魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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第5話 自分の力、大切なもの

新暦71年 4月

 

 

 

 

「アルザスの竜召喚の娘。ルシエの末裔、キャロよ……」

「わずか6歳にして、白銀の飛竜を従い、黒き炎竜の加護を受けた……お前は、誠にすばらしき竜召喚師よ」

「じゃが、強すぎる力は災いと争いしか生まぬ……」

「……!!」

「すまぬな……。お前をこれ以上、この里に置くわけには行かぬのじゃ……」

(竜召喚は危険な力……人を傷つける怖い力………)

 

 

 

 

 

ー現在ー

 

 

 

 

「問題の貨物車両速度70を維持、已然進行中です」

「重要貨物室の突破は、まだされていないようですが………」

「時間の問題か……」

「!! アルト、ルキノ、広域スキャン。サーチャーを空へ!!」

 

サーチャーを空にかけてみると、大量のガジェット反応があり、その数に驚いた。

 

「ガジェット反応!! 空から!!」

「航空型、現地観測隊を補足!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「こちらフェイト、グリフィス。こちらは現在パーキングに到着。車を止めて現場に向かうから、飛行許可をお願い……」

「了解、市街地都市飛行。承認します」

 

パーキングに止め、車から降りた私は、バルディッシュを取り出し、セットアップの準備をする。

 

《Get、set》

「うん………。バルディッシュ・アサルト……セットアップ!!」

《Set up……BerrierJacket、Impulse Form》

「ライトニング1、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。行きます!!」

 

バリアジャケットを装着した私は、飛行魔法で全速力で現場に向かった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を押さえる!!」

 

「ウッス、なのはさんお願いします!!」

「じゃ、ちょっと出てくるけど、みんなも頑張ってズバッとやっつけちゃおう」

「「「「はい!!」」」」

「……ん?」

 

フォワード陣は気合い入っていたが、一人だけキャロが下をうつむいていた。

 

「キャロ、大丈夫か……」

「は、はい!! 大丈夫です」

 

正直、とてもそうは見えない。

多分、未来の世界でキャロから聞いた、故郷を追い出された事を思い出しているのだろう。

俺は、そっとキャロの頭に手を置き―――――。

 

 

「……キャロ、自分の力が怖いか?」

「!!」

「やっぱりか……」

 

 

 

*    *    *

 

 

フィルさんに自分の心の内を読まれてしまったわたしは、驚くしかなかった。

そしてフィルさんは真剣な顔をして語り始めた。

 

 

「なぁ、キャロ……。俺は力って奴は、自分の心……そのものだと思うんだ。どんなに否定したって、その力はずっと自分に付いてくる物だからな」

「自分の………心……そのもの……ですか?」

「ああ、俺も自分の力が怖いって思うことはある。使い方を間違えてしまえば、例えBランクの力だって、殺してしまうことも可能だからな」

「フィル……ちょっとあんた!!」

「黙って聞いてくれないか……。これはキャロにとっても大事なことなんだ」

「……」

 

フィルさんの真剣な表情にティアさんは何も言えなくなってしまった。

あんな表情は初めて見ました……。

スバルさん達もなのはさんもリイン曹長も、そしてヴァイス陸曹まで黙ってフィルさんの話を聞いてます。

 

「スバル、お前には言ったことがあるな。不用意に魔法を使うと、二次災害を作ってしまう。そして使う時は最大限注意して使えって」

「うん、それは昇格試験の時に聞いたよ……」

「………そういうことだ。非殺傷という言葉に甘えるな。例え非殺傷でも使い方を間違えれば、人が死ぬんだ!!」

「……っ!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

わたしは唇をかんで黙るしかなかった。

昔わたしが里を追い出されたのは、仕方なかったのか―――――。

 

「でもな、自分の力ならば、ほかの誰でもない自分が制御できるんだ……」

「えっ……?」

「本当に怖いのは強大な力じゃない。小さい力だってコントロールが出来ていなかったら、そっちの方が怖いんだ。たとえば……」

 

