ダンジョンに八雪を求めるのは間違っているだろうか   作:神納 一哉

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7 素材集めと情報化

ヘスティア・ファミリア団長のベルに連れられて行ったギルドの受付で冒険者登録をした後、【スキル】の確認をしたいからとダンジョンの一階層へと足を踏み入れる俺たち。

 

同行者はベルだけである。俺と雪乃は武器を持っていないため、魔物の相手はベル任せである。

 

「とりあえず、その辺の岩を収納してみる。おお、できた。雪乃はその岩を収納してみてくれ」

 

「どうすればいいのかしら?」

 

「岩に触れて『収納』って念じればできる」

 

「あら、本当ね」

 

「岩だけじゃなくて土とかも頼む。眩暈や頭痛がしたら精神疲弊(マインドダウン)の兆候だから止めるように」

 

「わかったわ」

 

黙々と素材を回収している俺たちを見て、ベルはぽかんと口を開けてそれを見ていた。

 

「それっていったいどうなってるの!?」

 

「空間収納の【スキル】で、素材を回収しているだけだが」

 

「いやいやいや、岩柱とか、土とか、おかしいって」

 

「そう言われてもなあ。出来ちまうからしょうがないとしか言えない」

 

「そうね。ベルくん。こういうものだと受け入れなさい」

 

「えぇー」

 

「おいベル、あれ、魔物か?」

 

「ゴブリンが3体。周りに冒険者は居ない。じゃあちょっと倒してくる」

 

「ベルが倒したら俺が素材を回収するから、少し間隔をあけて着いていこう」

 

「手を繋いでもらえるかしら」

 

「ああ」

 

雪乃と手を繋いだところで、ベルが素早く魔物に斬りかかり、あっという間に3匹とも倒してしまった。俺にはできそうにないな。え?魔物って砂になるの?

 

「魔物って砂になっちまうのか」

 

「砂って言うか灰だね。あと魔石と、たまにドロップアイテム(魔物素材)を落とすかな」

 

「まあ一応回収してみるか。うへ。生暖かい。おお、回収できた」

 

「しかも素材は砂でも灰でもなく、ゴブリンIと魔石Gなってるわね。どういうことかしら?」

 

「【ステイタス】から考えると、Iだと最低値ってことになるんだろう。まあ後で俺は【錬成】で確認してみるから、雪乃は【知識の泉】で確認してみてくれ」

 

「わかったわ。ベルくんが魔物を倒すところを見たけれど、私にはできそうにないわ。八幡も無理よね」

 

「ああ。魔物ってわかってても、近距離で(ベルみたいに)攻撃するのは無理だな。情けない話だが怖さが先行する」

 

「別に無理に戦えとは言わないよ。八幡と雪乃さんはサポーター的な立ち位置になるんじゃないかな。補助的な攻撃ならリリみたいにボウガンを使えばできるかもしれないね。まあおいおい考えることにして、今日のところは魔石の回収だけお願いするね。魔石はギルドで換金できるから、八幡の収納に入れたままだと換金するときにいろいろ拙いかも」

 

「あー、今回は換金無しってことにできないか?」

 

「僕が一緒に居て成果が無いっていうのはちょっと拙いかな」

 

「じゃあ魔石は俺の財布にでも入れておく。現状ほとんど空だしな」

 

そう言って腰のベルトに結んである皮袋に触れ、中に入っている硬貨を空間収納に取り込んで、代わりに魔石を取り出して袋に入れた。さっき倒した魔物の魔石は親指の爪くらいの大きさなので、そこそこの量は入りそうだ。

 

「というわけで、団長殿に魔物狩りは任せることにする。俺たちはお前の後ろに隠れて着いていくよ」

 

「調子いいなあ。まあ一階層だから、魔物もそんなに沸かないし、魔物狩りは任されました。二人とも壁に寄りすぎないよう注意しながら着いてきてね」

 

「ん。壁に寄っちゃいけないのか」

 

迷宮(ダンジョン)では壁から魔物が生まれてくるからね」

 

「そうなんだ。気を付けよう。ベルのペースで魔物を倒して、引き上げるタイミングも任せる。それで、戻った後は、街の外に出れるようなら出たいんだが」

 

「街の外に?何をするの?」

 

「植物素材が欲しいんだよ。外なら草木があるだろう?」

 

アドバイザー(エイナさん)に聞いてみるけど、街の外に出れるかどうかはわからないよ」

 

「まあ外に出れなかったときはゴミ捨て場でも漁るさ。素材が手に入ればなんとでもなる。それにいろいろな店を覗いて、いろいろなアイテムを鑑定眼で情報化(登録)する作業も待っているし」

 

「随分とやる気があるみたいだけど、あなたらしくないわね」

 

「安定した収入源を確保するまでは甘えたこと言ってられないからな。とりあえず冒険者になったけど、魔物と近接武器で戦うのは厳しそうだから、そうなると俺は【錬成】の方で頑張るしかないからな」

 

そうしないと雪乃(おまえ)を養えないし。言葉には出さずに心の中でそうつぶやいた。いつまでもヘスティア・ファミリアに養ってもらうわけにはいかないから二人分の食い扶持くらいは自力で確保しないといけないからな。

 

「…私はものづくりもできないのだけれど」

 

「雪乃は回復もできるし、サポーターもできる。回復ができるってことは、迷宮(ダンジョン)では俺より役に立つってことだ」

 

「あなたと一緒じゃなければ迷宮には入らないわよ。だからあなたの方が役に立つのよ」

 

「お互い卑下するのはやめよう。できることをやっていこうぜ。二人でな」

 

「わかったわ。ありがとう八幡」

 

