魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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if ending ユミナ

(……お願、い。誰か……たす、け……て)

 

 

習い事の帰り、乗るのに急いでいて、いつもの女性用車両じゃなく、通常の車両に乗り込んでしまった。

 

しかも、この時間帯は痴漢が多いので有名で、その常習犯は未だに捕まっていない。

 

さっきから、わたしの胸やお尻を何度も触られて、勇気を出して声を出してるにもかかわらず、誰にも聞こえていない。

 

 

(……どう、して)

 

(……ふふふ、君の声が聞こえてないのが不思議なようだね)

 

(……えっ、この声って)

 

 

ボソボソと、私の耳元で話しかけてきたのは、おそらく痴漢をしている小太りの中年男性。

しかもワザと嫌らしくねちっこい話し方をしてきた。

 

 

「……君の疑問に答えてあげよう。それは、私がこのあたりに封時結界を張っているからだよ。だから、君の声は、誰にも聞こえないし、どうなってるかも分からない」

 

「そ、そんな!? あっ……」

 

 

そういって、男性が私の服の中に手を入れて、さらに胸をまさぐり……。

 

 

 

「い、いや!!」

 

「いくら騒ごうと、誰も気づきはしないよ。さぁ、ゆっくりと楽しませてもらおう……」

 

(……もう、だめッ!!)

 

 

絶望の中、さらにわたしの下半身に手を伸ばそうとした、そのとき……。

 

 

 

「いたたたたたたたたた!!」

 

「淫行もそこまでだ。いい大人が、女の子にこんなことしてるんじゃない……」

 

 

 

結界の中に黒髪の男性が現れて、痴漢の男性からわたしを助けてくれた。

 

 

「な、なんだね君は!! 私が何をしたというのかね!!」

 

「とぼけてるんじゃない。電車内での無断魔法使用。女の子への痴漢行為。これだけ物的証拠があれば言い逃れは出来ないぞ」

 

「ちぃい……」

 

 

痴漢の中年男性は、魔法を解いて、扉が開くと同時にダッシュで逃げ出したが……。

 

 

「……ストラグルバインド」

 

 

白銀の光が、男性の全身を縛り上げ、身動きが出来ないようにしてしまった。

しかも、本当にあっという間に。

 

 

「ち、畜生ッッ!! なんだこりゃ!!」

 

「……観念しろ。もうすぐ管理局と鉄道警察がくる。そこで精々罪を償うんだな」

 

 

中年の男が、じたばたしながら……。

 

 

「わ、私を誰だと思ってるんだ!! ここで私がいなくなったら、会社の大損失なんだぞ」

 

 

すると、黒髪の男性は、あきれた表情で……。

 

 

「だったら、こんなことしてないで真面目にしてればいいだろ。どんなお偉いさんか知らないけど、こんな事やってる時点で最低だぞ」

 

「ふん!! 私は、会社を、そして地位を守るために日々頑張ってるんだ。これくらいことしたって罰当たらないだろうが!!」

 

 

――――――――何、それ。

 

 

わたしはあなたのストレス解消のために、胸やお尻をさわられて嫌な思いをしたの。

 

 

あんなに、あんなに……。気持ち悪かったのに。

 

 

 

「……ふざけてるんじゃないぞ、この野郎!!」

 

 

黒髪の男性は、さっきとは違い、誰が見ても分かる怒りの形相で、痴漢の襟元をつかみ、思いっきり壁にたたきつけて……。

 

 

「……自分のストレス解消のために、罪もない、か弱い女の子に悪戯して、そうやって何人もの女の子を傷つけてきたんだ!!」

 

「は、はな……ぐ、ぐる、じ、……い……」

 

「管理局の人間には、貴様がしたことは全部報告するからな。言い逃れできると思うなよ……」

 

 

しばらくして、管理局の人が来て、痴漢は強制連行されていきました。

そして、助けてくれた男性とわたしは、簡単な事情徴収されましたが、黒髪の男性が、すべて答えてくれましたので、わたしは殆どいるだけの感じでした。

 

 

 

「本当に、ありがとうございました。わたし……。なんていったら……」

 

「いや、もう少し早く助けられたら、あんないやな思いをさせなかったのに……。すまなかった」

 

 

 

そんなことない!!

