取り残された軍人と潜水艦   作:菜音

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実は考えてたけど没になった設計がかなりあったので隊長さんとは別の特別回として出させてもらいます。

感想御待ちしております!


sidestory1 外交官の苦難

 

 

 

まだ日本が深海棲艦との大規模な戦闘を経験する前のことです。

 

 

ヨーロッパ各国が深海棲艦と戦って苦戦している中、国土を山に囲まれ内陸に位置する永久中立国のスイスはある決断をしたのだった。

 

 

 

 

「我がスイスはこの戦争においても中立を選ぶ!」

 

 

 

 

 

スイス政府は中立を保つ事を決め、議会は秘密裏に深海棲艦に中立を容認して貰おうと接触を試みる事にした。

 

もしばれたら周辺国から袋叩きにされかねないので国民にも内緒で行う必要があった。

 

 

 

そこで外務省から外交官を特使として派遣することが決まった。

 

 

大臣「と、言うわけだ。クラウス君。お前が特使をやれ」

 

「そんなあっさり言わないでください!!だいたいどうやって奴等とコンタクトをとればよいのですか?!」

 

「安心しろ。それは別の班の仕事だ。お前は彼らが必死で見つけ出す交渉の場に我々スイスを代表して中立を勝ち取ってくるのだ!」

 

「いや?!全然安心できませんよ!!」

 

 

それと大臣‥‥タバコはやめてください。

私煙に弱いので、スモハラで訴えますよ?

 

 

「頼む。この事が明るみに出ればどのみち我らは他国によって攻められる。もはや後戻りは出来ないのだ。」

 

大臣が頭を下げた。

 

「‥‥‥‥大臣。頭をおあげください。分かりましたよ。この任務引き受けます。」

 

「おお!やってくれるか!」

 

「はい!この命に代えても祖国の為に全力を尽くします!」

 

こうなればやけくそだ。化け物どもから約定でも何でも取り付けてやる。

 

(クラウス君、チョロい。)

 

 

 

 

 

こうして特使にされたクラウスはアルプス山脈を越えてイタリアに入った。まずはイタリアに行ってそこで工作員と会えとの事だった。

 

 

 

「クラウス特使!こちらです!」

 

私はミラノのとあるホテルに招かれた。

 

「私がこの度交渉の場作りを任されている者です。」

 

「私がクラウスです。して、状況を教えてください。」

 

「はい、分かりました。」

私がそう言うと彼は地図を広げた。

 

 

「現在、深海棲艦は地中海を進功、既にシチリア、マルタ辺りまでが占領されています。そして、占領した範囲の所々に部隊を配置しています。このイタリアを本格的に攻撃している部隊がいるのはティレニア海です。」

 

「ティレニアと言えばまだ南部の方ですね。なら待ち合わせはもう少し南の街でも良かったのでは?」

 

「いえ、南部は戦闘が激しく近づけません。それにあそこの深海棲艦は活動的なので危険です。」

 

「ではどうします?」

 

「なので我々はリグリア海にいる深海棲艦にコンタクトしようと思います。」

 

「確かにそこなら近いけど‥‥大丈夫?」

 

「あそこの深海棲艦は比較的おとなしいです。なのでジェノヴァまで行ったのちに彼らにコンタクトします。」

 

 

 

 

 

こうして、リグリア海の深海棲艦に会うべくジェノヴァに向かった。

 

 

 

 

ジェノヴァ、夜の人気のない砂浜海岸

 

 

「ところで‥‥どうやって深海棲艦と連絡を取るつもり?」

 

彼らはこちらからの応答に一切応じてないはず。

 

 

「ふふふ、これを使います。」

 

彼が取り出したのはガラス瓶と手紙です。

 

 

「そ、それって‥‥」

 

小説とかで遭難した人が助けを呼ぶときに使ったり、昔外国人に届け!みたいなノリで書いて流したりするあれだ!

 

 

「ちなみに好きな人へのラブレターとしても使うとか。」

 

「な、なんですかそれ?!もっとまともな方法はないのですか?!」

 

 

「ロマンチックでよいでしょう?」

 

「国の存亡にロマンチックを出さないで!!」

 

結局、彼は瓶を流しました。

 

 

「しばらくしてからまた来てみましょう。」

 

「そうですね‥‥。」

 

大丈夫なのか?

 

 

 

 

数日後

 

 

「クラウス特使!朗報です!」

 

「何ですか?今日の晩ごはんはパスタですか?」

 

「いえ、今日は魚料理です。そうではなく深海棲艦からの返答がありました!」

 

「えぇぇ?!マジですか?!」

 

 

本当に成功しちゃったよ?!

