礎 遷形のヒーローアカデミア   作:Owen Reece

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タイトルのナンバリングミスしてました、すみません…









第9話 対人戦闘訓練 中編

……意を決して俺が引いたくじは"K"。10組しかできないから誰がどう考えても余りのくじだ。

 

「礎少年!ツイてるな!!」

 

「ははっ…」

 

乾いた笑いしか出てこない、嫌な予感は的中した。皆が哀れみのような目で一歩引いて見てくるのを、俺は苦笑いでごまかした。顔を引きずっているのが自分でもわかる、くじ運悪いなぁ。

 

「相手の人数が多くてチームが不利になると思うが、これは授業だ!ヒーローになるための試練とでも思って、"授業で体験できてラッキー"ぐらいに思ってチャンスにしないと、理不尽に力を振るう敵に対抗なんて出来ないさ!」

 

これで相手が決まっていない時点でも出来るお互いの個性の把握や、簡単な作戦を立てる事もできなくなった。即興でやるしかないな…。

 

「礎少年もぶっつけ本番になるが頑張って訓練に励むように!」

 

…腹を括るしかない、やるぞ。

 

「っはい!」

 

 

オールマイトはまた違う箱を二つ取り出すと、説明に入った。

 

「よーし、いいかい?この2つの箱の中には5個づつ、ランダムにさっきのアルファベットが書いたボールが入ってる。

それぞれの箱から引いて出たチームが対戦相手となる!そして礎少年!!」

 

「あっ、はいっ?!」

 

「この10個のボール中の1つだけ箱から出すと音が出る仕組みになってる、音がなったボールのチームが君のチームだ!!」

 

「…了解しました。」

 

本屋とかにある万引き防止システムと似た装置が付いてるんだろう。

 

説明が終わりオールマイトが両方に手を突っ込んだ。

 

「最初の対戦相手はこいつらだ!!Aコンビがヒーロー、Dコンビが敵だ!」

 

緑谷・麗日のAコンビと爆豪・飯田のDコンビだ。まずは敵側が先にアジトとして使うビルに入り作戦会議と核のセッティング、ヒーローチームは5分経ったら潜入してスタート。

 

その間他の生徒はモニターで観戦するようだ。早速全員移動を開始する。

 

 

 

「いやぁ災難だったなぁ、礎。」

 

落ち込んでる様に見えたのか切島が話しかけてくれた。マスクの顔の部分を右の下顎の後ろのボタンを押して、開けた。

この辺は絶対スタークさんのだな…。

 

「切島、…と瀬、呂?」

 

「ん、おう瀬呂範太(セロ ハンタ)だ!よろしくな。」

 

どうやら彼のマスクも似た構造の様で俺と同じ部分を開けていた。

 

「よろしく。マスクの開くとこが一緒だね、それ。」

 

「あぁ閉めっぱなしだと、どうも落ち着かなくてな。しっかし運が悪かったなぁ礎。」

 

切島も慰めてくれた、2人ともいい奴だ。

 

「今となっちゃ、何となくそんな気してたよ。」

そんな事を話しながら3人で歩いた。

 

 

 

今回戦闘を行う4人以外は大きなモニターのある薄暗い部屋に案内された。

 

モニターにはビルの内部が映し出されており、飯田、爆豪ペアが準備を進めているところだった。やがて、5分経過するとヒーローチームである緑谷、麗日ペアが建物内に入る。戦闘訓練の始まりだ。

 

建物内に入ると、周囲を警戒する様子を見せながら進むヒーローチーム。対照的に敵チームは、爆豪が核のある部屋から飛び出して真っ直ぐ下の階へと階段を下りる。

 

飯田は爆豪に何か言っているように見えたが、彼は聞く耳を持たずに廊下を突き進む。やがて曲がり角に達すると、爆豪は奇襲を仕掛けんと飛び出す。

 

獲物を見つけた肉食獣の如き素早さで緑谷 目掛けて爆発した腕を振り下ろした。

 

が、

 

