ダンジョンに八雪を求めるのは間違っているだろうか   作:神納 一哉

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4 ヘスティア・ファミリアでの日常

ヘスティア・ファミリアの拠点(ホーム)に居候をさせてもらえるようになってから三日目に突入した。

 

俺と雪乃(・・)は2階に隣接する部屋を貰い(借り)受け、ただ飯喰らいになるつもりはなかったので、拠点の掃除は俺が、食事の用意は雪乃が担当することでとりあえずはヘスティア・ファミリアの雑用として置いてもらうことにした。

 

俺たちが来たのはヘスティア・ファミリアが拠点に引っ越してきた当日だったらしいのだが、その割にはどの部屋にも家具が備え付けられていたので、その点については運が良かった。俺たちの格好は冬支度だったが、オラリオ(ここ)は春くらいの気候だったので、コートとセーターはクローゼットに仕舞い込むことになった。もっと言うと今着ている服は、オラリオの街中で見ても違和感のないものになっている。居候が決まった次の日に、ヘスティア様の計らいで、ヘスティア・ファミリアの人たちと共に街へ行き、服や日用雑貨を一通り揃えてもらったのだ。

 

靴も革靴になったし、腰の革帯には短剣が差さっていたりする。地球の服は洗濯した後、コートとセーターと同じようにクローゼットに仕舞い込んだ。靴も同様である。

 

「おはよう。八幡」

 

「おお。おはよう」

 

「名前、呼んでくれないの?」

 

「…おはよう。雪乃」

 

「ふふ。ありがとう。今、用意するわね」

 

食堂のキッチンカウンターでそんな会話をする相手の格好もまた、オラリオに違和感のない服装に身を包んでいた。今日は若草色のワンピースに白い大きめのリボンでポニーテールにしている。可愛い。

 

「八幡殿、雪乃殿、おはようございます」

 

(みこと)さん、おはようございます」

 

「お、おはよう」

 

「今日の朝餉は極東風ですな。いやあ、雪乃殿は料理がお上手でありますな」

 

「いえ。命さんが調理場(キッチン)の使い方を教えてくださったから、こうしてお料理ができるのよ」

 

「いやいやご謙遜を。極東風だけではなく様々な地方の料理も極東風にアレンジして作れるのはなかなかできないことですよ」

 

地球人(先人)の知恵なのだけれど」

 

困ったように眉を顰めてぽしょりとつぶやくと、雪乃は俺の方に助けを求めるような視線を向けてきた。

 

「あー、命さん。飯が冷めちまうからそのくらいで」

 

「おお、これはしたり。すみません雪乃殿」

 

「いえ。では用意しますね」

 

ふう。どうやらうまく助け船を入れられたようだ。

 

「八幡殿、ヘスティア様やベル殿たちは?」

 

「いや、俺も来たばかりだから」

 

「そうでしたか。おや、噂をすれば」

 

ぱたぱたと軽やかな足音が聞こえてきたかと思うと、ヘスティア様が食堂に駆け込んできて、開口一番元気に告げた。

 

「雪乃くーん。おはよう。今日も美味しそうな匂いがするね。ボクのご飯は大盛でお願いするよ」

 

「はい。少しお待ちくださいね」

 

「八幡君、命君、おはよう」

 

「おはようございます、ヘスティア様」

 

「お、おはようございます」

 

「うーん、八幡君は相変わらず固いね。もっとリラックスすることをお勧めするよ」

 

「善処します」

 

「そういうところなんだけどなあ。まあ追々慣れてくれたまえ。おっ、ベルくーん。こっちこっち」

 

「あはは。おはようございます神様、八幡、命さん、雪乃さん」

 

「うん。おはようベル君」

 

「おお、おはようベル」

 

「おはようございますベル殿」

 

「おはようございます、ベルくん」

 

おわかりだろうか。俺が人を名前で呼ぶようになった理由。それはヘスティア・ファミリアのメンバーが名前で呼び合っているからだ。それで必然的に雪乃のことも名前で呼ぶようになって今に至る。

 

「ヴェルフ君はへファイトスのところに用事があると言って出かけて行ったし、リリ君はなんか用事があるとかで出て行ったから、雪乃君も八幡君と一緒にご飯を食べてくれて構わないよ」

 

皆への配膳を終えた雪乃にヘスティア様がそう告げると、雪乃は自分の分の食事を持って俺の隣に腰を下ろした。

 

「おかわりは自分で」

 

そう宣言した命さんが茶碗を持って調理場の奥へと消えていく。てかもう一杯分のご飯食べたの。早くない?まあ雪乃のご飯は美味しいから仕方ないね。

 

「この煮物、旨いな」

 

「ありがとう。鰈みたいなお魚を煮てみたのだけれど、お口に合って良かったわ」

 

「それにこの卵焼きも俺好みだ」

 

「ふふ。あなた、甘いのが好きだものね」

 

「それにこの漬物が箸休めにちょうどいいな」

 

「簡単な浅漬けなのだけれど」

 

「まあなんていうか、雪乃の料理は旨いってこと」

 

「ふふ。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

雪乃と一緒に食事をしている向こうで、ヘスティア様たちが何かを話していたが気にしないことにした。

 

「………完全に二人の世界に入っちゃってるね」

 

「まあ、あの二人は恋人同士(カップル)だからいいんじゃないですか」

 

「それはそうだけど。よし、ベル君。ボクたちも対抗してイチャイチャしようぜ!」

 

「神様!?別に僕たちは恋人ってわけじゃないですからね。ご飯は普通に食べましょうよ」

 

「いけずだなあ。ベル君は。そう思わないかい?命君」

 

おかわりをして戻ってきている命にヘスティアが話を振ると、そこには卵焼きを箸で突きながらニヤニヤと笑っている少女()の姿があった。妄想で顔が崩れまくりである。人には見せていけない顔であった。

 

「……はぁ。自分もあんな風にタケミカヅチ様と一緒に食事がしてみたい。あーんとかしちゃったりして『命の料理は最高だな』なんて言われちゃったり」

 

「命くーん!?」

 

「あはは。命さんも自分の世界に入っちゃったみたいですね」

 

とりあえず見なかったことにしようと、少年(ベル)はそそくさと食事を済ませ、食器を洗い場に持って行くのであった。

 

ちなみに、八幡たち(バカップル)は二人だけの世界をつくり、ゆっくりと食事を楽しんでいたのであった。

 


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