ダンジョンに八雪を求めるのは間違っているだろうか   作:神納 一哉

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11 魔法の検証

自分の部屋に戻ろうとして、ヘスティア様に渡した薬の瓶に刻印を入れ忘れたことを思い出したので、雪乃に断ってからヘスティア様の居室へと戻り、相変わらず呆けているヘスティア様に薬の在処(ありか)を聞いて、刻印入りのものと交換した。

 

「ヘスティア様。まだ先の話ですけど、竈火の店、手伝ってくれませんか?」

 

「どういうことだい?」

 

「いや、ヘスティア様って今バイトしてますよね?竈火の店が出来たらバイトを止めて、竈火の店の店番をしてくれませんか?」

 

その方が受け取りやすいでしょう?とは口にせず、店番をしてほしいと頼んでおく。

 

「それとも、自分の眷族(こども)の店を手伝うのは嫌ですか?」

 

「そんなことはないさ。わかった。竈火の店が開店したら、ボクもお手伝いしようじゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

上手く勧誘できたので、気が変わらないうちにヘスティア様の居室から退室して自分の部屋に戻ると、部屋の中には雪乃と命さんとリリルカが待っていた。

 

「八幡、この二人にも測量をして、下着類とスニーカー(一式)作ってあげて」

 

「了解。命さんとリリルカ、悪いが手を握るか、肩を触るかさせてもらうぞ」

 

「自分は握手で構いません」

 

「私も握手でいいですよ」

 

本人の許可が出たのでそれぞれと握手をして測量をし、三人は雪乃の部屋へと移動するのを見送って空間収納にそれぞれの物を作り、予備も含めて入れておく。

 

「八幡。生理用品(ナプキン)を20枚と、空間収納に入れてある命さんの着物一式を複製してくれるかしら?」

 

「了解。このあと靴の履き心地の確認とかも兼ねて、迷宮(ダンジョン)に連れて行ってもらわないか?ああ、迷宮なら登山靴の方がいいか?」

 

「登山靴より歩きやすいからスニーカーでいいと思うわ。でも、どうして迷宮に?」

 

「魔源素は迷宮産の素材や魔物からじゃないと手に入らないみたいだし、雪乃の魔法を確認したい。命さんがいれば一階層なら大丈夫だろ?」

 

「そういうことね。いいわ。私も魔法を試してみたかったから」

 

命さんの着物の襦袢って、下着だよな。あとサラシもあるし…。深く考えないでおこう。足袋と草履もあるから靴下も作っておかないといけないな。ついでにリリルカの靴下も作っておこう。

 

「雪乃も着物一式作っておくか?」

 

「そうね。余裕があればお願いするわ。では私は命さんとリリルカさんに迷宮に連れて行ってくれるか聞いてくるわね。迷宮に行けるようだったら迎えに来るわ」

 

「ああ。わかった」

 

女性陣は全員分作ったから、不公平にならないようヴェルフとベルのスニーカーも作り、ついでに靴下と下着類も作っておく。

 

雪乃が呼びに来たので、断りを入れてから玄関に向かう前にベルの部屋に行って作ったものを渡し、鍛冶場に寄ってヴェルフにも渡してから外門へと向かう。俺と雪乃は念のため深緑色(お揃い)のフード付きローブを身に着けている。

 

「いきなりで悪いな」

 

「いえ。この靴とか(・・)を試してみたいので問題ないですよ」

 

「まあ一階層でいいから、よろしく頼む」

 

命さんと会話をした後、雪乃に左手を引っ張られる。そのまま手を握り返し、二人並んで迷宮へと向かった。

 

「昼過ぎだから、ほとんど人が居ませんね」

 

「一階層ですからね。魔物も少ないし、旨味がありませんから」

 

「まあ、俺にとっては素材の宝庫なんだけどな」

 

適当に二人で岩を回収しながら迷宮内を歩く。しばらく奥に入ったところで、5mくらい先の壁が不自然に歪みだすのが見えた。

 

「ゴブリンです。数は3」

 

リリルカが敵の数を伝え、命さんが刀を抜いたところで、俺が雪乃の手を握ると、それに応えるように握り返してくる。

 

「守護を司る優しくも猛き獣よ、我が召喚に応えたまえ。顕現せよ。守護獣召喚。(アエイ・パン・キリシィ)

 

俺たちの前の地面に魔方陣が現れ、そこから白と黒の守護獣(パンさん)が顕現したかと思うと、素早い動きでゴブリンをその爪で切り裂いていく。あっという間に3匹とも倒すと、雪乃へと近づいて跪いた。

