調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


錬金すごろく

錬金すごろく、それは錬金術師の錬金術師による錬金術師のために編み出された遊戯盤である。

 

錬金術師の結婚率は低い。錬金術の研究は基本個人個人で行うものである。一つの属性を扱うといっても個人個人によってそのアプローチがまるで違うからだ。家や血統、魔力の質、それによって術式は千差万別だ。

 

さらにそこから研究内容が細分化されていくので同じ属性を扱っている者同士が集まっても話が合わないことは良くある事だ。そのため錬金術師は己の研究を他人に話すことは滅多になく、自分の代だけでそれを完成させようとする。錬金術師が不老不死を求めるようになったのはこれに起因するところが大きいだろう。

 

そして不老不死の法が確立されてからはさらにそれが顕著になった。それに伴い出生率も低迷した時代が数世紀続いた。だが錬金術師も人間だ。いくら他人と交わる必要が無いとはいえ人肌恋しくなる夜が無いわけではない。

 

だが必要も無いのにそんなことを求めるなど不合理だ。だがあるバカがその不合理を逆手に取るような閃きをしたのだ。

 

ー必要があれば求めてもいいのではーと。

 

それによりとある組織の錬金術師が全勢力を上げて開発したのがこの錬金すごろくだ。名目上これは錬金術師同士の交流を図り、親睦を深め、研究に新たな刺激を得るために開発されたことになっている。もちろんそれだけではあまり必要性は感じないだろう。

 

だがこのすごろくにそれに加えてある術式が組み込まれている。それは参加者の魔力の質や属性、更に人間性を加味してペアを作り、盤面のマスを作成し、そこそこいい雰囲気にしてカップルができやすくなるようにするものだ。

 

これにより研究や術式の発展のために他人と交わるという大義名分を得た錬金術師たちは大手を振って人間関係を広げるようになり結婚率や出生率も一時と思うと持ち直した。

 

その後全ての術式に通ずる基礎の錬金術、通称基本錬金術が発明され各血統の固有術式は衰退していくことになったのだがそれはまた別の話だ。

 

 

 

 

鍋も食べ終わり、二次会と称してグダグダしながら年が明けるのを待つ。そんな空間に耐えきれなくなったエネルギー有り余る少女達がいた。その筆頭が立花ちゃんと切歌ちゃんだ。

 

「メルクリアさん、なんか遊ぶ物ありませんか?」

 

「それならいいものがあるデスよ!この間の引っ越しで見つけたデス!」

 

切歌ちゃんが持ってきたのはこの間片づけたはずの錬金すごろく、部屋に見当たらないと思ったら切歌ちゃんが持っていたようだ。

 

「切歌ちゃん、それ危ないから開けるのは…っ!?」

 

止めようと思ったものの一足遅かったようで切歌ちゃんはすごろくが入った箱を開ける。すると部屋中が光で包まれる。光が収まり恐る恐る目を開ける。だがこれと言って変わったこともなく、危険な物も無かった。

 

ただ見知らぬ空間に机とその上にすごろく盤が置いてあり、全員が椅子に座り強制的にペアを組まされていた。俺と調、藤尭と切歌ちゃん、弦十郎と雪音ちゃん、緒川と風鳴ちゃん、そして立花ちゃんと小日向ちゃんのペアが出来上がっていた。

 

だが見当たらないメンバーもいる。マリアちゃんと友里さんだ。どこだろうと辺りを見回すとすぐに見つかった。二人とも酒瓶を抱えて横になっていた。そういえばあの二人だけはずっとハイペースで呑んでいた。それで寝てしまったから今回は参加者にはならなかったのだろう。

 

「メルクリア、ここは一体どこなんだ?」

 

「すごろく専用の結界だ。危険はない。ただ誰かがすごろくで上がらないと解除できないから厄介だがな」

 

「そうか、それでこのすごろくに危険はないのか?」

 

「大丈夫だ。錬金術を使っているのは参加者の思考を読み取りペアを決めたりマスの内容を決めるくらいだ。マスの内容の強制力はあるがそんな危ないものじゃない」

 

指令としての務めか弦十郎が尋ねてくる。だが以前遊んだ時もさほど危険は無かった。だがら今回も大丈夫だろう。

 

