ダンジョンに八雪を求めるのは間違っているだろうか   作:神納 一哉

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5 タケミカヅチとの対話とこれから

「ふむ。ミョウケンか。確かにその名の神は居るが、彼女は天界で星見をしながら優雅に暮らしているはずだ。極東やオラリオ(下界の)子供が知っているはずはないから、ヘスティアが言うようにお前たちは異世界の子供なのだろうな。とは言え、世界を渡るとは興味深い事象だ」

 

「極東にも八百万(やおろず)の神という概念はあるのでしょうか?」

 

「極東と言うか、我ら極東の神々にはそのような概念があるな。子供たちには希薄だが」

 

「そうね。ヘスティア様たちのこともオラリオの人たちは詳しくないみたいですから。そうなると私たちの居た世界(地球)の神話に準拠している神々の居るこの世界は、神々の箱庭の一つであると思っていいのかしら?」

 

「そうだな。そう考えるのがしっくりくるのではないか?お前たちの居た世界は神の箱庭(この世界)の上位世界であると仮定すれば、お前たちが神々(我々)のことを知っているのも納得がいくからな」

 

「そうですか。わかりました。タケミカヅチ様」

 

「いや、構わない。お前たち、その、大丈夫か?」

 

「ある程度は予想していましたので、大丈夫ですよ」

 

「そうか。なかなか強い子供たちだな。俺にできることがあれば力になろう」

 

「はい。何かありましたら頼らせていただきます」

 

「うむ。では俺はこれで失礼させてもらう」

 

雪乃との話を終えてタケミカヅチ様はヘスティア・ファミリアの拠点(ホーム)を退去していった。その背中を見送った後で俺たちは俺の部屋へと入り、ベッドに並んで腰を下ろしている。

 

ヘスティア様の拠点に居候をして一週間が経過した今日、タケミカヅチ様との対話が実現したわけなのだが、タケミカヅチ様との会話の内容は、だいたい俺と雪乃が予想していた通りだった。

 

「地球には帰れないみたいだな」

 

「そうね」

 

「大丈夫か?」

 

「少なからずショックは受けているけれど、あなたが傍にいてくれるから大丈夫。あなたの方こそ、大丈夫かしら?」

 

「………まあ小町に会えないってのは辛いけれど、雪乃が一緒だから大丈夫だと思う」

 

ぼそりとそうつぶやいてから、隣に座る雪乃と目を合わせる。

 

「抱きしめていいか?」

 

「…はい」

 

どちらからともなく立ち上がり、向かい合ってから雪乃の身体をしっかりと抱きしめる。俺の背中に腕を回した雪乃も、俺の肩口に額を押し付けてしがみついてきた。

 

「ヘスティア・ファミリアに入るのはいいんだけど、背中に【神の恩恵(ファルナ)】を刻むってのがちょっと抵抗あるよなあ。ベルとかヴェルフのを見せてもらったけど、ガッツリと描き込まれてるし、アレが雪乃の背中にも刻まれると思うとなあ」

 

「あら。自分の背中に刻まれるのはいいのかしら?」

 

「自分では見れないから、まあいいかと思っている」

 

「それなら私も自分では見れないのだからいいのではないかしら?」

 

「……綺麗なお前の背中に刺青が入るみたいで嫌なんだよ」

 

「私も、八幡の背中に刺青が入るのは嫌なのだけれども」

 

ぽしょりとそうつぶやいた後、雪乃はさらに小さな声でつぶやいた。

 

「八幡ともお揃いだからいいかなって思ってもいるわ」

 

「いや、ヘスティア・ファミリアのメンバーとも同じだからね?」

 

「【ファミリア】ですもの。それは仕方のないことだと思うわ」

 

「…まあ、お前がいいなら、【神の恩恵(ファルナ)】を刻んでもらうってことでOK?」

 

「ええ。ヘスティア様にお願いするのはいつにしましょうか?」

 

