礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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第12話 嵐とスタートライン

「キャプテン・アメリカのシールド持ったことあるのか?!」

「見た目以上に結構重いよ、アレ」

「ソーのハンマーは?あれ持ち上げたらアスガルドって国の王子なんだろ?マジヤベェ!」

「頼む気すら起きなかったよ、あの人神様だぞ。」

「ハルクの肌質!」

「ブルース・バナーの時の方が俺は好きだよ」

「スパイダーマンが同時に100人もいたって本当か?」

「スパイダーウーマンもいたけど実際は本人を合わせても5.6人、コスチュームがバラバラだったから皆別人だ。いつも大袈裟に書きすぎだ、あの新聞社のネットニュースは」

「…スパイダーウーマン……?!!」

「峰田、口元のヨダレをなんとかして」

 

…対人戦闘訓練を終え、皆で今日のヒーロー基礎学の反省会をしていた。

 

俺にとっては初対面の砂藤や芦戸への挨拶済ませた後、互いの“個性”はなんなのか、あの時はこうしていれば、こうしなければなど、ヒーロー・敵・第三者と様々な視点から訓練を観た上での議論は、とてもに有意義なものになっていた。

 

だが、礎がアメリカのヒーローと直接の関わりがある事が明らかになった事もあり、まだまだ高校生の彼等はその興味に負け、ついつい一人が質問してしまった。上がっていく雰囲気に煽られ、皆が質問を投げかけ脇道に逸れてしまい、そのまま逸れた道をズンズン進んでいってしまっていた。

 

「君達!礎くんに質問ばかりしていないで、折角こうやって反省会を開いているのだから真面目に議論を交わし合い、次につなげるような有意義なものにするべきだ!」

 

放課後、教室で和気藹々と喋る一部のA組の面々。そこへ独特な手の動きを入れながら制止しようとするのは、飯田だ。

 

…薄々勘付いてはいたがここまで四角四面な男は初めて見た。

 

「飯田ちゃん。学校生活がまだ始まったばかりだから、こうして仲を深め合うのもいいと思うわ」

 

「ムッ!?そうか…互いに親交を深め合い、心を開く事によって多くの発言を促し、議論をより豊かなものとする!成程一理ある!ありがとう!蛙吹くん!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。それに、そんなに深く考えた訳じゃないのだけれど…」

 

「そうなのかい?兎も角ありがとう、梅雨ちゃんくん!」

 

「『くん』はいらないわ、飯田ちゃん」

 

「つーか飯田も礎に聞きてぇことの1つや2つあるだろ?生で見たことある奴他にいねーって!」

 

「しかしだな!切島くん!!」

 

雄英に入学した時点でこうなるだろうと予想はしていた。知ってる範囲で喋ってはいたが止まる気配のない質問の嵐に半ば帰り道を見失っていた。

 

「いいよ。知ってることは答える。」

 

せっかく軌道修正してくれたのにアレだが受け付ける構えをとった。

 

「…礎くんできれば…Mr.クイックシルバーの活躍を聞きたい。」

 

やっぱり。

 

「あー、正直あの兄妹とは話した事もないんだ、でも__一瞬だけだったけど海の上走ってんの見たよ。」

 

「な、ん、と、ゆ、う…」

 

独特な素早い手の動きで驚きと感動を伝える飯田。わかるわ、その気持ち。俺達とは桁が違う。

 

「なぁそろそろ、お前の個性の事詳しく教えくれ!オレ超気になってたんだ!」

 

「あっそれ私も気になってた、教えて 教えて!!」

 

上鳴と芦戸が聞いてきた。…見せた方がわかりやすいと思い、ノートの紙を一枚破りグシャッと丸めた。

 

「いいか?俺の個性はエネルギーの変換だ。例えばこの紙屑、手を離すと__落ちる。これは重力ってエネルギーが働いているからだ」

 

「「うん」」

 

二人が頷き、俺は落ちた紙を拾う。

 

「もっと言うと重力加速度の話になるんだが…飯田、地球の重力加速度は?」

 

「むっ!簡単過ぎるぞ!礎くん!!9.80665メートル毎秒毎秒!だ!!」

 

「そうだよね。ありがとう飯田」

 

「「………」」

(なぜそこでポカンとする、二人共…)

 

「cough!物理法則に基づいて当然、モノは落ちるでも俺が変換する際の吸収を使えば__落ちないッ」

 

「「おおっ!」」

胸の辺りで浮く紙屑

 

「じゃあ立ち幅跳びン時のはこれか!」

 

「そう」

 

「っん?礎の髪もちょっと浮いてねぇか?」

 

「あっ確かに!どうなってんだ?」

 

目敏く砂藤が見つけ、切島が同調する。

 

「吸収する時は俺がエネルギーを指定してるんだけど、選んだエネルギーを自身を除いて周囲約40センチまで強制的に吸収する。」

 

「あっそれでか。でも…」

 

チラッと下、つまり俺の足元を見る切島。

 

「上半身と下半身、それと全身くらいの大雑把だけど、選べるんだ」

 

「あっなるほどッ」

 

「でも轟の氷も砕いてたよな?あれは?」

 

「ああ゛…あれは__スイー…

 

その時、遠慮気味に開かれた扉から右腕に黒いサポーターを着け、左腕に包帯をグルグルと巻いて歩行する緑谷の姿が俺の目に入ってきた。

 

「ッあ!、緑谷。」

 

彼の名前を呼ぶと一斉に皆が彼の下へ駆け寄っていく。喉から血の味がして来たからな…助かった…。

 

「おお、緑谷来た!!!お疲れ!!爆豪とよくやり合ったな!!あ、俺は切島鋭児郎!!」

「私、芦戸三奈!凄かったよー、緑くん!!」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」「俺、砂藤!」

 

「わわ……」

 

彼は小中と虐められる側の人間として過ごして来たのだろう、突然押し寄せるクラスメイトに緑谷は戸惑っていた。だが悪い感覚はしていないようで頬が思わず緩んで自然と笑みが零れている。

 

「緑谷、腕が「デクくん 怪我!治してもらえなかったの!?」

(麗日…ていうかデクってなんだ?)

