調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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今日、妖狐×僕SSのブルーレイボックス発売でしたね。(11/22)
そんな訳で記念投稿です。


さあ、世界戦服を始めよう

人には、誰しもただ見守る事しかできない時がある。

 

手に汗握り、固唾を飲んでその瞬間を祈るしかないこともある。

 

だがそれでも目を背けてはならないのだ。

 

必ず、とは言えない。だがそれでも自分達の祈りが僅かでも彼らの力になるときはあるのだから。

 

そうすれば…。

 

「俺のドリルは、天を突くドリルだ!」

 

いつか、必ず成し遂げてくれるのだから。

 

「…なんなのよ、これ…」

 

「「「グレ◯ラガン」」」

 

「見れば分かるわよ!そうじゃなくてこの状況よっ!」

 

調、切歌ちゃん、俺がテレビにかじりついて男達の勇姿を焼き付けているとマリアちゃんが唐突にそう訴えてきた。何と言われても弦十郎オススメの店で借りてきただけだしな…。理由?調のエクスドライブがロボットだったから参考になるかなと思ってだな。

 

「その前に涙拭いたら?」

 

とりあえず涙目のマリアちゃんにハンカチを渡す。確かアニキが死んだ辺りだっただろうか、後ろから俺達に混じってすすり泣く声が聞こえてきたのは。

 

一緒に見たいのなら来ればいいのに、もしや年を気にしているのだろうか…。

 

「そうじゃないわよっ!なによこの状況はっ!?」

 

「この状況…とは?」

 

はて?なにかおかしいところがあっただろうか。さっぱり分からない。調と切歌ちゃんも不思議そうな顔をしている。

 

「おかしいでしょっ!?私達犯罪者よ!?国連に捕まったはずでしょ!?なのにこの部屋はなによっ!?」

 

そう言われ俺達はおもむろに周囲を見回す。遥か向こうに見える壁とそこに飾られた有名な絵画、磨きあげられた廊下、天井にはシャンデリアが吊られ寝室にはキングサイズの天蓋付きのベッド。

 

外を見ればバルコニーと広大な草原、地下にはトレーニングジムと各種大浴場。…なるほど、そういうことか。

 

「カラオケルームなら地下二階だぞ」

 

「違うわよっ!」

 

え?てっきり奏者兼アーティストだから定期的に唱いたいのかと思ったんだが違ったようだ。

 

「なんで私達がいきなり高級ホテルのスイートルームを貸し切って豪遊できるのよっ!?」

 

「あ~、その事ね。そういえばマリアちゃんには説明してなかったな」

 

てっきりマリアちゃんには調か切歌ちゃんが伝えておいてくれてるもんだと思ってた。

 

「だってマリアも満喫してたから知ってるものとばっかり…」

 

それに加えここに来てそこそこの日数が経っている。今まで何も言われなかったら知ってると思っても仕方がないだろう。

 

「それは…その…」

 

痛いところを突かれたマリアちゃんは顔を赤くして反論するも全く説得力がない。やはりポンコツマリアだったか。

 

「まあ、あれだ。ざっくり言えば脅迫だな」

 

一通りマリアちゃんを弄ったところで俺はネタばらしをした。

 

バビロニアの宝物庫を脱出した後、雪音ちゃんと小日向ちゃんの共同作業でソロモンの杖は宝物庫に投げ込まれ、門は完全に閉じられた。

 

その後国連軍により事態は終息、調達は連行されていった。俺は引き留めようとしたが調が一つの区切りとして必要なことだからと受け入れたので俺もそれにしたがった。

 

だがそれから数日後に開かれた国連総会でとんでもない内容が審議されていると連絡があった。

 

それは調達を死刑にするというものだった。

 

元々アメリカ政府は月の落下に関する隠蔽だけでなく、フィーネとのつながりやレセプターチルドレンなどとても公にできない闇を多く抱えていた。それをこの機会に一掃してしようと思ったようだ。

 

そんなくだらないことのために、口封じのためなんかに調達を殺させるわけにはいかない。

 

すぐさま弦十郎達に連絡を取り、何とか日本で、二課で保護することはできないかと手を回した。

 

だがどうしても時間が足りなかった。アメリカは何が何でも強行採決に持ち込もうと躍起になり、他国もアメリカの外交面から強く出れずにいる。

 

どこもかしこも自国のこれからの利益だけに夢中になり、過ぎ去った厄災には目を向けることすらなかった。

 

そこでとりあえず外務省の斯波田さんがアメリカの闇を糾弾することで採決までの時間を稼ぎ、その間に何とか策を練ることになった。

 