 

「は、八幡。あれ、怒っているのかしら?」

 

「いやどう見てもお前に服従しているだろ。守れって命令すればいいんじゃね?お前の召喚獣だし。俺、ゴブリン回収してくるから」

 

「待って八幡、パンさん。あの魔物の灰と魔石、回収してきてくれるかしら?今度から戦闘後は、同じように回収して頂戴」

 

雪乃が命令すると、パンさんは判ったと言うように右手を挙げ、魔物の灰と魔石に手を翳して回収していく。空間収納を確認すると、ゴブリンと魔石Gが3づつ増えていた。

 

パンさん(あいつ)も空間収納使えるのかよ」

 

「私の守護獣だから使えるのではないかと思ったから頼んでみたのだけれど、予想通りで良かったわ。有能ね。パンさん」

 

「一回の戦闘で帰っちゃうわけじゃないんだな。魔力は辛くないか?」

 

「ええ、今のところは大丈夫よ。パンさんに抱き着いてもいいのかしら?」

 

「俺が嫉妬しちゃうからダメ」

 

「ペットを可愛がるのと同じことなのだけれど」

 

「目つきが俺に似てるからダメ」

 

「ふふっ。わかったわ嫉妬(がや)くん」

 

「おお。久しぶりに聞いたな、その苗字弄り」

 

「……私たち、何を見せられているんでしょう?」

 

「お二人の仲がいいのは判っていましたが、ここまでとは。ここ迷宮の中なんですけど」

 

「「ごめんなさい」」

 

命さんとリリルカに二人で謝ったところで、再び壁が歪む。

 

「再び、ゴブリン3」

 

白黒の獣が難無く処理をしてくれたので、俺は歪みが生じた壁に近づいていき、その壁を周りごと収納する。

 

「こうしておけば、暫くは魔物は湧かなくなるのだろう?」

 

「壁を破壊するってレベルを超えているような気がするのですが」

 

「そうでもないみたいですよ。ほら、下の方から少しづつ修正されてきているから、迷宮の修復は働いているのでしょう」

 

「来るときに岩を回収したところも、修復されるまでは魔物が沸かないのか?」

 

「あの辺は魔物は湧かない場所ですよ。それでも壊したら迷宮は修復しますけれど」

 

「迷宮自体が生物みたいだな」

 

「魔物を生み出すので、あながち間違いではないかもしれませんね」

 

「それで、どうしますか?雪乃様の魔法も検証できましたけど」

 

「修復するのがわかったから、もう少し素材を回収してから帰ろうと思う。雪乃も召喚獣(パンさん)の検証をしているし」

 

「パンさん、あちらの壁を収納してきてくれるかしら?私はこの岩を収納するから」

 

雪乃の命令どおり、パンさんは壁を空間収納に回収する。思っていた以上に有能なようだ。

 

それから30分ほど素材回収に費やしてから召喚獣を還して、俺たちは地上へと戻った。ギルドで命さんとリリルカ(二人)とは別れ、雪乃と手を繋いでギルドの受付カウンターへと向かい、白金貨12枚を銀貨100枚、銅貨190枚、青銅貨100枚に両替してもらう。ギルドではマジックバックで硬貨を数えているようで、両替はスムーズだった。そのうち鍛冶神様たちにもその方法を教えてあげるとしよう。

 

それからディアンケヒト・ファミリアの店舗に向かい、薬草類をいくつか買い取ってもらう。素材ランクAだけあって、なかなかいい値段(75000ヴァリス)になった。鑑定眼で適正価格が判るのはありがたい。

 

ディアンケヒト・ファミリアの店舗の次は、元高級レストランの建物の前へと歩いていく。

 

「ここを店にしようと考えているんだが、元高級レストランで大きな厨房もあるみたいだから、軽い軽食とかも出せる雑貨屋をやろうと思っているんだがどう思う?」

 

「二階はどうするの?」

 

「二階は居住スペースらしいから、使う予定はないかな」

 

「そう。私は竈火の館(ホーム)を出て、二人で暮らすのかと思っていたのだけれど」

 

「いや、俺ら戦闘力無いから、もうしばらくは竈火の館の方が安全だと思うのだが」

 

商店街(ここ)の治安は良さそうだけど?」

 

「まあ、ここに住むにしても、改装してからだから、当分先になるけどな」

 

「楽しみにしているわ」

 

「いい笑顔でそう言われてしまうと、俺も同棲前提で話を勧めちゃうけど構わないのん?」

 

「どうせ日本には戻れないのだから、早く家族になりましょう」

 

