調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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秋桜祭、始まるよ。


Edge works with A①

秋本番、そう言っていいほど過ごしやすい気候が続き街のあちこちでカボチャの置物が目立ち始めた、そんな九月のある日のことである。

 

今日も朝から調が作ってくれた朝食を二人で食べ食後のコーヒータイムを楽しむ、そんな至福の時間を楽しんでいる最中、事件は起こった。

 

発端は「フィーネ」、「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」、「QUEENS of MUSIC」、「ノイズ」といった最近お馴染みの単語が飛び交う朝の情報番組であった。

 

先日ライブ会場で起こった歌姫マリアによる全世界に向けての宣戦布告。さらに特異災害と呼ばれるノイズを操ったという事実に加えその映像が世界中の主要都市に生中継されていたこともあり十日程経った今でも連日特番が組まれるほど世間の注目を集めていた。

 

この事態を重く見た各国政府は情報規制を敷くものの全く意味を成さなかった。寧ろ情報規制を敷いたせいで人々の関心を更に集めネット等で様々な憶測が飛び交っているまである。

 

何でも奇妙な歌声が聞こえた。

 

何でも少女六人が戦っていた。

 

何でも秘密結社の実験が失敗した。

 

何でも白銀の閃光と爆炎の中心で男が高笑いしていた。

 

強ち間違いでない情報が多いことに驚いたが本当に大切な情報はしっかり規制している辺り流石日本政府である。

 

なぜ俺がそんな事を知っているかって?それは俺もあの時会場にいてドンパチに巻き込まれたからだよ。後は仕事柄情報がよく集まるからとだけ答えておこう。

 

そんな訳であの事件に関しては下手な政府の人間よりも情報を持っている。勿論調がフィーネの一員だということも知っている。というか本人が教えてくれた。

 

さて、ここで俺はある疑問が浮かんだ。ライブ会場での宣戦布告から十日程経った。その期間の間に調がやっていたことと言えば俺と買い物行ったりお茶したり朝ごはん作ったりしてたくらいだが…

 

もしかして世界征服忘れてね?

 

 

 

 

「えっと…今はまだ作戦の準備中なの」

 

それとなく聞いてみると微妙な顔をしながらも教えてくれた。

 

何でも世界征服のための装置を動かすための動力源を育てるのにまだ時間がかかるらしい。しかも動力源は気性が荒く食べさせるもののこだわらないといけないとか。何ともめんどくさい世界征服だ。

 

というか事情を知っているとはいえ俺に作戦の内容まで伝えて大丈夫なのか?

 

「大丈夫、あなたなら信用できるから」

 

そう上目遣いで言ってきた。これは命に変えても守り通さなければならない。

 

「それにそろそろ餌がなくなりそうだから回収に行く予定だったの。だから明日は来れないかもしれないけど…大丈夫?」

 

大丈夫じゃない。朝から調がいないとか調欠乏症になってしまう。自分でも何を言っているのかさっぱり分からないが本当に大丈夫じゃない。絶望感しかない。これはなんとしてでも理由をつけてついていかねばならない。

 

「調、その餌の回収は危なくないのか?」

 

動力源、ネフィリムの餌は聖遺物と呼ばれるレアアイテム。つまりペットショップなどで簡単に手に入れることはできないのだ。その回収には相当の危険が含まれると踏んだ。そこをついてみたわけだが…

 

「そうだね、一応敵の本拠地に乗り込んで奪い取るわけだし危険はあるね。もしかしたら戦闘になるかも…」

 

「なら俺もついて行こうか?もしもの時は護衛にもなるし」

 

「そうだね、じゃあ…お願いしようかな」

 

よし、計画通り。あまりの嬉しさにガッツポーズしてしまったがまあいい。これで明日の絶望とはおさらばだ。

 

「それじゃあ明日は九時に駅前集合ね。服装はいつも通りでいいからね」

 

「分かった、因みにどこまで取りに行くんだ?」

 

「リディアン音楽院」

 

「…はい?」

 

