礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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第15話 戦力の分散

(ヴィラ)ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

「っ、先生、侵入者用センサーはっ?」

 

「勿論、ありますが……」

 

意を決して前に出て訊く八百万に、13号先生は困惑の色を隠しけれずに答える。機能していれば、昨日のように警報がここでも鳴り響いているはずだ。

 

だが警報どころか、電気すらまともに機能していないこの場では、作動していると考えるのは難しいだろう。

 

「現れたのはここだけか学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことが出来る"個性"(ヤツ)がいるってことだな。

校舎と離れた隔離空間、そこに少人数(クラス)が入る時間割…バカだがアホじゃねぇ。これは、何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟の意見に皆納得の様子だった。勿論、俺も同意見だ。

 

「んでそいつはもう隠れた後か、当たり前だが後手に回ってるな…」

 

「お前ら、話は後にしろ!」

 

俺の声を遮り、相澤先生が声を張る。

 

「13号、避難開始! 学校に連絡(でんわ)試せ!センサーの対策も頭にある連中だ、電波系の奴が妨害している可能性がある。上鳴! お前も個性で連絡試せ!!」

「__ッス!」

 

相澤先生の鋭く速い指示に、慌てて上鳴が反応して耳に付いているインカムのような物を操作し始める。その間にも、相澤先生はゴーグルを付け、マフラーのように付けていた布を解く。

 

炭素繊維が編み込まれたイレイザーヘッド専用の武器。

 

______戦う気だ。

 

「先生は!? 1人で戦う気ですか!? あの人数だったら、いくら個性を消すと言っても……イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」

 

広間を見てみれば、かなりの人数の敵がいる事は理解できる。実力があるプロヒーロー。だがどう見ても多勢に無勢のように見えてしまう。

 

しかもイレイザーヘッドの戦い方をよく知っている緑谷からすれば、無謀に思えるのだろう。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

イレイザーヘッドはいつも通りの冷静な口調で、静かに返した。

 

13号に声を掛け、先生は長い階段を飛び降りるように跳び出した。空中で無防備となるイレイザーヘッドに、長距離の射程をもつ敵は僥倖とばかりに狙うが"個性を消す個性"が発動したのだろう、個性が発動する事は無かった。

 

戸惑う敵は、速やかに先生の首に巻かれた捕縛武器に拘束され、互いの頭部をぶつけ合って気絶した。

 

異形系の個性を持っている敵には真っ向から戦うだけではなく、それを利用して他の敵と纏めて倒してしまう。

 

殴られて吹っ飛んでいく敵は、彼の捕縛武器に足を捕らわれ、地面に頭から突っ込んで戦闘不能。

 

"一芸だけじゃヒーローは務まらない"

 

言葉の通り、近接戦闘も強いらしい。ゴーグルで視線を隠し、個性を消しているのが誰か分からない状態にする。そこを得意の肉弾戦で叩き、更に敵の連携に遅れや乱れが出てくる。

 

それは、イレイザーヘッドが、敢えて言うなら[決定打にかける]個性でプロヒーローとして活動するために作り上げた戦闘スタイルだった。

 

「凄い……多対一こそ、先生の得意分野だったんだ」

 

「あぁ…」

 

多対一の戦闘にも強い、ではなく緑谷の言う通り本来はこちらの方がメインなのだろうと分かる手慣れた動き。だがなんだ?この違和感は…

 

「分析している場合じゃない!! 早く避難を!!」

 

「先に行け緑谷。追撃を警戒する、殿は俺が」

「う、うん!」

 

先に出口に向かっている飯田に声をかけられ、共に走り始める。長く作られている通路が来た時よりも、かなり先にあるように感じる。

 

(気付かれない内n「させませんよっ」

 

心の中の言葉は、最初に出現した黒い霧のような存在に阻まれた。

 

そいつから、男の声が響く。霧は幽霊のような形を取り、黄色く光る眼光が顔らしき部分にはある。

 

「初めまして。我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら、この度はヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴。

オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして…」

 

(……イカれてやがる…)

 

冷静で丁寧な口調から、事の重大さを理解していないように、作業の1つであるかのように告げられた。

 

「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃるはず……ですが、何か変更があったのでしょうか?」

 

皆の困惑や警戒をよそに、話し続ける。

 

("変更"だって?)

