サンリオ・サーガ   作:鈴木遥

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護るべき選択! ブラック VS 空!!

・ 騒ぎが起こってから20分が経過していた。

VIP 席、一般観覧席ともにおおむね避難完了。

後は外務省のお偉方が来て、悪魔族に交渉を試みる。

 

そのフェイズまで移行するのに、何一つたりとも滞りがあってはならない。

 

「空! 何してやがる!逃げねえか!」

 

広場の真下にいる空の表情は、真剣そのもの。

いつもなら命令を聞くはずの彼が、まるで世界で自分と目の前の敵しかいないように、そこから固く動かない。

 

「空!!!」

 

「待ってください、トールさん!俺はここから逃げちゃいけない!」

 

その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかりすぎてしまった。

彼の真後ろには、 海原ユウ、ダニエル・スター、 ハロー・キティの3人がいたのだ。

 

敵が明らかな敵意を示してここに侵入してきた以上、 命を賭してでも主賓たちを守らなければならない。

 

その重い使命を課したのは、他でもない 長谷川自身だった。

 

ブラックは 何かを思いついた顔でほくそ笑んだ。

 

そして天井に杖を高く掲げると、先ほどの地下から響くような大声で配下たちに叫ぶ。

 

「 我が戦士たちよ! 惑星サンリオ侵略の時は近い!! 見せしめに"プリンセス"ハロー・キティ!そして、『ピューロズ』のガキどもを根こそぎ 捕えよ!!」

 

(しまった!)

 

空は自分の重大なミスに気づいた。

確かに、こいつがこの一団の親玉なのは、間違いないだろう。

ただ、他の連中もかなり手強い。

 

得体の知れない、闇のエネルギーを持って現れた化け物だ。

周りのダンサーは逃げているが、キティを置いていけないと 残っていたダンサー達は、 奴らにとって格好の標的だ。

 

「くそ!!」

 

目の前に立ちはだかる悪魔を睨んだその時。

 

「ぐぉっ!」

 

「ぎゃあ!」

 

聞こえてきた悲鳴は、観客の誰でもなく、侵入してきた悪魔の兵団のものだった。

 

「俺たちピューロズ側のガーディアンズを……ナメてもらっちゃ困るなァ!!」

 

首席ダンサー親衛隊長、犬の剣聖ポチャッコ。

副隊長《ランス》 突撃の貴公子 コロコロクリリン。

副隊長《ボウガン》 百発百中のペックル。

 

古くからアップルキングダムに仕え王位を継ぐ者を守護する、 サンリオ近衛兵たちの最強の3人が立ちはだかっては、さすがの悪魔達も分が悪い。

「構わん! 戦闘員ではない娘どもから先に狙え!」

 

野太い声の悪魔が叫んだ。が……。

 

緑色の閃光を放つ右足の、華麗な空中回し蹴りに倒れる悪魔。

けろっぴは たった一発の蹴り技で悪魔を戦闘不能にまで追い込んだ。

 

「その『戦えない娘ども』が……黙って捕まるとでも思ってるケロ?」

 

キキとララは魔法の杖で敵を眠りにいざない、 マロンは 華麗に舞うリボンをひらひらと旋回させ、鞭のように攻める。

プリンは魔法で出現させたホイップクリームをジャグリングして攻撃し、 バツマルは特製のレーザーガンで迎え撃つ。

 

「な……何だぁこいつ等は!?」

 

たかだか民間人であり、捕らえるのなど雑作もないと考えていた惑星サンリオ首席ダンサーたちに、悪魔たちは手も足も出ない。

 

「 あいつらァ……何をしてやがる!?」

 

怒り狂っていたのはブラックだった。

 

集中が逸れた隙に一気にケリをつけようと、体内を流れる見えない力を刀身に集中させる空。

思い切り振りかぶり 右に振り下ろそうとした時。

 

「 この大馬鹿どもがァ!!!」

 

ブラックの怒号と共に、大気が震え、空間が裂け、知恵の樹が悲鳴をあげる。

知恵の剣が、というより、それを所持していた空自身が どうやっても負けを認めざるを得ない。その力の差を、彼は一発も攻撃を浴びせることなく示したのだ。

 

だが空には、すぐ後ろに守るべき『誰か』がいた。

 

ここで引いてしまっては、その安全を確保できない。

一刻も早くこいつを倒さなくては!!

 

剣先を少しずらし、首を狙って振りかぶったその時。

 

ガキィン!!!

 

よりによってブラックは、持っていた杖を地面に放り出し、ミイラのように細い素手で知恵の剣の刀身を受け止めたのだ。

 

「な……!?」

 

「良かったよ…… お前がこの力に、『今、覚醒したばかり』でな……。」

 

空の剣を振りほどき、お留守になっているもう片手に闇の魔力を込めると、 あたりに轟音が響き渡るほどの 強力な光線を放射した。

 

間一髪、知恵の剣の見えない結界が、直撃のダメージを和らげた。

が、そうは言っても、ガードの体勢すらとる暇がなかった空。

とても無傷で済むはずがない。

 

散々弄ばれた挙句、子供に乱暴に捨てられた人形のように、 空はブラックのすぐ足元に倒れ込む。

 

「空ぁ!!!!」

 

恐怖と心配で、冷静な判断が出来なくなったユウの、悲痛な叫びが響き渡る。

本当にボロボロの人形のようで 敵の足元に転がる幼馴染は 指先一つたりとも動かさない。

 