緑谷は寸前の所で麗日を庇い後ろに飛んだ。

 

しかし、掠ってしまったのかオールマイトをイメージしていたマスクの左側は焦げて無くなり、彼の顔と髪が露わになってしまった。

 

 

 

「爆豪ズッケぇ!!奇襲なんて男らしくねぇ!!」

 

「緑くんよく避けれたな!」

 

男らしい、上半身がほぼ裸のコスチュームを着た切島と、ピッチリしたコスチュームの芦戸が興奮したように画面を見て叫んだ。

 

それに対し、オールマイトは少し窘める様に答えた。

 

「奇襲も戦略!彼らは今、実戦の最中なんだぜ!」

 

(戦略か……どうだろう?爆豪は、そんな事考えて動いているのだろうか?それなら飯田があんなに風に焦ったような挙動をするとは思えないが……)

 

爆豪は歯を剥き出して笑うと、右手を大きく後ろに下げて攻撃せんと突き出した、大振りの薙ぎだ。

 

緑谷はまるで動きを読んでいたかのように冷静に彼の手榴弾をイメージしてデザインされたの前腕部を掴んだ。

 

「おっ…っ」と思わず声が出た。

 

体を捻って背負い投げをする。綺麗に決まった背負い投げに、観察する他の皆も礎に続いておおっと歓声を上げた。

 

背負い投げ…動きを読んだにしてはまだ投げの部分がぎこちない様に見えた。

 

ふらりと立ち上がる爆豪に緑谷が口を開き、何かを喋ると急に爆豪の表情が歪んだ。緑谷の背負い投げだけが、理由ではないだろう。

 

(というか何故緑谷は爆豪の胸部にでも肘を入れるでもして追撃をしない…)

 

 

入学初日のテストの時の雰囲気からして 大方、彼等は入学前から知り合いで何かしらの確執があるのかもしれない。

 

だとしても両方とも、冷静を保てて居ないのは明らかだ。これは減点対象ではないか、とオールマイトを盗み見る。

 

だが爆豪と飯田が離れた位置なのに会話する様子を疑問に思ってか、切島が不思議そうに質問していた。

 

「アイツ何話してんだ?定点カメラで音声ないとわかんねぇな」

 

「小型無線でコンビと話しているのさ!」

 

オールマイト曰く 小型無線と建物の見取り図、そして確保テープを持っているようだ。彼は触れなかったが、ヒーローと敵、両チームに同じものが配られているのだろう。

 

確保テープを相手に巻きつけただけで相手を捕らえたという証明となり、巻きつけられた者は戦闘に参加できない。そして制限時間は15分で核の場所はヒーローに伝えられていない。

 

ヒーロー側に圧倒的に不利なこのルール。芦戸がそれに気付くと、オールマイトはいつもの笑顔で振り返った。

 

「相澤君にも言われたろ?アレだよ、せーの!」

 

(お?アレか?よっしゃ!)

 

 

「「「「「「Plus Ul……「あ、ムッシュ爆豪が!」

 

(青山……)

 

皆で揃って言おうという所で青山が画面の爆豪を指し、声を上げた。

 

(…"相澤君にも"って、オールマイトは昨日見ていたのか?声が聞こえるような位置で?)

 

しかしそんな疑問も、皆に習って画面を見るとすぐに忘れた。

 

 

爆豪がまた手を爆発させ麗日を無視し、真っ直ぐ緑谷に突っ込む。麗日はその隙に上の階に在る、飯田の守る核へと向かう事にしたようだ。

 

緑谷は爆豪の蹴りを腕でガードすると、一瞬止まった足に伸ばした確保テープを巻きつけようとする。焦った爆豪はまた右手を大きく振って攻撃しようとするも、紙一重で緑谷に避けられる。

 

 

(惜しい…っ!)

