第1話は大体プロローグ、ガンプラバトルはありません。次の2話からメインです。
キャラクター紹介
遠野紅衣···主人公。とある目的を達する為に東京へ来た。詳細は不明。
椿ヒロ···もう1人の主人公。過去に兄を失っており、その影響で今もガンプラバトルを敬遠している。
椿アキ···ヒロの実の姉。ツバキ模型店を経営しながら大学に通っている。
椿トオル···ヒロ、アキの実の兄。五年前に行方不明になっている。
チンピラ共···世紀末野郎共。
ラルさん···現時点でのヒロ達との関係は不明。
LOAD:1もう一度そこへ
ガンプラ
機動戦士ガンダムのプラモデルの総称であるが、その種類は様々である。
HGと呼ばれる最も一般的なシリーズ、MGと呼ばれるキットの作り込みを細かくしたシリーズ、他にもRGやPGなどといった様々なシリーズが展開されている。だが、あくまでシリーズの規模が大きいというだけで特に何かあるわけでもない。
いや、以前はそうだった。しかし今から約20年前、出所不明の未知の粒子物質が発見された。その粒子は一体何が含まれておりそもそもどこから流出しているものか当時は不明であったが、その粒子が持つ特殊能力が発見から程なくして多くの人々の元に知れ渡る事となった。
その粒子は一定範囲内にあるプラスチックに反応して流体化する特性を有しており、これを利用して動力のないプラモデルなどを現実さながらに動かすことができる事が発覚した。これはもちろんガンプラにも反映される。これが後にガンプラバトルシステムと呼ばれる物の始まりだった。
これはそんなガンプラを頼りに自分という存在を探している者に誇示しようと進む少女とガンプラを愛していながらも、そのガンプラで絶望の淵まで落ちた少年、二人の少年少女が互いを支えあいながらあるべき場所へと進み続ける物語。
お台場 元ガンダムフロント東京
初夏、セミが鳴き始めた頃、一人の少女はそこにたどり着いた。
「...暑い...ここはどこだ...?」
そういうと少女は黒く長いポニーテールを振りほどきボソボソと独り言をつぶやく。
「東京...噂には聞いていたが広いな...ラルの言っていたツバキ模型店とは、一体どこにあるんだ...」
そういうと彼女はおぼつかない足取りでまた進み出した。
ツバキ模型店、東京都周辺の近郊にひっそりと佇む小さな模型店である。プラフスキー粒子が見つかって以降、需要が上がりかなり多くの模型屋が増えたが、この模型店は昔からあるかなりの古株...なのだが中々売上があがらない。
立地的な問題などもあるのだろうが...
「あぁっ!もうあっつい!!!」
限界に達したのか、レジでぐったりと横になっていた女性は叫びながら飛び起きた。
「そろそろ店番代わってよー!ヒロくんんんん」
その呼び声が店内に反響してから十数秒程置いて、店の奥からボソボソと声が聞こえてくる。
「もうちょっと...」
「さっきも言ってましたーもう我慢できないよぉ」
「アキ姉、昨日はずっと僕が僕が店番やってたんだから...」
「仕方ないでしょおお?だって大学の講義があったんだもん」
「午前中だけでしょ。その後友達と遊んできたって」
「はいはーいそうですよーだ!ならヒロくんも友達作って遊びに行けばいいのに」
「......いいよ。別に」
「またそれだー」
会話を続けていると店の奥の扉から、透き通った白髪、憂いを帯びた碧眼の、どこか変わった雰囲気を醸し出す少年が出てきた。少年の名は椿ヒロ。だがその表情は決して良いと言える様子ではなかった。
「どこか行くの?」
「少し、散歩に。すぐ戻るよ」
