調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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やっぱり調ちゃんが大好きです。


G編
潜入美人捜査官眼鏡…だと…


『錬金術師』。そう呼ばれる者たちには様々な逸話が存在する。

 

一つ、彼らは真理の探究者である。

 

一つ、彼らは不老不死を求めし者である。

 

一つ、彼らは黄金を作り出す者である。

 

一つ、あいつは人でなしである。

 

最後の一つはともかくとして、現代においては多少本を紐解けば誰もが知りえる知識はこれくらいであろう。しかし例え本に手を伸ばした経験がなくとも断言できる知識が一つだけ存在する。

 

錬金術師は存在しない。遠い昔そう呼ばれていた者たちはただの科学者である、それが現代において誰もが知る常識だ。

 

他にも神鳴りと恐れられた雷は電子の移動現象であると、神話や聖遺物は空想上や宗教の産物であると、時代の変化と共に様々な認識が変わりいつしかそれらは幻想と呼ばれるようになっていた。

 

しかし火のない所に煙は立たぬという言葉があるようににそれらは確かに存在した。聖遺物は不完全ながらも世界各地で発掘され、神と呼ばれていた者の存在も判明した。

 

そして錬金術師も一部間違った認識はあれど文献通りに存在していた。ある者は世界を解剖しようとし、ある者は結社を作り、ある者は錬金術師であることを隠し暮らしていた。

 

息を潜め、社会から距離を置き現代まで生き残ってきたのだ。

 

そんな彼らにも一つだけ、例え他者との繋がりが希薄になろうと、その数を時代とともに減らそうとも確かな逸話が存在した。それは錬金術に関わった者なら、それこそインターネットで知識を得ただけの者でも知ることができるようなちょっとした都市伝説のようなものだった。

 

ー曰く、そいつは本当に死なない。

 

ー曰く、そいつは金を作れない。

 

ー曰く、そいつは手口が汚い。

 

ー曰く、お電話一本即商談。

 

といったようにこれは伝説…とまではいかないものの、時々ネットニュースに乗るくらいには有名なとある錬金術師の奮闘物語…

 

 

 

 

 

ではなく、ひとめぼれした少女にかっこつけたり無茶したり慣れないことをして、そのついでに世界を救う手助けをしたりしなかったりするお話です。本当に期待しないでください。

 

 

 

 

 

 

「ねえねえソウ、眼鏡欲しい」

 

とある昼下がり、行きつけのカフェでのんびりしていると目の前の少女から声がかかった。

 

少女の名前は月読調、艶やかな黒髪に透き通った肌、小柄な体躯が特徴のちょっと訳アリの女の子だ。

 

彼女との出会いは後々語るとして俺はその時調にひとめぼれした。正直精神年齢がおっさんの域に達してる俺が幼気な少女に恋するのはいかがなものかと思ったが想いは日に日に強まるばかりであった。もうぞっこんである。

 

そんな訳で何かと理由をつけ彼女と交流を続けた結果一緒にカフェでお茶をしたり買い物をしたりするくらいには仲良くなることができた。できたのだがここから先にどうやって進めばいいのか分からない。その手の参考書を読んでもさっぱりだ。少し前は賢者なんて呼ばれもてはやされていた自分が恥ずかしくなってくる。

 

「ねえソウ、聞いてる?もしかして自分の名前も忘れちゃったの?」

 

「大丈夫だって、ちゃんと聞いてるよ」

 

どうやら反応が鈍かったのがお気に召さなかったようだ。なかなかに棘のあるワードが飛んできた。因みに「ソウ」というのは俺の本名を調がもじったものだ。

 

さて、そろそろ調の話に真面目に返答するとしよう。これ以上棘が増えるのはなかなか来るものがある。

 

「眼鏡だろ、てか調って目悪かったのか?」

 

「ううん、視力は問題ないよ。ただ欲しい眼鏡があるの」

 

なるほど、視力は悪くない。だけど眼鏡が欲しいと、となるとオシャレメガネか。最近はファッションの一環として眼鏡を使うこともあると聞く。試しに脳内でオシャレファッションとメガネをかけポーズを決める調を想像する。うん、かわいい。

 

「デザインとかこだわりとかはあるのか?」

 