 

 

立て直しのためだろう、緑谷は背を向けて角を曲がり更に廊下を走って逃げる。それを見てまた苛立った様子を見せる爆豪。

 

そこからは早かった。麗日は核の部屋に侵入して隠れるも、何が可笑しいのか飯田を見て笑ってしまい、案の定見つかってしまった。

 

 

(…ゲラかあいつは…)

 

 

一方、緑谷を追い詰めた爆豪は腕の手榴弾型の部分を緑谷に向け、安全レバー?の部分をスライドさせ中にあったピンを外しtBOOOM!!

 

 

「「「ッ?!!うおぉぉッ!?」」」

 

皆、叫びを上げた、画面が赤く染まる程の大爆発。俺達が居るモニタールームまで揺れが伝わってきた。

 

腕の手榴弾みたいなのは爆豪が爆破に使うものを溜めて置ける物なのだろう。

おそらくナフサか、ニトログリセリン。

 

(ヤバすぎるぞ…あいつ、マジで俺の()()だ…!)

 

ビルに大きな穴が開くほどの威力。

困惑する飯田の隙を見逃さず麗日は個性で自分を浮かせると、飯田を飛び越え核を回収しようと跳ぶ。

 

だが飯田は即座に反応し、寸前で核のハリボテを持ち上げて走り抜いた。速力強化は強い上に汎用性が高い。

 

切島がオールマイトに止めるように言った。正直、俺もそう思う。だがオールマイトは爆豪に"もう一度同じ攻撃をしたら強制的に終了する"と注意をするに留めた。

 

屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損害を招く。ヒーローは勿論敵としても愚策の為、大幅の減点をする…という事らしい。

 

爆豪はまた真っ直ぐ突っ込むと、カウンター狙いの様子を見せる緑谷を避ける為に彼の目の前で爆破し、上に跳んだ。その推進力を利用して彼の後ろに回りこみ、個性で背中を攻撃する。

 

 

(COOL…!上手いな……!)

 

クレバーな個性の操作をする、テストで思っていたが確信に変わった。

 

「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更、そして更にもう一回…。考えるタイプには見えねぇが意外と繊細だな」

 

「慣性を殺しつつ有効打を加えるには、左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」

 

確か轟…?の感心したような声に、八百万の細かい解説が入る。これも勉強の内だろうと、俺も感じた事を告げる。

 

「…後ろに飛びながら攻撃すると、思っている以上に力が逃げるからな。それと緑谷がカウンターを狙ったのに、即座に反応した。爆豪もよく動きを見てる」

 

前者は俺の経験に基づく事だ。

 

「才能マンだ才能マン、ヤダヤダ…。」

 

ぼやく上鳴に苦笑する。モニター内の爆豪はさっきの仕返しをするように、大振りの薙ぎを加えた。さらに個性で加速しながら緑谷君の体を床に叩きつける。

 

「…意趣返し…というか殴り返すだけじゃ済まさないタチだな爆豪は……」

 

「ゲロ…」と梅雨ちゃんも頷いた。

 

緑谷は逃げだし、今度は壁際に追い詰められる。しかし、おかしい。追い詰められているのは間違いなく緑谷だ。追い詰めた爆豪が余裕がないように見えた。

 

彼等は何かを話すと、二人して右腕を大きく振りかぶった。殴り合いか?緑谷は既に怪我を沢山負っていて、昨日の個性把握テストの様子からも大きすぎる個性を制御し切れていないように見える。

 

「先生!!やばそうだってコレ!先生!」

 

切島が止めようとする、本当に優しいなこいつは…。俺も同感、しかしまだ少し見たい気もある。でも緑谷と核の距離があり過ぎる、アレじゃ麗日の加勢に行けな……ぁ?いや待て、彼の居る場所の上階は確か……あっ!

 

「双方……中止……」

 

直ぐに爆豪は緑谷の頭に爆破を当て、緑谷はアッパーカットを放つ…が、外した。彼の腕は空を切り、破壊力のすさまじい個性の余波が天井を砕いた。

 

バッと他のモニターから、核の映っているものを探す。

 

(どこだ…どこ..)

 

(…………ッ!)

