調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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遅くなってすみません。初ラブシーンは難産でした…。



二人になれた日

「会いたかったよ、ソウ君」

 

そう言って舞い降りてきた調は天使そのものだった。

 

身に纏うシンフォギアは普段とは配色が異なる白を基調とし、刺し色としてピンクを用いたものに。頭部に装着していたアームドギアは翼を模したものになっていた。

 

そして何より調が発するフォニックゲインが依然と比べけた違いになっている。以前賢者の石を使って処置した時にリンカーなしでギアを纏えるように処置をしたがこうも早く纏えるような術式にはしていない。

 

長い年月をかけて、それこそ年単位のスパンでギアを纏いゆっくりと慣らしていくような術式を組んだ。にもかかわらず今の調は正規適合者すら上回る出力でギアを展開している。一体調に何が…もしやリンカーの過剰投与では…!?

 

「大丈夫、無茶はしてないよ。これは響さんの力で世界中のフォニックゲインを束ねてギアのロックを限定解除したエクスドライブモードだから」

 

そうか、よかった。調は時々無茶な事や力業で強引に済ませようとするからな。また今回も無茶したのかと心配した。

 

そして相も変わらず何も言っていないのに俺の考えを読み取ってくるが気にしてはいけない。それよりも聞かなければならないことがある、今はそっちが先決だ。

 

「調、なんでこんな危険なところに来たんだ?」

 

「うん、大体ドクターのせい」

 

「ワッツ!?」

 

なんでもあの後ウェルが俺は裏切ったとか何とか言って調達を騙したらしい。だが調は不信感からフィーネを脱走。その後二課を強襲、奏者を一人で圧倒し弦十郎と直接対決兼交渉を繰り広げたとか。

 

しかし裏切ったはずの俺は政府側にもいなかったのでとりあえず捕虜に。その後神獣鏡を纏える奏者が現れたりそのおかげで立花ちゃんが全回復したとか。

 

しかしフロンティアが浮上、裏切りと裏切りがなんやかんやあって一段落したと思ったら今度はウェルがナスターシャを宇宙に送ったりフロンティアをネフィリムに喰わせたりしたら暴走して今にも爆発しそうに。

 

そこで調がこの間の事を思い出しソロモンの杖でネフィリムを宝物庫に転送、しかしマリアも一緒に巻き込まれみんな宝物庫に来たと。

 

そんな訳で向こうで奏者vsネフィリムが繰り広げられてると。

 

なるほどね…うん、そっか…。

 

「確かに大体ドクターのせいだな」

 

「でしょ」

 

本当に碌な事してないなあのドクター。流石ドクターだわ、さすドク。

 

「それにネフィリムのことが無くても私はここに来たよ」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「ソウ君がいるからだよ」

 

「えっと…つまり?」

 

「フィーネにも政府にもソウ君はいなかった。そしてどこに行ったかも分からず痕跡もない。だから知ってそうな人に聞いた。具体的にはドクターとOHANASHIした。シュルシャガナを使って」

 

「え、それドクター死んでない?」

 

「大丈夫、死んではいない」

 

死んで『は』いないんだな。よし、とりあえず冥福祈っておこう。

 

「じゃあ行こっかソウ君、早くしないと宝物庫の扉が閉まっちゃう」

 

「…ああ、そうだな」

 

俺の手を掴んだ調は飛び立とうとヘッドギアの翼を羽ばたかせる。だが俺はすぐにその場を動くことができなかった。

 

そんな俺を不思議に思ったのか羽ばたきを止めた。

 

「どうしたの?みんな待ってるよ」

 

調はこちらをまっすぐ見つめ優しく微笑んでいる。俺は迷った。どちらを選ぶのが正しいのだろうか。遠くない未来で彼女を悲しませる別れか。それとも今、彼女の優しさを踏みにじる別れか。

 

「…悪いな調、俺はここに残る。すまないが一人で行ってくれ」

 

だがするべきことは変わらない。ただそれが早いか遅いかの違いがあるだけだ。ならば早い方がいい。それにこっちの方が調にも被害が少なくて済むはずだ。

 

そうに違いないんだ。

 

「え…どうゆうこと?」

 

「言った通りだ、俺はここに残る」

 

「なんで…なんでそんなこと…」

 

「…ここは俺が生き続けるには丁度いいんだよ。一人で気ままに生きていける、煩わしい人間との関係も無いしな」

 