「とりあえずやってみるか。調、手始めに回してみてくれ」

 

「分かった。えっと…5だね。1、2、3…『ゲームクリアまで膝の上に座る』」

 

「……どうぞ」

 

「……どうも」

 

「…まあこんな感じだ」

 

「本当に安全なのか?」

 

「多分な。マスの内容は参加者が望む内容がランダムで反映されるからこういうマスもあるってだけだよ」

 

「そうなのか、ならそのマスは…」

 

「まあ十中八九俺だろうな。俺はこのすごろくやったことあるからある程度把握してるし。だからお前の希望のマスもどこかにあるとは思うぞ」

 

「そうか。では頼んだぞ、クリス君」

 

「おう、え~っと…」

 

こうして始まった錬金すごろく。実はこのゲームについて四つほど伝えていないことがある。一つはマスの内容についてだ。内容は相性の良い相手、言い換えれば意中の相手にしてほしい内容が表れること。二つ目はマスの色で誰が望んでいる内容なのかが分かること。そして三つめは各ペアが望んだ内容が描かれたマスに止まりやすくなるようルーレットに細工がしてあることだ。

 

すごろくのマス目はピンク、緑、赤、青、オレンジの五色。先ほど俺達が止まったマスはピンク色だったので俺か調のどちらかが相手にしてもらいたいことだと分かった。

 

先ほどマスの内容を一通り見たが中々に際どい内容が多かった。これが思春期か。そのため敢えて名言することをさけたのだが…果たしてこれが吉と出るか凶とでるか。ほぼ答えは確定しながらも俺達はゲームを進めていった。

 

「おいメルクリア、これは本当に安全なのか?」

 

「そうだな。俺達男性陣の理性が働いている内は安全なんじゃないのか?」

 

そしてやはり凶とでた。幾度となくルーレットを回し、確実にゴールには近づいている。だがそれ以上に俺達男性陣の理性の方が先にゴールしそうになっていた。

 

では現状を順番に見ていこう。トップバッター、藤尭・切歌ちゃんペア。まず切歌ちゃんの服装がマントや角、尻尾が付いているハロウィンの仮装のようなものになった。そして布面積がかなり小さい。本人は魔女のコスプレと言い張っていたがどこからどう見てもあれはサキュバスだろう。そんな彼女は藤尭の膝の上に座っている。そしてなぜか藤尭は手錠をはめられていた。どちらの趣味なのかは追及しないでおこう。

 

二番、緒川・風鳴ちゃんペア。ここは防人と忍者ということもあってか和を好む二人だ。そのためマスの内容も安定しておりある程度は予想できていた。できていたはずだ。

 

風鳴ちゃんは花魁の装いになり肩を大きく出しシャボン玉が出てくるキセルを吹いている。そしてなぜか緒川に猫のように喉を撫でらている。そんな緒川も服装はスーツからお代官が着るような着物になっている。だが持ち物が酷かった。ろうそくと荒縄を持っているにも関わらず表情はいつもと変わらない。それが底知れぬ風格を感じさせて俺達を戦慄させた。きっと忍者だからそういった拷問にも慣れているからだ。そういうことにしておこう。

 

三番、弦十郎・雪音ちゃんペア。薄々ムッツリではないかと疑惑が上がっていた雪音ちゃんだったがこの一件でそれが証明された。その豊満なバストを生かすかのようにバニーガールの装いに身を包み、髪形も普段のように結ばずそのままだ。そして弦十郎にお姫様抱っこなのだが…なぜか弦十郎は上半身裸だった。

 

普段からむさ苦しい男が脱ぐと更にむさ苦しくなる。だが雪音ちゃんはご満悦なようで弦十郎の胸板に顔をこすりつけていた。そして今の雪音ちゃんの服装は弦十郎の好みと完全にマッチしていた。趣味が変わっていなければ昔あいつが持っていたエロ本の中身と同じようなシチュエーションだ。口では文句を言いつつもやはりこいつもムッツリだ。似た者同士である。

 

四番、立花ちゃん・小日向ちゃんペア。ここは本当に酷い。その一言に尽きた。まず立花ちゃん、服装が犬のコスプレになっていた。しかも耳や尻尾などかなり高いクオリティで仕上がっており彼女も喜んでいた。だがその首輪は一体何なんだ。そしてつながったリードを女王様の仮面をつけて笑顔で持っている小日向ちゃんは何者なんだ。