「ああ、うん。愛してる。雪乃」

 

「私も愛してるわ。八幡」

 

購入予定の物件の前で何やってんだろう。てか、さらっと雪乃に心を読まれた気がするんだが。

 

「あなた、口に出てたわよ」

 

「マジ?恥ずかしい」

 

「私の方が恥ずかしいことを言ったと思うのだけれど」

 

「まあお互い様ってことで」

 

「そうね」

 

「さてと、じゃあ今日のところは竈火の館(ホーム)へ帰りますか」

 

「もう少し街の様子を見て回りたいわ」

 

「じゃあヘルメス様の拠点(ホーム)を探してみるか。神様からの紹介状もあるし。ヘルメス様のエンブレムは、翼の付いた旅行帽と靴だったな。『旅人の宿』ってことは、ヘルメス・ファミリアって宿屋でもやっているのか?」

 

「拠点の名称がそうだからって、お店をやっているとは限らないわよ」

 

「そういうものかねえ」

 

「フフ、今回に関してはそちらのお嬢さんの言葉が正しいね」

 

後ろからいきなり声をかけられたので、雪乃を庇いつつ後ろへと下がる。帽子を被った金髪のチャラそうな男がニヤケ面をこちらに向けていた。

 

「そんなに警戒しないでくれよ」

 

「いや、それ無理」

 

「ひっどいなあ。オレ、そんなに信用できないかぁ?これでも神なんだけどなぁ」

 

「あー、神様はもう間に合ってますんでお構いなく」

 

「そんなこと言っちゃう?オレ、『旅人の宿』のオーナーだけど?」

 

「…神様たちが信用するなって言ってた意味が分かった気がする。あいにくと用事があるのはヘルメス様じゃなくて団長様の方ですので。あ、『旅人の宿』の場所だけ教えてくれると助かります」

 

「その神様たちって誰と誰よ?ちょっと教えてみ?少年」

 

「鍛冶神様ですけど」

 

「あー、ヘファイストスとゴブニュかぁ。ってことは、少年は鍛冶師?細工師?それともうちのアスフィー君と同じ魔道具作成者(アイテムメイカー)?」

 

「えーっと、他神(たにん)眷族(こども)にちょっかいを出すのは(まず)いんじゃないですか?」

 

「いやだなあ、ただの世間話じゃないか」

 

「あー、すみません。主神からもヘルメス様(あなた)には注意しろって言われてるんで、失礼します」

 

君子危うきに近寄らず。とっとと撤退するに限る。

 

「いいのかい?眷族(うちの子)に君には関わらないように伝えるよ?」

 

「別にいいですよ。取引先が一つ減るだけですから」

 

そう言い残し、雪乃の手を引いてヘルメス様(チャラ男)から離れると、嫌だったが人ごみに紛れるため、わざと通りの真ん中へと向かって歩いていく。もちろん細心の注意を払って人とはぶつからないようにしながらだ。だいぶ人ごみに紛れたところで、ヘルメス様が着いてきていないことを確認して歩く速度を緩めた。

 

竈火の館(ホーム)へ戻ったら、光学迷彩ローブとか作れるか試してみよう。会ってみてわかったけど、友好的じゃない他神(たにん)とは関わらない方がよさそうだ。怖すぎる」

 

「光学迷彩ローブは良いかもしれないけれど、気配察知とかのスキルを持っている人には効かないんじゃないかしら?」

 

「あー、それなら気配遮断の方がいいのか。背景に紛れるってのも完全には無理だし、光学迷彩だと違和感を感じ取った奴から問答無用で攻撃されそうだしな」

 

「そうね。物を隠すだけなら光学迷彩でいいのかもしれないけれど」

 

「光学迷彩は大きいシートみたいなのを作ってみるか。気配遮断はローブでいいよな?」

 

「あら。作るのは確定なの?」

 

「なんとなくだが、できそうな気がする」

 

「もしそういったものが作れるとしたら、概念だけで物を作ることができるのだから、魔力を弾にした銃とかも作れるのではないかしら?」

 

「おお。そういうのもあるな。よし、とりあえず竈火の館(ホーム)へ戻るとしよう。やべえ、テンション上がってきた」

 

「ええ。帰りましょう。ふふ。目が輝いている八幡なんて珍しいものを見られたわ」

 

だってファンタジーなアイテムが作れるかもしれないんだぜ。ワクワクしちまうのは男の(さが)ってものだろうよ。

 

それよりも驚いたのは、雪乃がファンタジー武器(魔導銃)を知っていたことなんだけどな。


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