礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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第13話 "バット"マスコミニケーション

校門前には、何やら人だかりができていた。雄英のゲートに群れを成した人々は、それぞれカメラやマイク、ボイスレコーダーなどを各々の手に持っていた。

 

近寄ろうにも近寄れず、どうしようか迷っていると、雄英の制服を着た自分に気が付いたのか髪を結んだ女性がずんずんと近寄って来て、俺にその手に持ったマイクを向けてきた。

 

「オールマイトがこの学校の教師になったけど、彼の授業はどう?」

「ん?」

「彼は教師としても優秀なんですか?」

 

そう言うことか。この報道陣はオールマイトの教師就任で取材に来てるのか。そういうことなら、この数も頷ける。オールマイトが道を歩くだけでネットニュースのトレンド入りだから。

 

正直面倒だ、道で保険の勧誘を受ける様な。そんな時は___

 

「Voilà!」

 

「えっ?」

 

英語を使って煙に巻くのが得策。

 

「In view, a humble vaudevillian veteran cast vicariously as both victim and villain by the vicissitudes of fate.」

 

「ち、ちょっと君…!」

 

「uh-huh? This visage, no mere veneer of vanity is a vestige of the vox populi, now vacant, vanished!」

 

「あ、あの!もう…!」

 

「However, this valorous visitation of a bygone vexation stands vivified and has vowed to vanquish these venal and virulent vermin vanguarding vice and vouchsafing the violently vicious and voracious violation of volition!」

 

「も、もういいです!ありがとうございました!!」

 

有無を言わさない内に黙らせ、人垣をすり抜ける。

 

「なに、あの子?何喋ってた?」

 

「いや、俺に聞かれても…よかった撮って無くて訳がわからん…」

 

後ろのほうで先程の女性の焦ったような声と、それに反応する男性の声が聞こえる。俺はほくそ笑み、足早に生徒玄関へと向かった。

 

さっき言ったのは昔のヒーローコミックの引用だ、ダークで名台詞満載の大好きな作品の1つだ。一時期、常に頭の中にあった台詞を言ってみた。常闇が好きそうだ、今度話してみよう。

 

 

質問攻めをしてくる報道陣を躱し、教室に着いた。そうしてしばらくして、相澤先生が教室に入ってきた。

 

少し面倒臭そうな雰囲気を醸し出しているのは、きっとマスコミ対策が面倒だったからだろう。そう考えていると、昨日の戦闘訓練の軽い講評を始めた。

 

昨日の映像と成績、それからオールマイトの所感を見た相澤先生が緑谷と爆豪に一言二言告げた、今度は充血した目をこちらに向けた。

 

「あと礎、轟」

 

「ッ!はい」

「…………」

 

「二人共、個性の使い方は群を抜いて上手い。だが、一人で突っ走りすぎだ。

礎はもっと視野を広く持て、油断して背後から、なんてザラだ。目の前の相手に感けず気をつけろ。」

 

「はい!」

座ったままだが頭を軽く下げ答える。

 

「次に、轟。礎みたいに攻撃の通じない奴、お前の攻撃よりも速い奴は滅多にいない。が、いない訳じゃないことは昨日分かっただろう。そういう奴に接近されたときの対策を考えておけ」

 

「……はい」

 

轟はきつく手を握りしめた。その時バッと音がするんじゃないかという勢いで振り返った爆豪は、親の敵でも見るような凶悪な表情で轟と次に礎を睨みつける。

 

 

"群を抜いて上手い"と評されたことが気に入らないのか。見た限り爆豪はプライドが高そうだ。

 

ただ、俺に向けられる視線は轟のそれとは何処か違う、悔恨が滲むようなそんな視線だ。…まさか、昨日の講評の時に言い過ぎたか。俺は間違った事は言ってない気がする、でもそういう問題でもないのだろう。

 

 

 

何かを考え込む轟と、キッと睨みつける爆豪を置いて相澤先生は切り出した。

 

「さて、そろそろHRの本題に移る。急で悪いが君らに……」

 

思わせぶりに言葉を溜めた相澤先生に、皆がごくりと唾を飲む。

 

(なんだろう。また臨時テストか?冗談じゃないぞ…)