「……まぁ、それとは関係なく…」

その時、前にいた二人が動くのが見えた。黄と赤。

 

「私の役目はこれ、」

瞬間。装置を操作して指が引き付け合うのを感じつつ、二人との()()()に何も無くなるように右に走った。

 

 

敵の黒い霧が広がるのを警戒して、13号が指先の開口弁を開i__BOOOM!!!

 

切島と爆豪が間に割って入り、霧に飛び掛った。同時に爆炎が響くき、周囲に爆煙が立ち上る。

 

「その前に俺たちにやられる事は考えなk..うぉっ?!」

「ッんだッ!?」

二人が右後ろに引っ張られる。

[引力]放出

 

(今は回避優先だ、タフガイ)

 

「危ない危ない……そう…生徒とは言え、優秀な金の卵。…私の役割は、貴方達を散らして!!嬲り殺す!!」

 

[個s__ズァ……

刹那の間に黒い霧が俺の全てを覆った。

 

 

 

僅かな隙。あっと言う間に広がったそれに、そのままなす術もなく取り込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇に視界を悉く奪われ、落下する感覚を感じ取る。視界が開けた時は全く知らない景色が広がっていた。

 

(雪か?)サクッ…

 

「ぃった!」

 

「ぁ痛ッ!」

 

少し離れた場所に芦戸と麗日が落ちた。同時に送られて来たのか、取り敢えず二人は無事みたいだ。

 

ここは一面が銀世界だ。この丘?を囲むように立派な木も生えている。だが傾斜がきつい、上の方は吹雪いている。

 

積雪や雪圧、雪崩などの雪害用か……

 

()()()()()()、風は普通高地から低地へ流れる、此処はほぼ無風、敵は見えない……なら!)___ゴゴゴ……

 

案の定、微かな揺れと共に低く地を這う"何か"が蠢くような音が襲う。

 

「?っ…まずい、二人共!」__ダンッ!

[運動エネルギー]放出→[重力]吸収

「礎ッ?!」「いsわぁっ!?」

 

二人の腰を両脇に抱え、近くに生えている木に向かって跳んだ。

 

「雪崩が来る!捕まってろ!!」

 

「どこに?!」

 

空中での芦戸の疑問に応える(いとま)も無く高所から低所へと、積もった雪が一つの命を持ったようにうねり、全てを飲み込まんと押し寄せる。

 

なんとか木には立てたが此処も危険だ、様子を見て移動をしないと。

 

ッベキ!ベキベキベキッッ!!!

 

「ッベェ!木が持たない!t「待って!二人を浮かす!」FLOAT!FLOAT!

 

雪崩から離れるべく跳躍する前に麗日が個性で軽くする、かなり有難い。さらによく見れば雪が木を呑み込んで握っているようにも見えた。

 

だが、これでかなり遠くまで____……違うな…

 

ッダンッ!ッダンッ!ッダンッ!ッ……

[運動エネルギー放出]

連立する木から木へ跳んだ。

 

「ちょっ?!丘から離れないと!雪に捕まっちゃう!!」

 

芦戸が叫ぶ。その通りだ、次から次へと今度は木ごと雪崩に呑み込まれてる。

 

……ズズゥゥ……

 

12、3メートル程跳び移った所だろうか?そこで雪崩は止まった。

 

 

 

「と、止まった??」

「みたいだな、降りようか」

「うん!解除!」

体重が戻って、雪の上に降り立った。

 

その時、「…んだよ!あいつの誘い込みが失敗してんじゃねーか!!」

「ざっけんなよっ!あンのアマぁ!!」

「良いじゃん、別に。とっとと殺ろうや」

 

俺たちが最初にいた、丘の辺りから十数メートル程からチンピラ然とした集団が一斉に現れた。

体を覆っていたのだろう、近くには見えにくいが白い布があった。

 

