異世界へようこそ   作:亀さま

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異世界召喚は――――――――いつ召喚されるのかは分からない。

明日?いや、今、この時かもしれない。

誰にも予測不可能―――――――それが―――



異世界召喚――――――――――


第一章『アルドリア国』
異世界へようこそ


「 あなたなんて!死ねば良いのよ!あなたさえ居なければ!エレンは・・・!エレンは死ななく

 

 壮大な屋敷のリビングに響き渡る女性の声――――

 

 その女性は、装飾が豪華なナイフを持ち、美しく艶やか銀髪を振り乱し、実の娘アリアを殺そうと近づいていた。

 

「 や、やめて・・・・やめて・・・お母様・・・・エ、エレンは・・・・!エレンは私が殺したんじゃない・・・・!」

 

 

 側に横たわるのは、アリアの妹エレンだ。その身体からは大量の血が流れ、豪華絢爛な絨毯を赤く染める。既に息はなく、その返り血を浴びたアリアが、エレンを殺したと判断した母は仇と称し、アリアを今から殺そうとしていた。

 

「 じゃあ、その血は何!?アリア!どうしてこんな事をしたの!エレンの何が気に入らなかったのよ! 」

 

「 ち、違うわ!い、いきなり!エレンの身体が!空中で引き裂かれたのよ! 」

 

「 嘘を言わないで!貴方が!魔力を使って殺したのよ!エレンを!エレンを返してよ! 」

 

 

 事の始まりは数時間前へと遡る―――――

 

 

 

 自宅ベネストロ屋敷でアリアとエレンは、普段通り人形遊びをしていた。

  アリアが紫色のドレスを纏った姉役の人形を持ち、エレンが赤色のドレスの妹役の人形を持って二人で人形遊びをしている。

 その微笑ましい光景を母のリアスは口許に笑みを浮かべながら、見ていた。

 

「ふふっ、人形遊びは毎回役が違うのね。今回はアリアがお姉さん役でエレンが妹役なのね。微笑ましいわ」

 

  メイドに入れさせた最高級茶葉の香りを楽しみながら、リアスは紅茶を喉へと流し込む。アールグレイ独特の香りと、砂糖の甘さが広がり、リアスは至福の時を堪能していた。

 

 悲劇が起きたのはその数秒後――――

 

「ぎゃあああああああああ!! 」

 

  突然、アリアの背後から伸びた漆黒の腕が、妹のエレンの身体を一瞬で引き裂いた。頭から股まで真っ二つに裂かれた身体からは、腸と血飛沫が沸き上がる。リアスは突然の娘の死に発狂し、取り乱した。

 

 

 地面にグシャリと、肉片へと変わり果てた娘が落ちる。

 

 突然、エレンが殺された――――――――

 

 愛しい愛娘が―――――――――

 

 アリアから伸びた手によって――――――

 

「・・・・・・アリアっ・・・・・・! 」

 

  リアスは、テーブルにセッティングされたナイフを握りしめると、美麗な顔を憤怒の顔へと変身させ、美しい銀髪を振り乱し、一歩、一歩、アリアへと近づいた。母の豹変ぶりにアリアは逃げようと、尻伝いで母 リアスから距離を取る。

 

 私は・・・・エレンを殺してなんていない・・・!

 信じてお母さん――――――――!!

 私は! エレンを殺してない――――――!!

 

 

  悲痛な叫びを母に伝えたいが、恐怖で声が出ない。

 

  そんなアリアに容赦なく迫るリアス。

  もう少しで刃が届く距離までリアスが躊躇ない前進で迫る。もう、その姿は、優しい母の欠片などなくただ、ひたすら愛娘を憎む『鬼女』と化していた。

 

「 死んで―――アリア!! 死んで! 死んで! 死んで!死んで! 死んで!死んで!」

「や、やめて! お母さん!! 」

 

  逃げるしか術が無いアリアを追い詰め、大振りにナイフを振るう。そのナイフは、避けようと身を反らした際に揺れた、長髪銀髪の一部を容赦なく切り落とす。おびただしい量の銀髪が、リビングを美しく舞った。

 

「髪が―――――――!!」

 

  幼少の頃から伸ばし続けた誰もが、羨む銀髪。

  それを実の母親に切られた―――――もっとも残酷な方法で――

 

 

 ―――――大切な髪を―――――

 

 

  髪を切られた事によるショックで、アリアは脱力してしまい、地面へとへたる。

  早く!早く!立て!と、脳内が危険信号を発信させるが、立ちたくとも、手足が動かない。早く!早く!第二追撃が来るぞ!そしたら殺されるぞ!脳が煩いくらい警鐘を鳴らしまくるが、今のアリアは立つこともできない。

 

  その間隙をリアスは逃すワケもなく、アリアの胸ぐらを掴み、そして、引き上げた。半場、無抵抗状態で、空中へと上げられたアリア。その目からは『生気』と言う二文字が、全く感じられない。

  そうだ、リアスはコレを待っていた。最初の一振りは、アリアを殺す一振りなのではない。アリアの髪を殺すための一振りだ。(・・・・・・・・・・)

 

