調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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誤字報告、感想ありがとうございます。少しですが体調も戻ってきました。
そんな訳で予定よりも少し早い投稿です。


力が欲しい

転移光が収まり俺の目に入ってきたのは見慣れた街並みだった。

 

「ここは…うちの近所か」

 

なるべく調達の側に転移しようとして自宅近くに出たようだ。

 

とりあえず無事に帰れたことに一安心する。だがすぐに違和感を感じた。

 

太陽の位置が低いのだ。まるでつい先ほど昇ってきたばかりのような高さだ。電線には鳥が何羽も止まっており囀りが聞こえる。そして町の方から上がる黒い煙。

 

嫌な予感がする。と、その時ポケットに入れていたスマホが震える。今まで異空間にいたせいで電波を受信できていなかったからなのか画面には一気に夥しい量の着信履歴が表示される。

 

画面をスクロールするとそのほとんどが弦十郎と二課からだった。これでキャロルから何かしらの襲撃を受けたことは確定だな。

 

なるべく少ない被害であってくれ、そう願いながらやけに長く感じるコール音を耳に電話をかける。

 

「メルクリアか!?お前今どこにいるんだ!?」

 

「すまん、錬金術師の襲撃を受けた。そっちはどうだ?」

 

「お前もかっ!?…こちらも襲撃を受けた。翼君、クリス君、切歌君、そして調君が負傷した」

 

「…どこだ」

 

「これから端末の方に場所を転送する。俺達もこれから向かう。詳しい話はそこで聞かせてくれ」

 

「すまない」

 

電話を切るとすぐに調達が入院している病院の住所が送られてきた。ここから少し距離があるが空を飛べば数分で着くだろう。俺は人目を気にせず住宅街の真ん中で術を発動する。

 

どうか無事であってくれと祈りながら。

 

 

 

 

「調、大丈夫か!?」

 

「ソウ君…来てくれたんだ」

 

慌てて病室に駆け込む、するとそこにはベットの上でいくつかの機械に繋がれた調と切歌ちゃんが休んでいた。二人にはこれと言って目立った外傷はないものの憔悴しきっているのが一目で分かるほどだった。

 

「遅くなってすまなかった」

 

調の側に近寄り頭を撫でる。すると手のひらにいつもより高い体温を感じた。恐らく相当な無茶をしたのだろう。そのことが一層己の力の無さと不甲斐なさを情けなく感じる。

 

向かっている最中、弦十郎や二課と連絡を取っている最中に偶然見つけた一件だけ残されていた調からの留守番電話。

 

その内容は悲痛な声で立花ちゃん達を助けてやってくれとのメッセージだった。きっと自分では何もできない情けなさを押し殺して、俺に頼んだのだろう。

 

だが結局俺は調の力になることは出来なかった。そして調に余計な負担を強いてしまった。全く、あいつらの言っていた通りではないか。

 

「メルクリア、そろそろいいか?」

 

「…弦十郎か、すまなかったな」

 

「いや、気にするな。それより何があった?」

 

どうやら物思いにふけっている間に随分と時間が経っていたようだ。いつの間にか背後には弦十郎と小川が立っていた。声をかけられるまで気づくことが出来ないとは、本当に駄目になったな。

 

「すまなかった。俺が不甲斐ないばかりに」

 

「どうしたんだ急に?」

 

珍しく弱気な事を言う俺に訝し気な顔をする弦十郎達、だが俺が次に発した言葉でその表情はすぐに驚愕へと変わった。

 

「今回の襲撃、もしかしたら未然に防げたかもしれない」

 

「…どうゆうことだ?」

 

「今回俺を誘い出した連中が情報を流してきた。近いうちにキャロルが動くと。だがその時にまんまと罠にはまっちまってな。それで連絡が取れなかった」

 

「お前が抜け出せないほどの罠だと…一体それは…?」

 

「何、そんなに難しいものじゃない。少し時間の流れが外界と違う空間を作るだけの初歩的な奴だ。少し気をつければ察知できるようなものなんだが…完全に気が抜けていて気付けなかった。平和ボケした俺のミスだ」

 

「そうか…では連絡がつかなかったのもその空間のせいか?」

 

「ああ、異空間という性質上外部との通信は遮断される。電波が届かなかったのはそれが原因だろう。そっちはどうだったんだ?」

 

「ああ、オートスコアラーを名乗る奴らと新型ノイズに襲撃を受けた。しかも奴らはギアを破壊する能力を持っている。その影響で翼君とクリス君のギアがやられた」

 

「そいつは…穏やかじゃねえな」

 

「奴らは新型ノイズをアルカノイズと言っていた」

 

「…そうか」

 

アルカノイズか…、確かにあれを使って出力をいじればギアを分解することもできるか。

 