あのとき、この人が助けてくれなかったら、もしかしたら最悪なことになっていたかもしれなかったんだから……。

 

 

 

「そういえば、まだ名前も言ってなかったな。俺は、フィル・グリードっていうんだ。まぁ、一応身元もはっきりしてる社会人だ」

 

「わ、わたしは、ユミナ・アンクレイヴと言います。サンクト・ヒルデ魔法学院 中等科の一年生です!!」

 

「アンクレイヴさんか。あと、そんなに緊張しなくても良いよ。俺のことは、グリードでもフィルでも好きに呼んでくれて良いし……」

 

 

なんか、この人って、話してみると、とても優しい雰囲気の人なんだな。

痴漢を抑えるとき、すっごく怖い目をしていたから……。

 

 

「そ、それじゃ……。フィルさんって言っても良いですか?」

 

「ああ、全然かまわないよ。もしかして……。俺のこと、ちょっと怖い人って、思ってる?」

 

「……すみません」

 

「まぁ、あの様子見てたら、誰でもそう思うよな……」

 

 

フィルさんは、苦笑いをしながら言ってるが、決してわたしのことを怒ってる感じはしなかった。

 

 

「ごめん……なさい。わたしのことを助けてくれた恩人に……」

 

 

わたし、最低だ。

助けてくれた人に対して、こんな事思っちゃうなんて……。

 

すると、フィルさんが……。

 

 

 

「あんなことあって、怖くないって方がおかしいよ。俺たち管理局の人間が、もっとしっかりしていれば、未然に防げたんだから……」

 

「えっ……?」

 

 

管理局の人間? 俺たち?

まさか、フィルさんは!?

 

 

 

《あーあ、言っちゃってますよ、マスター》

 

「迂闊だった。怖がらせないように、身分隠してたのに、こんなポカやらかしちゃうなんてな……」

 

 

そう言って、フィルさんがスクリーンを出して、映し出されたのは……。

 

 

「時空管理局・執務官、フィル・グリード……。管理局の執務官だったんですか!!」

 

《そして、私がマスターの相棒のプリムです。本当は、自己紹介はしない予定だったんですよ》

 

「プリム、そういうなって……。アンクレイヴさん、そういうことだから、あの男は、責任を持って処罰するから、安心してくれ……」

 

「ゆ、ユミナで良いですよ。でも、まさか執務官の人だったなんて、思いませんでした」

 

「……あはは、こんな『ポカ』ばかりやってる執務官だけどな」

 

 

ううん、なんか安心した。

執務官っていうから、もっと怖いイメージをしてたんだけど、わたしが感じたとおり優しい人なんだな。フィルさんって……。

 

 

 

「でも、フィルさんの『ポカ』のおかげで、少し緊張がとれました。ありがとうございました!!」

 

「まぁ、こんなことで笑ってくれるなら、喜んでピエロにでも何でもなるよ。でも、さすがにこんな事があって、一人で家には戻せないから、家までは送るよ」

 

「で、でも、それじゃフィルさんに申し訳が……」

 

 

すると、フィルさんは少しおどけた表情で……。

 

 

「これも市民を守る執務官の任務の一つですよ。ましてや、こんなに可愛い女の子なら尚更、ね」

 

《そうですね。これでちゃんと送ってあげなかったら、男としてもダメダメですよ。ということで、ユミナさん、こんなマスターで良かったら、どうぞどうぞ~》

 

「あ、あはは……」

 

 

なんか、フィルさんもプリムも本当に良いコンビって感じ。

似たもの同士っていうのかな……。

 

 

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます!!」

 

 

お言葉に甘えて、わたしはフィルさんに家まで送ってもらうことになった。

道中わたし達は色んな話をしながら歩いていた。

 

わたしが取ろうとしている資格のこと。

 

フィルさんの普段の生活のこと。

 

わたしの学校での生活など。

 

 

ちなみにプリムに、今度取る資格の問題を出してもらい、その出来を見てもらったところ……。

 

 

《うん、これなら、緊張して失敗しなければ確実に合格できますよ。この資格、結構難しいんですけどね……》

 

 

わたしが取ろうとしてるのは整体施術の2級。

この一年、頑張って勉強してたんだけど、こうして言われるとやっぱりうれしい。

 

 

《何でしたら、実技が不安でしたら、このマスターで実験してもらっても良いですよ。最近、言うこと聞いてくれなくて、かなりオーバーワークしてますから……》

 

「プリム、頼むから、ユミナにまでそんなこと言わないでくれ……。余計な心配かけたくないんだからよ」

 

「ううん、プリム、気持ちはうれしいけど、今はやめておくね……」

 

 

フィルさんの身体が、オーバーワークで体中が限界ぎりぎりなのは、見てすぐに分かった。

でも、今は資格を持っていない。

 