突然フィルさんは、懐からナイフを取り出し、自分の首へ刃を向け―――――。

 

「こうやって刃をむけたって、自分でやってるんだから怖くないだろ。力はこれと同じだ……」

「だから、自分の力を受け入れろ!! そうすることで一つ成長するし、自分の為になるんだ」

「!!」

 

フィルさんの言葉に何かが吹っ切れたような気がした。確かに優しくされることは嬉しい。

でも、今のように厳しく言ってくれる人はいなかった。

 

そして―――――。

 

フィルさんはわたしの頬に手を添えて―――――。

 

「きついことを言ってゴメンな。なのはさんなら、もっと上手いことが言えるんだけどな………」

「フィルさん………」

 

そんなことない―――――。

フィルさんの優しさは、すごく伝わってきます。

不器用だけど、それ以上に本当に私のことを思ってくれてることが―――――。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「なのはさん」

「なに、フィル……」

「今回俺はライトニングと行動します。スターズにはティアがいますし、それにこんな事を言った手前、キャロのことほっとくわけにはいかないでしょう」

「分かったよ。フィルは今回はライトニングと行動して。でも、さっきの話ビックリしたよ……」

「すみません……。もう少し言い方があったんですけど……」

「ううん、本当はわたしがああいった憎まれ役をやらなくちゃいけないのに、ごめんね………」

 

こう言ったことをフォローするのが教導官の役なのに、それをすることが出来なかった。

もっとフォワード達やフィルのことをちゃんと分かってあげなきゃ―――――。

 

「いえ、これ以上は俺だと難しいですので、後のフォローはお願いしますね。なのはさん」

「了解、後は任せて……。ヴァイス君ハッチを開いて!!」

「わかりやした!!」

《Main Hatch open》

 

気持ちを切り替え、わたしは新人達の為に、先陣を切ってヘリから飛び降り、レイジングハートを起動させた。

 

《Standby、Ready》

「レイジングハート・エクセリオン……セットアップ!!」

《BerrierJacket、Aggressive mode》

「スターズ1、高町なのは。行きます!!」

 

バリアジャケットを装着したわたしは、アクセルフィンを展開し高速飛行をしガジェット達を殲滅に向かった。

 

 

*    *    *

 

 

なのはさんが出陣した後、ヘリ内でリイン曹長が今回のミッションの説明をしていた。

 

「任務は二つ。ガジェット達を逃走させず、全機破壊すること。そして、レリックを安全に確保すること。ですから……」

「スターズのティアナとスバル、ライトニングの二人とフィルの分隊に分かれて、ガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです」

「レリックはここ。7両目の重要貨物室。スターズかライトニングのどちらか先に付いた方が、レリックを確保するですよ」

「「「「「はいっ!!」」」」」

「で……私も現場に降りて、管制を担当するです」

 

 

 

*    *    * 

 

 

「スターズ1、ライトニング1、エンゲージ!!」

「こっちの空域は二人で抑える。新人達の方フォローお願い……」

「了解」

「同じ空は久しぶりだね、フェイトちゃん……」

「うん、なのは……」

 

こっちの動きに気付いたのか、ガジェットの大群がこっちに向かってきていた。

 

《Axel Shootar》

《Haken Saber》

 

私達はそれぞれ迎撃し、空域静圧を行っていた。

しかし、ガジェットはいくら倒してもなかなか減らず、完全制圧には時間がかかりそうだ。

 

 

*    *    * 

 

 

「さーて新人ども、隊長さん達が空を押さえてくれているおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ。………準備は良いか!!」

「「「「「はい!!」」」」」

 