だが正攻法では到底太刀打ちできない。これはそれこそ全世界を一度に相手取っての戦いになるだろう。だからこそ俺も部下を総動員して手を回しているが政治系には職業柄どうしてもうまく立ち回ることができない。できても精々各国首脳の弱みを握りそれで脅迫するくらいだ。

 

妙案も浮かばず、ただただ時間が過ぎていく。そんな時、弦十郎が何気なくこぼした一言が逆転の一手を導いた。

 

「はあ…書類も手続きも障害が多すぎる。何より他国が相手すらしてくれない。我々の交渉に乗るメリットがないという返答がほとんどだ。」

 

「そうだな…メリットか、絶対に交渉に乗りたくなるような対価か…」

 

あ、あったわ。対価。

 

「弦十郎ナイス、それだ」

 

「ん、策でも思いついたのか!?」

 

「ああ、おまけに意趣返しにもなるとっておきだ。とにかく時間がない。お前らは政府と協力して受け入れ態勢と他国への対応を整えろ。それと俺とは無関係ってことにしておけよ。後々めんどくさくなる」

 

「え?お前一体何する気だっ!?」

 

「決まってるだろ?もちろん…世界征服だよ」

 

そもそも俺が書類とにらめっこして策を練っている段階で間違いだったのだ。俺には俺のやり方がある、だったらそっちを取った方が早くて確実だ。

 

目には目を、歯には歯を、そして裏工作には裏工作を。

 

さあ、忙しくなるぞ。まずはあいつからだな。

 

 

 

「まあそんなこんなで国連に乗り込んで脅迫した。んで罪も組織も何もかもなかったことにした」

 

「またとんでもない事をやらかしたわね…」

 

細かいところは省いたがざっくりと説明するとこんなところだろうか。

 

審議の内容については強引に押し通すこともできた。

 

だがあの場であえて俺が適当に日本政府に調達の保護を一任したことを他国から怪しまれないためにも日本がアメリカを擁護するような案を出すために、何よりその場合調達の活動の内容を世間に公表しなければならなくなるためそこまではしないことにした。

 

アメリカに対し一切の慈悲は無いが、調達の未来に比べれば些末なことだ。

 

そして細かいところについては意図的に調達にも話していない。かなり汚い内容が含まれているからだ。世の中にはまだ知らなくてもいいことだってあるのだ。

 

もっとも調はなんとなく気が付いているだろうが今はあえてそれを言わないでいてくれる。つまりここで言う必要は無いということだ。

 

「…でも、それなら私はこれからどうすればいいの…」

 

今までのやり取りを経て、マリアちゃんは沈痛な面持ちでそうこぼした。一段落したから、緊張の糸が切れたからか、はたまた燃え尽き症候群のようなものだろうか。

 

「なにかやりたいことはないか?どんなことでもいいぞ」

 

何はともあれせっかくの機会、思いっきり楽しむべきだ。

 

「アーティストに戻るのはどうだ?それとも大学にでも行くか?もちろん金の心配はいらないぞ」

 

俺が払ってもいいしなんならアメリカや国連から経費としてせしめてもいい。使い放題だ。

 

「もう自由なんだ、何も背負う必要は無い。これからは思いっきり楽しめばいいよ」

 

もうFISにもフィーネにも縛られることはない。生きたいように生きればいいのだから。

 

「無理よ…」

 

だがマリアちゃんの答えは否定だった。そう告げる表情は先ほどよりも暗く、それこそフィーネを演じていた時に見せる顔とよく似ていた。

 

「私たちは罪も無い大勢の人々を手に賭けたわ。直接的にしろ間接的にしろその事実は変わらないわ」

 

ポツリ、ポツリとマリアちゃんの想いと共に涙が零れ落ちる。その勢いは止まらず、次第に増すばかりだ。

 

「いたずらに不安と恐怖を振りまいて、世界を混乱に陥れて、その挙句私たちだけでは月の落下を止められなかった。その上マムも犠牲になったのよ」

 

ナスターシャの事は彼女たちにとって大きな支えだった。それを失ったことは確かに辛いだろう。さっきまで笑っていた調や切歌ちゃんも沈痛な面持ちになっている。

 

「そんな私たちがこれからどんな顔して生きていけばいいのよっ!?」

 

それでもマリアちゃんは止まらなかった。そこにいるのは歌姫でもフィーネのリーダーでもない、ただの少女のマリアだった。

 

悔いているのだろう、自分の選択を、力の無さを。そのせいでナスターシャを失ったことを。

 

ならば俺はその想いにまっすぐ答える義務があろう。ナスターシャの娘からの問いとして、俺が持ち得る解を答える義務が。

 

「くだらないな」

 

「え…」

 