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「「学校っぽいの来たー!」」」」

ドン、と効果音が出そうな顔で相澤先生が言った言葉に、殆どのクラスメイト達の心が1つになった。

 

礎も驚いた。予想外の出来事が連続した雄英高校での生活だ。いきなり学級委員長なんてごく当たり前の事を決めるというのは、ある意味で予想外だった。

 

「委員長!! やりたいです、ソレ俺!!」

「ウチもやりたいス」

「ボクの為にやるヤ「リーダー!! やるやるー!!」」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」

「オレにやらせろ!! オレにー!!」

 

それを皮切りにして、途端に沸き立つ教室。皆が手を挙げ、我こそはとそれぞれ自己主張をする。

 

俺は皆の様相に笑いながらだったが手を挙げなかった。昨日の少人数ならともかくやった経験が無いし、何より俺が皆の代表としてまとめるのは向いていないと思う。性格云々より何より、こんな個性豊かな面子をまとめるなんて、荷が重い。

 

 

「静粛にしたまえ!!」

 

その時、一際大きな声がその喧騒を沈めた。真後ろだからわからないが、飯田がいつも以上に真剣な表情をしてるのだろう。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ! やりたい者がやれるモノではないだろう!!!」

 

(そりゃそうだ、飯田。)

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 」

 

(ごもっとも。いいぞ飯田。)

 

「民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら…これは投票で決めるべき議案!!!」

(でも__「いやお前そびえたってんじゃねーか!! 何故発案した!!!」

 

そう言い切った飯田の手は、当人の性格を表すが如く真っ直ぐ空へと伸びていた。

 

……飯田もやりたいって気持ちがあるらしい。だろうな、うん。

 

しかし投票か…悪くない。飯田の言葉に、俺も小さく頷く。適性や信任という意味では確かにそうだ。この状況では委員長が決定するまでに時間がかかり、さらに決まったとしても不安が出るだろう。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!?」

 

反論したのは梅雨ちゃんと、切島だ。それに飯田君も正論で返した。誰の意見も的は射ている。確かにこの時点で複数票が入る人は信頼に足り得る、と言えるかもしれない。

 

飯田君は先生に確認を取ると、何処からか寝袋を取り出した相澤先生はそれに包まれながら至極どうでもよさそうに許可を出した。

 

その後、飯田がテキパキ白い用紙を人数分に分けて配る。俺は配られた用紙とシャーペンを手に、誰の名前を書くか考えた。入学してから一通りクラスメイトに挨拶はした、がリーダーを選べとなると話が違う。

 

戦闘能力で言えば轟、爆豪。インパクトがある奴なら緑谷。個性の汎用性なら飯田か八百万……飯田ねぇ…。

 

ふと恩師の姿が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕、三票ー!!?」

 

緑谷がとても驚いた様子で目を見開いた。黒板には俺を含めて名前が無い奴もいる。

 

「ぼ、俺に、一票入っている!?一体誰が!」

 

変わらずよく通る声の飯田君が動揺したように発する。飯田の名前の横には正の一画目が正しく刻まれていた。

 

「他に入れたのね…」

「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」

 

飯田の言葉の意味を理解した八百万と砂糖が呆れたように声を掛けた。

 

(〜ッッ!ッ!ッ!ッ!ッ!…)

 

俺は少し肩を震わせ笑いを堪えるのに尽力していた。

 

あんなに委員長になりたがっていた様子なのに、他の人に入れるとは思わなかった。……危うさを感じるほど、とことん実直なんだなと、彼に対して評価した。

 

結果。見事三票獲得し委員長になった緑谷と、その隣では二票入った副委員長の八百万が不満そうに立っている。緑谷君は、いまだに信じられないと言った様子で、呆然と立ち尽くしている。

 

色々あったが、とりあえず学級委員は決まったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて、昼休みになり麗日が話しかけてきた。

 

「ねぇ礎くんは、お昼ご飯食べるの?」

 

「俺は普通に食べるけど…」

 

「うちら食堂いくけど一緒に食べん?」

 

「…ご一緒しよう」

 

と言うことで初めて食堂で食べる事になった。

 

 

 

「人すごいなぁ……」

 

「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな」

 

「お米が、うまい!」

 

「うん、美味しいよ。ありがとな誘ってくれて」

 