俺たちはまず、スターズの二人から降下をし、その後エリオとキャロ、そして俺が最後に降下することになった。

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ」

「スターズ4、ティアナ・ランスター」

「「行きます!!」」

「………いくよ、マッハキャリバー」

「……お願いね、クロスミラージュ」

「「セットアップ!!」」

S()t()a()n()d() ()b()y()()R()e()a()d()y()

 

バリアジャケットを装着したティア達は、浮遊魔法を使ってリニアレールの最前車両に着地する。

どうやらクロスミラージュもマッハキャリバーも、ちゃんとサポート出来てるみたいだな。

 

 

「次、ライトニングとフィル!! ……チビども気ぃつけてな」

「「はい!!」」

 

二人が飛び降りようとしていたが、キャロがまだ緊張しているみたいだったので、俺はエリオの肩をぽんと叩き、キャロに聞こえない程度の声で話した。

 

「エリオ、キャロと手をつないで降りてやれ。最初の実戦で緊張しているみたいだからな。緊張してるのはお前も一緒だけど、男の子なんだから、しっかりキャロのこと見てやれよ」

「は、はい!!」

「キャロ、一緒に降りようか……」

「……うん!!」

 

エリオはキャロの手を握り、一緒に降りることにした。

キャロのことしっかり守ってやれよ。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル」

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ」

「「行きます!!」」

「ストラーダ」

「ケリュケイオン」

「「セットアップ!!」」

 

同じようにバリアジャケットを装着し、リニアレールの最後尾に着地した。

四人が着地したのを確認し、俺も降下を始めようとしたその時……。

 

「……フィル」

「何ですか、ヴァイス陸曹」

「……あいつらのこと……頼むな……」

 

 

いつもの飄々としたヴァイス陸曹の表情とは違う。

本気で俺にあいつらのことを頼んでるんだ。

 

 

「……はい!!」

「スターズ5、フィル・グリード……行きます!!」

「久しぶりの戦闘だ。頼むぜ相棒……」

《任せてください!! 思いっきり暴れてやりましょう》

「ああ、行くぜ!! プリム……セットアップ!!」

《Stand by、Ready》

 

俺もバリアジャケットを装着し、ライトニングの待つ最後尾に着地した。

 

「あ、あれ……このジャケットって……?」

「……もしかして?」

「デザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしているですよ。フィルのは独自に作ってますけど……」

「ちょっと癖はあるが、高性能に仕上げたつもりだ。まぁ、俺のはこの方が使いやすいから、このデザインを採用しているけれどな」

 

俺が装着しているのは、執務官が使っているバリアジャケットをベースに、八神部隊長のバリアジャケットの腰の所にある、金属パーツをつけた物と考えてもらったら良いと思う。

 

「「リイン曹長……」」

「「フィルさん……」」

 

スバル達の疑問に、スターズにはリイン曹長が、ライトニングには俺が答えた。

 

「へぇ……」

「……はっ、スバル、感激は後!!」

 

スバル達の前に車両内から、ガジェットがビームを放ってきた。

間一髪それを躱すが、ガジェットはその一機だけじゃなかった。

何機か屋根を突き破って、出てきそうな状態であった。

 

D()r()i()v()e() ()I()g()n()i()t()i()o()n()

 

それぞれのデバイスが起動し、ティアはクロスミラージュを、出てこようとするガジェットに向けていた。

 

《Variable Barret》

「シュート!!」

 

ティアの放ったヴァリアブルバレットは、AMFを突き抜けてガジェットに命中し破壊する。

 

「うぉぉぉぉぉ」

 

スバルもガジェットが開けた穴から突入し、リボルバーナックルで一体のガジェットを破壊した。

その後、マッハキャリバーで内部を進んでいったが、リボルバーシュートでガジェットを破壊した時、屋根も破壊してしまい、その勢いでスバルも外に放り出されてしまった。

 

 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

《Wing Road》

 

 

マッハキャリバーがウイングロードを発動し、スバルは何とか別の車両の屋根に着地することが出来た。

 