 

 

「それで?!」

 

「明日の夜、例の砂浜です。」

 

いよいよか‥‥

深海棲艦と御対面だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、緊張してきた。」

 

「特使、頑張ってください。」

 

 

 

この場にいるのは私と工作員の彼とその仲間、そしてお供として連れてきた護衛が数名。

 

 

もし向こうが交渉する気がなく襲ってきたり交渉決裂したりしたらひとたまりもない。

 

 

文字通り命懸けの交渉となりそうだ。

 

 

「き、来ました!」

護衛の人が海に指をさしました。

 

 

 

確かに向こうから人型が3人ほどこちらに向かっています。

 

いや3人の後ろにもう1人いるようだ。

 

3人のうち二人はリ級だ。

もう1人は白い髪をしていて資料では見たことない個体だ。おそらく姫と呼ばれる存在だろうか。

 

 

 

深海棲艦が到着するととてつもない緊張感がせまる。

誰も口を開けることができない。

 

 

「貴方方デスカ?文ヲクダサッタ殿方ハ?」

 

最初に口を開いたのは向こうの姫だった。

 

 

 

私は勇気をふりしぼった。

 

「は、はい!私達です。」

 

「フフ、今ドキ瓶トハ、ナカナカロマンチックナ事ヲシマシタネ。ナノデツイ気ニナッテ‥‥」

 

 

あ!ロマンチックが功をそうした。

後ろで彼がガッツポーズしてるのがわかる。

 

 

 

「立ち話も何ですしどうぞこちらに‥‥」

 

私は工作員達が用意したテーブルに招いた。

 

 

 

「フフ、明カリノ無イ月光ノ下デ、砂浜ニテーブルナンテ‥‥、ナンダカ素敵‥‥。」

 

「はははは‥‥」

 

とりあえずはお茶をお出しして寛いでもらった。

 

「デハ‥‥、コレデハ人間ニハマダキコエニクイカ?」

 

そう言うと彼女は喉の調子を整え始めた。

 

「ンン‥‥。フゥ、では、改めて。」

 

お、かなりクリアに聞こえる!

 

「私はリグリア海、コルス島泊地の旗艦、水母水姫です。以後お見知りおきを。」

 

「私はスイスから派遣された特使のクラウスと言います。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

「では早速本題を、ロマンチックな文を下さったのは何故かしら?」

 

「ではこちらも単刀直入に。我々スイス連邦は君達深海棲艦と中立の協定を結びたい!」

 

 

「‥‥詳しくどうぞ。」

 

まずは政府の意向やスイスについて詳しく説明した。

 

「‥‥我々スイスは永久中立国としていかなる争い事にも関与するつもりはありません。それは今回も同じです。なので、その意思をそちらに伝えるとともに出来れば確約が欲しいとのことだ。」

 

 

「ふふふ、私達は深海棲艦。私達は国家ではなく貴方方人類と争っています。国が違うからと言って対象外になるとでも?それにそんな人類の敵と約束事なんかしたらそちらの立場が危ういのでは?」

 

「そんな物百も承知です!!」

 

私は思わず大声を出してしまった。

 

 

「す、すいません‥‥」

 

「いいえ。ふふふ、面白い殿方。」

 

 

微笑む彼女に私は思わず見とれてしまった。

 

 

 

「残念ですけど私にはそこまでの権限はありません。なので、確約をして差し上げる事がそもそも不可能です。」

 

「そ、そんな‥‥」

 

「しかし、ですよ。」

彼女は続ける。

 

 

「私の部隊のみであれば御約束してもよろしくても、それに貴方方の国は山に囲まれているのでしょう?ならば私達の関与が難しいです。貴方方が国土から出ない限り安全でしょうね。」

 

「‥‥え?」

 

「そう言うことならばあの方も説得しやすいですし、私からヨーロッパ方面の総司令にそれとなく伝えて差し上げます。」

 

「おおお!」

 

「今すぐ貴方の言う中立の容認は無理ですけど、そのお二つなら御約束しますわ。」

 

 

人間側にどよめきが生まれる。そもそも無理だと思っていた交渉にこちらとしては十分過ぎる提案なのだから。

 

「願ってもない提案です。ぜひお願いしたいです。」

 

「では、そちらの条件を決めましょう。出ないとフェアではなくてよ?」

 

ちゃっかりしてる。ここからは私の外交官としての本領発揮です。

 

 

 

それから私と水母水姫は一時間以上話し続けた。

 

 

そして、会談の結果、以下の内容で約定が結ばれた。

 

 

○深海棲艦 リグリア海の部隊はスイスの領土及び保護国を攻撃しない。

 

○水姫はスイスの中立容認を上層に取り次ぐこと。

 

○スイスは国土を侵されないが国土の外の国民はその限りではない。

 