ヒロが何か考え事をしているようにも見えたが、アキは何も言わなかった。
「そう...いってらっしゃい。気を付けてね。…あっ!逃げられた!」
足早に店を出たヒロはしばらく走った後とたんに足を止め、大きなドームの前で動きを止めた。国立聖鳳ドーム。ここでは、1か月後にガンプラバトル選手権の地区予選が行われる。地区予選、ガンプラバトル大会の地区代表者を決める予選。ここは学生大会とは違う、いわゆる一般部門の参加者が参加する。毎年約150人程度のファイターが自分のガンプラを持ち込みバトルする。
「今年も...無理かな、僕の腕じゃ多分予選すら通れないだろうし」
主にガンプラファイターは自分でガンプラを作り、戦うが、中にはバトルに不慣れな者もいる。
そしてその大体が自分の代わりに戦ってくれるファイターを見つけ、タッグを組み、ビルダーとファイターとして大会に出場する。
「それはおろか、チームを組む仲間も見つかってないのに…」
そう、そして現在採用されている公式ルールでは3対3のチーム戦を主としている。1人での参戦も可能であるが、相当腕に自信のあるファイターしか参戦しない。その為、必然的に数の不利になることは誰もしようとはしない。
ーーそれに、僕なんかがガンプラバトルをすることはできない。タッグを組む相手もいなく、チームの仲間すらいないのに参加なんてできる訳ない。
「...僕はあの人のようにはなれない」
しばらくドームを眺めた後、来た道をとぼとぼと帰路についた。
「…すまないがそこの方、少しいいか?」
「え?」
だが、帰ろうとした矢先ふと声がかかり、足を止める。女性、というよりもっと若い女の子の声だった。その姿を見るため、後ろをふりかえる。そして、その目線は、言葉が出なくなってしまう程に釘付けにされた。
「...」
「あの」
「...」
「あっ、あの!」
「えっ?あっすみません」
耳元で呼びかけられ、先ほどから話しかけられていたことに気づき、我に帰る。
「え、えと僕に何か用ででででっすか?!」
焦ってしまった為、日本語が中半適当な状態で聞き返す。
「あぁ、すまない。とある店を探しているんだが」
少し吊り目ぎみの黒い瞳、腰まで余裕に届くぐらいの黒髪のロング。自分と同じか、それ以上の身長。その身体の細さには割に合わない程豊かに実った胸と、細い腕にはめられた腕輪。可憐な容姿で、一際周囲からの視線を集める彼女に、心なしか自分も気を引かれる。
「えっ、あっ、お、お店ですか。あの、その店の名前とかは?」
ーーこんな広い場所で店を探しているといわれてもわからないぞ...
「あぁすまないまだ言っていなかったな、忘れていた。ツバキ模型店というんだが...知らないか?」
「はぁ、ツバキ模型店ですか...」
助けたいのは山々だが、何せこの広い東京で一つの店を自力で探すのはかなり難しい。携帯でもないかぎり、案内はできないだろう。
「流石に無理、か?」
「うーん...うーん......んー???、もう一度店の名前教えてもらって良いですか?」
「ツバキ模型店だ」
または、自分の店でもないかぎり...だが。
「そこ、自分の店です。」
「おおっ!そうか!これは凄い奇遇だな!」
最近で、一番のラッキーイベントだったかもしれない。軽く口元が緩む。
「...どうかしたのだろうか?」
「あ、すいません。すぐにご案内します」
ヒロは黒髪の彼女を連れ、店へと向かった。
「あなたの店ということは、貴方がアキか?」
「あぁいえ、アキは自分の姉です。僕は弟のヒロといいます」
自分の立場を明確に教え、会話を続けながら二人は店に向かって歩いていた。