「うわぁ……マッハキャリバー、お前って、もしかしてかなり凄い……。加速とか、グリップコントロールとか……それにウイングロードまで……」

《私はあなたをより強く、より速く、走らせる為に作り出されましたから》

「……うん!! でも、マッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょう。だったら、ちょっと言い換えよう。………お前はね、あたしと一緒に走る為に生まれてきたんだよ」

《同じ意味に感じます》

「違うんだよ、いろいろと……」

《考えておきます》

「うん!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

その頃、内部に突入していたティア達は、ケーブルを破壊してレールを止めようとしたが……。

 

「ティアナはどうです」

「駄目です。ケーブルの破壊、効果なし」

「了解、車両の停止は私は引き受けるです。ティアナはスバルと合流してください」

「了解!!」

《One Hand Mode》

 

あたしはクロスミラージュを二丁から一丁にし、スバルと合流する為に中央部に向かった。

 

「しかし、さすが最新型。色々便利だし、弾体生成までサポートしてくれるんだね」

《はい、不要でしたか》

「あんたみたいに優秀な子に頼りすぎると、あたし的にはよくないんだけど………。でも、実戦では助かるよ」

《Thank you》

 

 

フィル……。

本当にあたし達のことを考えて作ってくれたのね。

 

 

クロスミラージュ、大切に使うね。

 

 

*    *    *

 

 

 

『スターズF、4両目で合流。ライトニングFとスターズ5、10両目で戦闘中』

「スターズ1、ライトニング1、制空権獲得」

「ガジェットⅡ型、散開開始。追撃サポートに回ります」

「ごめんな、おまたせ」

 

聖王教会から八神部隊長が戻ってきて、ロングアーチスタッフが全員そろった。

 

「八神部隊長!!」

「おかえりなさい」

「ここまでは、比較的順調です」

「うん……」

「ライトニングF、スターズ5、8両目に突入………。エンカウント、新型です!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「「「くっ!!」」」

 

俺たちは新型のガジェットと遭遇し戦闘状態になり、触手みたいなものがこちらに向かってきたが、何とかかわすことができた。

 

「フリード、ブラストフレア!!」

「キュクゥゥゥゥ」

「ファイア!!」

 

ブラストフレアは触手に跳ね返されてしまい、崖に命中した。

 

「おりやぁぁぁぁ」

 

エリオはストラーダの切っ先に魔力を込め、ガジェットに斬りかかったが、装甲が硬くダメージを与えられなかった。

さらにAMFが発動し、ストラーダの魔力が消されてしまう。

 

「AMF!?」

「こんな遠くまで……」

「ちょっと厄介だな……。エリオ、俺も中に行く。何とか持ち堪えろ」

「はい!!」

 

俺はエリオを援護する為、内部に突入しブラストシュートの準備をした。

本当はブラストブレイザーなら破壊できるかもしれないが、内部で使うとリニアレールが爆発し、レリックも何らかの影響を受けてしまうかも知れないので迂闊には使えない。

 

「エリオ、ブラストシュートでAMFを中和するから、何とかストラーダで攻撃してくれ」

「は、はい!!」

 

触手にストラーダの両端をつかまれ、取られないようにするのに精一杯だが、この状況では大技は使えないので、エリオに頑張ってもらうしかなかった。

 

「あ、あの……」

「大丈夫。任せて!!」

「キャロ、こっちは大丈夫だ!!」

 

キャロが上から心配そうにこちらを見ているが、AMFがある以上、フルバックのキャロはこちらに来てもどうしようもない。

エリオが何とか触手を払いのけ、上空へ飛び上がり反撃をしようとした。

 

「よし、いくぞ。ブラストシュート!!」

「うぉぉぉぉぉぉ」

 

俺の放ったブラストシュートはAMFを中和させられたが、触手の動きが速く、なかなか反撃のチャンスがない。

さらにガジェットからビームが放たれ、上空のエリオをとらえ、触手で壁に叩き付けられた。

 