だがあれの調整はそこそこ難しかったような気がする。だが相手がキャロルならあるいは…。敵として警戒するべきなのだろうが同業者としては技術の向上に少なくない喜びを感じるな。

 

「よし、情報交換も済んだし俺達は本部に戻ってこれからの対策を考える」

 

「そうか、なら俺も行く。錬金術師に対抗するには錬金術師が必要だ」

 

腰を上げ弦十郎について行こうとする。だが弦十郎はそれを手で制した。

 

「いや、いい。お前はここにいろ。俺達よりお前を必要としている人がここにいるだろう?」

 

そう言って俺の背後に目配せする。どうやら気を使わせてしまったようだ。

 

「すまない、ありがとう弦十郎」

 

「何、お前から素直に感謝の言葉が聞けただけで満足だよ」

 

「…そうか」

 

「とりあえず名目上お前は調君と切歌君が回復するまでここで警護と治療をしてやってくれ」

 

「すまない、ありがとう」

 

「何、気にするな。そこら辺も含めて指令の仕事だ。それと出来たら錬金術師やアルカノイズ対策を考えておいてくれ。こちらも頼れる協力者を得たが一人より二人の方が助かる」

 

「分かった。幸い時間はある。できるだけの対策を考えておこう」

 

病室を後にする弦十郎達を見送りながらアルカノイズ対策を考える。とりあえずギアに分解無効化術式を組みこむくらいしか思い浮かばないがそれでいいだろうか。

 

「それとな、メルクリア」

 

対抗策を考えて言うと出て言ったはずの弦十郎が扉越しに声をかけてきた。何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。

 

「平和ボケしたと言っていたがそれは悪い事じゃない。それは今のお前は安心できる日々を送っているという証拠だ。だから自分を責めるな。お前が一人で対処できなくてもいい、俺達は仲間だ。全員で対処すれば何も問題ないのだからな」

 

そう言うと弦十郎は病院に似合わない足音の響かせながら帰っていった。全く、余計な気ばかり使いやがって。

 

 

 

 

 

 

「すまん、マリア君も負傷した。今からそっちに搬送するから治療を頼めるか?」

 

あれから数日後、弦十郎からかかってきた電話に出ると開口一番にそう言われた。おい指令、いったい何があった。

 

「響君がガリィと名乗るオートスコアラーの襲撃を受けたんだがギアを纏えなくなってしまってな。それでマリア君がガングニールを纏ったんだがリンカーなしだったためにフィードバックが大きい」

 

「了解、それなら俺のところに連れてきた方が早いな。部屋はここでいい。一応機械だけは調達と同じものを用意してくれ」

 

さて、忙しくなるぞ。とりあえず治癒術式と再生術式を用意してっと…。

 

「ソウ君、マリア大丈夫なの?」

 

そんな俺を見て調が心配そうな顔をする。リンカーなしでギアを纏う苦しみを誰よりも知っているからこそだろう。

 

「…大丈夫だ、絶対に俺が治してやる」

 

そんな調に応えるため、俺は調の頭を優しく撫でる。数日前と同じ行動、だがそこに込められた思いは違う。あの時は後悔にまみれていた。だが今は確かな決意と覚悟を持っている。

 

「だから信じろ」

 

「…うん、お願いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力が欲しいわ」

 

あれから数時間後、無事治療も終わり目を覚ましたマリアちゃんが放った第一声がこれだった。

 

「開口一番がそれか。もっと他にないの?お腹空いたとかどこか痛いとかさ」

 

「大丈夫。治療は完璧よ」

 

「それはどうも。んで、力とは?」

 

「ギアを纏って…あいつらを倒せるだけの力よ」

 

どうやら相当手酷くやられたようだ。表情からも発言からもそれが伝わってくる。だがここでその要求を呑むわけにはいかない。焦って何かをしても思うような結果は出ないからだ。

 

「それなら前にも言っただろ?三人にはいずれリンカーなしでもギアを纏えるようになる術式を施したって」

 

「それで、それが完成するのはいつなの?」

 

「そうだな…大体三年後ってところかな」

 

「遅すぎるわ。私は今すぐ力が欲しいのよ。あなたなら何とかできるでしょ」

 

なんて無茶苦茶な歌姫だ。そんなもの無理に決まっているだろう。しかも問いかけではなく断言しやがった。

 

「焦っても身体を壊すだけだ。辛いかもしれないが今は耐えろ。んでどうしても駄目なら俺が戦ってやる」

 

「戦えるの?聞いたわよ。今回の敵はあなたの知り合いだって」

 

「…戦えるさ。元よりそのつもりだ」

 

そもそも俺が蒔いてほったらかしにした種が原因だ。なら俺が摘み取るのが筋ってもんだろ。

 

「そう、ならいいわ。あなたがそのつもりなら私たちにも考えがある。例えリンカーを過剰投与したとしても戦い続けるわ」

 

