調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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ちょっとした説明回になっちゃいました。


Edge works with A③

「俺の名はメルクリア、しがない錬金術師だよ。よろしくね」

 

その一言で指令室中が凍り付いた。ある者は驚きを隠せず、ある者はその突拍子のない発言に首を傾げる。

 

素性を知る弦十郎と小川以外その真意を知る者はおらずそれを確かめる術もない。ただ沈黙がその場を支配する。

 

そんな中一番に声を上げたのはまたしても響だった。

 

「え、その外見で外国人なんですか?」

 

「ちげえだろバカ!驚くのは錬金術師の方だろうが!」

 

そしてすかさず白髪ちゃんのキレのあるツッコミが炸裂した。

 

ありがとう白髪ちゃん、そうだよね、普通はそっちだよね。俺も急なボケに思わず思考停止に陥って焦ったよ。

 

だが彼女の疑問も最もだ。俺の外見は黒髪黒目の典型的な日本人の外見をしている。それに目つきを悪くして調達と色違いの黒縁眼鏡をかければあっという間に完成だ。

 

「メルクリアってのは仕事用の名前だよ。だから本名は別にあるし生まれもちゃんと日本だよ」

 

「そうだったんですか。じゃあ本当の名前はなんて言うんですか?」

 

「それは無理かな、本名がばれると色々めんどくさい事になるから言えないんだ。ゴメンね。仕事関係以外だったら答えられるんだけどね」

 

仕事柄表沙汰にできないような依頼も決して少なくない。潜入、破壊工作、上げ始めたらキリがない。またそのために法を犯すことも頻繁にある。そしてそのような依頼程報酬が弾むのだ。だから顔ばれや身元がばれるのは不味いのだ。

 

「じゃあさっきの蛇や地面から生えた針ってどうやったんですか?」

 

「あれは錬金術だよ。物質を分解したり再構築したりする異端技術の一種だよ。本とかでよく見かけるあれとほとんど同じかな」

 

そう言って先ほどと同じように袖口から白銀の蛇を三匹出すと奏者達の目の前でお辞儀をさせた。

 

「なんだかかわいいですね。触ってもいいですか?」

 

「いいよ。あとそっちの青髪ちゃんと白髪ちゃんもそんな警戒しなくても大丈夫だから。襲ったりしないから。それとも蛇苦手?」

 

「まあ…人並みには…」

 

「でも翼さん、この蛇冷たくて柔らかいですよ!ほらクリスちゃんも!」

 

「やめろバカ!得体の知れない奴が出したもんだぞ!なんかあったらどうすんだよ!?」

 

「本当だ…冷たくて柔らかい。これは一体何なのですか?」

 

「あんたもかよ!?少しは警戒しろよ!?」

 

「水銀だよ。水銀に魔力を通して操ってるんだ。だからこうすればっと」

 

蛇達に魔力を送り指示を出すと三匹は絡まり合い一匹の巨大な蛇となりとぐろを巻いた。そして蛇は天井に向かってとぐろを巻きながら細く長くなっていき終いには学園で生やした針と比べ三倍ほど大きい杭のような形になり床に突き刺さった。

 

次に杭を引き抜き袖口に仕舞い込んで床に手をついて穴を錬金術で塞いでみせた。

 

「これがさっき見せたものの正体だよ」

 

「おおー!なんだかマジックみたいですね」

 

確かに宴会なんかでやったら大盛り上がりだろう。本当にタネも仕掛けも無いんだからな。

 

さて、これで茶髪ちゃんとは何とかなりそうだな。後の問題は青髪ちゃんこと風鳴翼と白髪ちゃんことクリスちゃんだな。特にクリスちゃんは要注意だな。さっきから近寄ろうともしないんだから。

 

弦十郎?あいつは無理だよ。だって仕事だもん、流石にどうしようもないわ。小川は…仕事だからって割り切ってるからいいかな?あいつ忍者だしそういう話で盛り上がったことあるし。

 

「あとこんなこともできるよ。青髪ちゃん、ちょっとゴメンね」

 

