ダンジョンに八雪を求めるのは間違っているだろうか 作:神納 一哉
そろそろ昼食の用意を始める時間に、俺と雪乃はヘスティア様の居室の
「本当にいいんだね?」
「はい。俺たちをヘスティア様の眷族にしてください」
「お願いします」
「じゃあどちらから【
「俺からお願いします」
「わかった。じゃあ八幡君はその衝立の向こうの
「はい」
席を立とうとすると、雪乃がぎゅっと手を握ってきたので、軽く握り返してから声をかけた。
「大丈夫、すぐ終わる。あの衝立の向こうに行くだけだから」
「傍にいてもいい?」
「ヘスティア様、構いませんか?」
「二人がそうしたいのならそうするといい」
ヘスティア様の許可を貰い、俺たちは連れ立って寝台へと向かった。衝立に隠されていた寝台は想像していたよりも大きかった。
「ねえ。八幡。この大きさなら二人並んで横になれるわよね」
「なれなくはないだろうけど」
「八幡と手を繋いだままなら安心できると思うの」
「……ヘスティア様、構いませんか?」
「雪乃君が安心できるというならボクは構わないよ」
「だそうだ。じゃあ、まず俺が脱いで横になるから、そうしたら雪乃も、な」
「……はい」
なにこれ、ベッドの誘いじゃないのにすげえ恥ずかしいんだけど。ヘスティア様も居るし、疚しいことは何もないのに、とにかく恥ずかしいんだけど。
衣擦れの音、パサリと服が床に落ちる音、軽く軋むベッドのスプリングの音。それらが聞こえてきた後で、おもむろに俺の右手に誰かの指が絡められたが、相手が判っているので慌てることなく握り返す。
「大丈夫だ」
「うん」
「いや君たち、【
「でも、痛かったりするんじゃ?」
「君たちは痛くないよ。ボクの【
「そうですか」
「うん。じゃあ、始めるよ」
カチャリと金属質な音がしたので振り返ると、ヘスティア様が針を取り出して自身の指に刺している姿を見てしまった。血玉がぷくっと浮き上がった指先を俺の背中に向けたところで顔の位置を元に戻すと、肩甲骨の下あたりで何かが当たって弾けたような感じがした。おそらく先ほど見たヘスティア様の血だろう。
じわりと背中全体に広がっていく
「………さて、次は雪乃君の番だね」
紙片を手に持ったままヘスティア様が俺から離れて雪乃の方へと移動して、俺のときと同じように太腿の上あたりに跨っていた。再び針を取り出して、俺のときとは違う指に針を刺して、血玉が浮いた指を雪乃の背中に近づけていく。
今度は雪乃の身体が震えたので、先ほどのお返しとばかりに手を握ると、今度は雪乃が視線を合わせてきて小さく頷いた。うん、
「可愛い」
「…恥ずかしいのだけれど」
ぽしょりと言い返されて、声に出ていたことに気が付く。うん、その、悪い。
「………まあ、仕方ないかな」
二枚の紙片を手にして雪乃から離れたヘスティア様は、呆れたようにそうつぶやく。
「身支度を整えてから、先ほどの長椅子に座ってくれ。そのとき、君たちの【ステイタス】を説明をするよ」
「じゃあ雪乃、先に着替えて。俺このままうつぶせになってるから」
「…ではお先に」
手を放して雪乃が身体を起こしたのがわかったので、念のため
居室の長椅子に腰を下ろして手を繋いだところで、先ほどの紙片をそれぞれ俺たちの前に置いてからヘスティア様は口を開いた。
「この紙に君たちの【ステイタス】を書き写してあるので、まずは見てもらおうかな。ああ、数値は【恩恵】を受けたばかりとランクアップ後は皆0スタートだから気にしないでくれたまえよ」
言われたとおりに目の前の紙片を手に取って内容を確認する。
――――――――――
LV1
力:I0 耐久I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0 幸運:I 精癒:I 神秘:I 収納:I
《魔法》
【
・無詠唱で発動可能。
・物品を鑑定する。情報化できる。