「あの、もしよければあなたの名前をお聞きしても...良いですか?」
別にそこまで畏まることではないのだろうが、滅多にない姉以外の異性との会話のため、恐る恐る聞いてしまう。
「おぉ、すまない自己紹介が遅れた。私は紅衣だ、遠野紅衣。」
「くれい...さんですか」
紅衣と名乗る彼女は暑い太陽の光を背にヒロに笑顔を見せた。アキ以外の異性と話すのが久々なせいなのか心なしかぎこちなくなるが何とか冷静を保つ。
「く、紅衣さんは今日何の用でいらしたのですか?」
「あぁ、それは...」
重要な話が始まろうとした瞬間、聞こえてきた声に遮られる。
「ちょっと!あんたたちいい加減うちに来んの止めなさい!」
「なっ、なんだ!?」
気付くとすでに店の前まできていた。
それと同時に中からアキの怒鳴り声が聞こえてきた。そして、そこにはアキの他に三人の大柄の男が居座っていた。
「ああん?うるせぇな、テメェには関係ねぇだろ」
「関係ないって、ここはうちの店!あんたたちの溜まり場じゃない!」
「またあいつらか...」
「ヒロ、彼らは?」
「ここら辺で評判の悪いチンピラですよ...たまにうちに来て溜まるんです」
このご時世にヤンキーなどまだいるのか、という気持ちになるが、居るのが事実で頭を抱え込みたくなる。
「...そうか」
「紅衣さん...?」
紅衣の声色が急に暗くなる。
「良いからさっさと帰って!いい加減にしないと警察を呼ぶわよ!」
「良いじゃねぇかよ、どうせ客なんか来やしねぇんだからよ」
「なっ...」
あまりにも自分勝手な物言いに流石のアキも動揺を隠しきれなくなる。
「はっはっ、流石センパイ!言いますねぇ!」
「むしろ俺らが店の雰囲気を盛り上げてやってるんだから感謝しろよなぁ!」
「「「はっはっはっはっはっ!」」」
「あ、あんたら...いい加減にっ!」
「落ち着いてアキ姉」
流石に聞き耐えるのに限界がきたようで、ヒロがアキのフォローにまわる。
「ヒロくん...帰ってきてたのね」
「どうやら彼らは言葉が分からないらしい...」
「お、弟くんじゃねぇかぁよく帰ってきたなぁ」
分かりやすい煽り台詞を言ってみたが、流石にこれじゃどうこうできる訳じゃないらしい。
「そうだ、アキ姉。今紅衣さんっていう人が来てて...あれ?紅衣さん?」
気付くとさっきまで隣にいた紅衣がいなくなっていた。
「おい貴様。どうして貴様達ははここにいる?」
「あぁ?誰だテメェ」
今度は何事かと思うと、そこにはチンピラ共の前に立つ紅衣がいる。
「こちらの質問に答えろ。何故、ここに、いる。」
その口調からは、微かに怒りが感じ取れた。
「なんだこの女!なめた口ききやがって!」
次の瞬間、男の1人が紅衣に殴りかかろうとする。
「危ない!」
咄嗟に紅衣に向かって手を伸ばす。本能的に体が動いた。だが事態はこちらの予想とは大きく外れた。
つい今、紅衣に手をあげようとした男が腹を抱えて倒れこんでいた。
「いっ、痛ぇぇぇ!!!」
「な、何しやがったてめぇ!」
そしてもう1人の男も殴りかかろうとしてくる、だが紅衣はその男の拳よりも速く男の顔側面に蹴りを見舞いする。男の体が宙に舞った。
「あ、あがががが」
「なっ...」
目を疑う。その場にいた全員が唖然する。
そして、彼女の腕輪から出ていた赤い閃光が尾を引く。ほんの微かに光っただけだったので、それに気づいたのはヒロだけだった。
「な、なにしやがるてめぇ!」
「なんなら貴様も相手してやろうか?」
「ちょちょちょ、ちょっと!店の中で暴れたれら困るわ!」
「あ、すまない」
「糞がっ、覚えてろ!」
事の展開が速すぎて、未だに状況が把握しきれない。