「とりあえず今はベルから離れないようにしよう」

 

少し被虐的になっていた雪乃を落ち着かせて、二時間ほど一階層を探索してから地上へと戻った。魔物は見た感じゴブリンしか出なかったようだった。

 

「なあベル、二個だけ魔石貰ってもいいか?」

 

「うん。そのくらいなら構わないよ」

 

「ありがとうな」

 

ベルの許可を取って二個の魔石を空間収納に入れ、24個(残り)の魔石を換金してベルに渡す。

 

「じゃあ、三等分しようか」

 

「いや魔石貰ってるからその分引いてくれ。あと【ファミリア】に収める分もあるんじゃないか?」

 

「今回は研修みたいなものだから僕たちだけで分け合って大丈夫だよ。僕が貰う分が【ファミリア】の取り分で、魔石は初めから無かったってことで」

 

「悪いな」

 

「どういたしまして。それで聞いてみたけど、農場がある方なら日没前までなら街の外に出られるみたいだよ。子供とかもお使いでデメテル・ファミリアの農場に行ってるみたいだし、ガネーシャ・ファミリアの衛兵さんが街道を監視しているから魔物も居ないし。森の奥に入らなければ大丈夫じゃないかな」

 

「それなら、悪いが少し付き合ってくれるか?森に入ってできれば水のあるところも見たい」

 

「それじゃあ農場方面から街を出て、森に入って川を目指そう」

 

ギルドから出て中央広場の噴水前で一旦立ち止まる。そっと噴水に手を入れ、周りにわからないように水を回収してからベルの後を追った。

 

「おう、【リトル・ルーキー】。郊外に何か用があるのか?」

 

「新入団員にオラリオの説明をしているんだ。農園依頼や郊外依頼の説明しようと思って。すぐ戻りますよ」

 

「オーケー。お前を含めて人族(ヒューマン)三人だな。森は少し奥に行くと森林狼が出るって言われてるから、注意するように」

 

「川沿いは大丈夫かな」

 

「ああ、川沿いは問題ない」

 

「ありがとう、行ってきます」

 

ベルが門番との会話を終えると、ベルに着いてそそくさと郊外へと出る俺たち。まごうことないコミュ障である。

 

「出るたびに会話しないといけないのか」

 

「そうだね。まあ所属と目的を伝えれば大丈夫だから」

 

「素材回収じゃなくて採取とかにした方が無難だよな」

 

「そうだね。今日は説明ってことにしているから手ぶらでもいいけど、次からは籠とか持ってきた方がいいね。街道には警備している人も居るから、奥まで行かなければ僕が居なくても大丈夫だと思うよ。護身用に何か武器を持った方がいいとは思うけど」

 

「武器はおいおい考えるとして、とりあえず森に入ってもいいか?」

 

「うん。行こうか」

 

街道を逸れて森へと足を踏み入れる。少し歩いてから周りを見て自分たち以外に人が居ないことを確認してから、目の前にあった木に触れて収納し、少し離れてから地面に生える草や土も収納していく。

 

「雪乃も適当に木を頼む」

 

「わかったわ」

 

「……うん。僕は何も見ていない」

 

ベルが遠い目をしてそうつぶやいたが、聞かなかったことにしよう。

 

適当に間伐しながら進むと川沿いに出たので、川に手を入れて水を収納する。流石に川だけあって水量は豊富で、俺がただ川べりに座って手を入れているだけにしか見えない。

 

雪乃は黙々と俺の近くで草木を収納している。

 

「なんか雪乃、頑張ってるな」

 

「ええ。植物は多くても色々使えるので困らないはずよ」

 

「それにしても、俺たち結構空間収納使っているけど精神疲弊(マインドダウン)ってしないな」

 

「私たち、魔力が多いのかしらね?」

 

「空間収納が省エネなのかもな」

 

「ああ、その可能性が高いわね」

 

空間収納についての検証をしながら、一時間くらい素材を回収して街へと戻った。やけにベルが疲れているように見えたのは気のせいだろうか。

 

お礼として昼食を適当な定食屋で奢り、午後はいろいろな店に連れて行ってもらって鑑定眼を使いまくった。勉強と称して魔物素材の店や魔法触媒の店、布屋、雑貨店、ディアンケヒト・ファミリアの店、ヘファイストス・ファミリアの店などに行っていろいろな素材に触れさせてもらい、ベルと共に竈火の館(ホーム)へと戻ったときには、日も沈みかけていて、命さんが夕飯の支度を始めていた。それを見た雪乃はベルに軽く礼を言ってから、いそいそと調理場へと消えていく。

 

「案内、ありがとうなベル」

 

「どういたしまして。この後、八幡はどうするの?」

 

「飯食って風呂入ってから【ステイタス】更新かな。その後で【錬成】(スキル)を試してみる」

 

「ご飯まで時間あるから、ヴェルフのところに行って護身用の武器とか、採取用ナイフとか貰っておいた方がいいんじゃない?」

 

「それなら雪乃のやつも貰っといた方がいいよな?ちょっと聞いてくる」

 

「わかった」

 

調理場に向かい、雪乃に護身用の武器(エモノ)は何がいいかを尋ねてからベルの元へと戻る。それから二人で鍛冶場(工房)へと行き、ヴェルフから採取用ナイフ2本と、使えるかどうかは別として、小太刀を2本、剣帯を2本貰った。小太刀は細剣と同じ扱いなので、剣帯でも問題なく装着できるそうだ。小太刀は姉妹刀だが、刀の銘である黒猫の爪(くろにゃん)白猫の爪(しろにゃん)については聞かなかったことにしておいた。


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