この人の身体は、長い時間をかけて、やっと作り上げてきた大切な身体。

それに触れるなら、わたしもちゃんと資格を取ってからでないと、触れる資格はないと思うから……。

 

 

 

《ユミナさん、本当に真面目なんですね……。それでは資格を取ったら、是非お願いしますね》

 

「はい♪」

 

 

なんか、プリムとはとっても良いお友達になれそうな気がする。

ちなみに、もちろん、フィルさんとアドレス交換はしたんだけど、プリムとも守秘回線で交換しちゃった。

 

今日は、最悪な日だったけど、終わりはとっても良い日だったな。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「本当だ!! すごい!! 下半身が軽くなってます!!」

 

「えへへ、おまじないが効いて良かったです♪」

 

 

アインハルトさんのお誘いで、インターミドルの出場選手達と一緒にお昼を食べることになって、そこでミウラさんのマッサージをさせてもらうことになったんだけど……。

 

 

「すごいな、なんか手際がプロぽっかったね」

 

「えへへ、こないだ整体施術の2級を取ったばかりですが!!」

 

 

 

実は、あの後、フィルさんとプリムにコーチングしてもらって、間違いやすいところとか、引っかけ問題の傾向をいっぱい教えてもらったんだ。

 

だから、試験はかなり余裕で受かることが出来た。

次は、1級を目指そうかな。

 

 

「そういえば、クラスでも友達によく、マッサージをしていましたよね」

 

「えへへー♪」

 

「本当はね、アインハルトさんにもしてあげたかったんだよ。でも、アスリートの身体って、その人が時間と思いをかけて一生懸命作り上げた作品だから……」

 

 

そう、フィルさんにも言ったことだけど、アスリートや人を助ける人の身体って、本当に時間をかけて作ってきた大切な身体。

 

友達の簡単な肩こりとかならともかく、下手にいじったら、取り返しのつかないことになりかねないから……。

 

 

だから、友達にやっていたときも、最低限のことで身体に支障が出ないようにしてやっていたし……。

 

 

 

「そうなんですね。ユミナさん、まるでフィルさんみたいな事言ってますね……」

 

「えっ?」

 

 

ちょっとまって!?

アインハルトさんが言っているフィルさんって、まさか!?

 

 

 

「アインハルトさん、ちょっと聞いて良いかな!!」

 

「は、はい!!」

 

「いま、アインハルトさんが言ったフィルさんって……。もしかして、執務官のフィル・グリードさん!?」

 

「えっ? ユミナさん、フィルさんのことご存じなんですか!?」

 

「……うん、前にあることでお世話になったんだ」

 

 

 

どうりで、わたしが学院祭のチケットを渡そうとしたときに、知り合いから何枚ももらったから大丈夫だよって言われたけど、あれはそう言う意味だったのか!!

 

 

「ユミナさんもなんですね……。わたしも、ヴィヴィオさんのことでお世話になったんです……」

 

「本当に、フィルさんって、色んな人を助けてるんだね……」

 

 

 

改めて聞くと、本当に色んな人に関わっていた。

ここにいる人たちだけでなく、各方面にも色々しているらしいし……。

 

 

本当、優しいんだよね……。

でも、それ以上に自分を大切にしていない。

 

それも、何となく分かっちゃった。

 

 

「それでなんですけど、今度、みなさんでリオさんの故郷のルーフェンにお邪魔するんですけど、良かったらユミナさんも一緒にどうですか?」

 

「行く!! 練習とかも見てみたい!!」

 

「あと、フィルさんも参加する予定ですので、色んなこと聞けると思います!!」

 

 

ヴィヴィオちゃんとコロナちゃんが、すっごく良い笑顔でフィルさんが来ることを教えてくれた。

 

 

「あー、フィルの奴は、あたしが責任を持って連れてくるから安心しろ。あのワーカーホリックは、無理にでも休ませなきゃ休まないからな……」

 

「そんなに、酷いんですか……。フィルさんって……」

 

「正直、身体はボロボロだよ。ユミナも見たことあるんだろ……」

 

「……はい」

 

 

以前、少しだけ見たことがあるけど、あれはさっきのミウラさんと比較にならないほど酷使されていた。

いったいどれだけやったら、あんな状態になるの……。

 

ノーヴェさんもそれを心配していた。

 

 

「まぁ、せっかく資格取ったんだから、今度はフィルの奴を見てやってくれよ。きっと喜ぶと思うし」

 

「はい!!」

 

 

数日後、わたし達はルーフェンに行くことになり、そこで、いろんなことを経験しました。

 

なんですけど……。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「ふーんだ!!」

 

「だから、悪かったって……。お前にはせめて言っておくべきだった……」

 

《だから、私が言ったじゃないですか。ユミナさんには説明した方が良いですよって……》

 

 

 

ノーヴェコーチやフィルさんが計画した、アインハルトさん達の強化計画。

 

それにわたしは巻き込まれる形になり、フィルさんと一緒にアインハルトさんとリオちゃんの特訓をすることになったんだけど、いきなり、バインドなんかされたらびっくりするんですからね!!