だが連中は立ち去ったようだ。
「...え、えーともしかして貴女が紅衣ちゃん?」
「ああ」
「やっぱりそうだったのね!良かったわ無事会えて!」
「あぁこちらも無事会えて良かった。アキ」
「えっ?えっ、えっ?」
やはりまだ状況の整理がつかない。
チンピラ共に絡まれるわ、ちょっとした暴力沙汰になったり、アキは今初めて紅衣さんに会ったばかりのはずだ。
「あーそういえばヒロくんには言うの忘れてたね」
「ちゃんと言ってよ!」
「あはは、ごめん」
チンピラが立ち去ったおかげかアキは落ち着きを取り戻していた。普段はとても落ち着いているのだが、店の経営事に関わるとなるとかなり敏感になる。
「でもすごいわ紅衣ちゃん!まさかあいつらを追い払っちゃうなんて!」
「気にしなくていい。私がやりたかったからやっただけだ。」
根っからの武闘派ですかそうですか。思わず口にしそうになり思わず口を塞ぐ。
「あ、そう?でもありがとう。助かったわ」
「そ、それで話の本題に入りたいんですけど」
「あぁ、そうだな。では改めて」
「お、おう」
「今日からここで世話になる。アキ、ヒロ」
「あ、よろしく...ってええええええええ!?」
「糞が!何なんだあいつは...」
先程紅衣にひどい仕打ち、というより自業自得なのだがボコボコにされたチンピラ達は店から離れた路地裏にいた。
「くっ、くそあのやろう...必ずぶっ飛ばしてやr...いてぇ...」
腹パンを受けた奴はは未だに悶えており、吹っ飛ばされたもう1人は気絶している、恐らく相当な威力があったに違いない。
「センパイ!やり返しにいきましょう!すぐにでも!」
「...いや、今行っても勝てる相手じゃない...それは俺でも分かる」
たかが一人の少女に勝てなかった。という事実だけは確かであった。
「じゃあどうするってんですか!」
「「「...」」」
「おたくら、何やらお困りみたいやなぁ?」
途方に暮れていた三人にどこからともなく声がかかる。
「誰だ!?どこにいやがる!?」
「ここやでー」
声の持ち主は唐突に現れた。頭の上にずっしりと何かが乗ってくるのが分かった。
「よっ!」
「てめぇ!どこに乗ってやが...」
そこに現れたのは青い長髪の少女。見た感じでは高校生ぐらいだろうか、身長もかなり高い。
「で、お困りの様子みないやけど、どないしたん?」
「なんだテメェは!」
血の気の多いチンピラの一人が恫喝する。リーダー想いなのだろうが、それをもっと他の事に役立てればいいのだが。
「落ち着けお前ら!...で、何のようだ。お前は。」
やっと話の本筋に入れると思ったのか、その関西弁の少女は不適な笑みを浮かべる。
「いやーウチはただ困ってる人がいたから、その人を助けたあげよーかな思って~...おにーさん達、もしかしてあの模型店のとこの子と揉め事を起こしたんちゃう?」
「どうしてお前がそれを知ってるんだ?」
「いやー結構有名なんやよあそこの店。だからちょっとそこでおにーさん達の噂をちょいとね?」
「...だったらなんだってんだ」
「...ウチが手助けしてやるで」
ーー話だけ聞くととてつもなく胡散臭いが、それ以上に興味をそそられる案件じゃねぇか…
「...おもしれぇじやねぇか。お前、名前は?」
「ウチ?ウチか。ウチは関西一のガンプラビルダー...ガンプラ心形流次期候補者や」
「ラルさんが?」
「そうそう。ラルさんがとある知り合いの女の子が東京に上京する上で家に困っているっていうからね」
「普段ラルさんにはお世話になってるし、その子にもあってみたいなーって思ってね」
ーーまたラルさん絡みか、あの人本当人脈広いな...
