、考えてるんやろ?ヒーロー目指してるのはA組皆だから...庇わなくていい。...話して」

 

(…俺が愚かだった。()()()()に対して"下がっていろ"なんて侮辱以外の何でもない)

 

思い上がりだ。

 

「……悪かった…すまん、作戦を話す。但し、死にたくなかったら遵守してくれ。…頼む」

 

「勿論!」「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッドォンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「___.....秒、」

 

敵の集団の後方、最後尾で脳が露出している異形の存在と共に控えていた男が、衝撃音の後に相澤に向かって走り出した。

 

細い体では予想だにしなかった、その動きは軽快で鋭い。

 

「本命かっ」

 

周囲の敵を振り、相澤も死柄木に向かって駆ける。こちらに向かって来ず、動きを観察されていた。恐らくこの集団のリーダー。

 

相澤だけではなく周囲の全てを威圧するだけの殺気は、只者ではないと察する事が出来る。

 

警戒は怠っていない____はずだった。 武器を投げ、捕縛せんとする。それは素早く、矢のように向かっていく。

 

普通であるならば、このまま捕縛して終わり。しかしそれを、死柄木は簡単に掴み取った。

 

「ちっ!」

 

相澤の中に動揺が走るが、すぐに振り払って行く手を阻む敵の横をすり抜け、一直線に死柄木の目の前にまで駆け込んだ。

 

布を引くと同時に自分の肘を腹部に打ち出した。が、

「……動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間がある。1アクション終えるごとだ。そしてその間隔は段々、短くなってる」

 

その攻撃を、死柄木は簡単に受け止めた。来るのが分かっていたのか、あの攻撃に反応出来る身体能力があるのか。

 

必死で頭を巡らそうとするが、しかし受け止められた肘からジワジワとやって来る鈍い痛みに、その思考が止められる。

乾いた塗装が剥がれていくように、相澤の肘が皮膚から崩れていく。

 

「無理をするなよ、イレイザーヘッド」

 

凶悪な個性よりも狂暴な殺意が相澤を襲う。

 

「_ッッ!!」ッバキッ!

 

咄嗟に殴り飛ばし、そのまま距離を取る。肘が崩れている…崩壊する"個性"。

 

そんな思考も敵の集団の攻撃により考えられなくなる。先ほどまで倒れていた者もいるのか、敵集団は前以上に多く密集している。

 

その中心で、死柄木はゆっくりと起き上がり、憎悪と嘲笑に染まった目で相澤を睨みつける。

 

「その〝個性〟じゃ、集団との長期決戦は向いてなくないか?普段の戦闘と勝手が違うんじゃないか?君が得意なのは、あくまで"奇襲からの短期決戦"じゃないか?__それでも真正面から飛び込んできたのは、生徒達に安心を与える為か?」

 

「__ッ!」

 

見抜かれるほど浅い戦いはしているつもりはない。経験に関しては、他のヒーローにも引けを取らない。だが、それでも見破られる。見た目だけではない、実力も伴っている。

 

必死で戦いながらも次にどうすれば良いか考え続ける相澤に、死柄木は嘲りの笑い声をあげる。

 

「かっこいいなぁ、かっこいいなぁ。 ところで、ヒーロー、」

 

死柄木の言葉と共に、相澤の背後に巨大な影が現れた。見上げるほどの巨体、脳が露出した頭部、こちらを嘲笑う削り出された石のような牙が覗く。脳無。

 

丸太のような腕が、相澤に迫る。

 

「___....本命は、俺じゃない」

 

____油断した。

 

時が減速したかのように、相手も自分の動きもじれったい程ゆっくりと動く。

 

先制を受ければ、ただでは済まない。今の時点で負傷し、この体格差だ。その一手が、絶望的になる。避ける事も、自分の速度では難しい。

 

…間に合わない…「くs_ッドッ!ッガッ!!

 

死角からわざとぶつかったのだろう、無理矢理背中合わせにされた。

そこには_「…ッなッ?!んで来た!お前ら!!」

 

「すいません!!()()命令違反です!」

 

「ごめんなさい!先生!!」

 

「相澤先生、ごめんなさい!!」

 

麗日と芦戸、背後にいるのは声からして礎だろう。自分の個性を消されないように背後に立ったのか…てことは、

 

「なんか作戦あるんだろうな?」

 

「ッ!はい!あります!!」

 

脳無の動きを抑え、背中越しに応えた言葉には自信が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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