 

見つけた。

 

床が緑谷の個性によって砕け、いくつもの破片が宙に飛び上がっている。麗日は折れた柱を個性で軽くして持ち上げると、浮かび上がった床の破片を柱で飯田とその後ろの核に向けて殴り飛ばした。

 

そうか、軽くしても密度は変わらない。

 

思わず頭部をガードする飯田を飛び越え、核へ抱きつく麗日。ヒーローチームが、核を奪取した。

 

「ヒーローチーム、WIIIIIIN!!!」

 

オールマイトの声が響き渡った。俺は知らない内に入っていた肩の力を抜き、止まっていた呼吸をする。オールマイトはモニタールームを出ると、一瞬で彼らを呼び戻しに行った。

 

 

 

 

 

 

「まぁ……今回のベストは飯田少年だけどな!!!」

 

「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

 

首を傾げる梅雨ちゃんにオールマイトは指を左右に振る。

 

「何故だろうなあー?わかる人!?」

 

オールマイトが挙手を促すと、八百万が返事とともに手を挙げた。

 

「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。

緑谷さんも、同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを"核"として扱っていたら、あんな危険な攻撃できませんわ。

相手への対策をこなし且つ"核"の争奪をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは"訓練"だという甘えから生じた反則のようなものですわ。」

 

 

少し厳しい言葉で締めた八百万さんに、オールマイトは若干悔しそうだ。

 

「ま…まぁ飯田少年もまだ固すぎる節もあったりするわけだが……まぁ…正解だよ。くう…!」とサムズアップと共に告げる。

 

本当は自分で言うか俺含め、色んな生徒から出た意見をまとめて空いた穴を自分で埋めたかったのだろう。

 

俺が冷や汗を流す彼を気遣わしげに見ていると、目が合って指された。

 

「礎少年!君は何か気付いたかな!?」

 

「えっお、俺ですか?はいっ!」

返事をして頭の中を整理しつつ、言葉を選ぶ。

 

「えー、うん。飯田が4人の中でもっともベストな行動をしたことは、俺も同意です。あえて付け加えるとすれば、八百万があまり言わなかった敵側ですね。

まず麗日の個性を知っていて、その対策に部屋を片付けたのなら核を窓から離すか見えない場所に置くべきでしたね」

 

「ほう!それはどうして?」

 

「彼女の能力なら、緑谷を浮かすか、自分が浮くかで協力すればビル数階分の高さでも届きます。

今回はヒーロー側も敵側も索敵能力が得意な人はいなかったのもあります。が、普通は敵の居る部屋の窓から進入は危険過ぎます。

でも、核を触った時点でヒーロー側の勝利!ってことなら窓の近くに核を置いといたら侵入された時点で反応できずに終わり、だからです。

だったらビルの高さによる地の利は無いですよね。やるとすれば下方の階に核を置くか、隠す事ですね。

折角柱と荷物が多い部屋なんですから、死角を作って核を隠す事自体は難しい事ではないでしょう」

 

「う、うん。」

 

「さらに、爆豪が尖兵として真っ直ぐ階下へ向かった事。これは…八百万は独断って言いましたが、俺は彼が自分の個性と核爆弾っていうこの上ない危険物との相性を鑑みた結果だと思います。

電気機器による制御にせよなんにせよ、火器なんて危なくてアホでも誰でも使いません。

cough!最後に口が悪くなりましたが概ね、このように思いました」

 

目を伏せている上にマスクをしながら話していたから気付かなかったが、いつの間にかクラス皆がシンとしてこちらを見ていた、だんだんと尻窄みになる。

 

一人、爆豪は睨みつける。が正しいが。

 

「………Mr.オールマイト?」

 

マスクを開けて尋ねる。

 

「ハッ、い、いやあ、その通りだ!よく見ていたね!!」

 

「いえ……」

 

居心地が悪くなって目を逸らした。さっきのに付け加えるならば飯田には爆豪を助けに言ってもらいたかったが、これは俺の贔屓目になるので止めた。

 

 

 

 

 

 

 




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