「うむ、ラルに私を泊めてくれるという相手を見つけたと言われてな」
「はぁ...」
「それにここは学校に通うのに差し支えない場所に位置しているしな」
「え、紅衣さんまだそんな年なんですか?」
「そうだ。もう17になった…はずだ」
「そ、そうだったんですね」
ーー随分と大人びた人だからてっきり成人ぐらいはしてるのかと思ったけど…
「…私が17にみえないのか…?」
そういわれた瞬間、紅衣の方を見ると彼女は少し頬を膨らませていた。
「えっ!?、あ、そ、そーゆーことじゃなくてっ!」
「うわぁー女の子にそんなこと言うなんてヒロくんサイテー」
「あ、アキ姉!」
「ごめんねー紅衣ちゃん、ヒロくん女の子とあんまり喋ったことがないから...」
「あうぅ...」
「あーあ紅衣ちゃん可哀想ー」
「も、もういい!許すから頭を上げてくれ!」
「す、すいません」
流石に言い過ぎたと思ったのか紅衣はこれ以上の追撃はしなかった。
「ま、まぁそれにこの店にあるものに興味がある」
「模型ですか?」
「模型、というかガンプラとやらが気になっていてな」
「ガンプラですか!?」
紅衣がそう言った瞬間、ヒロは突然椅子から立ち上がった。
「あ、あぁそうだが」
「なんだったらここにあるガンプラ、紹介しましょうか?」
そう言いながらたじろぐ紅衣の両手をがっしりと掴んだ。
「そ、そうか、ありがたい…そ、それはそうとまず少し落ち着いてくれないか?」
紅衣は鼻息を荒くしているヒロになだめるよう言う
…まるで闘牛の様に荒々しい鼻息である
「いえ!そうと決まったらすぐに行きましょう!」
「え、あっちょヒロ!」
慌てる紅衣に目もくれず、その手を引き店の展示ペースへ走っていく。
「あーあ行っちゃった...」
1人リビングに残されたアキは寂しげにつぶやく。
きっとずっと自分しか話してやる相手が居なかったヒロが、紅衣に興味を示した事が嬉しくも寂しいという気持ちもあるのだろう。
「ヒロくんとっても楽しそう。まるであの時みたいに...でも紅衣ちゃん、今日はずっと歩きっぱなしだったって言ってたし、疲れてないかなぁ」
店の中にある大きな展示スペース。そのガラス越しには多数の模型、そしてガンプラが飾られている。
「しかし、沢山いるな...ガンダムと名の付く物でもかなりある...」
「えぇ、なにせ何十年も続いてる作品ですからその種類も多種多様です」
ショーケースの前で屈んで中の機体をみる紅衣にガンダムというシリーズの歴史について語ると、ますます興味を持ったように黒い瞳を輝かせた。
「これがザクか、こいつは私も知っている…しかしこのぐふという奴とこのザクは一体何処が違うんだ?色が違うのは分かるが」
「良い質問ですね、分かりやすく説明すると、そのザク2とグフはそもそもの運用思想が違うんです。元々ザクは空間戦闘に特化、並びに重力化でのある程度の運用も考えられた機体です。それに対してこのグフは試作機から様々な調整を加え、重力化での運用を目的として格闘戦に特化した機体になってるんです。」
「は、はぁ」
「更に説明しますとねっ!」
「あ、いやそこまでで良い、十分分かった」
「そうですか?」
目をキラキラさせながら説明するヒロを見て長くなると察したのか解説を途中で止めさせる。
「しかしあれだな。これだけ数があっても今はガンプラバトルというものがあるからもて余すことも無いんだろう?便利な時代だ」
「そうですね...自分のガンプラを使って戦うのは昔から皆の夢でしたから」
「そうだろうな...自分の力作を自分の手で試せる。それは胸が熱くなるものだ…ヒロも、自分で作った機体を使って戦うのだろう?」
「えっ、あ、いや…なんていうかその」
「ヒロ?」
先程までの勢いがまるで嘘みたいに突然黙りこんだヒロに、紅衣は少し違和感を覚える。
「…僕はガンプラバトルはしません…いえ、できないんです」
「どういう…事だ?」
突然謎の告白をしたヒロに紅衣は質問を投げかける。
「僕には昔、一緒に遊んでた兄がいました」
「アキ以外にも兄弟がいたのか」
「えぇまぁ。僕達はずっと前に事故で両親を無くしているんです…だから僕はしょっちゅう兄とアキ姉に遊んでもらってました。家が元々模型店だったという事もあるんですが物心ついたときから、兄とはガンプラで遊んでたんですよ」