「リディアン音楽院。そこで明日秋桜祭が開かれるからそこで敵奏者の聖遺物を奪取する。私たちだけじゃ不安だったけどソウがいるなら安心できる。だから頼りにしてるね」

 

…え?マジで?思っていたよりガチの戦闘になりそうなんだけど。だが悲しいかな、調の上目遣いのお願いに俺は迷うことなく「安心しろ、命に代えても守ってやる」と言っていた。まったく俺って奴は…ちょろすぎるだろ…

 

とゆうか俺シンフォギア奏者に勝てるのかな…

 

 

 

 

「おまたせ、待った?」

 

「いや、俺も今来たところだ」

 

翌日、駅前で待っていると集合時間の十分前に調がやってきた。予定より早い到着だが問題ない、俺はこの会話をするためだけに待ち合わせの三十分前から待っていたのだから。だが調、なぜ今日は眼鏡をかけてきたんだ?

 

そして今日はもう一人、金髪に溌剌とした印象を受ける少女の暁切歌ちゃんがいた。彼女も世界征服を目論む組織の一人だ。後俺が知っているメンバーはポンコツお姉さまと偏食婆さんくらいだ。よくこんなメンバーで世界征服しようと思ったな。

 

というか切歌ちゃん、なぜ君もその眼鏡をかけてきたんだ?そしてなぜドヤ顔なんだい?だが悲しいかな、それを尋ねる勇気が俺には無かった。

 

「あ!メルクリアデス!久しぶりデス!」

 

「久しぶり切歌ちゃん。元気にしてた?」

 

「元気デスよ!メルクリアも元気そうでなによりデス!」

 

メルクリアというのは俺が仕事の際に使っている名前だ。本名を使うと後々めんどくさくなると言って元上司が適当につけた名前だが中々気に入っている。そして彼女達と知り合ったのも仕事の一環だったので俺のことはメルクリアと呼んでもらっている。

 

但し調だけは別だ。俺と調の二人きりの時だけは本名で呼び合うことになっている。理由としては調には俺の事を本当の名前で呼んでもらいたかったから。後は調のわがままみたいなものだ。

 

それにしても切歌ちゃんは昔のことを思うと大分性格が丸くなったな。初めて会ったときは鋭いナイフみたいな雰囲気を纏っていたというのに今ではお日様のような笑顔を向けてくれるようになった。少しは良好な関係が築けてきたのかと思うとなんだか嬉しくなってしまった。まあこれは調にも言えたことだがな。

 

「じーっ」

 

などと感傷に浸っていたら調から割りとガチなジト目をもらってしまった。あれ、なんか地雷踏んだっけ?

 

 

 

 

 

 

「このたこ焼き美味しいデス!あ、次は綿あめが食べたいデス!」

 

切歌ちゃん提案のリディアン音楽院秋桜祭うまいもんマップの作製は順調に進んでいた。曰くこれで操作対象の絞り込みが行えるらしいのだが流石に全店制覇は胃袋的に無謀ではないだろうか。すでに俺は結構限界が近いんだが。

 

というかこれ完全に縁日に来た兄と妹二人の構図だよな。確かに潜入にはなっているが肝心の聖遺物奪取を忘れていないか心配なところだ。

 

「じーーっ」

 

そして心配事がもう一つ、なぜか調の機嫌が悪い。心当たりがさっぱり無くそれとなく切歌ちゃんに聞いてみるとどうやら原因は俺にあるらしい。しかし何が原因なのかまでは教えてくれなかった。謎は深まるばかりだ。そしてなぜかさらに調の機嫌が悪くなった。本当に謎である。

 

「あー、私向こうのたこ焼き屋行ってくるデス。二人は校舎裏あたりでゆっくりしてるデス」

 

そんな俺たちを見かねてかそう言い残すと切歌ちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。恐らくこの時間でなんとかしろということだろう。だが原因が未だ分からないこの状態でいったいどうしろというんだ。

 

「とりあえず…移動するか?」

 

「……。」

 

「たこ焼きおいしかったな」

 

「……。」

 

「思っていたより楽しいな」

 

「……。」

 