「どういたしまして」

 

麗日は定食、緑谷はカツ丼、飯田はカレーを頼んでそれぞれ舌鼓を打っていた。俺はと言うと何を頼むか決め兼ね、麗日と同じ物を頼んだ。

 

「ランチラッシュってクックヒーローがいる事は聞いてたけど、凄いな。この人数も頷ける。」

 

「でしょー?絶対来た方が良いよ。」

 

麗日と話していると浮かない顔をした緑谷が目に入った。

 

「いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ……」

 

「ツトマル」

「大丈夫さ。緑谷くんのここぞという時の能力や判断力は、"多"を牽引するに値する。だから君に投票したのだ」

 

(だろうと思った)

 

「飯田も委員長やりたがってたのに、他に入れて良かったのか?」

 

「"やりたい"と相応しいか否かは別の話…僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

「「「僕…!!」」」

 

「確か委員長を決めた時も…」

 

「ちょっと思ってたけど飯田くんて坊ちゃん!?」

 

「そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが…」

 

それから飯田の家庭の事、彼の兄に憧れヒーローを志した事を聞いた。

憧れの存在がいるのは良い、憧れと自分を重ね、それに向かい研鑽できるからだ。

 

俺と少し似ていると思いながら食を進めていた

 

「礎くん」

 

「ん、何?」

 

「こんな事言うのちょっと変やねんけど…」

 

「何?良いよ言ってみ。」

 

「礎くんはご飯食べんのやと思ってた」

 

「「えっ?」」

何を素っ頓狂な…と思うと緑谷も同じ反応をした。

 

「いや〜昨日、礎くんの個性の話聞いとったらいらんのかな〜って」

 

そういう事か、向こうでも偶に聞かれたなぁ

 

「えっ?!礎くんの個性の話?!聞きかせてもっていいかな!礎くん!」

 

緑谷はいなかったから当然だが、ここまで食いつくとは思っていなかった。

 

「わかったよ緑谷、教える。麗日の誤解を解くのはその後で。」

 

俺は一通り自分の個性を説明した。

 

 

「凄い個性だね!使い方によっちゃ無敵になれるなんて!」

 

「実は昨日から俺もそう思っていた」

 

「実はそうでもないんだよ、吸収の方はデカい威力のエネルギー、オールマイトの一撃とかだな。あんなの食らったら蓄積してんのが0でも、吸収仕切れずにダメージを食らう」

 

「個性も身体能力の一つだからそれはそうだよね」

 

「成る程」

 

昨日とは違って話だけで納得してくれた様だ。次は麗日の誤解を解かねば。

 

「麗日の言ってたのは変換で身体を動かすエネルギーを作れるんじゃって話だろ?」

 

「うん、そうそう!食費掛からんって凄いよ!」

 

「まぁな、でも残念ながらそれはできないんだ。"個性"ってエネルギーを消費してるから、どっちにしてもエネルギーを補給しないといけないし__あと、美味いもんは食べたいだろ」

 

「そうだよね、ごめんね変なこと聞いて」

 

「いいって、俺のばぁさんが似た様な個性持ってるし。それに、向こうにいた時もちょくちょく聞かれたから」

 

「?、向こうって、礎くんどこか地方から来たの?」

 

緑谷を除く三人でハッとする。

そうか話してないんだった、あれ?でもテストの朝にそれとなく言った様な…

あ、あん時は緑谷が考え込んでたか。

 

「礎くん?」

「緑谷、その話なんだが___」

 

「!」

「何!?」

ガヤガヤと沢山の生徒で騒がしかった食堂だったが、そんな場所にも響く程のけたたましいサイレンの音が響き渡る。

 

「ブッ」驚いた麗日が味噌汁を俺の手に零した。

「ッアッチッ!!fuckが!」

「口が悪いぞ!礎くん!!」

「キャプテンみたいなことを言u__『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

それを聞いた生徒は、理解したものから出口へ我先にと走り出す。生徒の殆どがいた食堂は、たちまちてんやわんやの大騒ぎとなった。

 

「キャプテンって何?もしかして__」

 

「話は後っ状況把握が先だ」

 

さっきの飯田が聞いた上級生の話から察するに、校舎内まで誰かが侵入してきたらしい。俺は人が多い出口に向かったところで直ぐには出られないと判断し、何か分からないかと個性で重力を吸収し窓に近づく。