 

なぜ小日向ちゃんは鞭を持っているのだろう。なぜそうも扱いに慣れているのだろう。そしてなぜそのことに立花ちゃんは疑問を持たずに笑顔でいられるのだろうか。今日一番戦慄したのはそこだった。そして俺は改めて思った。小日向ちゃんが神獣鏡を使えなくなって本当に良かったと。

 

やはりきちんと全てを伝えた方が良かっただろうか。特に四つ目、それはこの空間には特殊な成分が混ざっていていること。危険なものではないのだがそれを吸うとちょっとした酩酊状態に似た感覚に陥る。つまり自分の気持ちに正直になったり、積極的になれるのだ。その結果がこれだ、本当に酷い。

 

「おい、お前が一番酷いからな」

 

「何処がだよ。俺らのペアが一番健全だろ」

 

「ふざけんな、鏡見てから出直してこい」

 

なにやらお怒りの弦十郎がそう言ってくるがそんなに酷いだろうか。調の服装はメイド服で、始めから変わらず藤尭達と同じように膝の上に座っている。だが俺達はもう一歩先へ進んだ。調と俺は向かい合い、抱きしめ合っている。そのためお互いの身体が密着していてお互いの体温が常に感じられるが…うん、いつも通りだな。超健全。

 

「その体制を誰かに見られたら即通報だな」

 

「お前が言うなムッツリ。それにそうなったらここに居る全員道ずれだ」

 

「ムッツリだと!?…いや、話は後だ。今はこの状況を何とかする方が先だ」

 

「え~?本当に終わらせていいの?お前も満更じゃないくせに」

 

「うるさい!大体子供に手なんて出せるか!」

 

「お、おっさん。私は別に…」

 

「く、クリス君!?」

 

「だってよ。大人なんだからちゃんとしろよ」

 

だが流石にそろそろシャレにならなくなってきたな。これ以上は一線を超えそうなペアが出てきそうだ。雰囲気でそういった流れになるのに反対ではないがこの空間ではよろしくないだろう。きっかけはあくまでもきっかけに過ぎない。最後は自分の意志で踏み出すべきだ。

 

「調、名残惜しいが上がるぞ。ルーレットを頼む」

 

「分かった。…はい、上り」

 

調がコマをゴールに置く。すると再び空間が光に包まれ気づけば元居た部屋に戻っていた。服装も魔力で編まれたものなので空間の消滅と共に消え去り、興奮作用のある成分も完全に抜けきった。全てすごろくを始める前に元通りである。

 

「ようやく終わったか…」

 

部屋にはなんとか理性を保ち切り安堵する男性陣と、満更でもなく顔を赤らめる女性陣にきれいに別れていた。

 

「あれ?これなんだろう?」

 

「ああ、それは優勝賞品だな」

 

一つだけ違った点、それは始める前には無かった瓶が調の手に握られていたことだ。瓶を借り振ってみると液体が入っていることが分かった。

 

「これはあれだな。ざっくり言うと自分に正直になって身も心もオープンになっちゃう霊薬の原液だな。使用時は三倍に希釈しろってよ」

 

「それって…」

 

「まあそういう類の時に雰囲気を出すためのものだな。因みに現役で使うとヤバい」

 

何がヤバいって色々とヤバい。具体的にはどこかの光明結社の局長が悪乗りして作ったからヤバい。

 

「そう。じゃあ使う時は気をつけるね」

 

「おう。…待って、それ俺に使うの?」

 

「必要な時はね」

 

「…せめて調が成人するまでは待ってくれないか?」

 

「どうして?」

 

「どうしてって…この国だとそういうの未成年とか十八歳以下相手だと色々めんどくさいんだろ?だからそれまでは手を出さないよ。まあそこに十八歳超えてる人いるけどな」

 

誰とは言わない。ただここには十八歳越えの歌姫が二人いることを記しておこう。そしてもうすぐ十八歳を迎える赤い少女がいることも記しておこう。

 

なんやかんやあり、こうして年は明けていった。願わくば、今年も俺達にとってよい年でありますように。

 




正月ピックアップはいい文明でした。
今回も読んでいただきありがとうございました。

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