「何をっ…痛みが引いた?」

 

風鳴ちゃんの肩に手を置き魔力を流し込む。いきなり触ったからすぐに振り払われてしまったがちゃんと治ったみたいで何よりだ。

 

「治癒能力、錬金術にはこういう使い方もあるんだよね。風鳴ちゃんは左足を怪我していたからね。あとそっちの白髪ちゃんも怪我してるでしょ?治してあげるからおいで」

 

手招きして呼ぶと渋々という顔をしながらもこちらに手を差し出してきた。肩は触らせてくれないものの手ならいいということだろうか。

 

「君は…脇腹かな?鈍器みたいなもので強く打たれたのか。」

 

「そんなことまで錬金術師ってのは分かんのかよ。とんだびっくり人間だな」

 

「そうでもないよ、これは錬金術の中でも解析術ってのを使って調べただけだよ」

 

勿論錬金術の行使には対象をある程度理解してないと厳しいところがある。錬成物の性質、構成要素、原子配列、形状そういった知識がないと上手く術が発動しない。そして人によって得意分野も異なる。解析術はその穴を埋めるための術だがこういう使い方もあるのだ。

 

「これで良しっと、ついでに茶髪ちゃんも診ておこうか。手貸して」

 

「あ、はい。お願いします。あと私立花響です」

 

「そう、じゃあ立花ちゃんは…大丈夫、いたって健康体だね。ただ筋肉が少し炎症起こしてるからしばらくは無茶な動きは止した方がいいよ」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「他に見てほしい人は…いなさそうだな。んじゃ帰るわ。弦十郎、道案内よろしく」

 

「あの、メルクリアさん、お尋ねしてもいいでしょうか?」

 

そろそろいい時間だしな、と出口に向かうも風鳴ちゃんが道を塞ぐように立ちはだかった。

 

「どうしたんだい?青髪ちゃん。何か聞きたいことでもあるのかい?」

 

「風鳴翼です。なぜあなたはそれほどの力がありながら彼女達に手を貸すのですか?」

 

おっと、ここでそれを聞いてくるか。錬金術で誤魔化せたかと思ったんだけどな、しかしなぜと聞かれてもな…

 

「そういう依頼だからとしか答えられないな」

 

「依頼ならば…頼まれればあなたはなんでもするというのか!それが人殺しであったとしてもか!?」

 

「ん~まあそういう依頼なら仕方ないわな」

 

彼女が言っているのはコンサート会場のノイズ襲撃の事だろうか?あの時は確か被害が出なかったと聞いたがそれ以外に何かあったのだろうか。

 

それにしても彼女も風鳴だな。何かを守るため、そのために己の信念にまっすぐなところが弦十郎によく似ている。これならあの狸親父みたいにならないだろう。

 

「それに彼女たちのやることは必要なことであると俺は判断した。だから俺は協力している。例えそれがどんな手を使うことになったとしてもだ」

 

「あの、メルクリアさん。話し合うことはできないんですか?」

 

「無理だな。まず話し合いでどうにかなる段階ではなくなっている。そもそも彼女たちは君たちと話し合う気は無いよ」

 

先ほどまでの表情が一転し悲しそうな顔の立花ちゃんには悪いが無理なものは無理だ。現在彼女たちが置かれている状況は想像以上に悪い。

 

アメリカだけでなく世界中から追われ敵には正規のシンフォギア奏者が三人。それに対し自分たちは時間制限付きの奏者三人に科学者一人。

 

どこかの組織に協力を求めても受け入れてもらえる確証はない。仮に受け入れてもらえてもいつ裏切られるか分からない。さらにその組織がアメリカに通じているかもしれない。シンフォギアなどという日本政府直轄の組織などなおさらだ。

 

なによりアメリカという大国に敵対する以上弱みを見せるわけにはいかない。だからこそ宣戦布告などという危険な方法をとってでも自分たちを驚異的に見せなければならなかったのだ。

 

「でも手を伸ばしつつければ、話し合えばいつかは分かり合えるって…了子さんが…」

 