 

「あれは…」

 

バランスを取りつつ窓に着いた。窓の外にはテレビカメラやマイクを持った人たちが大勢いた。その中には今朝見た女性の記者も居て、ゲートの前に集まっていた報道陣だとわかった。

 

「皆、ありゃ報道陣…あれ?」

 

しまった。と思うまで気づかなかった、三人とはぐれてしまったらしい。上から見ても見つからない、ついでにバランスを崩してしまいクルクル回る。

 

「あの、皆さん!向こうを!見て!ただの報道陣!」

 

とりあえず混乱を何とかしようと、俺は珍しく声を張って混乱した生徒に話しかける。

 

が、回っていては窓を上手く指せない。一度降りようにも、今行ったらモンゴルのジャムカみたく踏まれるだろう。

 

そんな俺の目の前で何かが飛んで来た、無意識に捕まえる。

 

「何だこの眼鏡は?すいません、どなたか眼鏡をぉ…!?」

 

しかし気づいた、フレームが上部にしかないメガネはどこかで見覚えがある。

 

その時、出口のほうで、バゴンと大きな音が鳴って顔を上げた。

 

「飯田?何やってんの?」

 

光り輝くEXITの文字の上に不安定に立つ飯田は、まるで走るフォームのお手本のような……端的に言うと、非常口のマークのように壁に張り付いている。

 

眼鏡はしておらず、見慣れない素顔を苦しげに歪めていた。そんな可笑しな状態の飯田は、すうっと息を吸い込むと大きく口を開いた。

 

「皆さん…大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません。大丈ー夫!!」

 

彼の良く通る声が響いたときには、皆彼の大胆な行動に呆気にとられたように動きを止め、彼に注目した。

 

「ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

飯田の機転によってその場は次第に収まり始めた。あっ…そうだ返さないと。

 

「飯田!眼鏡がっ!」

 

 

 

 

 

午後のHRになって緑谷が昼の食堂での事を理由に、飯田君を委員長に指名した。クラスの中にも食堂での飯田の活動を見た人は大勢居たようで、満場一致、といった様子だ。

 

勿論俺も賛成だ。飯田は喜びをかみ締めるような背中をして、張り切ってその推薦を受けた。

 

 

「麗日」

 

後ろを振り向き声を掛けた。

 

「ん?」

 

「緑谷って電車通学か?」

 

「うん、ていうか飯田くんと私と一緒に帰るよ」

 

「俺もいいか?緑谷に()()()()()()()()話さないと」

 

「あぁ…うん!勿論!いいよ!」

 

「ありがとう」

 

(そうヒーロー大好きの緑谷にしっかり()()話しとかないとな)

 

 

 

 

 

そして放課後、下校時刻。

 

「委員長就任おめでとう」

 

「おめでとうっ飯田くん!」

 

「ありがとう二人共、緑谷君も俺を推してくれて感謝する」

 

「そんな…飯田くんにピッタリだよ」

 

「そうそう。だから俺もお前に投票したんだ」

 

何気なく相槌の様に投票先を喋った。

 

「そうか……って、本当なのか!?」

 

「ホント。薄々わかってたろ?」

 

「そうか……。あの場で名前が無かったのは数人…麗日さんは俺と同じく緑谷君に入れたと言っていた。ならば!あの場で多少なりとも俺と会話をしたことがあって、そして俺に票を入れることができたのは…礎くん、君だけだと思っていたんだ!」

 

5本揃った指で飯田はかの探偵のように俺を指し示す

 

「…遮断機みたいっ」

「ッブフッ」

 

聞こえてなきゃいいが…

 

「しかし…何で俺に投票したんだ?そんなに喋ったこともないのに…」

 

「それは…アレだよ、お前の性格が俺の()()()キャプテン寄りって話さ」

 

飯田と話しつつチラリと緑谷に目をやった。したら飯田委員長も気づいた様で

 

「食堂でも言ってたよね、キャプテンって。礎くんの知り合いか先生?」

 

「惜しいな、緑谷。実は俺は___……」

 

 

この後、緑谷の花火の様なリアクションをしたことは他の三人には当然のように予想できたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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