取り残された軍人と潜水艦   作:菜音

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今日はこの作品の投稿してから一周年です。
皆様に愛されて本編へと昇格したこの作品、連載は終わってますが事あるこどにエクストラ回を投稿させていただきますのでこれからもよろしくお願いいたします。

また、この話のその後を書いた続編「生き残った軍人と潜水艦」も連載中なので是非とも読んでみて下さい。



潜水艦達とHappy birthday

 

 

とある日に海猫荘の使われていない客室の一つに潜水艦達はひっそりと集まっていた。

 

「カナお姉、こんな所に集めて何かする?」

 

ソラとマシロは彼女らを呼び出した長女に理由を尋ねる。しかし、カナは伊達眼鏡でイスに座り机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきている。

 

これは確か前にマスターと見たアニメであったゲンドウポーズと呼ばれるものだろう、さっそく影響を受けてるなぁ、とマシロは思った。

 

 

「二人とも席について。話はそれからよ。」

 

「ハーイ!」

 

「カナ姉さん‥‥」

 

二人が席に着くとカナは口を開いた。と言ってもゲンドウポーズのせいで口元は見えないのだが。

 

 

「二人に集まってもらったのは他でもない。」

 

「わぁ、なんか会議ってぽい!」

 

「ソラ、少し静かにね。」

 

「ご、ごめんね。」

 

「実はね。この前本を読んでたんだけど人間の風習でね、その人が生まれた日付にその人が生まれた事を祝う儀式があるらしいの。」

 

「その人の誕生を祝う日か‥‥なんだかロマンチックね。」

 

「楽しそうな儀式だねマシロちゃん。」

 

「誕生日って言うらしいよ。」

 

 

人類には、特に成人ではない者にとっては一年で最もめでたい日であり、楽しみにしている子もいるだろう。もはや馴染みのありすぎるこの行事ではあるが、深海棲艦にはこのような習慣はない。

 

「誕生日か‥‥私達っていつ生まれたのだろう‥‥」

 

マシロはふと考えてしまう。

彼女がずっと悩み続けていること、自分は何者でいつどこで生まれたのか。

 

どのようにして生まれたかしか知らない彼女の、いや生まれなんて知らなければこんな事に悩みことなんてなかっただろう。知ってしまったからこそ気になって仕方がない。

 

 

「マシロちゃん、大丈夫?」

 

マシロが考え事をはじめたため表情が固くなっていた。それを見たカナが心配になり聞いてきた。

 

「うん‥‥大丈夫だよ。それで、その誕生日がどうしたのかしら?」

 

「実はね、この前マスターの生まれた日を知っちゃったんだ。もうすぐその日だから、みんなでマスターを祝ってあげようよ。」

 

「いいアイデアだよカナお姉!」

 

「日頃の感謝を込めてだね。」

 

二人ともカナの提案に賛成だった。

 

 

「じゃあ私達でもマスターの誕生日を祝う事で決まりだね♪」

 

「わーい♪」

 

「ねぇカナ姉さん。」

 

「なにマシロちゃん?」

 

「誕生日って何するの?」

 

「え?えーっとー。」

 

 

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「ふむふむ、なるほど!」

 

カナはマスターが愛読していたマンガの誕生日の回を読んだ。

 

「これによるとね、誕生日ってプレゼントとケーキを用意するものらしいよ。あと当人に内緒に準備してびっくりさせるのが作法らしい。」

 

「必要なものはプレゼントとケーキ、あとは会場かな。」

 

マシロがカナの説明をもとにメモを書いていく。

 

 

「さてと、必要なものが分かったところで役割分担しようか。」

 

「会場は後で皆でやるとして、カナ姉さんはプレゼントをお願い。私がケーキを用意する。」

 

「え?良いのマシロちゃん?」

 

「だって、一番マスターと付き合いが長いのはカナ姉さんでしょう?なら、カナ姉さんが適任でしょ?」

 

「うん!わかった!」

 

「ねえ?私は?私は?」

 

一人余ってしまったソラ。

 

 

「ソラには大丈夫な役目があるよ。」

 

「何!何!何でもやる!」

 

「ソラちゃんは、マスターにこっちの準備がバレない様にどこかにつれ回して来て。」

 

「うん♪」

 

「はいそれじゃあ役割が決まった所で、ドッキリ作戦開始!」

 

「はーい!」

 

「ヒヒヒッ♪」

 

 

 

 

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次の日の朝

 

作戦当日である。

 

 

「ご馳走さまでした。」

 

「「「ご馳走さまでした。」」」

 

 

いつも通り皆で朝食を食べた。

このあとは軍人と皆で食器を洗い、それから何をするのか話をするのだが‥‥

 

「マスター、今日は私が一人でやるね。」

 

「いや悪いよマシロ。」

 

「いいのいいの。たまにはゆっくりしてよ。」

 

「そう?じゃあお言葉に甘えて。」

 

「うん、じゃあしばらく台所に入らないでね。」

 

 

(よしっ!)