泣きじゃくっていたマリアちゃんは自分の耳を疑うような顔になるも、すぐに険しい顔をして俺につかみ掛かってくる。

 

「くだらないだと…失われた命がくだらないだとっ!?」

 

鬼気迫るとはまさにこの事だろう、そう言い切れるほどの表情のマリアちゃんに俺は胸倉を掴まれ、壁に押し付けられた。背中が壁に当たり、装飾の一部が割れる感覚が伝わってくる。それでもマリアちゃんは手を止める気配はない。

 

「マムがっ!罪のない人たちの命がっ!くだらないだとっ!?」

 

「ああ、そうだ。何度でも言ってやる。くだらないは、くだらないだ」

 

「この…この人でなしがっ!」

 

そうだ、俺は人でなしだ。だがそれでも俺には彼女に伝えなければならないことがある。

 

「大体、ナスターシャが自分の死を予想していなかったとでも思っているのか」

 

いつもどおりでいい、気負うな。淡々と告げる、それだけでいい。それが俺のやるべきことだ。

 

「あいつはいかなる状況でも最善の結果を求めて行動していた。そのためにお前たちに危険な仕事をこなさせたりもした」

 

マリアちゃんの目には、いや、調達の目にも俺はどう映っているのだろうか。無表情で、冷酷に、ただ現実を突きつける俺をどう思っているのだろうか。だがそれでも言わなければならない。彼女から託された思いを。

 

「だがそれでもお前たちが死ぬような作戦は行わなかった。どうしても行わなければならない時は少しでもその確率の低い作戦を考えた。そして危険な作戦にはあえて自分が参加した」

 

少しでもお前らを生きる確率を上げるためにな。そう言うとマリアちゃんは掴んでいた手を離し、床に崩れ落ちた。

 

多少躊躇ったが俺は震える背中に向かってさらに言葉を続ける。

 

「死を覚悟して、それでも尚己のできることをやり遂げたんだ。悲しんでもいい、嘆いてもいい。だがあいつの娘ならばいつかそのことを誇りに思ってやれ。そして絶対に後悔してやるな」

 

マリアちゃんだけでなく調と切歌ちゃんからも鼻をすする音が聞こえる。やはりいままで気丈に振舞っていただけで溜め込んでいたのだろう。

 

「失われた命も同じだ。絶対に後悔だけはしてやるな。それは失った者にも、今を生きる者にも失礼だ。だからこそ後悔せず、やりたいことをやればいい。罪を背負いたいのなら、それでもいい」

 

行いの償いを求める者もいれば誰かに救済を求める者もいる。罪そのものを忘れて生きる者も、忘れたくても忘れられずにいる者もいる。

 

だけど俺は、自分の行いに悔いを持たないことが、散って逝った者達へのためになると思っている。

 

それが弔いであり、償いであり、救いだと思うから。

 

とはいえマリアちゃんには少し厳しく言い過ぎただろうか。さっきから俯いたままピクリとも動かないし大丈夫だろうか。なにか優しい言葉でもかけた方がいいのだろうか。

 

「あ~、そのなんだ。まああれだ。どうしても無理ってなったら俺がなんとかしてやるから…その…一人で背負うなよ?俺じゃ不満なら調とか切歌ちゃんに相談すればいいわけだし…」

 

「…ふふっ、大丈夫よ」

 

だがそんな心配は杞憂だったようで、立ち上がったマリアちゃんの顔は涙の痕はあるものの憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔をしていた。

 

「ありがとう、なんだか吹っ切れたわ」

 

「…そうか、それは良かったよ」

 

「それにメルクリアの焦った顔も見れたし。ちょっと得した気分だわ。さあ調、切歌、続きを観るわよ!」

 

そう言ってマリアちゃんはテレビのスイッチを入れ続きをかじりつくかのように見入っていた。

 

調と切歌ちゃんもそんな姿に安心したのかマリアちゃんを挿むように座り、仲良く続きを見始めた。

 

こうしてみると本当の姉妹のようだ。

 

今なら分かる、あいつが守りたかったのは世界なんかじゃない。

 

本当に守りたかったのは、あの娘達の笑顔だったのだろう。己の命を懸けてまでそれを守ったんだ。母は強しというが本当だな。

 

彼女たちの後ろ姿を見ながら俺はそっと部屋を後にする。これ以上ここにいるのは無粋というものだろう。

 

今は家族水入らずで過ごすべきだ。

 

だからきっと、ドアを閉める瞬間、車いすに座り、三人の後ろから画面を優しそうに見つめる女性が見えたのは、間違いじゃなかったんだ。




グレンラガンかFate/Zeroかで悩みました。
次回は三日後に…書ききれればいいな…。
今回も読んでいただきありがとうございました。

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