「今からでもいいんじゃね。ヘスティア様居るし」

 

「………その前に、やっておきたいことがあるのだけれど」

 

「別に構わないけど」

 

「ありがとう。じゃあ早速、あちらを向いて、上衣を脱いでくれるかしら」

 

言われるまま、抱擁を解除してから壁へと向かい、上衣を脱ぐ。後ろからも衣擦れの音が聞こえてくる気がしたが無視した。

 

「私がいいと言うまで、そちらを向いていなさい。その、まずは【神の恩恵】を刻まれる前のあなたの背中を見ておきたかったのよ。大きくて逞しいのね。ねえ、触ってもいいかしら?」

 

「お、おお。お手柔らかに」

 

「なによそれ。じゃあ失礼するわね」

 

肩に手を置かれたかと思うと、すっと背中の方へと滑り降ろされた。身体が強張ったが、声を出さなかったことを褒めてもらいたい。

 

「ありがとう」

 

「いや、お粗末様でした」

 

「ふふ。何よそれ」

 

小さく笑った後、雪乃は俺から離れていき、少し身じろいだ後で声をかけてきた。

 

「八幡。こちらを向いていいわよ。声を出さないでね」

 

何故そんなことを言うのかわからなかったが、振り返った瞬間にそう言った理由がわかった。

 

そこにはトップレス(上半身裸)で長い髪を前の方に流している雪乃の白い背中があった。髪ブラ+手ブラ状態なのだろうか。衝撃的な姿である。

 

「【神の恩恵】が刻まれる前の背中を見せておきたかったの。あなたが言うように綺麗かしら?」

 

「ああ。綺麗だ。触れてもいいか?」

 

「…いいわよ。私だけ触れるのは不公平ですもの」

 

「では、失礼して」

 

ふと悪戯心が沸き上がった俺は、人差し指で背筋をすっとなぞる様に滑らせた。

 

「ひゃぁん」

 

ビクンと激しく身体を震わせるのと、可愛い悲鳴が雪乃の口から洩れたのはほぼ同時だった。ぺたりと床に座り込んだ雪乃が俺の方を向いてキッと睨んでくる。

 

うん。睨むのはいいけど、自分がどんな格好をしているのか忘れてるよね。ちょっとだけ先っぽ見えてるんだけど。

 

「悪い、ふざけすぎた。とりあえず服着ようぜ、な。」

 

素早く後ろを向いて謝り、服を着ることを促した。雪乃が身支度を整えていることを衣擦れの音で確認しながら、俺も上衣を身に着ける。

 

「八幡、ベッドに座りましょう」

 

「了解」

 

隣り合ってベッドに腰を下ろすと、雪乃は俺の腕を掴んで下から顔を覗き込んできた。

 

「……見た?」

 

「……見た」

 

「……そう」

 

「ああ」

 

「お見苦しいものをお見せしたわね」

 

「いや、正直言うと見惚れた。そのまま押し倒しそうになった。危なかった」

 

「そう。それなら今回は不問にします。ちゃんとそういう対象として見てくれたということなのでしょう?」

 

「何お前、誘ってるの?」

 

エッチな(そういう)ことはまだ早いと思うのだけれど、キスくらいは構わないでしょう?」

 

「いや、上半身裸で迫られたらキスじゃすまないだろ」

 

「あのときはあなたが擽ったから睨んだだけで、別に誘ったわけじゃないのだけれど」

 

「睨んだのを誘いとは思わねえよ。そうじゃなくて『そういう対象として見てくれた』とか言うのが誘ってるんじゃねえかってこと」

 

「あなたが上半身裸で迫られたらって言うからあのときだと思っただけで、不問にしたときに仲直りの印としてキスしたいと思っただけよ」

 

「あー、お互い取り違えていたわけだ。それじゃあ、仲直りの印しておくか?」

 

俺がそう言うと、雪乃は小さく頷いてから目を閉じたので、そのままゆっくりと仲直りをし(唇を重ね)た。


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