・ダニエルの肩書は、惑星サンリオ・学生ピューロズダンサーチーム・王子(プリンス)。
スタバの珈琲みたいな長ったらしい肩書だが、要するにダンサーたちを引っ張る立場にあるわけで。
いくら王族といえど、思春期真っただ中。
多感な時期に当たる彼がこの重圧を背負うには、いささか重すぎる。
そういった声は、昔から惑星サンリオ内においても少なくなかった。
会場到着のおよそ三時間前。
「ポチャッコ先輩、キティの件では、勝手な真似をしてすいませんでした。」
「何言ってんだ。アレがお前なりにキティを護ろうって判断なら、責める理由はないさ。」
ボロボロの宇宙船が羽田空港に到着して、最初の会話だった。
宇宙海賊をどうにか撒いたピューロズたちの宇宙船は、それから6週間を経て地球に到着した。
国際線ターミナルには、惑星間ネットワークのメディアからピューロズの活躍を応援してきたファンたちが、疾風怒濤の勢いで出迎えに押し寄せた。
多くの場合、惑星サンリオまでの旅費や、向こうでの宿泊費、公演のチケットなどを換算すると、よほどの金銭的余裕がない限り、生でショーを鑑賞するのは困難だ。
待望したピューロズの地球来訪に、日本中が湧きかえっていた。
「ポチャッコ様ーー!」
「プリンス・ダニエル~~!!」
「ケロッピも読んで欲しいケロ。」
「先輩、いいじゃないですか。私なんか白いコとしか呼ばれませんよ。」
女二人が愚痴を飛ばし、バツマルとプリンが写真撮影に応じる。親衛隊は今日のスケジュールを確認しながら周囲を警戒する。
一人浮かない顔をしているダニエル。
レッドカーペットを通り越し、空港の入り口についた時。
ピューロズ一行の前に、スーツを着込んだ男が現れる。役人風ではあるが、サングラスに左目のひっかき傷、ハリネズミの様な尖った金髪など、どこか子悪党じみた雰囲気が出ている。
男は先頭を歩くポチャッコの前に立ち、サッと跪いた。
「お初にお目にかかります。ピューロズ御一行様。長旅お疲れ様です。」
「アンタは?」
ポチャッコが尋ねると、男はゆっくり立ち上がってサングラスを外す。
「外務省のトール・J・長谷川と言います。宇宙海賊に襲われたと一報を受け、外部ワープを行使させていただきました。」
キャプテン・バットに襲われてすぐ、地球圏に救難信号を出したバツマル。その直後、応答としてワープゾーンが現れた。
外部の力によるワープを使った、地球への直通ナビゲートだ。
「あの信号は、アナタだったんスか!?」
バツマルが前に出ると、長谷川が恭しくお辞儀をした。
「機体の整備は空港の職員が滞りなく済ませますし、どうでしょう。皆さんお先に本番の会場へおいでになられては?」
「あ・・・それは……。」
ポチャッコが苦々しい顔をした瞬間、我に返ったダニエルが前に出てきた。
「それよりも!!探して欲しい人がいるんです!!彼女は僕の、それはそれは大切な……。」
「おいダニエル!!落ち着け!!」
ポチャッコが押さえつけようとも、ダニエルはなりふり構わず長谷川に飛びついた。
「お願いします!!彼女がいないと僕は!!」
「ハローキティ様……ですよね?」
ダニエルはようやく静まった。まだ一度もキティの名前は出していないのに、この男はダニエルの思い描く人物を言い当てたのだ。
「何でそれを……?」
「そりゃあアナタ、プリンス&プリンセスの仲睦まじさは、地球のファンでもよく存じております。カプセルは地球に到着しましたよ。」
「それで……キティは!!?」
「居場所が分かってなきゃ、私はここへ来ずにプリンセスを探して駆けずり回ってますよ。」
「じゃあ……?」
「これも何かの縁ってやつでしょうな。今朝方、私の知り合いから連絡が入りましてね。ご安心なすって。信頼できる男の保護下に、今は置いてますよ。」
石川遼もビックリの涼しい笑顔で男は言った。長谷川に案内され、リムジンに乗り込むピューロズ一行。
ダニエルの胸中には、安心と無力感の二つが渦巻いていた。
「僕は、結局キティに怖い思いをさせた……。」
泣き言を言う暇すら、彼らには存分に与えられていない。二つの惑星をつなぐ、外交の要。ダンスパーティーショー、『イルミナント』の開幕がいよいよ間近に迫る。
車内から見える景色には、会場『サンリオピューロランド』のドームが見えつつあった……。