先ほどの笑顔が一転、困惑顔になったと思ったら今度は泣き顔に。調のそんな表情は見るだけで胸が締め付けられる。だがそれでも手を緩めてはいけない。

 

「それに俺の事はナスターシャからある程度聞いてるんだろ?」

 

だからこそ手を緩めてはいけない。

 

「俺は不老不死だ」

 

緩めたら落ちてしまう。甘えてしまう。

 

「それに見ただろ?あの醜い翼を、尾を、鱗を」

 

調の好意に甘えてしまう。

 

「俺は正真正銘の化物だ。飛びっきり質の悪いな」

 

それだけは絶対に駄目だ。調には明日がある、希望がある。俺のように過去に囚われた化物じゃない。だからこそ俺なんかに縛られてはいけない。

 

「だからそんな化物はな、こうやって人知れず封印され忘れ去られるのがお似合いなんだよ」

 

己を律しろ、箍を外すな、少しでも緩めば俺は逃げてしまう。だから…。

 

「調、俺は今まで散々人を殺めてきた。それだけじゃない、お前に聞かせられないような汚いこともして生き延びてきた。そんな俺が世界と切り離された絶好の機会なんだ」

 

そうだ、これが最初で最後の機会かもしれない。

 

「これで錬金術師メルクリアは過去の産物になれる。もう誰も錬金術師としても怪物としてもメルクリアを必要としなくなるんだ」

 

そうすれば少しは無益な争いも減るかもしれない。

 

「それに俺は数えきれないほどの人を殺した…いくつもの国を滅ぼした…化物なんだ…」

 

今でも思い出す初めて人を殺した夜のあの感覚、いつまでも俺を見つめてくる空虚な瞳、耳にこびりついて離れない断末魔の言葉。

 

何度も追手や刺客を送り込まれた。その度に返り討ちにした。そのせいで名が上がり敵も増えた。怯えながら息を殺し、数えきれないほどの夜を明かした。

 

山を越えど、国境を跨げど、海を渡れどそれは変わらず、そんな日々が数百年続いた。そして何時しか人を壊し、国を滅ぼす災禍の化物に成り下がっていた。

 

「それにいつ調が襲われるかもしれない、そんな危険には晒したくなかったんだ…」

 

今では金次第で何でもやると各国とそこそこ良好な関係が築けてはいるがそうではない国や組織も少なくない。

 

何より俺と深く関わったせいで錬金術師なんて碌でもない連中に目をつけられる可能性を排除したかった。

 

「それに俺の身体はまともじゃない…老いることも死ぬことも赦されない…調と同じ時を生きることができないんだ…」

 

翼も、尾も、鱗も、本来の姿の一部に過ぎない。いつか調をあの爪で、あの牙で傷つけてしまうのではと思うと足がすくんだ。

 

怖かった。調に知られるのが、見られるのが。

 

恐ろしかった。調が離れていくのが、軽蔑されるのが。

 

「だから頼む。もう、もう独りに…」

 

独りにしてくれ。いつの間にか調にではなく自分を抑えるために放っていたその言葉。しかしそれを最後まで紡ぐことはできなかった。

 

口が塞がれてしまったのだ。柔らかく、それでいて温かい何かによって。それに口を塞がれ呼吸もままならず、ただただ頭が真っ白になっていく。

 

五秒か、十秒か、一分が、はたまたそれ以上か、どれだけの時間を重ねたかは分からない。だが息苦しさは心地よく感じ、それが離れる瞬間は名残惜しさすら感じた。

 

「これが私の気持ちだよ、ソウ君」

 

気付けば変身を解除し、頬を紅く染めた調が俺をまっすぐ見上げている。

 

「私はソウ君が好き。だからずっと一緒にいたい」

 

「調、俺は…」

 

だめだ、それ以上はだめだ。もう耐えられなくなる…。

 

「ソウ君が自分の事を嫌いでも、私は好き。例え世界が錬金術師としても、化物としてもメルクリアを必要としていなくても構わない。私はソウ君にいてほしい、大好きなソウ君と…ずっと一緒にいたいの…!」

 

調の想いの一つ一つが響いてくる。今まで築き上げてきたくだらない理屈や計算で固めて守ってきたそれを崩していく。

 