・様々なものを測量する。測量の際は対象に触れる必要有り。情報化できる。
《スキル》
【
・物品を亜空間に収納できる。容量は【アビリティ:収納】によって増加する。
・物品を
【
・空間収納内で源素を元にして記憶にある物品を作成できる。ただし世界に適合した
・空間収納内で物品を複製できる。
・空間収納内で物品を解体・精錬できる。
【
・【魔法:鑑定眼】で見たもの・測ったものを情報化して保存できる。
・
【
・早熟する。
・
・愛情の丈により効果上昇。
・雪ノ下・雪乃と【スキル:空間収納】【スキル:記録】を共有する。
・雪ノ下・雪乃と【
――――――――――
異世界転生ではお約束の
「八幡。あなたの
「お、おお。俺も見せてもらっていいか?」
「ええ」
お互いの紙片を交換して内容を確認する。
――――――――――
LV1
力:I0 耐久I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0 幸運:I 精癒:I 神秘:I 収納:I
《魔法》
【
・白銀の毛皮を纏う聖獣に変身する。俊敏になる。
・聖獣化しているときは【
・詠唱魔法「この身を
《スキル》
【
・世界の情報を調べることができる。
・入手した情報は【スキル:記録】に情報化して保存できる。
【
・物品を亜空間に収納できる。容量は【アビリティ:収納】によって増加する。
・物品を
【
・【スキル:知識の泉】で入手した情報を保存できる。
・
【
・早熟する。
・
・愛情の丈により効果上昇。
・比企谷・八幡と【スキル:空間収納】【スキル:記録】を共有する。
・比企谷・八幡と【
――――――――――
うん。雪乃も重かったわ。それにしても聖獣化って何?雪乃の考えそうな白銀の毛皮の獣で俊敏って言えば、猫だろうなあ。猫の姿になっても喋れるのん?知識の泉も見る限りじゃチートっぽいな。
「…お揃いね。空間収納と記録と比翼連理」
「おお、そうだな」
「好きよ」
「俺も、好きだ」
「八幡」
「雪乃」
「はいストップ。いちゃつくのは後にしてくれたまえ」
おっと、今はヘスティア様に説明を受けるところだった。
「コホン。君たちに見てもらったのはそれぞれの【ステイタス】なんだけど、さすがは異世界人というか普通の
「はい。わかりました。他言しません」
「【ファミリア】の奴以外に話す相手なんていないですけど、了解」
「くれぐれも気を付けておくれよ。それでだね、君たちの【スキル】から考えると、二人とも戦闘には向いていないように思えるのだけれど、冒険者になるのかい?」
「俺は素材を集める必要があるので、とりあえず冒険者にはなろうと思っています」
「八幡が冒険者になるなら、私も冒険者になります」
「うん。わかった。ダンジョンへ行くときは、ベル君たちと一緒に行動してくれたまえ」
「了解です」
「とりあえずその
「まあ、【スキル】の考察をしたいので、とりあえず机の引き出しに入れておきますよ」
「そうね。私も机の引き出しに入れておくわ」
「じゃあこれで解散でいいかな。ちょっと疲れちゃったよ。ああ、夕飯のときに皆に君たちの正式加入を伝えるからね」
「わかりました」
「では、失礼します」
ヘスティア様の居室から退出して俺の部屋へと戻り、机の引き出しに紙片を放り込むと、雪乃も手に持っていた紙片を俺の紙片に重ねて入れた。
「八幡が持っていて」
「いいのか?」
「ええ。【知識の泉】は実際に使ってみれば勝手がわかると思うから大丈夫。あなたとお揃いの【スキル】は二人で検証していきましょう」
「そうだな。そうしよう」
引き出しを閉じて二人並んでベッドに腰を下ろすと、雪乃がぎゅっと手を握る力を強くした。
「あなたは私の片翼で、私はあなたの片翼」
「ああ。お互いに、なくてはならない存在だ」
「八幡」
「雪乃」
重いとかそんなことを考えることもなく、俺たちは自然に唇を重ね、お互いの想いを再認識するのであった。