ヤバい、話しかけるも全く反応がない。そしてこっちを見ようともしてくれない。一体何が調をここまで怒らせたのか、全く見当がつかない。

 

校舎裏についても俺と調の間に会話は無かった。何を話せばいいのか分からない、沈黙が気まずく感じる。口を開こうにも言葉が出てこない。そんな空気を破ったのは意外にも調からだった。

 

「お祭り…楽しい?」

 

「お、おう…楽しいぞ」

 

「切ちゃんがいるから?」

 

「ん~まあそれもあるな」

 

切歌ちゃんは周りの人を引っ張っていく力がある。引っ張り過ぎることがあるのが玉に瑕だがそれも含めて彼女の良さだ。だから切歌ちゃんといるのは楽しい。だけどそれ以上に…

 

「でも調と一緒にいられるからってのもあるけどな」

 

「…え?」

 

「この祭りに調と来れて、調の友達と来れて、調が友達とお祭り楽しむ姿を見れて、俺はとても楽しいよ」

 

世界征服なんて十字架を背負わなくていい、世界の命運なんて掲げなくていい、今だけでも普通の女の子のようにお祭りを楽しんでいる調たちを見れて俺は満足だ。

 

そして同時に不甲斐なくも思う。もっと早く彼女たちの力になってやれていればとも。同情だと、偽善だと言われようとも何かしてやれればと切に思った。

 

世界の存亡など今までどうでもいいと思っていた。だが調のためなら、彼女たちの願いのためなら俺は動いてもいいと思えた。だから覚悟を決めよう。この一件に介入すると、例え何を失おうと彼女の笑顔のために全力を尽くすと。

 

「そうだったんだ…ありがとう、ソウ君」

 

「ん?おう。ところでなんで機嫌悪かったんだ?」

 

「それは…内緒。そ、そういえば屋台のお金全部出してもらったけど大丈夫なの?私たちも少しくらいなら出せるよ?」

 

「いや、大丈夫だ。昨日臨時収入があってな。中々いい仕事だったからまだ懐も温かいぞ。だから気にせず食べな」

 

そう言って向けてくれた笑顔はいつも通りの調だった。機嫌は治ったようで俺も一安心だ。だが怒っていた理由を聞きそびれてしまったな。一体何だったんだろうか。

 

「おーい調ー!いい作戦を思いついたデスよ!」

 

などと考えていたらちょうどいいタイミングで切歌ちゃんが帰ってきた。なんでも敵奏者から聖遺物を奪取するいい作戦を思いついたとか。そういえばそのために今日来たんだっけか。すっかり忘れてたわ。

 

 

 

「それで勝ち抜きステージ優勝か」

 

学院にあるコンサートホールで行われる歌勝負、そこで優勝すれば生徒会権限で願いを一つ叶えてもらえる。それを利用してペンダントを要求するする作戦…らしい。

 

らしいと言うのはこの作戦穴があり過ぎて予定通り進む確証が全くない。

 

まず一つ、誰が歌うんだよ。これは調と切歌ちゃんがデュエットで参加することで解決した。

 

次に、二人とも歌上手いの?そう尋ねたら思いっきり怒られた。なんでもシンフォギアを纏う以上歌は自然と上手くなるとか。そりゃ四六時中歌いながらドンパチやってたら上手くなるか。

 

そして最後、最大の難関があった。それは…

 

「あの子めっちゃ歌上手いじゃん…」

 

新チャンピオンの子が半端なく上手かった。え?なに?あの子もシンフォギア奏者?

 

…そりゃそうだわな。敵が参加しないとも限らないもんな。

 

あまりの上手さに挑戦しようとする者は全く現れない。これは作戦変えた方がいいんじゃないか?そう尋ねると隣から勢いよく手が上がった。

 

スポットライトの先に会場中が注目する。手の主は金髪ハツラツガール、ではなく黒髪クールガール、そう、紛れもなく調だった。

 

反対側を見れば切歌ちゃんが驚いた顔をして調を見てる。

 

あれ?なんで調の方がやる気になってるの?




もうすぐAXZ終わっちゃいますね…
三か月早かったな…
読んでいただきありがとうございました。

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