 

カナ達は小さくガッツポーズ。

まずは作戦の第一段階はクリアした。

 

 

「ね、ねえ?マスターは今日はなにするの?」

 

ソラマスターに尋ねた。

 

「うん?そうだねぇ‥‥。特に何も考えてない。」

 

「そう!なら砂浜の奥を探検したい!」

 

砂浜‥‥

 

あの水泳の特訓をした港から離れた場所にある所だが、実はそこから先にはマスターでさえ行ったことがなく、前にソラが好奇心から行きたいと言っていたが先送りされていたのだ。

 

 

「ダメ?」

 

「うーん、まぁいいよ。」

 

「本当に?やったー!」

 

よしっ!これで第二段階、マスターを引き離すはクリア。カナはそっとソラに耳打ちした。

 

「いい?できるだけ時間を稼ぐのよ?」

 

「うん、でもどうすれば?」

 

「‥‥たくさん楽しんで来なさい。」

 

「それならできる♪」

 

 

 

「それじゃあ行きますか。カナも行くか?」

 

「ううん、今日は別の用事が‥‥」

 

「そうか。なら留守を頼んだぞ。」

 

「うん♪任せて。」

 

 

マスターがソラを連れて出掛けていった。

マスター達が完全に見えなくなったのを確認するとカナはマシロに合図する。

 

「マシロちゃん、私も行くよ。」

 

「うん、なるべく早くね。この後部屋の飾り付けをしないとだから。」

 

「わかった!」

 

 

これで作戦の第三段階、カナはプレゼントを探しに町へと出掛けて、マシロは台所でケーキ作りを始めた。

 

 

 

「昨日は簡単に引き受けちゃったけど、多分一番大変なのはケーキだね。」

 

マシロは調理道具を出した。

続いてケーキの材料だが、これが難題だった。

 

 

 

「ケーキって卵とか牛乳とか使う食べ物らしいし、あの絵にあったケーキについてるクリームってやつ、レシピを見たけど材料がないんだよね。」

 

この島に新鮮な乳製品などはない。

 

なのでクリームはもちろん、スポンジを作るのにいる牛乳すらないのだ。

 

 

「本を読んだらクリームのないケーキはたくさんあるらしいけどね。」

 

しかし、問題は牛乳だった。

卵は昨日三人総出で探索して鳥の巣を発見して卵を頂戴していた。

 

 

「だけどね。」

 

ちゃんと調べておいたのだ。

牛乳なしで作れるケーキのレシピを!

 

 

「まずは下準備しておかないと。」

 

マシロはまずオーブンを予熱する。

 

(確かに200度くらいかな‥‥)

 

そして次に苦労して集め卵をボウルに全部入れてほぐす。

 

カチカチカチカチ

 

 

「グラニュー糖ってなに?砂糖じゃあないの?」

 

マシロは必死に探す。そして、グラニュー糖とらべるされたビンを見つける。

 

「ぱっと見は砂糖。何が違うの?」

 

深海棲艦でなくとも難しい違いを気にしつつもマシロはレシピの手順通りに進める。

 

 

「ヒヒヒッ♪ここで秘密兵器の登場!」

 

マシロが出したのは何かの白い粉。

 

「くしゅ!」

 

ふるいにかけている時にマシロがくしゃみをしてしまう。そのせいで粉が舞ってしまう。

 

「ああもう!」

 

しかし、もともと白い為、あまり目だっていなかった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

その頃

 

 

カナは町に着いていた。

 

 

「マシロちゃんは一人で大丈夫かな。」

 

マシロの噂をしていた。

 

 

「さてと、私も頑張らないとね。」

 

カナの目的はこの町だった場所にある店舗である。

ここでマスターへのプレゼントを探すつもりです。

 

 

「そういえばマスターって何に喜ぶのだろう?」

 

今にして思えば私達はマスターの事をそんなに知らないかもしれない。

 

 

普段のマスターは、トレーニングか私達と遊ぶか本を読んでるかのいづれかである。

 

 

なら何かトレーニングに役立つ物でも探してみようか?

 

いや、そもそも私そんなに詳しくないから何が良いのか分からない。

 

じゃあ本をあげようか?

 

ダメだ。この間ここの小さな本屋に行ったが全部駄目になってた。

 

ショッピングモールの本屋はほぼマスターの庭だから論外である。

 

 

なら他には何がある‥‥

 

思い出して私!マスターはいつも何に喜んでいるの。

 

 

‥‥‥‥‥‥あっ!

 

 

「そうだ。」

 

カナは1つだけ思い付いた。

 

決まってしまえばあとは簡単である。カナは早速それがある場所へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラ?もう大分来たけど?」

 

「ええ?もう少し、もう少しだけ、ね?」

 

「いやー流石にもうダメだよ。」

 

軍人とソラは砂浜の奥、岩場が広がる海岸沿いを歩いていた。

 

 

いつもは来ない場所だけありなかなか新鮮であり、珍しい物もたくさん見ることができた。

 

しかし、そろそろ帰らないと日が暮れる。

 

 

これまでなんとか引き延ばして時間を稼いでいたがもう限界のようだ。

 

 

「じゃあ帰ろうか。」

 

「うん、そうだね。」

 

(二人とも上手くいったかな?)