 

 

せめて、事前に言っておいて欲しかったです……。

 

 

 

「本当にすまなかった……。あれじゃ怖がらせただけだよな」

 

「……もう、良いですよ。わたしも、本気で怒ってるわけじゃないですから」

 

 

 

ヴィヴィオちゃん達のことを思ってやったのは、分かってますから……。

 

 

「まぁ、これはお詫びもかねてだけど、良かったら食べてくれないか。さっき作った手作りのアイスクリームなんだけど……」

 

 

な、なんですと……。

しかも、それは、わたしの大好きなイチゴのアイスクリーム。

 

 

「いただきまーす♪」

 

「これ、一つしかないから、みんなには内緒な」

 

 

アインハルトさん達から聞いていたフィルさんの手作りデザート。

しかも、わたしの為に作ってくれたなんて……。

 

 

「おいしーい!! 売ってるやつよりもおいしいかも……」

 

「そう言ってもらえるとうれしいよ……」

 

「んもう、フィルさん、わたし、本気でそう思ってるんですから、もっとニコッとしてください!!」

 

「充分、笑ってるんだけどな……」

 

 

 

――――――――――やっぱりだ。

 

 

さっきから、ずっとフィルさんのこと見ていたけど、すごく悲しい笑顔。

 

わたしと通信で話しているときも、アインハルトさんやヴィヴィオちゃん達と話してるときも、笑顔なんだけど、やっぱり悲しい瞳をしていた。

 

 

最初は、分からなかったけど、フィルさんのことを見ているうちに、それが分かるようになって来ちゃったから……。

 

 

「……フィルさん、一つだけ……お願いがあるんですけど」

 

「ん? 俺に出来ることだったら……構わないよ」

 

 

以前は資格を持っていなかったから、フィルさんのことを癒してあげられなかったけど、今なら……。

 

 

「……フィルさんの身体に、おまじない……しても、良いですか?」

 

 

 

すると、フィルさんは、少しだけふっと笑い……。

 

 

「……良いよ。それじゃ、お願いしようかな」

 

 

 

わたしは、フィルさんの身体に触れる。

やっぱり予想通り、フィルさんの身体は、もうボロボロ。

はっきり言って、私の整体施術程度なんかじゃ、どうしようもないのは分かってる。

 

 

―――――――――それでも、この人の身体を癒してあげたい。

 

 

わたしは、何度も何度も、フィルさんの身体に施術をするが、雀の涙程度しか回復しない。

 

 

「……どうして……どうして……。わたしじゃ……やっぱりだめ、な……の」

 

 

こんなことしたって、フィルさんに迷惑をかけてるのは分かってる。

でも、どうしてもこの人を癒してあげたい。

 

 

「ありがとう……。すごく楽に……なったよ」

 

「そんなはずない……です。見れば、分かります……。ちっとも……良くなって、な…い……よ」

 

 

 

もう、わたしは涙を抑えられなかった。

悔しさと悲しさ……。

 

色んなものが混ざり合って、今のわたしにはもう、泣くことしかできない……。

 

 

そんなわたしを、フィルさんは何も言わず、そっと抱きしめてくれた。

 

 

「……ごめん、なさい……。ごめんなさい……ごめ、ん……さ、い……」

 

 

 

あのとき、私のことを助けてもらってから、ずっと思っていた私の想い。

 

 

最初は、かっこいいなという程度にしか思っていなかった。

 

 

でも、何度も、通信でやりとりしたり、直接会って、わたしの悩みとかを聞いてもらったり……。

 

 

それだけじゃない……。

 

 

ルーフェンに来てからも、みんなと話せるようにしてくれたし、フィルさん自身がバカなふりをしたりして、場を和ませたりしてもくれた。

 

 

そんなフィルさんに、わたしはみるみる惹かれていった。

 

 

 