「う~んどうだろう、でもちょっと特殊な機能がついてるのが欲しいんだ」

 

特殊な機能か、そう言われて思い浮かぶのはUVカット眼鏡やPC眼鏡だろうか。確かに現代人には必須になりつつある機能だ。調がそういった眼鏡を欲しても納得できる。脳内でスーツ姿に眼鏡をかけ足を組む調を想像する。うん、こっちもかわいい。

 

さて、ある程度の機能をつけれてオシャレなデザインがあるメガネ屋さんと言えば…

 

「駅前のモールにある専門店なんてどうだ?品ぞろえもいいぞ」

 

何より俺もそこで今使っている眼鏡を買ったからな。しかも今なら会員登録したときに貰ったクーポン券が使える。なんと千円引きだ。

 

「あそこはもう行ったんだけど欲しい機能の眼鏡が無かったの」

 

さようならクーポン、使用期限切れまで財布の底で眠っていてくれ。それよりあの店で扱ってないとは一体どんな眼鏡なのだろうか、あの店はこの辺りで最大規模の眼鏡屋だ。そこに無いのなら他の店で取り扱っているとは思えない。調は一体どんな眼鏡を欲しているのだろう…。

 

「調、それは一体どんな眼鏡なんだ?」

 

「私が欲しいのは…潜入美人捜査官眼鏡よ」

 

調はキメ顔でそう言った。

 

俺は調が何を言っているのか分からなかった。

 

「潜入美人捜査官眼鏡よ」

 

調は二度目もキメ顔でそう言った。

 

…うん、いや、なにそれ?

 

潜入・美人・捜査官・眼鏡。個々の意味は理解できる。だが繋げて一つの単語になった途端にさっぱり理解できなくなった。ある意味新しい発見である。

 

「え~っと調さん?それは一体どんな眼鏡なんでしょうか…」

 

「これはね、装着すると誰に見とがめられることなく目的地までの到達を可能とする、そんな眼鏡よ」

 

言い切った調には一切の恥じらいは無かった。そうか、潜入美人捜査官眼鏡ってそうゆうものか…うん、そっか…

 

「それは何処にも売ってないな…」

 

「うん、だからやり手の錬金術師のレリックに作ってもらおうと思ったの。そういうの錬成…できない?」

 

できない。そんなトンデモ眼鏡が錬成できるのならとっくにやってる。そう言ってしまうのは簡単だ。だが調の澄んだ瞳の前でそれを言うのはなんというか良心の呵責があった。

 

しかし真実を伝えなかったせいで調が将来恥をかくようなことは事態も避けたい。

 

どちらを選ぶのが正解か、迷いに迷って俺が出した答えは…

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

店員の声を背に袋を抱えて進む調はご機嫌だった。心なしかツインテールもぴょこぴょこ動いている気がする。

 

さっきまで俺たちは駅前の眼鏡屋にいた。そこで手に入れた二つの戦利品が袋の中に入っている。

 

「それでよかったのか?」

 

「うん、だってソウとお揃いがいいから」

 

そう言って調はピンク色の伊達眼鏡を取り出してかけた。非常に似合っている。うん、かわいい。

 

なぜトンデモ眼鏡を求めていた調が普通の伊達眼鏡を買ったのか、それは一時間前、カフェでのやり取りにまでさかのぼる。

 

「…なあ調、哲学兵装ってものがあってだな…」

 

ロンギヌスという槍を知っているだろうか。元々はなんの変哲もない普通の槍だったのだが、イエス・キリストの死を確かめるために使われたことで後天的に神殺しの性質を付与された槍である。

 

つまり俺はそんなトンデモ眼鏡は存在しないがもしかしたらそのような能力を持つ眼鏡をこれから作り出すことができるかもしれないと調に伝えた。そしてそれは錬金術の秘術に関するものだから他人に言ってはいけないとも伝えた。

 

この事が吉と出るか凶と出るかは分からない。だが調が自分でトンデモ眼鏡の有無に気付く時までの時間稼ぎになってくれれば幸いだ。

 

これが俺の出した答えの全容だ。答えを出すことを放棄したと言われても仕方のない回答だが俺にはこれが精一杯だった。

 