「うわぁぁぁぁ」

 

俺はシュートバレットでガジェットの注意をこちらに向けた。

エリオの奴はさっきの攻撃で、気を失ってしまっている。

とにかくエリオから少しでも離さないと―――――。

 

「お前の相手はこっちだ!!」

《マスター、隣の車両にレリックがある以上、これ以上の車内での射撃・砲撃は危険です。レリックと反応して誘爆の危険があります》

「くそ!! 何とかしてこいつを列車の外に出さないと……」

「エリオくん……フィルさん……」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

ー新暦72年2月  時空管理局本局保護施設ー

 

 

「確かにすざましい能力を持っているんですが、制御がロクに出来ないんですよ」

「竜召喚だって、この子を守る竜が勝手に暴れ回るだけで、とてもじゃないですけどまともな部隊でなんて働けませんよ。精々単独で殲滅戦に放り込むしか……」

「ああ、もう結構です………。ありがとうございました」

「では……」

「いえ、予定通り私が預かります……」

 

施設を出てみるとあたりは一面雪景色だった。

寒さに震える中わたしは、引き取られた女性にマフラーを掛けてもらった。

 

「……わたしは今度はどこへ行けば良いんでしょう」

「それは君がどこに行きたくて、何がしたいかによるよ……。キャロはどこに行って、何がしたい」

「……」

 

―――――考えたこともなかった。

 

わたしの前にはいつも、わたしが行っちゃ行けない場所があって、わたしがしちゃいけないことがあるだけだったから………。

 

 

*    *    *

 

 

ー現在-

 

 

「うわぁぁぁぁぁ」

 

俺とエリオは触手に捕まってしまい、身動きが取れないでいた。

さらに列車の屋根を突き破って、二人とも空に放り投げられてしまった。

 

―――――まずい。

 

エリオの奴、まだ目を覚ましてない。気を失っていて体勢を立て直せないんだ。

 

「……しかたがない!!」

 

俺は何とかエリオの腕をつかみ、エリオにサークルプロテクションを掛け、列車にめがけて放り投げ、車両に落とすことが出来たが、こっちが体勢を崩してしまい―――――。

 

 

「……しまった!!」

「……フィル……さん……」

「フィルさんっっっっ!!」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「ライトニング4、飛び降り!!」

「ちょ、あの二人、あんな高々度でのリカバリーなんて!!」

「いや、あれでええ………」

「そ、そっか!!」

「そう、発生源から離れればAMFは弱くなる。使えるよ、フルパフォーマンスの魔法が!!」

 

 

 

―――――守りたい。

 

本当の意味で、わたしに優しくしてくれた人を………。

 

わたしに笑いかけてくれる人たちを………。

 

自分の力で………。

 

守りたい!!

 

《Drive Ignition》

 

わたしは必死にフィルさんの手を掴み、ケリュケイオンを起動させ、魔力で浮遊しフィルさんの身体を必死に抱きしめた。

フィルさんは気を失っているみたいだったが、大丈夫みたいだ。

 

「フリード、不自由な思いをさせててごめん。わたしちゃんと制御するから………いくよ!!」

「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ………」

「竜魂召喚!!」

 

召喚呪文が終わると、白き巨大な竜が出現し、わたし達をその背に乗せ、羽を羽ばたかせ飛翔した。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「召喚成功、フリードの意識レベル、ブルー!! 完全制御状態です」

「これが……」

「そう、キャロの竜召喚。その力の一端や……」

 

でも、少し変や?

フィルだったら、どうにかしてあのくらいのことは切り抜けられるはずやのに?

 

 

―――――もしかしたら!!

