Deleted Witches~デュッセルドルフの人狼 ~    作:シン・琴乃

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クラウディアちゃん、いきなり飛ぶの巻。
クラウディアの話はこの「洗礼」で一旦おしまいにし、別キャラの話に移ろうと思います。
宜しくお願いします。
当方感想・評価に飢えています。一言で良いので下さい…下さい…m(__)m


2:洗礼(上)

翌朝。マライに連れられて基地内を一通り案内された後、ウィッチ用食堂を訪れたクラウディアは食堂の扉を開けた。食堂に入った途端に、既に席に着いていた十数人のウィッチの視線がクラウディアに向けられた。

「隊長。これが例の新入りですか?見た所養成校から『直送』って感じですが?」

 その中では比較的長身の、赤毛のウィッチがクラウディアを見つめながら言った。

「あなたが新しい子? ふふっ、これからよろしくね?」

 その隣に居た金髪碧眼、いかにもカールスラント人といった風体のウィッチはそう言ってクラウディアに微笑んだ。

「ああ、そうだ。いつもベテランを引き抜ける訳ではない。どの部隊でも戦力の補充は喫緊の課題だからな、今回は上手く青田刈りができたよ」

 部下の言葉に動じる事無く、ヴィンフリーデは静かにカップを持ち上げてコーヒーを飲んだ。ただコーヒーを飲んだだけなのに一連の動作は非常に洗練されており、クラウディアを強く惹き付けた。

「こんなひよっこにシルヴィアの代わりが務まるんですか?」

 不満そうに赤毛のウィッチが反論した。その切れ長の双眸には猜疑心がありありと浮かんでいた。

「鍛えれば良いだけの話だ。そうだろう、ツェツィリア?」

 ツェツィリアと呼ばれた銀髪のウィッチはこくりと頷いた。その艶やかな銀の前髪は目元を覆い隠すように垂らされ、クラウディアからは表情を窺い知ることが出来なかった。

「まぁ座れ、ヴェルター軍曹。もうじき朝食が来る。ツェツィリアの隣がいいだろう」

 ヴィンフリーデに言われ、微妙な空気が漂う中クラウディアは着席すると、その直後に隣のツェツィリアからメモが渡された。

『ようこそ中隊へ。私はツェツィリア・クフィアコフスカ。階級は少尉。あなたが配属される第二小隊の小隊長。よろしく』

「はい! よろしくお願いします!」

『声もっと小さくていいよ。ウルサイ』

 クラウディアが嬉しそうに挨拶すると、ツェツィリアは手元のペンを走らせ、メモに素早く書き足した。

 

 朝食は典型的なカールスラントの朝食だった。小振りな何種類かのパン、付け合わせのバターやジャム、ソーセージ、サラミ、チーズ、かわいいエッグスタンドにのったゆで卵にコーヒー……物心ついたときから親しんできた味だったが、軍隊のそれにしてはかなり上等な方だろう。

微妙な空気の漂う中朝食を済ませたクラウディアは、ツェツィリア他二人と共に基地の格納庫へ向かった。廊下を歩きながら互いに自己紹介をするが、赤毛のウィッチの剣呑な視線が気になってクラウディアは気が気で無かった。

「私、エルザ・D・ベルンハルト。階級は曹長ね。エルザって呼んでいいわ。これからよろしくね」そう言ってさっきクラウディアに話かけた金髪碧眼のウィッチは微笑んで手を差し出した。クラウディアもにっこり微笑み返して握手する。

「私はクラウディア・ヴェルター軍曹です!これから宜しくお願いします! 」

「ほら、レナータ。貴女も挨拶しなさいよ。新しい仲間なんだから」

「分かった、分かったよエルザ……挨拶するよ。レナータ・ネシュポロヴァー少尉だ。くれぐれも足引っ張ってくれるなよ」

 綺麗な発音だったエルザと好対照なオストマルク訛りが強いカールスラント語で挨拶しながら、赤毛のウィッチは嫌そうに手を差し出して握手をした。

「あの、所でネシュポロヴァーさん、失礼ですが」

「ネシュポロヴァー少尉、だろ? お前は一体養成校で何を習ったんだ!」

「ひっ、す、すみません! ネシュポロヴァー少尉!」

 歯をむき出し、怒気を露わにレナータはクラウディアを睨みつけた。クラウディアはいきなりの叱責に驚き、平身低頭で許しを乞うた。

「やめなさい、レナータ! 大人げないじゃないの! まだ入って来たばっかりなんだから、もっと優しく接してあげなきゃ駄目じゃない!」

 初顔合わせにしては酷な状況を見かねてか、二人の間にエルザが割って入る。

「うっ……でもエルザ、ここは曲がりなりにも軍隊なんだぜ?もっと規律ってものを――」

「あら、貴女が規律を語るの? ヒトモドキを前にするとそれしか見えなくなってしまう貴女が?」

「ぐっ……」

 エルザに勢いを削がれてもレナータはなお食いつこうとしたが、エルザの冷ややかな視線を前にしてはばつが悪そうに押し黙る他無かった。

「ごめんなさい、怖がらせちゃったでしょう?あんなだけど、根はいい子なの。許してあげて?」

「あ、いえ!元はと言えば、私が勝手にさん付けで呼んだから……」

とクラウディアが畏まった所で、乾いた拍手の音がした。三人が音の鳴った方へと振り返ると、そこには呆れているようにも無表情にも見える面持ちでメモを突きだすツェツェリアがいた。