「わたし……フィルさんに何も恩返しできてない。あのとき……助けてもらってから、ずっと、助けてもらってばかり……」

 

「……そんなことないよ。ユミナと一緒にいるとき、本当に楽しかったよ」

 

 

―――――――――なんで、そんなに悲しい瞳なの。

 

 

普段は、みんなが身体を壊さないように、あんなに気を遣ってやっているのに。

 

 

でも、自分のことは、全然大切にしてない。

 

 

「……だったら、わたし……フィルさんと一緒にいても……良いですか。ずっと……」

 

「……ずっと、って……。それって……」

 

 

 

―――――――――きっと、この想いは、フィルさんにとって邪魔でしかない。

 

 

フィルさんの周りにいる人たちは、綺麗な人ばかりだし、わたしなんかじゃ何も出来ない。

 

 

「ダメ元で告白します!! わたし……フィルさんのことが……大好き、です」

 

 

 

 

*      *     *

 

 

 

「……ユミナ」

 

 

この子が、俺のことを好きになってくれるとは思わなかった。

自分で言うのものなんだけど、正直、俺は、人とうまく話せる性格じゃないし、女の子に対して愛想を振りまけるような性格でもない。

 

 

何より、『あのとき』から俺は……。

 

 

―――――――――大切な女性を、作ることが出来なくなってしまったから。

 

 

 

「悪いけど、俺は……」

 

 

ユミナに断りの言葉を伝えようとしたとき……。

 

 

《マスター、いい加減に自分の気持ちに、嘘つくの止めましょう……》

 

「プリム、お前何を!?」

 

《正直、マスターがユミナさんに、ちゃんと自分の気持ちを伝えるのなら、私は黙ってるつもりでした。でも、今のマスターは、ユミナさんから逃げてるようにしか見えないです!!》

 

「逃げてる……だと」

 

《ええ、マスター、普段ユミナさんに対して、あれだけ自分の心を開いているのに、いざとなったら、身を引いてしまう。端から見たら、その人の幸せを考えてって思うんでしょうね。でも、今のマスターは、ティアさんのことを忘れられないでいるだけです!!》

 

 

 

 

―――――――――ティアのこと。

 

プリムの言うとおり、俺はいまでもティアのことを忘れられないでいる。

ティアの最後の言葉 『幸せになってね』

 

それがティアの最後の願いなのは分かってる。

 

でも、どうしたらいいか、分からないんだ……。

 

 

 

《マスター、思い切って、ユミナさんにすべて……話しましょう。未来でのことを……》

 

「そんなこと出来るわけ無いだろ!! あのことは……。機密事項だろうが!!」

 

 

――――――――未来でのこと。

 

 

それは、JS事件の中でもトップシークレットの一つ。

そのことを気軽に話す事なんて……許される事じゃない。

 

 

 

《確かにその通りです。ですが、ユミナさんが、すべてを伝えてくれたように……。いつも、マスターが私にユミナさんのことを話してくれるように、今度は、マスターがユミナさんに、心を伝えましょう》

 

「だけど……」

 

《大丈夫です。ここにいたら、ティアさんも、きっと……同じ事を言うと思いますよ。マスターの……フィル・グリードの幸せを、誰よりも想っていた彼女なら……》

 

「……ありがとう、な」

 

 

ユミナが俺に伝えてくれたように、俺もちゃんと伝えよう。

それがこの子に対する、唯一のことだから……。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「ユミナ、これから言うこと、荒唐無稽なことだけど……。最後まで……聞いて、くれる、か」

 

 

そんなつらそうな表情をして、うそだなんて思わないから……。

 

 

「はい、わたし、どんなことがあっても……。フィルさんのこと、信じてますから……」

 

 

だから、信じてください、わたしのことを……。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

フィルさんの話は、正直驚きを隠せなかった。

フィルさんは、本来この時間とは違う時系列の人で、ミッドチルダも、クラナガンも、あのJS事件で完全に滅んでしまったこと。

 

そのときに、フィルさんの大切な人たちは、みんな亡くなってしまったこと。

 

最後の戦いで、フィルさんが愛した女性も失ってしまったこと。

 

そして、女神の力を借りて、この世界に戻ってきて、再びやり直して、現在に至ること。

 

 

「はっきり言って、御伽話でしかないよな。無理に信じてくれなくて……良いから」

 

 

フィルさんが嘘を言ってないことは、瞳を見れば分かる。

この話って、機密事項だし、本来なら絶対に話したらいけないこと。

 