 

 

 

*    *    *  

 

 

 

「あれが……」

「チビ竜の本当の姿………」

「はいです。あれがフリードの本当の姿です。それと、もしかしたらフィルは、ワザと崖から落ちたかもしれないですね」

「えっ?」

「どういう事ですか……?」

「推測なんですけど、キャロに自分の力を受け入れさせる為に……」

「「!!」」

 

充分に考えられる。フィルだったらやりかねない。

あいつは、自分のことよりも仲間や親友のことを優先する奴だから―――――。

 

「フィル……何考えてるのよ、あのバカ!! 自分の命をチップ代わりにするなんて!!!」

「まったく、これじゃあたし達より無鉄砲だよ……」

「誉められた方法じゃないですけど、そのおかげでキャロは、自分の力を受け入れたみたいですね。全く無茶しますね!! まぁ、あの様子だと救援はいらないみたいですね。さて、レリックを回収するですよ」

 

 

 

*    *    *

 

「……フィルさん」

「……うっ……ううっ」

「フィルさん、気がついたんですね!!」

「キャロ? そっか。どうやら……受け入れたようだな……」

「……それって?」

 

 

今のフィルさんの言葉、何かが引っかかる。

まるでわたしを信じて、わざと落ちたような?

 

―――――まさか!!

 

 

「イチかバチかだったが………うまくいったみたいだな……」

「……ば、か」

「キャロ?」

「フィルさんのバカッ!! どうしてそんな無茶したんですか!!」

 

いくら何でも無茶すぎます!!

自分の命をこんな風に軽く扱うなんて!!

もしわたしが失敗してたらどうするんですか!!

 

 

 

*    *    *

 

 

 

キャロは大粒の涙を流しながら、俺に怒っていた。

確かに危険な賭だったが、前の時と少し違う状況になってしまったので、こうするしかなかった。

 

 

キャロが自分の力を受け入れる大切なことだったから―――――。

 

 

「キャロ……ごめん。騙すような形になって……」

「そんなことは良いんです!! どうして自分の命を!!」

「俺は……自分の大切な人達の為なら、どんなことだってする……。それが自分の命を駒にすることだってな」

「でも、もしわたしが制御できなかったら、死んでたかも知れないんですよ!!」

「そうかもしれない……でも俺は信じたい」

 

自分の仲間を……。

 

そして、大切な人達を………。

 

「フィルさん……」

「さて、今は戦闘中だ。エリオに使ったプロテクションもそろそろ限界だ」

 

 

エリオに張っていたプロテクションは、ガジェットの攻撃でそろそろ限界が近かった。

エリオはまだ目を覚ましてないので、このままだとまともに食らってしまう。

 

「エリオくん!?」

「まずいな……仕方がない、こうなったら……」

 

少々乱暴だが、俺は直接エリオの脳内に念話を叩き込む。

 

(おい、エリオ起きろ!! いつまでも寝てんじゃない!!)

「えっ、フィ、フィルさん……!?」

 

ふぅ、うまくいくか分からなかったが、意識を取り戻すことは出来たようだな。

 

「た、確か僕は、ガジェットの触手に捕まれて……」

「説明は後でするが、とりあえず攻撃態勢になれ。そろそろそのプロテクションも限界だからな……」

 

僕はフィルさんの声でストラーダを構え、攻撃態勢をとる。

どうやらフィルさんがこのプロテクションを作ってくれたみたいだ。

 

そのおかげで気絶している時でも無事だったんだ。

 

「フィルさん、キャロ……。その白竜はもしかして……?」

「ああ、フリードだ。キャロが竜魂召喚に成功したんだ。キャロはもう大丈夫だ……」

「エリオくん、フィルさん、本当にごめんなさい。もう大丈夫だから……」

「キャロ……うん!!」

「じゃ、反撃開始と行きますか。キャロはフリードで攻撃を頼む。俺は射撃魔法で援護する」

「行きます。フリード、ブラストレイ……ファイア!!」

「ブラストシュート連続発射!!」

 

ブラストレイとブラストシュートは命中こそしたが、AMFが思ったよりも硬く、ダメージにはならなかった。

 

 

 

*    *    *

 