『取り敢えず、格納庫行かない?自己紹介も良いけど早く訓練始めようよ。』

「……まぁ、ツェツェリアの言う通りだな」

「……そうね」

「……そうですね」

 ツェツェリアのメモにすっかり毒気を抜かれてしまった三人は、大人しく格納庫に足を向けた。

 

段々音量を増す騒がしさへと向かって歩く事二分。格納庫に繋がる大きな扉は開けっぱなしになっており、廊下からでもその熱気と喧騒を感じることができた。そこかしこに作業台に上げられて天井から吊るされたストライカーユニットがあり、その周りには何人もの整備兵が群がっている。

「すごい!大きいなぁ!」

 扉を潜ったクラウディアは、その規模に圧倒されていた。格納庫は、彼女がつい昨夜までいたウィッチ養成校より遥かに大きく豪華な造りで、そこに満ちる活気や緊張感も桁外れだった。

「そうね。ここは前線基地といってもかなり予算が費やされた豪華な物だから、貴女のいた養成校よりも大きいのも無理は無いわ。なんてったって24人分のストライカーユニットとその他の機材の整備を一手に引き受けているのだもの。さぁ、早く行きましょう?あなたのユニットが待ってるわ」

「は、はい!今日は慣らし運転ですか?」

「ええ、そうよ。でも貴女の調子次第で、模擬戦をやるかもしれないわ。だから武装して離陸するわよ」

 そう言ってエルザはクラウディアの手首を握り、前を歩く二人を追って第二小隊の持ち場へと歩き出した。

 

 

 三人に導かれ、クラウディアはあるストライカーユニットの前に立った。整備ピットに固定されたそれは他のユニットと同様に上下が漆黒と夜間迷彩で塗り分けられており、『12』の機番と高笑いする髑髏のエンブレムが描かれていた。これまでに見た事の無い程の巨体は昨夜クラウディアが見たユニットに間違いなく、その威容はその巨体を初めて間近で見る彼女を圧倒した。

『これがアナタの乗る機体。He 219。新型だから壊すと高いよ』

「これが、ですか。すごく、大きいですね……」

 クラウディアがそう言うと、整備ピットの陰から油で汚れたツナギに身を包んだむくつけき大男が現れた。しかしクラウディアはユニットに夢中になっており、男の出現に未だ気付いていない。

「お、ようやく来たか。ツェツェリアのお嬢ちゃん、こいつが新入りかい?」

「うわぁ!」

『そう。手が掛かるだろうけどよろしくね、おっちゃん。』

 驚くクラウディアを横目に見ながら、ツェツェリアは懐からメモを出してさっとペンを走らせると、笑顔を浮かべながら男にメモを差し出した。

「はいはい、分かったぜ。……おい、お嬢ちゃん!」

「へ?……あっはい!何でしょう!?」

「初日から寝ぼけてんなよ。まぁいい、俺はマチェイ・ワイダ伍長だ。大体の奴は『おっちゃん』って呼ぶがな。今日からお前さんの機付長を務める事になっている。宜しくな!」

 ツナギで手を拭きながらワイダ伍長は豪快に笑い、所々油で黒ずんでいる毛むくじゃらの手を差し出した。

「はい!クラウディア・ヴェルター軍曹です!私の事はクラウディアって呼んで下さい!宜しくお願いします!!」

 油汚れに気付いていないクラウディアは笑顔でワイダ伍長の太い手を握り返した。

「おお、元気な挨拶だな。やっぱり女の子は元気が一番だぜ!」

「はい!元気いっぱいです!」

「そうかそうか。じゃあその元気で初飛行もサッサと済ませちまおうな!」

「はい!」

 笑いながらワイダ伍長は整備ピットからクラウディアの目の前にユニットを引きだした。

「ほら、これがお嬢ちゃんの機体だ。お前さん、まだJu88しか乗った事が無いんだっけか?コイツはパワーが桁違いだから振り回されないように気張っとけよ!何てったって排気タービン付で離床出力3200馬力だからな!」

 整備ピットの上に上るクラウディアの横でワイダ伍長はユニットを叩きながら、歯を見せて快活に笑った。

「まぁ何にせよ履いてみない事には始まらんさ。そうだろう?おっちゃん」

そう言いながらレナータは他の機付整備兵達に囲まれて、義脚を外して自身のユニットの接合部に腿の付け根を装着した。他の三人も続いてユニットを履いた直後、格納庫の一角は四つの魔方陣の蒼い光で明るく照らされた。

 

その日は春らしい陽気に包まれた暖かい日だった。群青の大空と濃い緑の森に燦々と柔らかい陽光が降り注ぎ、朝露が消え去った滑走路の上を心地よいそよ風が吹き抜ける。

「おい、ありゃあ模擬戦か?」

「ああ、第二小隊らしいぜ。新人が入ったからな」

「へぇ……来たばっかで模擬戦なんてツイてない奴だな」

「ここの模擬戦はキチガイじみてやがるからな。教育課程が終わったばかりで骨なんざ折らなきゃいいけどな……」

鳥の囀りが響く滑走路。地面の上で作業員たちが課業を進める一方で、雲一つない大空を四つの飛行機雲が切り裂いていく。

 




続きます。
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