  女の髪は命よりも大事――――――

 

  そうリアスは教えてきた。小さい頃からずっと二人に。女の髪は命よりも大事と――――アリアは幼少の頃から髪を伸ばし、ブラッシングの手入れも怠った事は一度もなく、そして、生まれたのが、女子なら誰もが羨む長髪銀髪だ。

  そんな命よりも大切な髪を実母リアスに殺された。腰まで伸びていた銀髪は胸下まで段々に切り落とされ、今では、みすぼらしい。

 

  生気を吸いとられたアリアはもう、殺されても良いと思ってしまい、抵抗も何もしなかった。空中へと引き上げたアリアの喉笛へとナイフを宛がうと―――――

 

 

 躊躇なく、切り裂いた―――――――

 

 シャンデリアが照らすリビングに似つかわしくない鮮血が大量に飛び散る―――――――

 

 血をこぼすアリアの身体がグラリと、大きく揺れ、ゆっくり地面へと倒れた。

 

 

 ああ、死ぬんだ・・・・・・・私・・・・

 瞼が・・・・・重くなってゆく・・・・

 血が・・・・・失われていく・・・・・これが・・・・・死・・・・なの・・・・・

 死んだら・・・地獄・・・・なのかな?それとも・・・天国・・・・なのかな・・・・?

 

 

  血まみれのリアスが、鼻息を荒くして死にかけのアリアを睨む。血が溢れてゆく、視界が眩む。手足の感覚が無くなってゆく、ゆっくり、ゆっくり、熱が失われてゆき、心臓が停止へと向かう。

 

  すでに、アリアの身体からは既に熱が失われていた。

 

 残るは、実母リアスの罵声―――――――

 

 それも段々と遠ざかってゆく――――――

 

「・・・・・・・が・・・・・の・・・・・よ!!」

 

 お母さんが何か言ってる・・・・・私に・・・

 

 聞こえないよ・・・・・・なに・・・・?

 

 視界が眩む。先程よりも瞼が下がってくる。

 

 沈む身体・・・・血が失われて行く・・・・

 

 遂に、僅かに動いていた心臓さえもその機能を停止させる。

 

 ゆっくりと閉じられたアリアの瞳――――――

 

 この瞬間――――――

 

 アリア・ベネストロ 17歳の短い生涯に幕が閉じられた―――――――

 

 ああ・・・・・・・私は・・・・死んだんだ・・・

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「・・・・・・・ろ・・・・・」

 

  暗闇の中。誰かが自分の身体を揺らし、声をかけてる。瞼が重く、とても、開けて相手を確認する事などままならない。

  身体を揺らす人物は声は低く、男性だ。分析してみると、たぶん、同い年ぐらいの男子。だが、その声は、芯が強く、のびのびとしっかりしていて、とても17歳とは思えない。

 

  しばらくして、身体に何かが、フワリとかけられた。その物は暖かく、外気に晒され、冷えきったアリアの身体を暖める。

 

  温暖に身を委ね、眠り続けるアリアの銀髪をサラリと一撫ですると、豪華な装飾が施されたロングソートを石畳の階段へと置くと、その横に座り、紙袋から赤く、丸い果実を取り出し、食べ始めた。

 

 

  薄暗い路地裏には、シャクシャクと、果物を食す音だけが響く。耳をすませると、ほんの僅かだがアリアの寝息が、規則正しく聞こえる。少年は、丸い果実を食べながらアリアを一瞥。紙袋から今度はグリーンイエローの果実を取り出し、寝ているアリアの側へと投げた。が、手元が狂ってしまい、頭部に激突した。

 

 ヤバイ、起きる―――――――

 

  ゴツ!っと痛そうな激突音に、アリアが起きると、身構えた少年だったが、数秒後、再び、寝息が聞こえてきたため、安堵に胸を撫で下ろした。

 

 かれこれ20分経つが、アリアは一向に起きない。

 

「死んではいないけどな」

 

  あまりにも起きないアリアを心配した少年は、石畳の階段から下り、数歩離れた場所に眠るアリアへと、近づき、再度、身体を揺らす。すると、「んんっ」と小さく呻き、眉根を寄せ、身体の向きを仰向けへと変えた。

 

 

 なんだ、寝返りをうっただけかよ・・・・

 でも、コイツはどこから来たんだ?

 銀髪・・・・・・・・・

 

「魔女の(たぐい)いか?」

 

 この国では銀髪は魔女の類いとされてきた。少年は、もし魔女だった時の事を考え、尋問も兼ね、石畳の階段で持ち主の帰りを待つロングソードを手に取り、アリアへと再び、戻った。

 

 魔女なら殺せばイイ。

 

「んんっ・・・・・・・・」

 

 

  短調の唸り声と共に、重たい瞼が開き、捕らえたのは薄暗い路地裏。

  明らかに景色が屋敷とは360度違う。

 

 ここは、ドコ――――――――?