それでも、フィルさんは、私の想いに真剣に答えてくれたんだ。

 

 

そして、これで、フィルさんがあんなに無茶をしまくっていたのがはっきりと分かった。

 

 

フィルさんは、これ以上、みんなを失いたくないから、だから、自分が全部抱え込んでしまうようになり……。

 

 

―――――――――そして、恋愛にも臆病になってしまった。

 

 

 

だから……。

 

 

 

「……ユミ、ナ?」

 

 

わたしは、後ろから、フィルさんのことをしっかりと抱きしめて、言葉を伝える。

 

 

「……さっきも言いましたが、信じます。世界中の誰もが、信じなくても……。わたしだけは、あなたのことを……信じてますから……。だって、自分の大好きになった人なんですよ。信じるのは……あたりまえです」

 

 

フィルさんの心を開くには、フィルさんのことを受け止めてあげなきゃダメなんだ。

たった一人、フィルさんのことを愛した女性以上に……。

 

 

「……無茶ばかりして、心配かけてばかりの俺でも……良いのか?」

 

「無茶は、わたしが止めますし、不安とか心配も、二人でなら……半分に出来ます。そして、幸せを……いっぱい作っていきましょう、ね」

 

「……ありがとう、な」

 

 

フィルさんの不安を取り除くように……。

 

 

わたしは、フィルさんの唇にそっと……。

 

 

自分の唇をあわせた。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「まさか、年下の女の子とこうなるとはな……」

 

「えへへー♪ 女の子は、こうと決めたら強いんですよ!!」

 

 

 

ルーフェンから戻ってから、一週間後、わたしはフィルさんの家にお泊まりに来ていた。

最初は、お泊まりじゃなく、日帰りにする予定だったんだけど、家に帰っても、両親が仕事で家を空けてることを話したら……。

 

 

『ユミナさえ良かったら、家、泊まるか?』

 

 

まさか、フィルさんから、そんな言葉を言ってくれるとは思わなかった。

絶対に、泊まるなんて許してくれないと思ってたから……。

 

さっそく、わたしは両親にこの旨を伝えると、二つ返事でオーケーをもらえた。

実は、ルーフェンから戻った次の日、フィルさんが、家の両親に付き合うことを正式に挨拶しに来たのだ。

 

しかも……。

 

 

「君なら、ユミナのことを任せても、大丈夫だろう。まぁ、まだまだ未熟者の娘だけど、よろしく頼むよ……」

 

「ユミナ、良かったね!! あんたのあこがれの人、ゲットできたわね!! 知り合いから、競争率が高いって聞いてたから、本当にびっくりしたわよ……」

 

「えっと、二人とも、もしかして……。フィルさんと顔見知り?」

 

 

次の言葉に、わたしはさらに驚かされることになった。

 

 

「ん、ああ……。お前が、以前、痴漢にあったときに、しばらくしてから、家まで来てくれて、きちんと説明してくれたんだよ」

 

「しかも、何度も顔を出してくれて、あんたのこと思ってくれてたんだよ……。まぁ、このことはあんたには内緒にしておいてくれって言われてたんだけどね」

 

「……あ、はは」

 

 

もう、笑うしかなかった。

本当にフィルさんって、わたしのことを影で支えてくれていたんだね。

 

というか、フィルさんがわたしの両親と顔見知りだったって事の方がびっくり。

そんなことがあり、両親公認でわたし達は交際している。

 

 

そして、今、わたしはベッドサイドに座って、フィルさんに寄りかかっていた。

 

 

 

「フィルさんの胸って……大きいんですね。広くて……安心する」

 

「そっか? こんな胸で良かったら、いつでも貸してやるよ」

 

「うん……。ありがとう。でも、今日は、ね」

 

 

わたしは、フィルさんをベッドに押し倒し……。

 

 

「きょうは、わたしが……フィルさんのことを包みます。フィルさんの傷ついた心も……。全部……」

 

「ユミナ……。おまえ……」

 

 

 

正直、フィルさんは、女の子としては見てくれるかもしれない。

そして、こんな事をするのは、まだ早いって事も分かっている。

 

 

でも、わたしが本当に思ってることは……。

 

 

 

「フィルさん……。わたしを……女の子に……。ううん、『女性』にして……くだ、さい」

 

 

一人の女性として、生涯のパートナーとして見て欲しいから……。

 

 

「その場のノリで言ってるわけじゃないのは……。瞳を見れば分かるよ。俺で、良いのか……」

 

「それ以上言ったら、本気で怒ります。わたし、覚悟してきたんですからね……」

 