「立花ちゃん、人と人が分かり合うのってそんなに大切な事かい?」

 

「え?」

 

「別にそこまでして分かり合う必要なんて無いだろう。生まれも育ちも性別も宗教も人種も何もかもが違うんだ、世界中の人間全員が分かり合う必要なんて無いんじゃないかい?」

 

立花ちゃんがどの様な人生を送ってきたのかは知らない。その生き方に、感じ方に共感することはあれ自分も彼女と同じように生きようなどと思う日は永遠に来ないだろう。俺には俺の生きてきた生がある。その中で感じ、思い、積み上げてきたものを一瞬にして作り替えることなど不可能だ。

 

だからきっと立花ちゃんと調達はこの問題に関しては絶対に分かり合えない。調には調の人生がある。その歩みの結果今の調の、調達の決断があるのだから。

 

「それにさ、君たちと彼女たちとでは置かれている立場も状況も違うんだよね」

 

立花ちゃんたちのように国からのバックアップがあればできることも多いが調達にはそれがない。それ以前に国から追われている。この時点でもうどうしようもない段階まで来てしまっていたのだ。

 

「正義では、正論では守れないものを守るために俺は彼女たちに協力する。それが悪と言われようと、卑劣と言われようとだ」

 

彼女たちが正義で人々を守ると言うならば、調達は悪を成してでも人たちを守る。だからこそ俺は調達の力になろうと決めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったな弦十郎、色々迷惑かけたわ」

 

「全くだ。お前が絡むと大体めんどくさい事になる」

 

あの後、指令室の空気が来た時よりも悪くなったため俺は早々に潜水艦を後にした。当初の予定ではそこそこ仲良くなって円満な別れ方をする予定だったんだが…どうしてこうなった?

 

「お前にしてはやけに感情的になってたな、そんなに今回の依頼は入れ込むような内容なのか?」

 

「う~んどうだろうな。なんとも言えんが…最悪お前の組織にも動いてもらうことになるかもしれん」

 

「そうか…そういうレベルか…」

 

入れ込むほどの内容か、と問われれば確かに入れ込まなければ人類滅亡一直線だがどちらかと言えば依頼相手の少女に入れ込んでると言った方が正しい気がするが今は言わなくてもいいだろう。

 

「そういえば…」

 

空を見上げれば太陽が沈み少し前まで無かった環を着た月が輝いているのを見ながら話を進める。

 

「宣戦布告した歌姫マリアってアメリカ出身だったよな」

 

「ああ、そうだな」

 

「アメリカ軍がNASAと協力して必死で追ってるってさ」

 

「そうか…」

 

「NASAって月の観測もしないといけないのに大変だな」

 

「そうだな」

 

「アメリカの聖遺物関係の研究所はどうしたんだろうな、シンフォギア奪われてるのに全く動きが無いな」

 

「そうだな、どうしたんだろうな」

 

「それにしても月がよく見えるな、最近は特によく見える。まるで近づいてきてるみたいだよ。なあ?」

 

「そうだな」

 

そこから先の会話はなかった。ただ波が来ては返す音だけが響き渡り二人して月を眺める。なんともむさくるしい光景だが不思議と不快感はない。俺はそんな弦十郎とのそんな関係は好ましく感じられた。

 

「メルクリア、お前もしかして…」

 

「おっと、独り言が過ぎたな。気にしないでくれ」

 

今日はもう帰るかな、なんかあったらまた来るわ。弦十郎に背を向けさっさと帰ろうと足を動かした矢先、重要な事を言い忘れていたことを思い出した。

 

「弦十郎、あの立花ちゃんって子な…一度精密検査受けさした方がいいぞ」

 

「何、どういうことだ?」

 

「詳しくはなんとも言えんが…最悪死ぬかもしれん。少なくともこのままいくと人間でなくなる可能性があるぞ、気をつけろよ」

 

できれば気のせいであって欲しいがな。そう言い残して俺は港を後にした。




今回も読んでいただきありがとうございました。

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