サンリオ・サーガ   作:鈴木遥

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銀河祭開幕2時間前

・翌朝、空は文字通りのてんてこまいだった。

 

女将のスクーターを借り、空が必死で野次馬から逃げた先は、ピューロランドの事務室だった。

 

朝イチで出勤したユウに叩き起こされ、 外務省惑星サンリオ担当官、トール・J・長谷川が到着した。

メルヘンの惑星との交渉相手には似合わない黒いコートに金髪とグラサンと異様な出で立ちだが、 空と同い年であり、彼がピューロランド就職当時からの付き合いということもあり、空にとっては頼れる兄貴分でもある。

 

 

「空ァ。お前さんよく“プリンセス”を守ったじゃねぇか。」

 

「本当、一時は死ぬかと思ったッスよ……。」

 

「まぁそう言うねい。コレで かなりの昇給が約束できるぜ……。」

 

「そんなことより、大丈夫なんすか?今朝方到着した残りの首席ダンサーを乗せた旅客機が、ひどく損傷してたって話じゃないすか。」

 

「仕方あるめぇ。 宇宙空間においても交通事故ってのは必ず起きる……何があったのかは知らねーがな」

 

「本当に事故、なんすかね……?」

 

「何が言いたい……?」

 

空に問われたトールの表情が一瞬こわばったのを、空は見逃さなかった。

 

「 昨日キティと出会った後から、誰かに見張られてる様な気がするんです……すいません、考えすぎですよね。」

 

「いや、お前には|話しとくべきかもな……!」

 

「え……!?」

 

 

 

同時刻、知恵の機の広場

 

午後になってから、準備を終えた残りの首席ダンサー達も交え、本格的な予行演習が始まった。

 

「すごいわユウさん、この短時間でこの完成度!」

 

「あなたもすごいわ、マロンさん!完璧じゃない!とても4つ下とは思えない!」

 

ユウとマロンクリームは、互いのダンスの完成度を評価し合っていた。

どさくさに紛れてユウが年をばらしてしまったことを、大人のマロンは一切突っ込まなかった。

 

「どうだい旦那、サンリオにもいい女がいるだろ?」

 

「いや〜、すごいねケロッピ。気分がいいから、一人口説いて来ようかな。うおっ!そこのあなたは

『ウィッシュミー・メル』氏では!?」

 

「ほえ?」

 

「あぁ待て田中氏、まだ早……。」

 

「メェェェルちゅわ〜ん、僕と一度、愛の抱擁を……あ痛え!」

 

「何をやってんだテメェらは……。」

 

手品の練習の合間、田中と組んで、両名の祖国の女子を口説こうとしていたケロッピ。

例によって例のごとくバツマルにバレ、スパナ攻撃を食らって二人お揃いのたんこぶを作る羽目になった。

 

護衛隊長ポチャッコは、トールとともにレインボーホールで防衛対策会議へ。

そして空は 首席ダンサーの主賓“プリンス”を務める ダニエル・スターに『館のレストラン』へ呼び出されていた。

 

 

 

「あなたがキティを保護してくれたそうですね。」

 

「別に、大した事はしてねーよ。」

 

照れ隠しに頬を掻く空。 ダニエルは面白くもなさそうに言葉を返した。

 

「……上手くたらし込めましたか?」

 

「……は?」

 

目の前の青年が何を言っているのか、空には一瞬理解できなかった。

 

「 史上最年少でプリンセスの地位を獲得したは良いが 祖国サンリオ離れると何もできず、すぐに泣き出す彼女をうまく口説いて、恩人としてのポイントを稼げましたかと聞いてるんです……。」

 

「ちょっと待て、オレは別にそんなつもりじゃ……。」

 

不満や憤り前に、なぜこんなあからさまに喧嘩腰を取られるのか、空にはどう考えても理解できなかった。

 

 

 

「 僕は無様でしょう?キティの彼氏を名乗っておきながら、辺境に1人にした挙句、彼女に怖い思いをさせあなたに守ってもらう始末だ……もういっそ、これからはあなたがキティを守りますか?」

 

空は反論出来なかった。彼が何故、自分にキバを向いたのか、何となく分かった気がしたからだ。

 

それは、 彼の彼自身への罵倒。無力な自分を恨み、やり場のない怒りを当てているのだろう。

 

 

迷い迷った挙句、 自分の直感に任せて喋っていた。

 

「 護衛隊長さん、ポチャッコつったっけ?彼が、オレに謝りに来たよ。『自分のせいで迷惑かけたけど、 あいつはキティを守るために宇宙で無茶したわけだから 責めないでやってくれ』ってな。」

「……。」

 

「 ここに来るまで何があったのかの事情を、全て知ってるわけじゃないけどさ、あの真面目そうな体調さんにそこまで言わせるんだから、君はもう少し自分に自信もって良いんじゃねーか?」

 

返事は返ってこなかったが、お冷を飲み干した彼の姿を見て、空にはどこか安心感があった。

彼のどこか吹っ切れた感じを、その姿から読み取ることができたのだろうか……。

 

 

銀河祭が始まるまでの間、キティとダニエルは一切口を聞かなかった。だが、キティがそれを、『危機的状況』である、と読み取ることはなかった。

 


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