 

「やっぱり……硬い」

「となると、俺の手持ちの魔法だと……これしかないか。プリム!!」

《マスター、さっきも言いましたが、ブラストブレイザーだと誘爆の危険があります。それよりもここは……》

「そうだな……キャロ、ストラーダにブーストを掛けてくれ。その後、エリオは最大戦速で一気にガジェットを貫け。その後はお前に任せるぞ、エリオ!!」

「「はい!!」」

 

キャロは、ケリュケイオンを発動させ、魔力増幅呪文を唱える。

 

「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を」

《Enchant Up Field Invade》

「猛きその身に、力を与える祈りの光を」

《Boost Up Strike Power》

「いくよエリオくん!!」

「了解、キャロ!!」

「ツインブースト、スラッシュ&ストライク!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ」

 

キャロのブーストを受けたエリオは魔力刃と作り、カートリッジを二発ロードさせ、ストラーダのバーニアを最大戦速にまで上げ、一気にAMFを貫いた。

 

「一閃必中!! でりゃぁぁぁぁぁ」

 

そして、魔力刃を上空に振り上げ、ガジェットを真っ二つし殲滅に成功した。

「やった!!」

「よし、やったなエリオ!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「車両内及び上空のガジェット反応、全て消滅!!」

「スターズF、無事レリックを確保!!」

『車両のコントロールも取り戻したですよ。今止めます』

「ほんならちょうどええ。スターズとリインの三人はヘリで回収してもらって、そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな」

『はいです』

「ライトニング達はどうします」

「現場待機、現地の局員に事後処理の引き継ぎ………よろしくな」

 

 

レリックを無事回収できた俺たちは、ティア達は中央のラボへ、俺とキャロ達は現場で事後処理の引き継ぎを行った。

引き継ぎが終わった後ヘリに戻ろうとしたが、俺はキャロに引き留められた。

 

 

 

*    *    *

 

 

「あの……フィルさん……」

「なんだ、キャロ?」

「お願いですから……。もう、あんな無茶しないでくださいね………」

「………それは」

「フィルさんは、自分が死んでも誰も悲しまないって思っていませんか………。そんなことはないんですよ!!」

「少なくてもわたしは嫌です。フィルさんが死んだら……わたしは……わたしは……」

 

わたしはあの時のことを思い出して涙が抑えられなくなっていた。

もし、あのときフィルさんが死んじゃっていたら、そう思ったら涙が止まらない―――――。

すると、フィルさんがわたしをそっと抱きしめてくれた。

 

 

「あっ……」

「キャロ……」

「フィルさん……グス……フィルさん……ヒック……」

 

しばらくして、気持ちが落ち着くと、フィルさんはそっと離れ―――――。

 

「あっ……」

 

 

わたしはフィルさん抱きしめてもらっている時、安心感というか安らぎを感じていた。

フィルさんが離れてしまった時、恥ずかしさよりも、寂しさみたいなのが感じた。

 

なんなのかな……この気持ちって………?

 

 

 

*    *    *

 

 

「……ふむ」

「追撃戦力を送りますか……?」

「やめておこう。レリックは惜しいが、彼女たちのデータが取れただけでも十分さ」

 

今の段階では、これくらいで良いだろう。

あんまり派手に動きすぎて、こちらの手の内がばれるのは得策ではない。

 

「それにしても、この案件はやはり素晴らしい。私の研究にとって、興味深い素材がそろっている上に………」

「この子達を……生きて動いているプロジェクトFの残滓を、手に入れるチャンスがあるのだから……」

「さらに……」

「フィル・グリード……か。今のところ目立ってはいないが、何か隠された物が感じる………。もしかしたら……プロジェクトFの残滓よりも、貴重なサンプルになるかも知れないな………」

「フ、フハハハ……」

 

 

 

 

 

待っていたまえ、時空管理局、機動六課、そして……。

 

フィル・グリード………。

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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