 

 

 

 

軍人さんの予想通り、海猫荘に帰り着く頃には夕方になっていた。昼食を食べていないので二人ともお腹ペコペコだった。

 

「さーて、早く夕飯の支度するか。ソラ、二人を呼んで来て。あれ?ソラ?」

 

 

いつの間にか隣にいたソラがいない。

 

「もう中に入ったのか?」

 

 

私も中に入る。あれ?出迎えがない。

 

いつもなら聞こえる彼女らの話し声の聞こえてこない。

 

 

「静か過ぎるな‥‥」

 

何かあったのか?

 

 

私は慎重に奥へと進む。そして奥のいつもみんなといるリビングの扉を開けると‥‥

 

 

「お誕生日おめでとう♪」

 

「お誕生日おめでとう♪」

 

「お誕生日おめでとう♪」

 

なんと!?

 

 

扉を開けると三人からの拍手喝采が!

 

部屋も飾り付けされている。

 

 

「へ?」

 

 

「今日はマスターのお誕生日だよね?」

 

「うん、そうだけど‥‥」

 

「だからね。私達でマスターを驚かせようと思って。」

 

「ドッキリお誕生日会を開きました!」

 

「‥‥ウソ?!」

 

なんと!?この子達が私の為に?

人に誕生日を祝われるのなんて何年ぶりだろう。

 

 

「ほらほらマスター!早く中に!」

 

「こ、こらカナ、引っ張るな!」

 

カナに引っ張られ私はテーブルへと

 

 

「はい、マスターにバースデーケーキってやつ。」

 

「こ、これ!マシロが作ったの?!」

 

「そうよ!これでも苦労したんだから。」

 

 

見た目は普通のパンケーキ。

 

あれ?牛乳と小麦粉と卵無しにどうやって作ったの?

 

牛乳なしで作るレシピはあるにはあるけど。

 

 

「じゃあいただきます。」

 

「うん♪」

 

私はフォークでパンケーキを一口サイズにして口へと運ぶ。

 

 

パク

 

 

もぐもぐ‥‥

 

 

うん!こ、これは。

 

 

「もしかして、米粉使ったの?」

 

「あら、もうバレた。」

 

 

調理の際に、マシロが小麦粉の代わりに使ったのは米粉である。

 

 

米粉は米と同じくちゃんとした保存をすれば何年も持つ優れものである。

 

 

 

「うん、美味しい。マシロ、美味しいよ。」

 

「やったー♪」

 

マシロも大喜びだ。

 

 

「じゃあ次はこれね。」

 

続いて今度はカナがマスターに袋を渡した。

 

 

「私達から誕生日プレゼント♪」

 

「おお♪プレゼントまでとは、ありがとうカナ。」

 

「えへへ♪」

 

早速中に開けて見ると

 

「これは、写真立てか?」

 

「そうだよ。」

 

中には写真の入ってない写真立て。

 

 

するとソラがカメラを取り出しタイマーをセットした。

 

 

「ほらほらマスターが真ん中!」

 

「えっ?いきなり!?」

 

「はい、チーズ!」

 

カシャッ!

 

 

ソラがカメラで取れた写真を確認した。

 

「うん、いいと思う。これは明日写真にしてあげるからこの写真をいれてね。」

 

「そうか。ところで写真の出来映えを見たいけど‥‥」

 

「ダーメ!明日までのお楽しみ。」

 

 

カナが思い付いたのはある時のマスターの記憶

 

 

「ああ、癒させる。」カシャッカシャッ

 

マスターが私達の写真を撮る時、またアルバムを見る時の幸せそうな顔

 

 

マスターが喜んでくれるのはもしかしたら私達自身?

 

と考えたカナは写真を送る事にしてその写真を入れる物を探しに雑貨屋を巡っていた。

 

どうやら間違いではなかったようだ。

 

 

「三人とも‥‥ありがとう。」

 

 

「えへへどういたしまして♪」

 

「ドッキリ成功でこっちも嬉しいよ。」

 

 

 

 

「てことは、ソラはこの為に私を遠ざけようと?」

 

「うぐっ!」

 

「まあ、あれはあれで楽しかったし、あれをソラからのプレゼントって事にして置こうかな?」

 

「マスター!大好き♪」

 

ソラはマスターに飛び付く。

 

 

「あっこら!ソラちゃん!」

 

「今日は抜け駆けなしって決めたでしょうが!」

 

マスターに抱きつくソラを引き離そうとするカナとマシロ、結局いつもの流れになったことに思わず笑ってしまう軍人さんであった。

 

 

 

 

 

 


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