「おい、バカなことを…まて、私たちだと?」

 

「そうよ、これは私と、切歌と、そして調の総意よ」

 

慌てて二人を見ると、二人同時にマリアちゃんに同調するように頷いた。

 

「…なんでいけると思った」

 

「それはもちろん」

 

「私がいけると思ったから」

 

「え?発案者調なの?」

 

意外にも言い出したの調だったようだ。あまりの驚きに二度見をしてしまう。

 

「ソウ君ならきっとできると思った。だから」

 

「そうか。だが調、もし本当に俺が何も案が無かったときはどうするつもりだったんだ?」

 

「その時はリンカーごり押し。それで終わってからソウ君に治してもらう作戦」

 

なるほど、調が相手なら確かに勝てないな。

 

「分かった、完敗だ。だがそれでもすぐに成果が出るわけじゃない。それでもいいか?」

 

「うん、それで少しでも力になれるのなら」

 

「分かった。ならまず今は身体を少しでも回復させな。結構体力使うし相当きついからな」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうするの?」

 

「そうだな…とりあえずギアを纏ってもらうか」

 

「ここでデスか?」

 

「うん、ここで」

 

「リンカーなしで?」

 

「うん、なしで」

 

調に上目づかいでねだられ三人の体調を万全にした翌日、俺達は戦力増強作戦を決行した。といっても今いるのは昨日と同じ病室だ。機械が撤去されて多少は広くなったがそれでもギアを纏うには狭いだろう。なにより部屋が簡単に吹っ飛びかねない。

 

「とにかく時間がない。詳しい話はそれからだ」

 

俺にせかされて三人とも渋々と聖詠を口にしてギアを纏う。マリアちゃんのギアは昨日のうちに修復しておいたが無事に起動できたようでなによりだ。

 

「ソウ君、これちょっとキツイよ」

 

「あ~、やっぱりか」

 

だがすぐに三人ともギアがスパークを放ちだし、顔を苦痛に歪め、脂汗を浮かべる。さてここからが正念場だ。

 

「そこから自分に負荷が来ないレベルまで出力を落とせ。ただしゆっくりだぞ」

 

指示に従いながら、ゆっくりと出力を落としていく三人、すると前回のエクスドライブでパワーアップしたギアがそれ以前の旧態になり、アームドギアも消滅した。

 

だがそれと引き換えに負荷は大分減ったようで先ほどとは比べようもないくらい表情をしている。

 

「どうだ?動けそうか?」

 

「うん、これなら何とか大丈夫」

 

「よし、今日から時間の許す限りその状態で生活してもらう」

 

「え?」

 

「まずは座りな。話はそれからだ」

 

三人に腰掛けるよう促し飲み物を渡す。一息ついて呼吸が落ち着いたころを見計らって俺はこの状態の説明を始めた。

 

「まずこの状態で生活する意味だが、とにかく体を聖遺物に慣らすためだ」

 

聖遺物とは本来一人の人物しか扱えないものだ。そうでなければ聖遺物を巡って争いが起きるしその権能を振るった神々の威厳もあっという間に失われてしまうからだ。

 

現代における適合係数とはその聖遺物を扱った人物にどれだけ似通っているのかに起因する。だが同一人物でない以上その力を十全に引き出すことは出来ない。

 

そのため正規適合者の風鳴ちゃんや雪音ちゃんも幾度となくギアを起動し、身体に慣らすことでアームドギアを顕現させるに至ったと聞いた。

 

ならば起動はできるが適合係数の低い調達はどうするか。答えは一つ、それ以上に慣らすしかない。元々完全に適合しないのは全員同じ、ならば如何にその正規使用者に近づけるのかが勝負だ。

 

リンカーとはそもそも使用者の身体や魔力、フォニックゲインを元来の使用者に酷似させるため薬だ。それ故使用後は除染を行わなければその人そのものが変質してしまう可能性があった。

 

だがこの方法ならその心配はない。ギアを纏って日常生活を送ることでギアと身体が一体となりフィードバックを抑えられるようになる。それでいて時間をかけてゆっくりと慣らすから変質の心配もない。

 

いわば聖遺物と適合者、双方を同時に慣らしていくイメージだろうか。

 

「そんな訳だ。俺が前に組んだ術式はギアを纏っている間だけ発動するように組んだものだ。今回はそれを四六時中行うというものだ。もちろん負荷は以前より大きいがヤバくなったら俺がすぐに治してやる。だから少しでも異変を感じたらすぐに言えよ」

 

「うん、分かった」

 

こうして俺達の戦力増強作戦は始まった。はてさて、これの成果が出るのはいつの事になるのやら。願わくば三年以内に出て欲しいものだ。

 




すみません、エルフナインの出番は次回になりそうです。
今回も読んでいただきありがとうございました。

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