 

これ以上、わたし達に言葉はいらなかった。

どちらからともなく、キスを何度も求め合って、息継ぎの度に、銀色の証ができあがっていた。

 

 

わたしは、自分でブラウスとスカートを脱ぎ、ブラとパンティはフィルさんに任せることにした。

ブラは、勝負下着の純白のセット。

 

下手に黒とかで色気づけるよりも、純粋に自分を見せたかったから……。

 

フィルさんがブラを外し、そっと私の胸に触れる。

 

 

「……ん、あ…ん……」

 

 

あのときと違い、好きな人に触れられるのは、全然違う。

もっと触って欲しい気持ちになるし、自分も気持ちよくなれるから……。

 

 

胸だけでなく、手や足、その……わたしの大切なところも、優しく愛してくれた。

 

そして、いよいよ……。

 

 

「……きて、ください。わたし……いっぱい、フィルさんのこと……包み込んであげます」

 

 

わたし達は、身も心も一つになり……。

 

 

何度も押し寄せる快楽が、破瓜の傷みを打ち消してくれて……。

 

 

わたしは、フィルさんのことをたくさん包み込んだ。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「……むぅ、もっと、いっぱい……してくれても良いんですよ」

 

「……ユミナ、さすがに、初体験で何度もする節操なしじゃないぞ、俺は……」

 

 

そんなことは分かってますよ。

でも、大好きな人だから、いっぱいして欲しいっていうだけなんですから……。

 

 

 

「わたし、ちゃんと……。フィルさんのこと……包み込んであげられたかな?」

 

 

はっきり言って、わたし、そんなにスタイル良くないし、その胸だって……。

すると、フィルさんが自分の方へ抱き寄せて……。

 

 

「……いっぱい包んでもらったよ。ユミナのあたたかい心にな」

 

「えへへ~♪ でしたら、これからもいっぱい包んであげます。フィルさんが幸せだって思ってくれるまで……ずっと、ね」

 

 

それが、わたしにとって何よりも幸せなことなんだから……。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

翌朝、わたし達は、フィルさんのバイクでツーリングに出かけることにした。

考えてみれば、フィルさんのバイクに乗るのって初めてなんだよね。

 

 

 

「じゃ、そのヘルメットをかぶってくれ」

 

「はい!! そのバイクって、以前プリムが言っていた『ロードサンダー』ですよね?」

 

 

プリムが前に話してくれた、フィルさんのもう一つの相棒。

青と白でカラーリングされたバイク。それがこのロードサンダー。

 

わたしは、バイクのことはよく分からないけど、このバイクがとても綺麗だって事は分かる。

 

 

「わたし、運動神経がそんなに無いから、大丈夫かな?」

 

 

そう思っていたら、バイクから音声が聞こえてきて……。

 

 

《大丈夫ですよ。私が責任を持って守りますから、何しろ“難攻不落”“不沈戦艦”とまで言われていた『あの』相棒を落とした女性ですから》

 

「サンダー、お前な……。いったい、お前はどういう風に思っていたんだよ」

 

《……そのまんまの意味ですよ。私は、正直言って、相棒は二度と大切な人は作らないと思っていました。それだけ、ティアさんのことを想い続けてきたんですから……。》

 

 

プリムやサンダーが言っているティアさんって、以前話してくれたティアナ・ランスターさんのことだよね。

本当に、ティアナさんのこと好きだったんだ……。

 

 

「……そっか。お前にも、心配かけてたんだな」

 

《ええ、でも、私は嬉しいです。こうして、新しい一歩を進み始めてるんですから。えっと、確か、ユミナさんでしたね。初めまして、私はロードサンダー。この鈍感朴念仁の相棒をしてます》

 

「は、初めまして、ユミナ・アンクレイヴです。よろしくお願いします!!」

 

《ははは!! そんなにかしこまらなくても良いですよ。プリムと同じく気軽に接してください。話はプリムから聞いてますし、それに、可愛らしい女性ですね》

 

「あ、ありがとう……。ロードサンダー」

 

 

プリムもそうだけど、ロードサンダーも本当に人間みたいな性格をしている。

プリムとロードサンダーは正反対な性格だけど、芯はしっかりしてるし、何より、マスターであるフィルさんのことを本当に心配してるんだ。

 

 

「後ろに乗ったな。しっかりつかまってろよ」

 

「はい!!」

 

 

わたしは、フィルさんの背中に思いっきり抱きついて……。

 

 