○スイスの大使館は極力狙わないがスイス側も待避すること。

 

○スイスは深海棲艦に敵対しない。

 

○スイスは定期的リグリア海に嗜好品を送ること。

 

 

 

「意外ですね。人間の嗜好品が欲しいなんて。」

 

「ふふ、姫はそれぞれ好みがあるの。ちなみに総司令はお酒が好きだからワインとかあると嬉しいかな。」

 

「わ、わかりました。」

 

「定期的とか決めたけどそちらの都合でいいから。」

 

つまりはたまにここで面会して手土産をあげるぐらいでいいのか。

 

 

「では、締約したので今日の所はお開きにしましょう。貴方はこの秘密の会談がバレないようにね。」

 

「勿論ですよ。」

 

「最後に‥‥」

 

と彼女が言うと後ろにこれまでいた4人目が姿を見せた。

 

まだ小さい、子供のようだ。

 

「この子はそちらで言う所の通信中継艦のような者です。この子をそちらに預けます。」

 

「はい!?」

 

「これからここで密会するにしても連絡手段は必要です。この子を経由すれば私と通信できますし、傍受もされません。それにこの子は締約後の架け橋的な目的もあるので貴方の言っていた大使館の様なものです。」

 

「まぁ‥‥そう言うことならば‥‥」

私はこれも向こうの条件だと飲み込み、その子をあずかった。

 

軽く会釈すると、向こうも返してくれた。

まだ少しばかりぎこちないが自然な笑顔でにっこりしていた。こっちに来るなり笑顔が可愛いな。

 

「この子、名前は?」

 

「うーん。何分既存種の改造した子だから、名前は決められてないの。決めてあげて。」

 

彼女らと挨拶を交わした後、会談は終了。

私達は痕跡を消した後、幼少を連れてスイスに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

私は本国に戻ると結果を報告書にまとめて大臣に提出し、彼女の取り扱いについて尋ねた。

 

 

 

「クラウス君!よくやってくれた!でかしたぞ!!」

 

「所で大臣?この子はいかがしますか?それと大臣?子供がいるのでタバコはやめてください。」

 

 

さもないと今度こそスモハラで訴えますよ?

 

私の念が通じたのか大臣は吸いかけのタバコを灰皿に捨てた。

 

 

「むーう。‥‥君が面倒しなさい。」

 

「はい?!」

 

「君があずかったのだ。君が世話しなさい。」

 

この人は!?タバコの腹いせか?!

 

「しかしですよ?!この子は深海棲艦ですし、向こうの使いのようなものです。それを私なんかが‥‥。」

 

「馬鹿者。逆に特別な扱いとか保護とかしてみろ。この子は普通じゃないと教える様なものだな。それに折角人型で子供なのだ職員の養い子とかにしておいた方が安全だ。」

 

「な、なるほど?!」

 

「と言うわけだ。これからの深海棲艦との外交は秘密なのだ。誰にも知られる訳にはいかん。その子の存在もな。」

 

「はい‥‥」

私は肩を落とした。

これからは深海棲艦との会談と言う命懸けの密命だけでなく、子供の面倒も見なければならないのだ。

あまりの激務にため息も出る。

 

 

「ハハハ、そう落ち込むな。今回の成功は大きいからな。何か理由をつけて特別ボーナスをあたえるし、育児費も出してやるw」

 

大臣は大笑いだ。

(やっぱりクラウス君はチョロいな。)

 

大臣はクラウスの退室を確認すると、新しいタバコに火をつけた。

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま‥‥」

私は久々に家に帰って来た。

といっても、とある高級マンションの一室で1人暮しだ。部屋は私1人では広い。

まぁ、今日から二人だけど。

 

彼女は部屋に入ると回りをキョロキョロ見渡した。

突然知らない所に連れてこられた猫のようだ。

 

「今日からここが君の家だよ。」

 

私はカバンを机に置き、普段着に着替えた。

 

「さてと、まずは君の呼び名を決めよう。」

 

 

さすがに呼び名がないと接しづらいし、水姫さんにも付けろといわれたからねぇ。

さてと、この子は通信中継艦とかいってたっけ。

 

中継は Relais と書くからな。

 

 

 

「ここは安易にリレなんかどうかな?」

 

彼女は首を横に振った。

 

駄目か‥‥

 

ならこの子の髪は雪のように白いから‥‥

 

「シュネーとか?」

 

彼女は考えこんだ後、瞳をキラキラさせて首を縦に振った。

 

あ、これはいいのか。

 

 

こうして1人の人間と深海棲艦の生活がはじまる事になるが彼にこれから降りかかる災難や試練はこんなものではなかった。そして、唯一の癒しがシュネーになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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