(あれは罠だったか。人数は1、2、3、4______12人か、急がないとな。だがコイツら……)

 

 

 

「芦戸、麗日今から___.......」

と後ろを見ると二人とも青い顔をしていた。

 

もしあの時真っ直ぐ雪崩から離れて行っていたら…と思っているのだろう。顔から血の気が引いている。

 

「…芦戸」

「………」

「芦戸!麗日!」

「っえ!?なっ何?!」

 

(こういう時は___)「芦戸は足からも酸が出るだっけ?」

 

「へっ?あっうんコスチュームの靴に穴が空いてる…」

 

「麗日は自分を浮かすと酔うんだったな?」

 

「えっ?うん、そやけど…」(___どうでもいい会話で恐怖から目を離させる)

 

「そうか、知れて良かった。よし、敵との距離は稼ぐことが出来た。俺がアイツらと戦うから二人は互いの死角を補い合って周りを警戒してくれ。できるか?」

 

「礎が一人でっ?!それ無ちy「あら?残念ね、あたし失敗しちゃったかしら?つまんないわねぇ」

 

(…13人…挟まれたか)

 

芦戸の言葉を遮り、後ろの丘の上に一人の女(ヴィラン)が積もる雪をものともせずにこちらへ一歩ずつ降りて来る。

 

「'…前の敵を見ててくれ'」

「'ッ!うん!'」

 

小声で二人に指示を出す。

 

「…アンタ、アイツらのリーダーか?」

 

「ふふ、そうよ」

 

足を止め答える女、典型的な劇場型か。

 

「にしては奇襲は失敗した。これじゃ名ばかりだな」

 

…ピクッ

 

女は頬を歪ませた。

 

「'礎!ジリジリこっちに来てる!'」

「'少し待て'」

無線機でもつけているのだろう、向こうの敵がこちらへ来る。

 

「いくら名ばかりでも、この襲撃の情報については一番知っているだろう。教えて貰おうか」

 

腹の探り合い、鎌をかける暇がない。加えて時間も無い。

 

「'礎くん!来てるって!'」

「'大丈夫だ…'」

 

麗日の視線の先に敵がいる事を察する。指を操作して手首の送風機が起動し、風が指に絡まる。

 

「…うふふっ教えるわけ無いでしょう?それにボウヤは歳上に対して言葉使いがなってないわよ」

 

語尾に下らない色気を滲ませた女は、化粧気が無い顔の鼻を中心として広がる覆面代わりのメイクが歪むほど唇を吊り上げる。気づいてないとでも思っているのか。

 

「言葉使い?正確じゃないな、俺は____'伏せてろ'」

瞬間。二人はその場に丸く蹲り、俺は背後を見ずに手を向けた。

「____風も使える」ッゴッォッ!!!!

[風力放出]

 

その場から動かずに、突風で女の部下を吹き飛ばした。丁度 太い縦列に並んで来ていたようで、全員を伸せたようだ。

 

 

「へっ?あ……んなっ、なに!?」

 

「下が雪だったからな、これでも手加減はした」

 

「はぁ?」

 

未だに唖然と眺める女に手をかざした。

 

[引力]放出

 

「ッぅ?なっ??!!えぇっ!???」

 

体が宙に浮いて雪に触れずにこちらに飛んでくる女、すぐに俺の間合いに入った。__ッドッッ!!

「ギャッ!!」

[運動エネルギー]放出

 

女の左肩に右手で触れ、10メートル程吹き飛ばした。雪特有のザクザクとした音が出るが、雪に吸収され乾いた音に変わる。

 

「終わったよ、二人共」

 

「全員やったの?すご……」

 

「礎くん、怪我してない?」

 

「無いよ、大丈夫。麗日はあそこで伸びてる奴らを見てて、芦戸は周囲を警戒しててくれ他に敵がいるかもしれん」

 

二人に指示を出して女の方へ歩く。

 

「わかった。けど礎は?なにすんの?」

 

「…あの人に()()してくる(素直な人だったらな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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