そして調がトンデモ眼鏡の元に選んだのが俺と色違いの眼鏡フレームだったのだ。なんでもご利益がありそうだとか何とかと言っていた。因みに友達のは黄緑色らしい。

 

そんなわけで財布の底に埋もれる運命だったクーポン券も無事使用でき調の買い物も何とか達成できた。

 

別れ際にそれとなくトンデモ眼鏡についての助言もしたしこれでめでたしめでたしである。

 

 

 

 

とはいかなかった。

 

ピンポーン。調と眼鏡を買いに行った翌日、朝早くから家のチャイムが鳴り響いた。スマホで時間を確認するとまだ七時を回ったところだった。

 

こんな時間に誰だろうとドアを開けるとそこには調が立っていた。昨日買った眼鏡をかけて。

 

「おはよう、起きてた?」

 

「おはよう、今起きた」

 

うん、本当に今起きた。あまりの急展開に脳が一気に覚醒した。とりあえず現状を一つづつ確認していこう。

 

「あの~調さん?俺家の住所教えたっけ?」

 

いや、教えてないはずだ。家には時々ろくでもない錬金術師がやってくることがある。調があいつらと接触するのだけは断固阻止しなければならない。教育上非常によろしくない。特にあの人でなしは。

 

「それなら昨日眼鏡屋さんで住所が書いてある紙があったからそれを見たの」

 

なんてこった、とんでもないところに伏兵がいやがった。だが知られてしまったのなら仕方がない、これからは家の守りを強化してあいつらが勝手に入ってこれなくすればいいのだから。よし、次だ。

 

「えっと…なんで家にきたんだ?」

 

そう、なぜ家に来たのかが分からない。用があるのならスマホで連絡すればいい。調には電話番号もメアドもラインも教えている。それともスマホが使えず緊急の要件でもできたのだろうか。

「潜入だから」

 

「ん?どゆこと?」

 

「昨日教えてくれたじゃない。私は美人で捜査官で眼鏡かけてるから後は潜入するだけだって」

 

言った。確かに言った。帰る途中、トンデモ眼鏡完成までどれくらいかかるかと聞かれそれとなく焦らなくていい、寧ろそこまで揃っているから潜入はいらないのでは?と言う意味を込めては言った。決して潜入頑張れよという意味で言った訳ではない。そしてまさか翌日から実践してくるとは思わなかった。

 

「それじゃ、お邪魔しまーす」

 

「調、あと聞きたいんだけどさ…」

 

家に入ろうとしたところを引き留められ不思議そうな顔を調には悪いがどうしてもあと一つだけ聞いておかなければならないことがある。

 

それはトンデモ眼鏡や潜入捜査官とは比べ物にならない、もしかしたら今後に大きくかかわるかもしれないことだからだ。そう、それは…

 

「なんでエプロン姿なんだ?」

 

そう、調はエプロン姿なのだ。しかもフリルがついたかわいらしいデザインのを着用している。

 

「どうかな?似合う?」

 

調はそう言ってその場で一回転した。うん、すごい似合ってる。でもミニスカートでクルッとするのはよろしくない。具体的には見えそうで見えないのが非常によろしくない。

 

「似合ってる、一生見ていたいくらい似合ってる」

 

「そ、そう?ありがとう。それじゃあせっかくだからご飯作るね」

 

そう言い残すと調は紅い顔を隠すように家の中に入って行った。

 

それにしても朝からイイものが見れた。調の眼鏡姿にエプロン姿、照れた顔もかわいかった。そして食事も作りに来てくれた。最高の一日だ。

 

こんな幸せな日々がいつまでも続きますように、例えそれが長い生涯の一瞬であったとしても。そう願わずにはいられなかった。

 

そして願わくばまた調の眼鏡エプロン姿が見れますように。そう祈らずにはいられなかった。

 

この日、調限定で眼鏡エプロンという新しい性癖が誕生した瞬間を俺は一生忘れないだろう。

 

 

 

この物語はちょっと有名な錬金術師が月読調に惚れて試行錯誤しながら頑張って、そのついでに世界を救ったり滅ぼしかけたりして結ばれるまでの物語である。

 




お読みいただきありがとうございました。

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