 

「目が覚めたか」

「・・・・・・?」

 

  先程と、同じ男の声が聞こえてくる。

 

 この人が、私の側に居てくれたんだ・・・・

 感謝しなきゃ・・・・・

 

  被せられていた毛布をゆっくりと退け、声がする方へと身体を向けて正座した。

 

「あ、あの、助けていただいてありがとうございます。私は、アリア・べネストロと申します」

 

  頭を深く下げ、感謝の言葉を述べる。その挨拶に一瞬、少年は固まったが、数秒後、石畳の階段から下り、頭を下げるアリアへと、近づき、しゃがみ込む。ちょうどアリアが顔を上げれば、顔と顔が向き合う距離。きっと、男性慣していないアリアは、その距離に赤面するだろう。

 

  顔を上げた瞬間、少年の顔が間近にあり、アリアは赤面した。対する少年は、無表情でアリアを見下ろす。

 

 どこか、冷たい視線―――――――

 

「ラ・ディデルエルビアン」

「?」

「復唱しろ」

「ラ?ディデル?エルビアン?」

 

  突然、謎の呪文?の様なものを唱え始めた少年に復唱を促されたアリアは、意味も分からず、その言葉を疑問系に呟いた。

 

  数分後――――――何も起こらないと、この目で確認した青年は、自分の側にロングソードを置き、再び腰を折り、アリアを見つめる。

  男性慣していないアリアには赤面の一言しかない。対する少年は、表情一つ変えないでアリアを見つめた。

 

 そして――――――――

 

「俺の名前はリカルドだ。どうやらお前は魔女の類いではないみたいだな 」

「ま、魔女っ!? そんなワケありません! 」

「それを証明するためにさっきの呪文を唱えてもらった。魔女の類いならあの呪文を唱えた時点で漆黒の闇へと辺りを変えることができる。だが、お前が唱えても闇には変わらなかった。だからお前は魔女の類いではない」

 

  リカルドと名乗る少年は、魔女印の呪文をわざと、アリアに唱えさせ、その素性を調べたのだ。結果、アリアは魔女ではなく、その疑いはすぐさま晴れた。

  疑いが晴れたアリアは胸を撫で下ろし、ホッと小さくため息を吐く。

 

 魔女なんかにされたら嫌よ・・・・

 私はアリア、魔女じゃない。

 それにしてもこの人、目付き悪くて怖い・・・

 

  「お前はドコから来たんだ? 見慣れない顔で銀髪 」

「わ、私は日本と言う、小さな島国から来ました 」

「エルデリカ出身か? あそこは以外と古風な連中が居るからな 」

 

 ど、どうしよう・・・・なんか、日本と違う国を言われてしまった・・・・

 ど、どう伝えたら良いのかな?

 

「え、エルデリカではなく、日本です。リカルドさんはご存知ないですか? 」

「フレデリアなら知っているが、そのニホン?と言うところは知らん 」

「そ、そうですか・・・・・」

 

 やっぱり、日本ってこの国には無いんだ・・・・

 そのフレデリア?って言う所は知らないけど・・・・

 それより、これから私、どうしたら良いのかな?

 

  「わ、私、そろそろ、行きますね。リカルドさん助けていただき、ありがとうございます 」

 

  綺麗に畳んだ毛布を自分の横へと置き、立ち上がろうとした瞬間、リカルドによって身体を大きく逸らされた。

 

 地面へと、互いに転がる――――――

 

 幸いにも、リカルドが覆い被さり、怪我はしなかったが、今の体制はアリアには赤面する状態である。しかも、リカルドが背後から密着していて、ちょうど顎が頭上に乗せられている体勢だからだ。

 

「り、リカルドさん//// 」

「大人しくしろ。お前、死ぬ所だったぞ」

「え!?」

 

 突然、出現した『死』と言う物騒な言葉――――

 

 その言葉に一瞬、嫌悪を抱いたが、数分後、そのことばが使用された意味が分かった。

 

「グゲルゲゲ! 」

「な、何!? 」

「ゴブリンだ! 伏せろ! 」

 

 キイイイイイン ! !

 

 謎の発音と、共に耳をつんざく様な剣撃が路地裏に響いた―――――

 

「な、な、何? 」

 

  襲撃者の姿は、ゴリラをより凶暴化させた顔、鋭く尖った耳、ギザギザの牙、肌の色は真緑。一言で片付けると、気持ち悪い生物だ。

  その生物は長く伸びたレイピアでアリアの首を跳ねようとしたが、それに気づいたリカルドによって防がれてしまった。

 

「グゲゲババババ!!」

 

  邪魔立てをされたゴブリンが怒叫(どきょう)する。

 

「下がれ、アリア、ここは剣士の俺に任せろ 」

 

  相手はゴブリン8体。リカルドは、鞘から銀色に光る宝剣を抜き放つと、アリアを背にゴブリンへと走り、距離を詰め、刃を高く振り上げた。

 

 




読んでいただきありがとうございます。
まず、リカルドをやっと登場させれました!(長かったー!)
電車の中や通学中に頭の中でイメージを最大限に膨らまし、忘れぬ様にと『メモアプリ』を開き、スマホに打ち込み、そこからストーリーへと仕上げる。(意外と大変)
何度か保存を繰り返し今日、やっとこの作品を地上へ送り出す事ができました!

さて、長文はここまでに、また二話で会いましょう――――

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