「そんなっ……空……いやぁああ!!」

 

「ユウさん!落ち着いて!」

「女ァ!!!」

 

パニック状態のユウの悲鳴を、空を痛めつけたブラックの牽制が鎮める。

 

「見苦しく喚くな。もう死んでる。」

 

「そんな……。」

 

茫然自失のユウを捨て置き、彼女の後ろにいるキティに視線を移すブラック。

 

「さって、と。あの強欲な地球人たちの代わりに、生贄になってもらうぞ。王子とそのガールフレンドの首があれば、お優しい国王陛下はオレの要求をのんでくれよう。」

 

「やぁめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

叫んだのはダニエルだった。

 

どこから持ってきたのか、カーニバルで使った小道具のレイピア片手に、ブラックへ正面から猪突猛進する。

 

だが……。

 

海賊帽をかぶった高身長の青い宇宙人に、彼の剣はあっという間に止められる。

 

「キャプテン・バット……!?」

 

背中に黒い蝙蝠のような翼を生やしたそいつは、ダニエル達を宇宙空間で襲った宇宙海賊だ。

 

「さすが王子様。熟練した王宮剣術だが……俺様にはちと及ばんなァ?」

 

そのままダニエルの腹にケリをお見舞い、わずか2発でのしてしまった。

 

「虚しいもんだな。王子さまよォ……テメエの惚れた女一人護れねえたあ。」

 

「空君!!起きろ!!」

 

「おいやめろって……提督が言ったろ?もうそいつァ死んでんのよ。」

 

「おい空君!!君はココまでキティを護ってくれただろう!!情けないと思ってくれていい!僕一人じゃ、愛する人や次の世代たちをこの星へ運ぶ事すらできなかった!!

僕一人じゃこいつらには勝てないんだ!!頼む!起きてくれ!!」

 

「何と見苦しいったらありゃァしねえ!!おいキャプテン、早くその王子(ガキ)を始末しろ!」

 

「待って!」

 

キャプテンバットの刃がダニエルの首をはねる寸前に、ユウが叫んだ。

 

「あなたたちの狙いはキティと私でしょ!?」

 

「だったらどうし……あ?!おい女テメエ!!何してやがる!?」

 

キャプテンバットの腰に下げてあったをくすねたユウは、空のそばに駆け寄り、左手を彼の心臓部に添えた。

空いた右手は、バットとブラックに拳銃を向けている。

 

「動かないで……!!」

 

「心臓マッサージかァ!!?ムダだよ!!提督の技を間近に喰らってんだぜ!?」

 

「待てバット。」

 

「構いませんよブラックさん!さっさとつれてっちまいましょうぜ!」

 

「動かないで!!!お願いだから彼に処置をさせて!拒んだら私が死ぬわよ!!」

 

だがブラックには、ユウが何をしようとしているのか、そこに妙な胸騒ぎを覚えた。彼が闇の帝王となる遥か昔、とある種族に出会った。彼らは親しきものに魔力を分け与え、傷をいやす術を得ていた。

まるで、今目の前の地球人が行っている様に……。

 

(まさか、地球人があの術を!?いや、そんな筈は……)

 

だが、ブラックの恐れた通り、空は息を吹き返した。ブラックに痛めつけられた傷までは回復していないが、荒々しい呼吸音が確かに聞こえる。

 

「ユ……ウ!?」

 

「空……。」

 

「オレ……死にかけて……!?」

 

自分に起きた出来事を振り返っている途中、頭を嫌な予感がよぎった。

 

「ユウ!!まさか……あの魔法使ったのか!?」

 

「バレちゃったか……」

 

「お前……体に異変は!?大丈夫かよ!!」

 

「今んとこね。いつもそう、空は昔から足を傍で助けてくれる。生まれ持った力のせいで、イジメられてた時も……。」

 

「そんな話している場合かよ!!アイツら、まだいるな!?オレが……止めに……がぁっ!!」

 

立ち上がろうとするも、ブラックから受けた傷は想像以上に深かった。

 

「動いちゃダメ。傷、開いちゃうよ?ここは私が何とかするから……。」

 

何とかする、余裕のような笑みだが、それが作り笑顔だと空はすぐに分かった。

まるで、八百万の神々に、我が身を犠牲に差し出す巫女のような……。

 

「やめろユウ!!離れろ!そいつはアブな……。」

 

「空!!!!」

 

それまで作り出していた、ニセモノの余裕。

それを突き崩してしまった自分の罪深さと愚かさに気づきながらも、空は引き留めずにはいられなかった。

 

「頼むから大人しくしてよ……覚悟が鈍るじゃない……!!」

 

哭きながら振り返ったユウは、やっぱり無理に笑いながら今一度こちら側に歩み寄り、空の耳元へ口を寄せる。

 

「---------!!」

 

「!?……ユ……ウ!?」

 

空の耳に届いたその言葉が、一体どんな意味を持つのかは分からない。

ただ、瞬間移動術で逃亡しようとするバットとブラック。それに同伴しようとするユウを、最早、空には止められようもなかった。それだけは事実である。

 

「さよなら」

 

ユウの一言を合図にする様に、ブラックと配下の悪魔たちは総員撤退。

 

静寂と憤怒と絶望を残し、ピューロランドは元の姿になった。


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