苦笑混じりの会話は他所から見てもとても楽しそうと思えるものではなかった。
「兄はいつもやんちゃな人でした。でもとっても優しくて、まだ幼かった僕にガンダムというアニメ、それこそ違うものも見せてくれたり、教えてくれたりしました。その頃からです。僕がガンプラ、言っちゃえばガンダムを好きになったのは」
淡々とただ黙々と話を続けるヒロの隣で紅衣はただ静かに聞いていた。
「兄は近所でも有名になるくらいガンプラバトルが上手くて、一方の僕は全くと言って良いほど下手だったんですよ、当時の僕はもうそれはそれは落ち込んじゃって。そんな僕を見て兄は、ならバトルは俺に任せてお前は俺のガンプラを作れと言いましたその時からプラモ製作は、いや、自分で言うのもなんですけど、僕の方が秀でてたので僕は喜んで引き受けました。そして約束したんです、いつか二人で世界大会を目指そうと」
「世界大会…」
「僕が作って、兄が戦う、最初は破竹の快進撃でした。そしてそれから1年後の地区予選で僕は兄とタッグを組み、出場しました。参加してからというものの、兄は僕のガンプラを使い、対戦相手を次々と倒していきました」
「当時の新聞で期待のルーキー参上、とまで書かれる位に。僕も天才ビルダーとまで言われるようになって...少しずつ夢に近づいていたんです。…でもそれは、予選決勝戦の前日に全て消えました」
「...消えた...?」
紅衣は途中で少し黙ったヒロに視線を落として気にかける。
「兄が、姿を消したんです」
「何かあったのか?」
「あれ、あんまり驚かれないんですね」
「まぁ、そういうのは慣れっこだ…そこはもう気にするな、続けてくれ」
「...?はい。そして行方不明になった兄は今も帰ってきません。今はどこで何をしているのか...そもそも生きているのかすら分かりません。…行方不明になる前日、兄にこう言われました。次の決勝戦、お前が作った新しい機体で絶対に勝ってやる、だからメンテは欠かすなよ、と。兄がいなくなってからこの言葉を思い出すと、今でも思うんです。僕が作ったガンプラを使ったから兄の身に何か起こったんだと」
「なぜそんなことを思う?」
「はは、端から見たらなにいってるか分かりませんよね...でも、それが偶然かどうか分かりませんが、兄が僕のガンプラを使い始めたころから兄の身に様々な災難が降りかかったんです。最初はちょっとした異変だったんです。でも、兄が少し体調を崩しやすくなって。」
紅衣はどこか、既視感を抱いていた。
「でも段々とその異変は大きくなっていきました。兄はその後も体調を崩したり、戦闘中に目眩、突然体が動かなくなったり、挙げ句のはてには一度倒れて病院に搬送されたりしました。その事実が明るみに出た後、僕が作ったガンプラは悪魔だとか呪われてるとか、操縦者は不幸な目に合う。なんて情報があちこちで流れたんですよ」
既に事の経緯を全て察した紅衣は何も言わず、最後まで黙って聞いている。
「決勝は...その日に棄権しました...僕はまたあの舞台に立つことが怖くなったんです...それはおろか誰かが自分の作ったガンプラを使ってバトルすることも...遂にはガンプラを作ることさえ躊躇うようになりました。もしまた僕のせいで、誰かの身になにか起こったらどうしようと」
「でも止められなかった」
「止めたくなかったんです。兄の、トオル兄との、大切な思い出だから。」
築くとヒロは歯を強く食いしばっていた。頬から何か落ちたのに気づくとそれを手で優しく拭い、紅衣はゆっくりと口を開いた。
「なら続ければ良い。止める必要はない」
「っ!…」
「私はまだあまりヒロの事を知らない、だからあまり勝手な物言いはできんが、それだけだ。私はもう疲れたので寝る。」
「紅衣さん...」
「それと、もう敬語で妙にかしこまって話すのはもう止めてくれ」
目を大きく見開き、疑問の声が浮かぶ。
「それじゃ、また明日会おう」
そういうと紅衣は部屋の方に戻っていった。
どうでしょうか?1話は戦闘描写がありませんでしたが内容は理解頂けたでしょうか?
前まで書いてたのを途中で投げ出し新シリーズをだしてしまいましたが。
肝心のガンプラ要素があまりありませんでしたが、次回からは内容をきちんとガンダムビルドファイターズもりもりにするかもしれないので是非お待ち下さい。