 

「あ、いやこれは僕の体力のアレで…あの麗日さん、礎くん それより…」

 

爆豪の所在を聞いた後は血相を変え、大慌てで教室を出て行った。

 

「おい、礎。」

 

「ん...あ、峰田…」

 

「向こうの女ヒーローの生の写真…お前、持ってんだろうな…」

 

(こいつだけは…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪勝己は、酷く苛立った様子で帰路へつこうとしていた。入試1位という、称号。それが、自分のものではないと知った時爆豪のプライドは折れそうになった。

 

追い討ちのように知った幼馴染の――ナードと、"無個性"とバカにしていた緑谷の雄英合格にも衝撃を受けた彼は、入学後、いつもの様に突っかかるのではなく、自分の称号を奪った相手である礎 遷形を、静かに観察していた。

 

自分を引きずり下ろし入試1位になった奴はどう見ても特筆する事がない。そんな出で立ちで、中学の頃の奴らと何ら変わりなく見えた。

 

個性把握テストの時だってそうだ。そのときもじっと様子を見ていた爆豪には礎の自分に勝ち得る要素は、立ち幅跳び。ただ、それだけだ。

 

奴の個性を2度も観察していても自分が検討もつかない。その事が尚更に悔恨の情にかられる。

 

そんな訳がわからない奴が1位。だが、入試の結果が何かの間違いだとは思わなかった。他でもない自身の選んだ雄英高校に、間違いなどあるわけがないと。

 

八百万の言う事、意見に納得してしまった。そしてその後の…礎が自分を庇うような意見に殊更に怒りが湧いた。

 

しかも、そんな、そんな奴がキャプテン・アメリカの弟子?字面は凄いがそれがどうした、そんなもの…。そんな肩書きが無くとも自分が一番だ。自分こそが、その場に立つのに相応しい。

 

それを今日の戦闘訓練で証明するはずが自分より下の奴らが偉そうに意見を言い、爆豪を否定した。筋の通った、道理にかなう意見は正しく、説得力を持って爆豪のプライドを傷つける。

 

気分は最悪だった。いつの間にか止まっていた歩みにまた苛ついて舌を打つと、歩き出そうとして―――止められた。

 

あろうことか、それは他の誰でもない、デクによって止められた。爆豪は振り返り、睨みつけていた。

 

 

 

夕焼けが、彼の世界を赤く染めた。

 

借り物の力である事。まだそれを制御しきれない事。自分のものにした時、幼馴染である爆豪を超える事。

 

無意識だったが、それでも今まで親にすら隠していた事を、全て話してしまっていた。しまったと緑谷が動揺しても、もう手遅れだった。フラっと、まるで力が抜けるように爆豪の体が揺れる。

 

「……何だそりゃ…?借りモノ…?わけわかんねぇ事言って…これ以上コケにしてどうするつもりだ……なぁ!?」

 

普段と変わらない怒声のように聞こえるそれは、しかし、いつもとどこか違う。悔しさや憎らしさが混ざり合った、良くも悪くも真っ直ぐな感情を表す幼馴染から、初めて聞いた複雑な感情。

 

「――だからなんだ!?今日…俺はてめぇに負けた!!!そんだけだろうが!そんだけ……」

 

今まで立っていた足場が崩れたようにおぼつかなく。何かをつかもうとして必死に叫ぶ。

 

「氷の奴と弾く奴の戦いを見て、勝てねぇって考えちまった!クソ!!!」

「クソッ、クソがッ!!!」

 

必死に否定するように罵倒の言葉を繰り返す爆豪は、緑谷が今まで見ていた堂々として自信に満ち溢れていた、憧れの幼馴染とは違う。

礎や轟と同じく必死に何かを手に入れようともがき、足掻く。

 

一人のヒーローの卵だった。

 

「なぁ!!てめぇもだ……デク!!!」

 

そんな真っ直ぐで、潤んでいる眼で爆豪はキッと緑谷を睨みつける。嘲笑がない、見下していない眼。出久にとっては、幼少期から見られたことがない強い眼だった

 

「こっからだ!!俺は…!!こっから…!!いいか!?俺はここで…」

 

「一番になってやる!!!」

 

紡がれた言葉は、如何にも自分の幼馴染らしくて。やはり、格好いいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下の窓から校門の方を見下ろせば、やけに小さい歩幅でトボトボ歩く爆豪に緑谷が追いつた。どうやら何かを伝えたようだ。

 

更には途中からオールマイトも全力疾走でやって来たが、それほど長い時間も話さない内に爆豪がさっさと門を潜って帰宅してしまった。

 

上手いこと爆豪と話せなかったオールマイトは、得も言えぬ哀愁を背中に漂わせて近くにいた緑谷の下へ歩み寄るが……。

 

「……なんだったのかしら?」

 

「あれは……もしや男の因縁!?」

 

「その発想はなんなんだ?麗日…」

 

顛末を眺めていた蛙吹は唇を指で押さえながら首を傾げ、麗日は青春ドラマを見過ぎな要素を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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