甘えなのかもしれない、縋っているだけなのかもしれない。だけど、だとしても彼女の想いに答えたいと思った。

 

「好き…私はソウ君が好き…好き…」

 

「調…っ」

 

思考が先か、行動が先か。定かではない。だが気づけば俺は調を抱きしめて思いの丈を叫んでいた。

 

「愛してる…っ!愛してるよ調…っ!俺もずっと一緒にいたいよ…っ!」

 

今まで理性で抑え、隠してきた調への想い。だがその箍が外れた今、それは決壊したダムのように溢れ出てくる。もう自分では抑えることができない。

 

「楽しかったんだ!調と過ごす時間が…!嬉しかったんだ!他でもない、俺のために食事を作ってくれることが…!」

 

今までも幸せを感じることは幾度となくあった。友と呼べる人物もできた。兄と慕ってくれる少女もいた。そこそこいい関係になった女性もいた。食事も、酒も、娯楽も、ありとあらゆる経験をした。

 

だがそれだけだった。そこで終わりだった。どこまでいっても人間の真似事をしているようにしか感じらず、満たされることはなかった。

 

そんな俺が化物になって初めて人間らしい幸せを感じられた。色鮮やかな感情も、人肌の温もりも、胸の奥から溢れ出てくるこの想いも。

 

いい歳した男が幼気な少女を泣きながら抱きしめている。旗から見れば異質な光景だがここには誰もいないことが幸いだった。

 

そんな俺に調は優しく背中に手を回してくれた。

 

「私もだよ、ソウ君。私も楽しかった。これからも、いつまでも、何があってもずっと一緒にいよう。だから独りになんてならないで…」

 

「ああ、すまなかった…本当にすまなかった…」

 

まるであやすかのように背中をさすってくれる調。それが無性に嬉しくて、それに応えるように俺は更に強く抱きしめ、お互いの距離がゼロになる。その近さは調の吐息が耳にかかるほどだ。

 

その時に気がついた。調の鼓動をしっかりと感じられる事を、それが早鐘をつくかのような速さだということ、全身が熱を持っていることを。何より調の耳が紅く染まっていることを。

 

そうか、俺のためにこんなにも勇気を振り絞ってくれたのか。そう思うと俺の中から再度熱い思いがこみ上げてくる。

 

ならば俺もそれに応えなければならない。そうでなければ男が廃る、何より調に失礼だ。

 

息を吸い込み心を整える、その時調の髪からいい匂いがしてクラッときたがそこはなんとか別の理性を働かせてこらえる。

 

「んっ…ソウ君…息が…かかって…はぅっ…」

 

調が更に顔を染め身悶えるが俺が抱きしめているため息から逃れられないようだ。だが俺は腕を緩めなかった。

 

愛らしい顔立ち、陶器のような白い肌、吸い込まれそうになる瞳、血色の良い唇、彼女の全てが魅力的に感じられる。それ故その言葉すらも今の俺には蠱惑的に感じられた。

 

「調、愛している」

 

俺は耳元でそう囁く。調はそれに一瞬震えるも、すぐに理解したのか瞳を閉じてくれた。

 

それに習い俺も目を閉じ、顔を近づける。

 

それに至るまでの間に脳裏に浮かぶのは、調と出会ってから今まで過ごした時間だった。

 

嬉しかったことも、怒ったことも、悲しかったことも、嬉しかったことも。俺の中は調の事でいっぱいだった。

 

淋しさも、虚しさも、妬ましさも、切なさも、陶酔も、何より愛しさも、全て調がくれたものだった。

 

独りでは感じることのできなかった世界を調は与えてくれた。もう独りには戻りたくないと思えた。

 

だからこれからも、二人でいよう、いっぱい感じていこう。色褪せない思い出を、鮮やかな感情を。

 

そして願わくば、彼女が俺にくれた以上のものを返していこう、共に感じて生こう。

 

それが俺にできる調への唯一の償いの、感謝の方法だから。

 

俺を受け入れてくれた。ただそのことが嬉しくて、ありがたくて。

 

調への感謝と、いつまでも共といたいと願いを込めて。

 

二度目の、本当のそれは俺に愛情と、温もりと、繋がりを与えてくれた。

 

その日、俺と調は恋人になった。

 




これって甘いのかな…?書いてて不安になりました。
でもようやく書きたかった回が書けて満足です。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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