「あ、あのな……。そんなに密着するほどじゃなくても……大丈夫だぞ」

 

「きこえませーん。わたしは、なにもきこえませーん♪」

 

 

だって、こうしないと私の胸を感じてくれないから……。

昨日もいったけど、わたしがフィルさんのこといっぱい包み込んであげるから……。

 

 

 

《……》

 

「サンダー、どうしたんだ? いつものお前なら、『はいはいラブコメはそのくらいにして』とか言いそうだけど……」

 

《……相棒、私だって時と場合は考えますよ。今の相棒には、人のぬくもりが必要です。ユミナさんは、一生懸命してくれてるんですよ……。ですから、ユミナさんのことを泣かせたら、私とプリムは許しませんよ!!》

 

 

―――――――――ロードサンダー、ありがとう。

 

わたしのことを、フィルさんのパートナーとして認めてくれたんだね。

 

 

「……その言葉、しっかりと刻み込んでおくよ」

 

《そうしてください。しみったれた話はここまでにして、今日はしっかりとナビゲートいたしますよ!!》

 

「うん、それじゃよろしくね。ロードサンダー!!」

 

《お任せください!! ほら、相棒、さっさと発進させてください》

 

 

フィルさんは、スロットルを回し、サンダーをゆっくりと発進させると、そのまま海岸通りの方へと走り出しました。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「星が、綺麗ですね……」

 

「ああ、本当にな……」

 

 

 

あれから、海岸通りから、クラナガンの繁華街へと行き、ゲーセンでプリクラしたり、お洋服を見に行ったり、カラオケをしたりして遊んだ後、ここ海岸公園にやってきていた。

 

 

しばらくして、フィルさんは、ぽつりぽつりと語り出す……。

 

 

 

「……前も、言ったけど、な。俺は……大切な人を巻き込む、死神みたいな存在だ。だから、大切な人を作れなかったし、作ろうとも思わなかった……」

 

「……フィルさん」

 

 

―――――――――それは、ちがうよ。

 

 

人は、絶対にひとりでなんか生きていけない。

 

 

そんな悲しい考えは、しちゃだめです!!

 

 

 

「俺は、この仕事を辞めるのは無理だろうし、家族なんて……きっと持てないと思っていた。でも……」

 

 

フィルさんは、優しい眼をしてわたしの方を見て……。

 

 

「もし、家族を持てるとしたら……ひとりだけで、いい。こんな俺のことを、好きになってくれた大切な……女性だけで……」

 

 

それって……。

 

 

――――――――プロポーズ、なんだよ、ね。

 

 

「証になるか分からないけど……」

 

 

そう言って、フィルさんがわたしに渡してくれたのは、銀色に輝く魔法用カートリッジ。

 

 

「これ、は?」

 

「プリムのラストリミット。“スパイラルシステム”の発動キー……。いわば、最後の手段」

 

「!?」

 

 

 

確か、これって、未来での話にあった、自分の命と引き替えに力を得る禁断のシステム。

そのカートリッジの製造方法も、システムの設計図も完全消去したって言ってたのに……。

 

 

「今まで、俺は自分の命はどうなっても良いって思っていた。一人でいた俺には、失うものなんて無いって思っていたから……」

 

 

――――――――それは絶対に違う!!

 

 

フィルさんの周りの人が、そんなことを望んでいるはずないです!!

 

 

「でも、それは間違いだったんだよな。仲間だっているし、なにより……」

 

 

フィルさんは、わたしをぎゅっと抱きしめて……。

 

 

「お前が、俺のそばにいてくれる、から……。だから、このシステムを、捨てようって……思ったんだ」

 

「……そうだよ、わたし……ずっと、そばにいるから。だから、フィルさんも……わたしのこと、離さない、で……」

 

 

 

わたし達は、星空の元でのキスをする。

 

 

 

――――――――それは、永遠を誓う口吻。

 

 

 

 

プリム、ロードサンダー。

わたし、絶対にフィルさんのこと幸せにするから……。

 

 

だから、こんなわたしですが、これからも見守ってね。

 

 

 

そして、向こうの世界のティアナさん。

 

 

 

わたし、まだまだ貴女みたいに素敵な女性とは言えませんが……。

 

 

 

でも、フィルさんのことを、世界の誰よりも愛してるって事だけは、大きな声で言えます。

 

 

 

だから、フィルさんが幸せになれるように、祈っていてください。

 

 

 

フィルさんが心から笑ってくれることが、わたしの幸せなのだから……。

 

 

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

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